ご存知ですか? 吉屋信子
ご存知ですか? 吉屋信子 〜(くどう・かづこ)
レズビアンのトピックを紹介するコーナーHer Point Of View。大正〜昭和の大作家吉屋信子の世界をレズビアンのアカーメンバーのくどう・かづこさんが紹介します。
皆さんは、吉屋信子のことをご存知でしょうか?というところから始めなければならないのが、ファンとしては寂しいのですが、多分、皆さんのお母様、おばあ様世代なら「昔、読んだわ」という方が多いはず。2006年に生誕110年を迎えた吉屋信子(1896〜1973)は、大正〜昭和40年代にかけて活躍した女流作家です。
作品は、少女小説、家庭小説、歴史小説と多岐(たき)にわたっていますが、中には、テレビドラマ化された作品も少なくありません(『徳川の夫人たち』、『女人平家』、大映テレビの『乳姉妹』(!)など)。いわゆる、「大衆小説」とくくられる分野の作品が多いため、文学史に取り上げられることは非常にまれですが、ペン1本で身を立てた女性としては、かなりの成功をおさめました。
で、なぜ、この作家が『QM』で取り上げられているかと言えば、もちろん、彼女が同性を愛する人だったからです。子ども時代から、女性を愛していた信子は、女学校卒業後、上京し、寄宿舎生活の中で、女性と恋愛関係になります。その恋に破れたあと、親友の山高しげり(女性運動家)に、「女の友情なんて、ありえないわ」ともらし、それを受けた山高しげりが、「女にも友情はある」と、自分の親友の門間千代を信子に引き合わせます。二人は、出会った時から強くひかれあい、生涯のパートナーとなったのでした。素敵。
暁の聖歌―吉屋信子少女小説選〈1〉 (吉屋信子少女小説選 (1))
- 作者: 吉屋信子,中原淳一
- 出版社/メーカー: ゆまに書房
- 発売日: 2002/12
- メディア: 単行本
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彼女の作品には常に女性への愛、憧憬(どうけい)、友情にあふれています。私のおすすめは、彼女の恋愛観、セクシュアリティが前面に出ている、初期の作品です。彼女は、少女小説家としてスタートしており、『花物語』は、女学生の「エス」(今の感覚だと“百合”?)なお話がてんこもり。同級生、上級生と下級生、先生と生徒、母と娘、主従関係や成人の女性どうしの話もありますが、とにかく女同士の愛のお話。こうした物語が当時の若い女性たちに熱狂的に受け入れられていたのですから、なんともすごいことです。
- 作者: 吉屋信子,嶽本野ばら
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2003/03
- メディア: 単行本
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『花物語』で成功をおさめ、新聞小説に応募した大人向け長編が入選したため、自費出版でなく出版にこぎつけられた『屋根裏の二處女』(やねうらのにしょじょ)も、大好きな作品です。女子寮で暮らす若い女性群像の中で、女性を愛し、自我を貫こうとする女性の物語。ちなみに、わたしの学生時代には、この作品は図書館で読むしかなく、『花物語』とあわせて全ページコピーした思い出があります。他にも、大人向けに書かれた『女の友情』『海の極みまで』などもシスターフッドに満ちています。
- 作者: 吉武輝子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1986/11
- メディア: 文庫
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ゆめはるか吉屋信子〈上〉―秋灯(あきともし)机の上の幾山河 (朝日文庫)
- 作者: 田辺聖子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2002/04
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信子自身の小説以外にも、『女人 吉屋信子』(吉武輝子)はぜひ。近代女性史として読んでも面白いですし、彼女の評伝としては、右に出るものなし、の良さです。その他、田辺聖子の『夢はるか 吉屋信子』も、筋金入りの信子ファンの作者の力作です。
愛する女性、千代さんとの終の棲家(すみか)となった、信子の家は、現在は、「吉屋信子記念館」として、鎌倉市にあり、神奈川県ゆかりの文学者として、生誕110年を記念して、2006年4月22日から6月4日まで、県立神奈川近代文学館で「吉屋信子展」が開かれました。
サブタイトルが「女たちをめぐる物語」とあり、信子がレズビアンであったことをぼやかさない、気持ちのいい展示でした(レズビアン、という言葉は使われていなかった。多分)。
前述の『屋根裏の二處女』のモデルとなった、初恋の人の名は、『女人 吉屋信子』の中では仮名とされていましたが、しっかり実名で「○○と恋愛関係になる」とありましたし、パートナーとなった千代さんとの、出会って間もないラヴ・レターなども見られて、楽しかったです。
残念ながら、会期は終わってしまいましたが、パンフレットも読み応えがあるので、興味のある方は県立神奈川近代文学館で入手可能です。
(くどうかづこ)
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