何だか不運な女⑥「スター80」のマリエル・ヘミングウェイ

スター80 [DVD]

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 ひょっとしたらカルトなのかもしれないかと思ってつい・・・

 え・・・とですね。今回ご紹介するのはおそらく世間的には傑作ではありません。でも日本公開されてから20数年もたってひょっこりDVD化され、観た人がなんとなくブログに取り上げていたりするんで少なくとも無視できないところがあるのでしょう。ついでに言うと私はこの映画のラストで泣いてしまいましたっ、(当然泣きながらウソだろうと思いながら・・・なにか特別ツライことでもあったっけかなあ、二年ほど前のことですが)監督はボブ・フォッシーといって天才ダンサー、振付師、舞台監督、映画監督となんでもやっちゃった人。アカデミー監督賞、トニー賞エミー賞といっぱい賞をもらっています。あと「オール・ザット・ジャズ」とかいう映画でカンヌのパルムドールまで取っている! で、私自身はミュージカルというものに殆ど興味がないものですから「スター80」以外のことはよく知りません。ちなみに刑事ナッシュ・ブリッジス シーズン1 [DVD]のエピソードの一つにナッシュの相棒がやっているバーで「うちでやった透け透けTシャツショーがさあ・・・」などどいうセリフがでてくるのと、コーエン兄弟バーン・アフター・リーディング [DVD]ジョージ・クルーニーが作っているありえないほど妄想過剰なスケベ椅子というアイテムはこの映画から取ったもんだと私は勝手に決めつけております。つまりミュージカルとは全然関係ないところで一部マニアの間では「カルト」になっている映画に違いない・・・てつい思っちゃったわけ。そもそもボブ・フォッシーさん、この映画が遺作だしさぁ・・・そういう前知識得てから観ないと変過ぎて耐えられないhヒト続出かもしれないくらい、かなり強烈な映画。

 プレイメイト殺人事件のドロシー&ポール

 映画は1980年に実際に起きた「80年プレメイトオブザイヤーになったモデルが夫に殺されちゃった事件」という事実を下敷きにしておりまして、物語の構成もほぼ大筋で事件の経過通りにやっているそうです。なんと映画のラストでロケした場所も実際の事件現場なんだってさ!(スゲーきもいぜっ)私公開当時に故小森もおばちゃまがTVでこの映画を紹介してるのを観たことがあります。ハリウッド通だったおばちゃまのことですからひょっとしたら事件そのもののゴシップにも詳しかったせいもあるんでしょうが、「なんかお奨めしにくい映画なんだけど、紹介したいの」っていうかんじが伝わってきたのを覚えています。ドロシー・ストラットン(マリエル・ヘミングェイ)って娘はカナダの田舎で育った高校生で、ある日ポール・スナイダー(エリック・ロバーツ)というトロントでクラブプロモーターをしてる男にナンパされてから運命が激変してしまいます。とにかくこのポールって男がアブナイ男でありまして、まだ17歳だったのにドロシーのヌードのピンナップを自ら撮影してプレイボーイに売り込んじゃうわ、ドロシーと結婚後にLAに移住するとプレイボーイ本部に乗り込んでってドロシーだけじゃなく「自分のこともコミで」ヒュー・ヘフナー(プレイボーイの首領よね)に営業しまくるので当のヘフナーを激怒させちゃう。おかげで「ドロシーは今までのプレイメイトを超えた逸材だから何としてもこのダニのような夫ポールと縁を切らさねば」ということに結局なっちゃいます。「このポール演っているエリック・ロバーツがやなヤツなんだけどホントに上手なの」としか小森のおばちゃまも言うことがないような主人公だったりするのです、これだけだと何なんなのこんな話、って怒る人いるでしょうけど・・・

 ポール、お前一体「何者」なんだよ・・・

 でもね、ドロシーに出会う前、そしてドロシーと別居しなきゃならなくなった時のポールときたらさらにヒドイんだわドロシーに出会う前のトロントではプロモーターの他にもヤクザ相手の借金の取り立てのアルバイトやっていきなり殺されそうになってるし、クラブでは「女の子の濡れたTシャツが透けてエロい」ショーというのを企画して客のチップを狙ったんだけど思ったよりチップが入りが少なかったんですんごい怒っちゃう。この怒り方が強烈で怖い、ヘフナーとかに相手にされなかった時の悪口も偏執的で引いてしまいます。明らかにどっか精神的に病んでいるように思えるんですが、一方で才能があるのになかなか上がっていかない苛立ちも共有しちゃうともう目が離せないんですね。(エリック・ロバーツジュリア・ロバーツの兄貴ですが、このときの演技は本当に神がかりでした。後にまさか「ダーク・ナイト」でどこに出てんのか見つけられなくなるくらい地味な存在なってるとは思えないよ)LAに乗り込んでも皆が相手にするのはドロシーばっかりで、ポールは名実ともにすっかりヒモ状態になってします。でも本人はずっとポジティブでなぜだかとっても「努力家」、そして女性にはモテモテで浮気相手には事欠かないけど、DIYが大得意できれいなガラスの花の置物作っちゃうとか(ドロシーへの贈り物っぽいですね)ドロシーに会えないから寂しくてド変態チックな椅子をこしらえたりしてドロシーへの愛も絶対に忘れたりはしないポールなのでした。(椅子ワンカットだけ登場するんですが、実際に当事者本人がアレをデザインしたんであれば超洗練された、でも決して座りたくないようなスゲェ椅子だった)こうしてみるとポールってやってることは空回りなんだけどひょっとしたら一種の天才、少なくともかなりマルチな才人かもしれないですね。そしてダンサーから映画監督まで上り詰めたフォッシーはポールのような人間がよく理解できるのでしょう。だから思い入れが凄い。「ドロシーは才能あったのにダニみたいな男に殺された」んじゃなくて「ドロシーはポールと二人で作りあげた美神サマだったのに、色と欲にかられた周囲がよってたかってポールたちの仲を引き裂いたから悲劇が起きたんだ」ってこの監督は確信してますよ、だって私もその通りだと思うもん。


 伝説のセレブ姉妹 

 ドロシー役のマリエル・ヘミングェイはプレイメイトを演るので豊胸手術しただろっ、ということだけが当時話題になりました。(本当に豊胸したかどうかは映画で確認してください)つまりあんまりイイことないヒロインをどうしてアンタそんな熱心になれるの? という疑問があったからなのでしょう。でも彼女のお姉さんはマーゴ・ヘミングェイといって元祖スーパーモデルでドロシーと同じ有名なカバーガールだったんです。お姉さん主演の「リップ・スティック」という映画の端役で映画デビューしたのが妹のマリエル。ずっと年上のお姉さんに憧れてて、でも姉マーゴはだんだん名声に疲れて壊れていったそう・・・そんな姉の姿を真近で観ていたわけですから、自分の女優キャリアどうこうとかを超えたところでドロシー役がやりたかったんだと思います。でなきゃドロシーの無邪気なんだけどはかない美しさは表現できないですよ。そう、だいたいこの映画とっても清潔感があって悲しいんです(ポルノとかきわどいアイテムしか出てこないハナシなのに)日本人からするとラストなんかほとんど二人の心中シーンとしか思えないのさ。ダンスや演劇のずっと門前の小僧だったフォッシー以外にはこんな風には撮れなかったという奇跡みたいな映画、なんだよ。