『二人道成寺』(36/100)

母が図書館で借りてきて、「面白いから読め」とすすめてきた。あっという間に読んでしまった。


二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ)

二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ)


歌舞伎役者の瀬川小菊は、師匠・瀬川菊花のもとに「摂州合邦辻」の稽古に来た人気女形・中村国蔵から、友人の探偵・今泉を紹介して欲しいと頼まれる。3ヵ月前、国蔵のライバルである女形・岩井芙蓉の自宅が火事になり、芙蓉の妻・美咲が昏睡状態に陥る事件が起きた。芙蓉は外出していて無事だったが、国蔵はその火事に不審な点があると疑っているのだった。
事件の1年前。芙蓉付きの番頭・玉置実(みのり)は、美咲から「好きな人がいる」と打ち明けられ、衝撃を受けていた……。



梨園を舞台にしたミステリで、歌舞伎のことをほとんど知らない私でも、充分楽しめた。
小菊と実、ふたりの「わたし」が交互に語る形で物語が進むのだけど、現在進行形(事件から3ヵ月後)の小菊に対して、実は事件の1年〜半年前と時間差があって、面白い手法だな〜と思った。この2人の「歌舞伎俳優養成所出身」「女性番頭」というプロフィールにも、養成所なんてあるんだ、番頭は男性とは限らないのか、などと驚かされた。それ以外にも、歌舞伎界の豆知識的な描写が結構出てきて、作者の歌舞伎への愛情がひしひしと伝わってくる。
女形なのに対照的で、不仲と噂される芙蓉と国蔵、そして叶わぬ恋に身を焼く美咲の心理状態が、「摂州合邦辻」「二人道成寺」といった演目のストーリーに上手く重ね合わされ、少しずつ真相に近づいていくのはなかなかスリリングだった。でもタッチはあくまでもサラッとしている印象。


歌舞伎シリーズはほかにも何冊かあるみたいなので、引き続き読んでみよう……ってことで、『ねむりねずみ』と『散りしかたみに』を借りてみた。また面白い作家さんに出会ったなぁ。