「美女と竹林」森見登美彦

美女と竹林

美女と竹林

久しぶりの森見さんの作品は、ブログと同じように「登美彦氏」を主人公にした虚実入り混じったエッセイ集。

森見さんのエッセイですから当然とても面白いです。
特にモリミ・バンブー・カンパニーにまつわる妄想なんて最高です。
でも今回のは森見さんならとても楽にかけたんだろうな、
という感じで、軽くて読むのも楽なのですが、残るものも少ないですね。

もう「太陽の塔」の森見さんは待つのが間違いだな、と感じた一作でした。

<氷と炎の歌−第2部>「王狼たちの戦旗」

王狼たちの戦旗〈1〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈1〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈2〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈2〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈3〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈3〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

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王狼たちの戦旗〈5〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

王狼たちの戦旗〈5〉―氷と炎の歌〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

氷と炎の歌>第2部。

凄すぎる。
恐ろしいまでに面白い。
そして、あまりにも予想を超える展開に震撼せずにはいられない。

あの驚愕の結末の第1部を引き継いで、
七王国の諸王の戦いが始まります。
前作では名ばかり出ていたスタンニスも姿を現し、
新たにダヴォスとシオンが視点人物に加わります。
前作はスターク家の人々と対立するラニスター家の陰謀が、中心でしたが、
世界設定や人物紹介が前作で済んでいる分、
今回は縦横無尽に物語が展開します。

この作品の特徴として、視点人物に「王」が含まれていないことが挙げられます。スターク家の面々やティリオン、ダヴォス、ケイトリンなど王の近くに入るものの、実権は握っていない人々を視点に添えることで、
彼らの、歴史に翻弄されながらも力強く、知恵を振り絞ってなんとか生き抜こうとする姿が生き生きと描かれます。

そして、作者自ら「誰も安全ではない」と宣言するように、今回も重要人物が次々と死んでいきます。どんなに重要な人物でもいつ死ぬか分からず、緊張しっぱなしです。まさか、あの人があんな形で死ぬとはねぇ・・・。

今回はなんといってもジョンとティリオンのパートがよかったです。
ティリオンは相変わらずラニスター家なのに共感を持たせる人物で、
本当によく頑張っているのに、なかなか周囲の人物に愛されなくて胸が痛い。
そして、ラストのキングズランディング攻防戦は大迫力で今までの一番の見せ場でしょう。

ジョン、というよりナイトウォッチがますますかっこいい。今回特に話が進んだわけではないけれど、次第に忍び寄る危機とそれにたった300人で孤独な戦いを挑む彼らの心意気には涙がでそうだ。前回のラストもナイトウォッチの誓いの言葉が良かったが、今回もまた絶妙な使われ方だ。

「われは持ち場で生き、そして死ぬ
 われは暗闇の剣士なり。「壁」の見張り人なり」
「人間の領域を守る楯なり。われは命と名誉にかけて、 ナイトウォッチに尽くすことを誓う。」
「この夜のために、そして来るべきすべての夜のために」

渋い。この後のジョンの運命には・・・。驚きました。
そして、クォリン・ハーフハンド、かっこよすぎる。

ラストにいたっての各視点人物がそれぞれ辿る過酷な運命には、作者はなんて残酷なんだろう、と改めて実感すると共に、先が気になって気になって、いてもたっても。次の日に第3部を読み始めてしまいました。

もし読んでいない方が、ぜひ読んでみてください。
もっとも読み始めたら、一気に文庫を買い占めることになりかねないのでご注意を。

「アース」


とにかく驚異の映像の連続。
見た人とあそこが凄かったよな、
と言い出すと結局全部になってしまう。

水面高く跳びあがってアザラシに食いつくサメ、
ユーモラスな鳥のダンス、
ライオンとゾウの死闘、

などなどその凄さを伝えられないのがもどかしい。

ストーリー性に乏しく、
ただただ映像を見せつけられている感じで、
退屈してしまうところもあるし、
一つの作品としての「映画」ではないですが、
その映像の力には触れ伏すしかない。
古い映画人みたいだが、SFXとは違う
「実在」の映像の力を再確認させられた。

温暖化で氷が解け、ホッキョクグマの足場が無くなっていくシーンに強いメッセージがある。
しかしながらこの作品には大きな蛇足がある。
最後の最後になんであんなことをしてしまったのだろう。
あまりに唐突なので日本のスタッフが勝手に加えたのでは?
と考えてしまったほど。
渡辺健の声がまた説教ぽくていやだ。
あれほど映像の力で引っ張った映画なのに残念だ。

「陰日向に咲く」劇団ひとり

陰日向に咲く

陰日向に咲く

話題の本。
話題になると(王様のブランチなんかいま話題の本はこれ!みたいな)
なんとなく避けてしまういやな性格の僕ですが、
劇団ひとりは好きだし、いつも本を読む人にも評判がいいみたいだしで、
買ってみました。

難しいタイプの小説を書いたものだと思う。
たぶん、群像劇は確かに一人一人の描写が少なくなるので、
深く心を掘り下げる必要はなく、
筆力が足りなくても気にならないのかもしれません。
実際ひとりさんの文章はとても読みやすく、
一つ一つのエピソードもしみじみできます。

さらに、ここに登場人物全員がゆるやかにつながる、という仕掛けをこらし、
全体が一つになるようにして、エピソードの薄さを感じさせないようにしています。
確かにつながっているのですが、
ただつながっている感が否めません。
このタイプの話を書いてしまうと、
当然映画なら「パルプフィクション」とか「ロック・ストック・スモーキングバレルズ」なんかを比較してしまうし、
小説なら「ラッシュライフ」という名作を意識せざるを得ません。
残念ながら、そこまでには達しておらず、
技巧的な構成がかえって邪魔になってしまっている気がします。

この作品は、素人の作品としては抜群に素晴らしいと思いますが、1500円を出して作家の作品として買うものか、と問われれば、僕は高い買い物をしてしまった、と思わざるを得ませんでした。
2時間弱で読んでしまったし。

ひとりさんには文章を書く才能があると思うので、次の作品も読んでみたいです。

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女


だいぶ前に読んだのですが一応感想を残しときます。


いやー森見さん人気すごいですね!
太陽の塔」のときはカルト的な人気だったんですけどね。
まさかこんな流行作家になるなんてね。
トップランナーですよ。


その起点となったのがこの作品ですよね。
本当に素晴らしくよくできた作品だと思います。
今までの森見文体は残しつつ、
キャラクターも変わってはいるけれど
だれもが親しみやすい。
女の子はちょっとやりすぎなのではというくらいの天然ぶりでかわいい。


太陽の塔」や「四畳半」を独自性を残したまま洗練した作品で、森見さんは本当にすごいです。


ただ、ファンのわがままな自分勝手な意見であることを承知で言うと、
あの腐れ大学生の不毛なダンスに魅せられたものとしては、
森見さんが僕らの側から表舞台に旅立ってしまうような気がして、少し寂しい気がしました。


ちなみに、「走れメロス」の出版の時にサイン会に行ったのですが、握手していただくときに「太陽の塔」みたいな作品も忘れないでください!と言おうと思っていたのに、いざ目の前にするとあわわ〜となって、「が、頑張ってください!」としか言えなかった僕でした。

「七王国の玉座」

七王国の玉座〈1〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈1〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈2〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈2〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈3〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈3〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈4〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈4〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈5〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈5〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国はロバート・バラシオンにより統一されていた。
しかし、長く続いた「夏」は終わり「冬」がやってこようとしており、
貪欲に王の座を狙うラニスター家など平和は長くは続かないように思われ、
北方の統治者エダード・スタークとその子供たちにも波乱が訪れようとしていた。
一方北の「壁」を守護する「ナイトウォッチ」たちは「異形人」達が迫ってくる気配を感じていた・・・。

文句なしに面白い!
5巻組で
世界観は複雑だし、主要登場人物だけでも10人近くいて、
一見するとひるむものがありますが、
いざ読み出したらページを繰る手が止まりません。
とにかく波瀾万丈。
登場人物たちはみな何らかの負い目や欠陥を負っているのですが、
さらに数々の苦難に襲われます。
えー!あの人が死んでしまうの!とか
どうやってピンチを乗り切るんだ?!
とかとにかく意外な展開ばかりで、
先が気になって仕方ないです。

主人公らしきスターク家をはじめ王家バラシオン家、ライバルたるラニスター家など、
多くの登場人物が出てきますが、
お気に入りは、
生い立ちに苦しむジョン・スノウ、
身体に欠陥を負いながら、実は優秀で家族思いの皮肉屋ティリオン、
これからどうなるか見もののハウンド、
アリアの剣の師匠様、
などなど。

世界観も緻密に構築されているのですが、
それぞれの家の銘言がカッコイイです。
スターク家の「冬がやってくる」とか
ラニスター家の「わが咆哮を聴け」とか。

続いて第2章も読むつもりです。

これから読む方はあんまり書評とか、先のあらすじとか読まない方がいいです。
意外な人が死んでいたり、立場が変わっていたりするのを知ってしまいますから。

ダン・シモンズ「イリアム」


ハイペリオン」「エンデュミオン」のダン・シモンズの久々のSF大作。
今回も例によって「イリアム」「オリュンポス」が上巻・下巻の関係にあります。
とはいえ、この「イリアム」だけで2段組みで800ページ近くあり、いつものように設定がはじめは明らかにされないために物語世界に入り込むのに時間がかかったこともあり、完読にはなかなか苦労しました。

物語は三つの世界が並行して進んでいきます。

一つ目が
イリアムで、そこではホメロスの「イリアス」そのままにトロヤ戦争が行われており、神々が人間の戦いに介入しています。

二つ目が
未来(らしき)地球で、そこではポストヒューマンと呼ばれる人々が残したハイテク機器を使い、古典的人類が享楽的な日々を過ごしています。

三つ目が
木星の衛星にすむ、半人間モラベックで、火星での量子的異変を感じ取って、調査に向かいます。

とまぁ設定を話しただけでは、なんのことやらわからない話で、特にイリアムでは時代も「神々」がなんなのかもさっぱりわからず、ただただトロヤ戦争が続いていき、序盤で途方に暮れてしまいます。
しかし、イリアム世界に慣れてくると、そのあまりにも激烈な戦いや映画「トロイ」でみた英雄たちの活躍に魅せられ、おぼろげながら各世界の関連が見え始めると、ページを繰る手が止まらなくなります。さすが、稀代のストーリーテラー、シモンズです。

そして、最後驚くような展開を見せ、これから運命の戦争が始まるぞ!というところで「オリュンポス」に続く・・・、となって「オリュンポス」もすぐに読むことになるわけでした。次はついに「オリュンポス」だけで上下巻1000ページ近く、先は長いです。