覚醒剤の自己使用を処罰するな

俺のゼニのかからない趣味の一つに裁判傍聴というものがある。
傍聴してるといろんなことがある。基本的に裁判傍聴に来るのは身内とか友達とか、そんなのばっか。東京だと裁判傍聴趣味みたいな人が多いけど、静岡だと俺と、毎日来てる緒方拳似のじいさんだけ。あとマスコミとか学生とかの研修みたいのがいる。
ただ、それもメイン法廷の3号法廷での話で、小さい2号法廷に来る人なんかほとんどいない。だから身内の人は思うわけだよ、傍聴してるコイツ、誰?って。


身内の知らない交友関係だと思われることが時々ある。ひどい時には元暴力団組員の窃盗事件で、暴力団から監視に来たヤクザだと思われて文句言われたことがあった。
「お友達の方ですか?」って聞かれる程度のことはしょっちゅうだ。


話は先週の静岡地方裁判所でのこと。覚醒剤取締法違反で2件の判決があった。
公判は2件だけど、内縁の夫妻の覚醒剤事案。
初公判はともに5月14日。
俺はたまたま時間つぶしで静岡地裁2号法廷にいた。被告人が女性の名前で、たまたま直前にとんでもない美人の覚醒剤事案の被告人を見ていたから、どんな女性か思わず反応してしまった。


実際は40代のおばちゃんだったわけだが、その起訴状の内容がちょっと異常。内縁の夫が覚醒剤の常習者で、カーペットにこぼれた覚醒剤がもったいないからカーペットクリーナーのコロコロでくっつけて回収、それを水に溶かして注射した、ってどんだけ覚醒剤好きなんだよ?!そんなもんホコリだって混じってるだろうに。
審理の途中で問題発生。証拠物件として押収したコロコロで回収した覚醒剤の所有者は誰じゃい?
このときに検察官の口から、この後に内縁の夫の公判があるのでそこで所有権放棄をさせる、という話が出た。
じゃあ、そっちも見てみようかと。
で、この内縁の妻の裁判には傍聴席にもう一人いた。70台半ばのおじいさん。
案の定というべきか、情状証人として証言台に立った。内縁の夫の父だという。


この直後に内縁の夫の公判があった。49歳の元とび職。覚醒剤で前科6犯。
内縁の妻とは共通の覚醒剤の売人から買っていた縁で知り合ったという。
傍聴席にはさきほどのおじいさん、そして被告人の父として情状証人として証言台に立ち、殺してやりたいと言った。


ともに即日結審。
公判終了後、この被告人のお父さんから声をかけられた。お知り合いの方ですか?、と。
それが縁でこの日と判決公判の日に、少し話をして思うところがあったのでこうして書いてる。


やっぱりさー、日本の刑事政策には不十分なところが多いな。
人はなぜ罰せられるのかにはいくつかの考え方がある。大きく分けると目的刑論と応報刑論に分かれる。
目的刑論は、罰があるということ自体が犯罪を防ぐという一般予防論と、個人に罰を加えることによって更生させたり隔離したりして再犯を防ぐ特別予防論に分かれる。
応報刑論は「目には目を、歯には歯を」的な考えで犯罪を刑罰で相殺する絶対的応報刑論と、絶対的応報刑論と目的刑論とをミックスした相対的応報刑論があって、今の日本ではこの相対的応報刑論の立場に立っているといえる。


つまり悪は悪だから罰せられる、という前提がまずあるために、その罰が必ずしも被告人やその周囲の助けにはつながってないんだよ。
その典型が覚醒剤などの依存症患者による事案だ。依存症患者に対する更生プログラムがまったくないまま放り出されてしまうんだ。刑務所での指導もあるんだけど、再犯率の高さから見てもまるっきり効果がなく、しかもそのことに対するフィードバックがまったくされていない。


先の内縁の夫のお父さんは盛んにこう言ってた。覚醒剤常習者の異変に気がついて通報しても、確たる証拠がないと検察も警察も動いてくれない、ただ、連れて来てくれ、というだけだが、いい年になった大人を本人が行く気がないのに無理に連れて行くことなんか出来ない、と。
そりゃそうだ、行ったら最後、刑務所行き確定だもん。
前回の出所後、仮釈放中は保護観察官がついてくれたけど、もう誰も相談に乗ってくれない。
どうしたらいいのか分からない。


そう俺に言われてもねえ・・・。ナルコティクス・アノニマスを紹介することぐらいしか出来ないよ。
確かに俺はギャンブル中毒上がりだし、アル中一歩手前だけど、前科6犯の覚醒剤常習者にはなにもアドバイスなんか出来ない。


実はこの公判で、出所後に再犯の可能性を質されて、以前働いていた南アルプスの某山小屋で働かせてもらうので覚醒剤との縁を切れる、という話が出てきて、なにをトンマなことを考えてるんだろ?と思ってた。でもそれは、誰にも相談することなく、被告人と父親の2人で必死に知恵を絞った結果なんだろう。
誰にも相談が出来ないってのはこういうことだ。


裁判所は判断をするだけだからなにもしない。
弁護士は裁判が終わればさようなら。
検察警察は捕まえることしか考えていない。
どうしろと?


一応行政には相談の窓口はある。
静岡だと静岡県精神保健福祉センターとか静岡県こころの健康センターとかあるんだよ。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/dl/yakubutu_kazoku_0002.pdf
予算使ってこんな立派な冊子を作ってたりするけど、肝心要の覚醒剤前科6犯の家族に届いてねえじゃねえか!!!!


それともこの父親がそもそもおかしいのか?
誰か紹介してくれてたのに気がつかなかったとか?
そう考え出すとわけが分からなくなってくるよ。


でもさ、この父親が言ってたことで気になることがある。
出所したらすぐに暴力団から連絡があるみたいだって。どこでその情報を得てるんだろう?って。すぐ接触があって、売人の連絡先入りの、被告人名義の携帯電話を渡されるんだってさ。ひでー話だ。
大方、刑務官で暴力団とつるんでるのがいるじゃないかな。それで出所日と連絡先も教えちゃうんだろう。