三遊亭鳳楽が七代目円生を襲名しようとしている件

三遊亭円楽が死んで、そのご意向で三遊亭楽太郎三遊亭円楽を継ぐ、という話は円楽も楽太郎もテレビタレントとして知名度が高いこともあって、割と知られた話。円楽を楽太郎に継がせるのはご自由にどうぞ、というところ。
ところが、その後に出てきた三遊亭円生の名前を三遊亭鳳楽に継がせるという話を聞いたとき、正直一瞬どうなってんじゃい?信じられねー、と思った。
つっても落語に興味がなければエンナマってなに?円天とどう違うの?って話だろうけど。

 三遊亭鳳楽さん(62)は21日、昭和の名人として知られた六代目円生を継いで、2011年までに七代目を襲名する見通しを明らかにした。
 鳳楽さんは円楽さんの総領弟子で、生前、円生襲名を勧められていた。「六代目円生の遺族からは『円生は落語界全体の名跡なので早く継いで』と言わ れていた。誰かが継がないといけない名跡。もう私は60代なので、芸が下手でも、自分なりの七代目円生になれたら」と抱負を語った。
 六代目円生は1978年、真打ち昇進問題を巡って落語協会を脱退。弟子の円楽さんらは同調し、円生没後も協会に復帰せず、円楽一門会として活動を続けた。遺族らは、円生の名跡を六代目限りという「止め名」にした経緯がある。

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20091121-OYT1T00874.htm

ここであえて[静岡]タグをつけたのには理由があって、三遊亭鳳楽が唯一のレギュラー番組を静岡に持ってるから。もう何年になるだろうか、番組の名前は変わりながら週1回、ラジオの音楽番組を担当している。
あと、静岡ローカルの番組にもちょこちょこ単発で出てるのを見たことがある。静岡では馴染みの落語家の一人。とは言っても知名度では清水出身の春風亭昇太や浜松出身の瀧川(春風亭)鯉昇には敵わないけど。


世間的知名度がイマイチ低くても、三遊亭鳳楽が実力者であることは間違いない。
この鳳楽が円楽の一番弟子で、円楽は円生の一番弟子だ。だったら円生の名前を円生の孫弟子である鳳楽に継がせたっていいじゃねえか、ガハハハ、と円楽は言いたいらしいけど、話はそう単純じゃない、ということが先週の週刊新潮に載ってた。

昇天「円楽」が立つ鳥跡を濁した「円生」大名跡のトラブル

週刊新潮 | 新潮社

なにがあったかはamazonでプレミアが付いちゃってる(3年ぐらい前は5000円前後だったからずいぶん安くなった)んだけど、当事者の三遊亭円丈の書いたこの本に詳しい。そしてなにより面白い。
円生の弟子で円楽の弟弟子にあたる三遊亭円丈にとってはエライ目にあってるわけだけど、なにせ本人がああいう人だから深刻さが全然伝わってこない。

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要するに落語には落語協会落語芸術協会の2グループがあったわけだけど、落語協会に所属していた円生一派が1978年に落語三遊協会なるものを作って分裂しかけた事件があった。
今でも図書館で落語CDの棚を見てもらうと分かると思うけど、だいたいどこの図書館でも円生のCDが一番多いと思う。立川談志のCDが半分以上占めてる静岡市御幸町図書館はどっかおかしいんだよ。
円生ってのは落語史上最多といわれるほど持ちネタの数が多いし、堅実だし、上手いし、なにより変なクセがなくて聴きやすい。そういう現代落語のスタンダード的な存在。

そんな保守的で職人気質の頑固な師匠だもの、所属する落語協会で粗製乱造的に真打大量昇進させたことに反発して分裂もしたくなるだろう。それを煽ったのが野心旺盛な一番弟子の円楽だと言われてる。
円楽は円楽で、橘家円蔵や当時の若手で人気だった立川談志古今亭志ん朝月の家圓鏡らとともに落語界のクーデター的なことをやりたかったらしいんだけど、結局は失敗。
円生一門だけで分派、最後は円生急死、円楽を除く弟子は落語協会に格下げされて復帰、円楽と円楽の弟子がいわゆる円楽党を作って独自の道を行くことになる。


しかもその過程の中で、円楽の演じた役割は本当に良くない。無計画におっぱじめて、思い通りにならなければ陰謀・騙し・恫喝なんでもあり、あげく無責任でありながら自分だけはちゃっかり得をしてる。
先の「御乱心」で抑えて、時に茶化して書いてはいるものの、伸び盛りの頃にとばっちりを食らった円丈の心境はいくばくなるものだろうかと思う。「御乱心」の中では終いには円生が円楽を見限るような言動が描かれている。


こういう経緯がある以上、そりゃあ円生の名前を円楽が差配しようとしたら、元円生一門や円生の遺族が快く思わないのも当然といえる。
この話が出てきた時には、てっきりこの辺の問題はクリアしてるものだと思ってたけど、どうもそうじゃなかったようだ。つーか、円楽がそんな根回しをして死んでいくわけがない。


三遊亭鳳楽はなにも悪くない。
でも「御乱心」を読んでしまった以上、鳳楽の円生襲名をどうしても喜ぶ気にはなれない。