読書:佐藤健太郎『ふしぎな国道』

読みました。

何にでもマニアはいるもんですな。それにしても、普段運転してるもんだから、ほんと面白かったです。同じ番号の国道が併存してる理由もわかりました。結構おすすめ。カラー写真めっちゃ使ってるんですが、なんでカラーなんやろう・・・?とか思うところもあって、ほんと楽しめました。運転してる人(特にカーナビ北固定にしてる人)には、けっこうオススメ。

どうでもいいんですが、p.96(なぜかカラー)に「小さな漁港でしかない舞鶴港…は国道だ」とあって、舞鶴港って、漁港だっけ?と困惑。舞鶴って、戦後直後の引揚船も来た、結構大きめの港だと思うんですが…。

読書:宮脇淳子『世界史のなかの満洲帝国』

読みました。もちろん2006年の紙版です。絶版やとリンク張れないのかな?

かつて存在した満洲帝国の領域の歴史が描かれます。もしも、満洲国が現存し、いろいろあって本当に独立していたら、こういう教科書があったかもしれません。いや、台湾だって、「台湾共和国」というタームが出てくるわけですから、「満州民主共和国」が存在したかもしれない、というのは全くありえない歴史ではないのかな、というのは思わなくもありません。(冷戦どうなるとかいろいろあるんですが)
漢人が満人と呼ばれる国で、マンジュはどのような位置づけになるのか、とか、ものすごい妄想をかき立てますな。(台湾のアイデンティティだって突き詰めるといろいろビミョーなわけですし)

もちろん、本書の中に、実証的な著者の創見というのはありません。そりゃそうだ、ジュンガルの専門家ですからね。(今回、ああ、杉山正明先生は西から見てて、宮脇先生は東から見てるんだ、というのがやっとわかりました)

ただ、枠組みとして、「満洲」を固定して、ずーっと歴史を追うっていうのは結構面白い試みですよね。べつに「満洲」の地域的一体性を主張するわけでもないわけで、その点、割と余計なことを書かないようにしているのも、むしろ「あの地域」の北東アジアにおける位置づけが浮かび上がってきて、いい感じのように思いました。これは、おもしろかったなあ。

これが、近現代の話だけになってたら、何も意味ないわけです。近現代の話だけだと、そんなん常識やろ、『キメラ』読んどけって話になるわけですが、それが粛慎(満人の名前じゃないです)とかから連綿と続いてくると位置づけが違って言えてくるわけですよ。2000年前からの話をずーっとたどってくると、〆の一言が秀逸、上手くオチが来たな、と嘆息するわけです。もちろん、それが正確かはともかくとして。


ちょっとだけ気になったのが以下の4点です。

16ページ:ジェシェン=女直というので議論が進むんですが、金(完顔氏)と後金・清(愛新覚羅氏)の女直って、同じ「民族」でいいんですかね?同じ地域に板に多様な生活習慣を持ってる人達ではありますが、簡単に結びつけたらアカンみたいな話、聞いたきがするんですよね・・・。

118ページ:「国民国家」は、アメリカ独立戦争フランス革命あたりから出現した概念という指摘があります。まあ、そんなもんかな、とも思いますが、Nationという語の、ある国家に所属する人々を指すという用法は、17世紀からあるはずです(OEDオンライン化されてないんかな…)。「国民国家」が想像/創造された論は、それはそれで市民権を得たんですが、インドネシアみたいのは極端なのはレアケースで、軸になる「国民」はいたんですよね。割食ったのは、周縁に位置付けられたひとだけで。

127ページ:「香港返還」は英字新聞ではhandoverとかTransferと読んでいたことが印象的と、軽く清朝と人民共和国の連続性を前提にする観点にチクリとしています。まあこれウィキペディアにも載ってるネタなんですが、そんなに深い意味あるんですかねえ…。漢語では「回帰」ありきなので、まあどうしようもないというか。むしろ、日本や香港で、「回帰」を避けるとはっきりと政治性が出てきますが、英語だとそこまでではないように思いました。
つか広東語版のWIKI、この件しか書いてないじゃねえか。あからさますぎる。

166ページ:五四運動が、21ヶ条要求から4年後に起きたのはコミンテルンの指導があったからだ、という指摘がなされてますが、これ、たんにパリ講和会議での山東問題に関する議論が不調に終わったからですよね。

中国近代外交の形成

中国近代外交の形成


キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

武将CM

いや、まあ、なんでもいいんですけどね。

うーん、これ、滋賀のPRになるのかなあ。
歴史上の人物の観光資源としての価値って、結構微妙な気がするんですよね…。大河ドラマも、マニア受けするときと、どこにも受けないのとしか最近はない気がするし。

これが地方ソーセーの実践かよ、と思うとまあ何ともいえない気がします。

「消費税が無敵艦隊を沈めた」???

タイトル見て、「ああ、ザ・シニューズ・オブ・パワーの話かあ、時期違わない?」とか思って中身見て愕然。こんなんだから増税になっちゃって、日本沈没なんだよ。#語るに落ちた日本死ぬ、じゃねえか(いってやったいってやった)。

元国税調査官が分析する「消費増税」のリスク 日本はスペイン無敵艦隊の「二の舞」になる

西洋史の人、仕事してくださいな。こんなんを蔓延させるようだと、学問分野の存在価値を疑われますよ。

・・・・以下:追記・・・・

いやね、消費増税アカン、というのはもちろん同意なんですよ。8%→10%でありがたいことは小銭使わなくて済む、だけじゃないですか。でも今電子マネー結構普及してるので、それもあんまりメリットとして意味がない。大体2%あげたくらいで、本当に日本の財政に対する信頼感が上がるわけないでしょ。消費冷え込むだけじゃないですか。増税、今はアカンやろ、と。

でも、その消費税あげたらイカンという主張をするのに、適当な歴史の話をまぶすのはダメでしょ。というわけで、ダメだな、と思った部分をメモ。

全体としては以下の通り。
問題点1:何でも今風の話にしすぎ。格差と消費税の話にしたいだけ。
問題点2:話がいちいち古い。王族への怨嗟でフランス革命とか、無敵艦隊はあっさり跳落とか、「オスマントルコ」とか、もう2016年でっせ。
問題点3:一国史観というか、いまどきどっかの財政の失敗だけあげつらっても理解は深まらない。

じゃあ、後は上げ足をとってまいりましょう。

1:「中世フランスの国家財政は「火の車」」
→そりゃ、中世ヨーロッパで「火の車」でない国なんてあるんですかね。みんな、アホみたいに金借りてるでしょう。

2:「タイユ税は主要な財源、ただし貴族などは免除されているため、格差が広がった」
→タイユ税は確かに主要財源で、貴族などが免除されているのは確かだけど、それで格差が広がるって何でしょ?もちろん、免税特権廃止や税負担平等化が議論されてるし、それはアメリカ独立戦争介入に伴う財政赤字の増大がきっかけだったことは確かですが、「免税特権を持つ貴族たちはますます富み、農民や庶民たちはどんどん貧しくなってゆく」のかは、別の話でしょう。むしろ、フランス革命の農村への波及の直接的なキッカケは、18世紀末の天候不順(で、しかも火山噴火絡み)による食糧危機だったというのは常識だと思うんですけど…。

3:「国王とその一族の贅沢な生活が、怨嗟の対象」
フランス革命で当初問題だったのは王政そのものではなく、啓蒙専制だと政策的に無理できないので、改革が必要という話だったとおもいますが…。だいたい、マリー・アントワネットの「パンがないなら…」は偽作だし、王族まで処刑しちゃったのは、ロベスピエールイカレてたから、というのは明治以来の常識だと思うんですけどね…。

4:「(スペインは・・・)17世紀中ごろには世界の覇権をイギリスに搶われてしまうのです」
→待って、オランダの立場は?英蘭戦争ってあったじゃないですか。17世紀はオランダのヘゲモニーが、って、ウォーラステインも言ってるじゃないですか!

5:「当時のスペインの消費税「アルカバラ」…」
→アルカバラカスティーリャ王国的には税収の大宗を占めることは確かだし、流通間接税がきわめて重要であり、かつ16世紀後半からそこに課税強化が行われることも確かですが。アルカバラ以外にもあったはず。つか、「中世イスラム圏から持ち込まれた」税制は、アルモハリファスゴalmojarifazgo(移出入関税)ではないのかいな。なんか、間接税と消費税がごっちゃな気がする・・・。

 参考:中川和彦「中世のカスティーリャの税制の素描」(『成城大學經濟研究 』(139), 9-34, 1998
 
6:「(間接税強化で)国王側としては「税収が増える」ことになります。ただ、一つの商品にこれだけ高い消費税が課せられるということは、当然、物価は上がるし、そうなるとゆくゆくは景気の低迷につながります」
→間接税が上がると、商品価格の一時的上昇を齎すことは確かですが、景気が低迷するとむしろ価格は低迷するものな気がするんですけど。そもそも、16世紀のスペインにおける物価上昇は有名な「価格革命」というヤツの一環で、貴金属流入に伴う貨幣供給増大によるもの(で、それによる流通の活性化で景気が上向き、それとどっちが先かわからないが人口も増えて、物価が上がる)です。このかん、新大陸の金銀を受け入れるスペインの契機がイマイチだったのは、当初は新大陸に農業国であるスペインから食料を輸出して新大陸の入植者に食わせていた(かわりに銀を受取っていた)のが、新大陸での開発が進み、自給体制が出来上がってスペインの食料が売れなくなり、しょうがないのでほかのヨーロッパ(特に北海周辺/その商業の中心が英蘭/しかもオランダが独立までしてしまう)の手工業製品を中継輸出するようになった、それではスペインには銀が落ちないので、スペインで暮らす人々の賃金は上昇せず、スペインは輸入する手工業品は価格が上昇してしまう、その結果、スペイン経済が弱体化してゆく、というお話であるはずです。

7:「消費税が無敵艦隊をしずめた」
→「無敵艦隊が急速に力を失っていったのは・・・スペインの財政悪化、国際収支の悪化が招いたこと」というのは、まあそうかな、と思いますがそれと消費税は関係ないでしょう。あと、「急速に」というのはよくわかんないですね。いつからどのようにダメになっていったのかがはっきりしないし。アルマダの海戦以降もわりと海軍力が保全されたということはウィキペディアにも書いてあるんですが、まあ、それもいつまでかよくわかんないので。とまれ海軍力の話をしてるのは、まあいいんですが、それよりもスペインの17世紀中葉のダメっぷりを示すのは、フランスに陸戦で負けまくってることだと思います。スペインは割合16世紀には陸戦も強いんですが、17世紀には上記の経済的な苦境も重なり、装備やシステムの改善ができずにフランスにボコボコにされ、18世紀のスペインはほぼフランスの属国状態、継承戦争でさらにションボリな感じ、という流れかと思います。

なお、以上の記述は、だいたい以下の書籍によっています。

スペイン・ポルトガル史 (新版 世界各国史)

スペイン・ポルトガル史 (新版 世界各国史)

近代ヨーロッパの覇権 (興亡の世界史)

近代ヨーロッパの覇権 (興亡の世界史)

財政=軍事国家の衝撃―戦争・カネ・イギリス国家1688-1783

財政=軍事国家の衝撃―戦争・カネ・イギリス国家1688-1783

役人なんだとおもっとるのか

もう激しく同意ですよ。うまみがないから役人にならない、とか、そんなんアカンやろ。ノーパンしゃぶしゃぶ行きたい、とかそんな奴、最初からイランやろが(歳がバレる

いや、基本的にいまの日本の官僚のみなさんはよく働いてると思いますよ、なんかずれてることもあるけど。ずれてるのは国民全体なので、まあしょうがないじゃないですか。日本国籍保持者全体のダメっぷりに比べりゃはるかにマシな人たちだと思いますけどね。

つか、うまみばっかり考えてる医者もいやだなあ…。
官僚にもお医者にもちゃんと報酬を払うべきだとは思いますが、なんつうかね。

読書:原田実『江戸しぐさの終焉』

読みました

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

↓の続きです

いわゆる「江戸しぐさ」の虚妄性と成り立ち、現在の扱われ方が書かれています。内容に関しては、買って読んだ方がいいです。840円なんやから、買ってください。なんか、割と多くの段落の最後に言わずもがなの批判がついてるような気がしますが、それは御愛嬌でしょうか。

さて「江戸しぐさ」は妄想の産物であることはもうみんなに理解されつつあるわけですが、著者は、それでも一回は流行ってしまったことについて、警鐘をならしつつ、専門家はなにやってんのか、と少しお怒りのご様子です。そのうえで、立教大学で行われた学術シンポで言及されたこともポジティブに書いています。大学の先生に対する期待をヒシヒシと感じますな。

ただねえ、ヘンな話(最近話題の「水素水」とか)もそうですが、そんなん出てきていちいち批判するほど、大学の先生も暇じゃないと思うんですよね。というか、批判しようがないというか、土俵が違うというか、専門家が突然素人の中に入って行って「こんなん信じるてお前あほか」というのって、どうなの?という気はするんですよね。「どうでしょうか?」と聞かれたならともかく(その意味では、33-34ページの帝国書院の副読本に「江戸しぐさ」載ったということについての監修者への批判は重い気がしますが)。

大学の研究者って、本を読まない層まで啓蒙するのが仕事なんですかね。大学の先生のツイッター、よく見かけて個人的には楽しく拝見してますが、その内容は、一発で世間様に響くようなものではないような気がするんですよね。ある程度慣れてないと分からん、というか。

むしろ、こういう現実の変な話にツッコミいれて撃破していくのは、大学の先生ではなくて、今回の書籍の著者のような、在野の一般向けに主張を行えるネット上でも商業出版でも、瞬発力のある人がやるべきだと思うんですよね。で、そういう人を育成するのが大学の教育なんじゃないのかな、大学の先生は一般向けというより、こういう一般向けに発信できる人に刺さるような行動ができればいいんじゃないかな。と思ったりしました。分業大事ですわ。