砂の女 著)安部公房

安部公房の代表的作品といわれる『砂の女』、冒頭部分のとっつきにくさからしばらく読むのをストップしていたが今回読了後に感じたのはこの作品は冒頭から中盤までを一気に読むべきだということ。

内容を簡略に説明すると、昆虫採集を趣味とする教師の主人公が休暇を利用し、砂丘に住むハンミョウを採りに出掛ける。その日の暮れに主人公は砂漠の集落の人間に寡婦が住む家に泊まることを勧められる。その集落にはある特徴があり、それは家々が砂漠に深い竪穴を堀りそこに家を建て暮らしていた。よって家から地表面に出るには梯子を用いなければならないのだが一晩経つと女の家からは梯子が消えてしまっていた。こうして始まった男と女の奇妙な同棲生活を描いたのが本作になる。

冒頭から中盤まで一気に読むべきなのは、集落の謎の提示が前半部分に多く散りばめられてある点。また男が何故女の家に取り残されてしまったのかが主人公と同じく私自身も混乱してしまったため、男が正気を幾分か取り戻す中盤まで読み進めないと、この作品に慣れることができないのだと思う。

この作品の中での大きな主題は常識からの一転した非日常に陥ったとき、まさに蟻地獄の罠にはまった男の様になった時に如何様にその状況を肯定していくかだと考える。

作品の中では家を囲む砂に対しての描写がこと細かく描かれている。それは砂は極めて水のような流動性を持ち、尚且つ人間一人には到底抗えないものである。そのために最初、自身を地表面の世界へと戻してもらおうと砂との共生を村人に訴えていた。砂を利用するという考えを持っていた男だったが、その考えは非日常である砂の中での生活を通し緩やかに崩れていく。まさに非日常が日常へとシフトしていく、この場所から逃げ出したいという思いも砂のように流れ去っていく、その様を見せつけられているようだった。

また、作中での女との生活はやはり女と男がいればラブになるという簡単なものではない。女も村人たちと共犯であり、なおかつ女と住まわせるということはその女に手を出してしまえばまんまと策略に溺れてしまう。また男自身の日常での性生活に対してのある意味俯瞰的な考えと情欲との間の感情がいつ決壊してしまうのか、どぎまぎしながら読み進めた。時期は夏であるために砂と汗にまみれた女の肢体の様子などエロティックであり、私はもうやられちゃいました、男って奴ぁーーもう orz

村人達の村落への異常な「郷土愛」もこの作品を彩るものだろう。村人は労働力が欲しいがためにその地を訪れたものを罠にかけ砂の穴へと住まわせる。エグイのはその穴の中に女を用意し、また歯向かう者は水の供給を断つという非情さを持つ。その不条理さ最初から最後まで読む者に恐怖を感じさせ、ホラー小説でも読んでしまったかのような気にもなる。


多少、とっつきにくい文体ではあるがいろいろな面から読み解くことができる小説でもあるので未読の方には是非お勧めしたい。


砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)