派遣村は現実となった"リョッコウ"だ

また国会議員が「それを言っちゃあ、お終めえよ」な発言をした。

坂本哲志総務政務官は5日、総務省の仕事始め式のあいさつで、仕事と住まいを失った派遣労働者らを支援するために東京・日比谷公園に開設されていた「年越し派遣村」に触れ、「本当にまじめに働こうとしている人たちが日比谷公園に集まってきているのかという気もした」と述べた。そのうえで「(集まった人が)講堂を開けろ、もっといろんな人が出てこいと(言っていたのは)、学生紛争の時の戦術、戦略が垣間見えるような気がした」と続けた。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090106k0000m040018000c.html

言いたいことも分かるけど、そんな学生運動みたいな元気があるなら仕事につけるんじゃないだろうか。
それよりもこの年越し派遣村を見て、自分は「ああ、これはいよいよ『半島を出よ』が現実化してきたのだな」と思った。

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

未読の人のために説明すると、"リョッコウ"ってのはこの物語の冒頭の舞台となっている、全国でも有数規模のホームレス居住区になっている緑地公園のこと。2011年の日本は円が暴落し、預金が封鎖され、消費税は17.5%まで上がり、インフレによってぼろぼろになっており、仕事を失った人々が”リョッコウ”のようなホームレス居住区に住んでいる。本文から一部抜粋してみる。

彼らは会社の都合で会社から放り出されても、家族に家を追い出されても、国家から預金を奪われても、それでも何かにすがっていなければ恐いというだけの理由で寄りかかれるものを求めているのだ。スギオカやイシハラやシノハラのような人間に焦点を当ててリョッコウに集まるホームレスやNPOの連中を見ると、現実感がなくなる。顔つきや態度や動作のすべてがフラフラとしている。風景全体が白昼夢のようだった。

その空気を派遣村の人々からも感じる。『生きさせろ!』と叫ぶけれど、現実を打破するためには何もしないような、そんな感じ。そこに行けばとりあえず何とかなるんじゃねえのかなって甘い考えの人間がうようよいるんだな、と。ガンダーラは電車で行ける距離にあるわけなかろうに。
 

田舎の実家に帰ればどうにかなるかもと思っても、飛び出した事情があるって人も多いんだよ。頭を下げて実家に帰るぐらいなら、野垂れ死にする方がましってさぁ。ブラック企業で働いてしまうと、また、ブラックじゃないかと怖くて働けないとかさぁ。
灯油かぶってどうする - 北沢かえるの働けば自由になる日記

そう、彼らは「頭下げるよりのたれ死にする方が良い」人々なのだ。クソみたいなプライドを後生大事に守っている。本当に生きたければどんな仕事だってできるはずだ。そして、"どんな仕事"というほどでも無い仕事だっていっぱいある。
 

今朝、ニュースで、厚生省が開いたホームレス寸前の労働者向けの緊急職安に人が来ないという話題で。
(中略)
職もないし、家もない奴が、どうやって情報を得るんだよ。
テレビなんか見ているわけねぇだろと。
灯油かぶってどうする - 北沢かえるの働けば自由になる日記

そう、ただ待ってるだけなのだ。腹をすかせてピーピーなく小鳥のように、自分のくちばしまでおいしい情報が来るのを待っているだけなのだ。自ら探しに行こうとは決して、しない。
 

先の見通しが甘かった人も、愚かものも、堪え性がなくすぐに仕事をやめてしまう人も、身体の弱い人も、仕事を選り好みする人も、怠け者も、努力の足りない人も、勇気がない人も、人生設計など何も考えていない人も、マナーの悪い人も、他力本願の人も、あらゆる人が人間らしく生きていけるようにするべきです。
すべて国民は - good2nd

そしてこういう主張をする。「すべき」の主体はどこかにいる「誰か」だ。なぜ「失業者自身」や「筆者」ができもしないことを言うんだろう。「誰か」も「失業者自身」も「著者」もやってない、できないことが、どうしてこれから実現されるんだろう。
 
派遣村批判に対して批判をする人も多いけれど、

小さい悪を叩くのは簡単だし楽しいかもしれないが、それで世の中が良くなることは少ない。もっと大きな悪を叩くべきだということだ。
http://blog.k05.biz/archives/580

派遣村に代表されるような、感情的で突発的な支援策を行う議員さんこそ大きな悪ではないかと思うがどうか。「派遣切り」という急にできた意味不明な造語に踊らされて、「派遣を切られてかわいそうなのに、それをいじめるのは酷い」と脊髄反射で言っちゃうのはどうよ。
国家の舵取りを行うべき国会議員が、人気鳥のためにたかだか500人の失業者のために右往左往してることが一番問題なのに、その方が世論の支持を受けられるという皮肉。これでは短絡的な、その場限りの思考しかできない政治家たちしか残っていかない。本当に『半島を出よ』の世界が実現しそうな雰囲気になってきた。

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)