Ridleyの日記



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2014-07-30 本陣の、むこう側に、われらが夢がある。

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破軍の星 (集英社文庫)

破軍の星 (集英社文庫)


9/10



読み終えて思うのは、ああ……この人の夢が叶えば。

叶ったのなら、それはどんな国を築き得たのだろうか。

そこには彼が悔いた、飢える民もおらず、民をないがしろにする主上もおらず、

大義によって殺される小義もなく、皆が静かに暮らしていける国ができたのではないかと。

歴史の可能性であるとか、こうであったらというIFを考え始めるとキリがないけれど、

この北畠顕家という人は、本当に、惜しい。

死ぬべきでない人が死ぬことは、珍しいことではないけれども、

彼には生きて夢を全うして欲しかった。


十六歳で陸奥守に任じられ、奥州を平定。

足利尊氏を討てとの勅命により、奥州白河から遠江に至る道をわずか16日で踏破。

その過酷強行軍で披露の極にあるであろう軍勢で、足利尊氏の軍を二度も打ち破る快進撃。

一旦奥州へ戻り、九州へおいやった足利尊氏が再度京都へ進軍してきたので、

またもや上洛し、鎌倉で待ち受ける彼の手勢を撃破

ただ、流石に尊氏の集めた軍勢の数には叶わず、兵を減らしてゆき……。

享年二十一歳。

というのが彼の人生として大雑把に伝えられるものであるわけです。


これで生まれが公卿で、美男子だったって、

もう、ハハンって笑っちゃう感じなんですが、さすが北方先生

顕家の人柄を丹念に描いてゆき、さらに安宅一族奥州藤原末裔として位置づけ、

主上中央の佞臣達に民が惑わされない、独立国陸奥という夢。

そういったものをミックスしていくと、笑っちゃうほど強い顕家が、

その最期を知っているだけに、本当、この人は20年、30年生き続けていたら、

どれほどの人物になったのであろうかと思わせて、すっかりファンになってしまいました(笑)

作中、その事を何人もの人達に言わせているだけあって、

北方先生もその無念がとても強かったのではないかと思います。

私の妄想ではあるのですが、北方先生の、


「こんなに才能溢れた青年が、時代理不尽に振り回されて、

夢を追って死んでしまっていいのか? 俺はいいとは思わない。

できれば生きていて欲しかった。一緒に酒が飲みたかった。

お前(読者)もそう思うだろう。思ったら、彼の死に、一献傾けてくれ」


という言葉が聞こえてきそうです。いや、聞こえました(笑)

齢18歳ですでに、かなり完成された能力を持っている顕家卿ですが、

一度目の上洛はともかく、二度目の上洛などはかなり無理をしています。

自らの才と命をすり減らすかのように。

彼の才能と器量をもって、それが経験実体験によって補強され、

裏打ちされ、太く強かになったなら、奥州国は現実のものになっていたでしょう。


この作品で、足利尊氏達は立場的には敵陣営であり、

彼が上洛しなければ顕家は死なずにすんだわけですが、不思議と彼には憎しみがわきません。

そして、彼の命を受けて奥州を抑えに行った、斯波家長に至っては、

ある意味彼はもう一人の主役であるかのようで、親しみさえ覚えます。

しろ、怒りさえ覚えるのは民を思いやらぬ帝、腐敗した帝の近臣達、

新田義偵などの本来、顕家の味方であるはずなのに、足しか引っ張ってない輩の方です。

特に新田は度々、愚かな事をしでかしていて、読んでいて鼻血でそうでした。怒りで(笑)


鎌倉時代、戦国時代小説漫画になっていますが、この時代ってあんまり触れられてない気がします。

だって、顕家は21歳で死んだのに、私が少年時代読んだ歴史漫画だと、

ひげ面のおっさんとして描かれてた気がしま(笑)

まぁ、尊氏達を主軸に描くとすると、顕家が美男子若いと書きづらかったのかもしれませんが。

顕家の生涯を漫画にすれば、かなり面白いものができあがると思うんですけどね。

どこか、出版社さん頑張ってくれないかなぁ。

戦国時代以外も、面白い時代は沢山あると思います。


  

philophilo 2014/07/31 09:13 こんにちは! philoです。
これはまた、いい本を読まれましたね。やはり、リドリーさんはいい読書をしておられる。
源平、南北朝、幕末も魅力的なドラマは目白押しなのですが、やはり主に皇室の扱いが難しくて、漫画やゲームになりにくいという問題はあるようですね。単純に知名度の問題で、戦国時代さえ出しておけばいいという風潮もあるのでしょうが。中国でも、三国時代と水滸伝以外の隋唐だの宋初だのが漫画になった話なんて聞かないですしねえ。
宋初といえば、北方先生の『楊家将』も面白いですよ。楊業がクッソ渋い爺さんですし、ライバルの耶律休哥も死ぬほど手強くていい感じですし。「敵も味方もド迫力」という僕の理想を体現してくれてます。まあ、それはこの『破軍の星』も同様なのですが。

足利尊氏という人物は、歴史上では、いま一つ人気のない武将のようなんですね。室町幕府建国の祖のわりには。まあ、室町幕府自体、いまいち地味な政権ではあるのですが。
一つには、敵方にこの北畠顕家とか楠正成とか、スーパースターが多くいるから悪役に位置付けられやすいというのもあるでしょうね。日本人好みの、判官びいきの精神もありますし。その意味では、北畠顕家はまさに判官びいきの最たるものというか、実にリリカルなヒーローといえるでしょう。主君や同僚に恵まれないところとか、若くして生き切ってしまったところとか。できすぎていて、作り話だと疑いたくすらなります(笑)。

とはいえ、顕家が尊氏を討ち取っていたとしたら、それはそれで民にとっては良いことではないのかなー、などとも僕は思いますけれどね。尊氏が天下を統一したおかげで、戦乱の時代は終わりを告げたわけなので。顕家は優秀ではあったが、その夢はあくまで奥州に独立国をつくることであり、天下統一ではない。だとすると、厳しい言い方になってしまいますが、奥州の外の民はいいのか? とも言えてしまうのですね。小さい頃から、判官びいきに反発して義経より頼朝、劉備より曹操をひいきしていた自分なので、ついそんな考えを持ちがちですが、実際に民のためにはダーティーでも大きな安定をもたらす統一者が必要なのかと思います。

とはいえ僕も、腐敗した中央に背を向けて、小さな理想郷を作るという発想自体はとても好みなのですがね(笑)。『老子』に、「小国寡民」というユートピアのことが語られていて、それも自分の中のひとつの理想像ですし。顕家のように、才能があって善良な若者なら、奥州のよき王になってくれるでしょうに。とはいえその夢は、天下統一による世界平和という思想とは対立せざるをえないので、どちらをとるべきか、どう和解させるべきか、非常に悩ましいところではありますが。

まあ奥州国については、後の未来、伊達氏の仙台藩によって、ある意味実現されるところはあると思いますがね。伊達氏は織田、豊臣、徳川の覇権にも屈さず、巧みに時代を泳ぎ抜いて、江戸幕府に外様の雄藩をつくり、幕末に至っても四賢侯の一人と称されます。これは、奥州という土地が生んだ夢の実現と言ってもいい気がします。そのへんを踏まえた「奥州史」でも作ったら、仙台の人は喜ぶだろうなー、などと妄想してみたり(笑)。

それで、この小説のある意味実質的な悪役の、後醍醐天皇や新田義貞ですが、これは正直、いつの時代にも、今の会社社会などでも、普通にありえる状況なんだろうなーという気がします。自分のエゴばかりで大局の見えない上司。無能なくせに自己顕示欲ばかり強い同僚。この小説を読んでいて、後醍醐や義貞に自分の知ってる人間の顔を重ねた人は多い気がします。
とはいえ、その後醍醐や義貞の存在もまた、顕家という美貌の英雄の輝きを増す舞台装置として存在しているとも感じます。敵方の尊氏が尊敬されるべき敵で、味方の後醍醐や義貞が愚人という構図が、主人公顕家を引き立たせる。この構図、よくいる三文ラノベ書きが手をつけたら、たちまち鼻もちならない俺ツエエ小説の一丁上がりな気がします(笑)。それを、見事に悲劇の英雄の物語にするのは、北方先生のプロとしての力量だと思いますが。

あと、よくある俺ツエエ系で何が問題か、何となく気付いた気がしました。要するに、ピンチや悲劇性が足りないんですね。それだけ強くてかっこいいヒーローなら、その強さにふさわしい苦難が降りかかったり、その強さをもってしても避けられない運命の悲劇があったりして、それが英雄を英雄たらしめる。最初から何でもかんでも思い通りにいく英雄なんて、ただの独裁者でしかないんですね。俺ツエエ系が嫌われる要因は、それがスターリンや毛沢東の御用伝記でも読んでるような雰囲気になってるからじゃないかと思います。もっとも、その御用伝記がウケている現状というのも、またあるわけですが。たぶんそれは、今の人が悲劇やピンチを読むのがつらくてやってられないのだという気がします。安直に無双が楽しみたい。そういうニーズがあるのでしょう。そんなのだけだと、文学が衰退すると思うのですが、まあ、ジャンルとしてはあってもいいのかも知れませんね。などと最近は達観してきました(笑)。

それではまた。
僕もまたなにか本のレビュー書こうかしら。

RidleyRidley 2014/07/31 18:24
こんばんわー、リドリーです。

>源平、南北朝、幕末も魅力的なドラマは目白押しなのですが、
>やはり主に皇室の扱いが難しくて、漫画やゲームになりにくいという問題はあるようですね。
>単純に知名度の問題で、戦国時代さえ出しておけばいいという風潮もあるのでしょうが。
義経の漫画などは沢山あったりするんですけどね。
修羅の刻辺りで、この時代を取り上げてもらいたいですが。


>足利尊氏という人物は、歴史上では、いま一つ人気のない武将のようなんですね。
>室町幕府建国の祖のわりには。まあ、室町幕府自体、いまいち地味な政権ではあるのですが。
多分、この人は、なんというか源頼朝や、徳川家康に比べると、
武家の棟梁という器じゃないんだと思います。
それなりに大きな豪族の長としてなら、幸せだったんじゃないでしょうか。
実際、武将として優れていて、破軍の星では人柄の良さもにじみ出ています。
ただ、歴史的にその後の弟直義と、師直の引き起こす確執からの動乱を防げてません。
政治力にすぐれた弟の直義に、頼り切っていたツケが回って来たんだと思います。
ですが、そこを一方的に非難する気になれないのは、
彼の親分的な気前の良さ、人の良さが私も好きだからかもしれません。
私が感じるところだと、この人は武士集団のボスをやってる分には、
気前よく、人の心を掴む鷹揚さと、果敢な戦いっぷりが良かったのでしょうが、
幕府という組織を束ねるには政治力が足りなかったのではないでしょうか。


>とはいえ、顕家が尊氏を討ち取っていたとしたら、
>それはそれで民にとっては良いことではないのかなー、
>などとも僕は思いますけれどね。
>尊氏が天下を統一したおかげで、戦乱の時代は終わりを告げたわけなので。
実のところ、尊氏が実権を握った後も、なかなか世の中は安定しません。
むしろ、彼の部下たちによる内乱が続きます。
尊氏には戦争の才能はあったわけですし、カリスマもありましたが、
政治的能力がまったくなく、弟の直義頼みだったようです。
その直義が、尊氏の家令であった師直と権力争いをして、
尊氏の息子から、足利義満の時代になるまで安定せず、
室町幕府も義満の時代からと言ってもいいと思います。

もしも、尊氏がいなくなった場合、後醍醐天皇がその治世を続けたでしょう。
尊氏がいる事が武士の求心力になっており、この当時の武士はリアリストだったので、
自身の領地安寧の為に、潔く膝を屈したんじゃないかと思います。
後醍醐天皇の後は、その子息が継承することになるでしょうが、
皇子の一人である六の宮が、顕家と昵懇であり、兄のように慕っているので、
京と奥州との中はよくなったと思います。


>顕家は優秀ではあったが、その夢はあくまで奥州に独立国をつくることであり、
>天下統一ではない。
>だとすると、厳しい言い方になってしまいますが、奥州の外の民はいいのか?
>とも言えてしまうのですね。
安宅一族=奥州藤原氏の末裔の夢である、奥州の再独立。
それは、拡大されすぎた日本という国を、京都から隅々まで統治する事の難しさを、
京都への二度の上洛を繰り返した顕家だからこそ、強く実感した事だと思います。
京の意向により、奥州の民が苦しまなければならない。
それを、奥州を独立させることで、顕家は断ちたかったのだと思います。

あと、奥州の外の民は、後醍醐天皇の管轄になります。
この当時の人、しかも公卿の人間でありながら、
顕家はかなり手厳しい上奏文を天皇に送りつけています。
後醍醐天皇は、子供ではないのですから、
統治者として最低限の廉恥心を以て、それを行うだろうとの判断もあったと思います。
まぁ、この上奏文を送った時点で、顕家は死を覚悟していたようですが。
実際、直後の戦いで、命を落としています。

実際に上洛の際、民の苦しみを見てきた顕家だからこそ、
後醍醐帝に対して、君主として最低限民衆の生活を守れと、
そう言いたかったのではないかと思います。


>とはいえその夢は、天下統一による世界平和という思想とは対立せざるをえないので、
>どちらをとるべきか、どう和解させるべきか、非常に悩ましいところではありますが。
私達は世界地図を知っており、それに比較すると日本は非常に小さい国土だと認識しています。
ただ、この時代の歪な支配の構図を考えると、
一旦、日本と奥州を別々に考えるというのは面白い構想だったかもしれません。


>これは、奥州という土地が生んだ夢の実現と言ってもいい気がします。
>そのへんを踏まえた「奥州史」でも作ったら、
>仙台の人は喜ぶだろうなー、などと妄想してみたり(笑)。
安宅一族の黄金が、奥州の下支えになったりすると面白いかとは思います。


>それで、この小説のある意味実質的な悪役の、後醍醐天皇や新田義貞ですが、
>これは正直、いつの時代にも、今の会社社会などでも、
>普通にありえる状況なんだろうなーという気がします。
新田義貞は、本編でも書かれていますが、産まれる時代を間違えた人だなーと。
源平の合戦期だったら、よい武将だったのでしょうが(笑)。


>あと、よくある俺ツエエ系で何が問題か、何となく気付いた気がしました。
>要するに、ピンチや悲劇性が足りないんですね。
>それだけ強くてかっこいいヒーローなら、その強さにふさわしい苦難が降りかかったり、
>その強さをもってしても避けられない運命の悲劇があったりして、
>それが英雄を英雄たらしめる。最初から何でもかんでも思い通りにいく英雄なんて、
>ただの独裁者でしかないんですね。
昔の英雄たちや、それこそ黄金期のジャンプ漫画なども、
主人公は粋で美男子(イケメンではなく)、漢前で友情に厚く強いと、チートでした。
彼らの前には一見して無理じゃないか、というレベルの障害が立ち塞がりました。
そして、友人や愛する人を失って、ボロボロになる主人公達の姿が描かれ、
私などは主人公って大変だなーと思いながら読んでいました(笑)。
俺TUEE系の需要は、閉塞感の強い現実からの脱出というか、
超絶主人公が嫌な連中相手に鼻歌交じりに勝ってくれる辺りなのかとは思ってますが(笑)。
北方先生は、やはり、この辺りのサジ加減が絶妙ですね。
ハードボイルド路線で培ってきた、男の描き方と、
ままならぬ苦さの描写が卓越しています。


それでは、書き込みありがとうございました。

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