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最強の魔人、天空王バロンとの息詰まる戦いの最中、10年の中断を喰らってしまった冒険王ビィト
様々な噂が囁かれましたし、私も一体なにが原因だったのか真相を伺いたい気がします。
ただ、漫画家であるとか小説家であるとかは、作品で語るべきものだと思うので、
それを稲田先生が見せ続けてくれるのなら、私は満足であると思っています。
今回のバロン編、ほとんどパーフェクトです。
武人であり正々堂々とした戦いを圧倒的な実力で繰り広げる天空王バロン。
彼のサポートとして共生する残忍なザンガ。
二つの面を持っているバロンとの戦い。
昨今の漫画では正々堂々としたキャラクターはなんくせつけられて、
卑怯なキャラクターに負けてしまうことがあるわけですが、
バロンはその圧倒的な実力で小細工などをはね除け、
策略なども粉砕する智慧と実力を持っています。
心折れたキッスの復活、翼の騎士によって復活したビィト
そして、ビィト自身の才牙の覚醒────。
ストーリーの運び方に意外性はそれほどありません。
ただ、その展開の仕方、勇気の振るい方が実に上手い。
王道の展開というのは実に難しく、下手だともっさりしてしまい、
イライラしてしまう所がある訳ですが、さすが三条先生。
実に手慣れたやり方で進めてくれています。


ただ、一点だけ。
バロンがザンガを乗っ取るという展開があって、
それが後でいいシーンを導く要素になる事は分かっているのですが、
あそこは真っ向からバロンを破って欲しかったなぁとは思います。
ビィトが言っていたようにバロンの強さの秘密というのは、
その恵まれた戦闘能力とセンスを発揮して、油断無く隙なく戦い抜く所にあります。
それをザンガが乗っ取って戦う際は、バロンの身体能力だけで戦っています。
圧倒的な戦闘力でゴリ押しで戦うのは、普通の魔人の戦い方です。
人間からも尊敬されるサー・バロンの戦いではありません。
そのサー・バロンの戦いに、ビィト達は危機感を覚えていたのです。
でも、ザンガが乗っ取って行った戦いというのは、
ビィト達が戦い慣れた「ただの魔人」の戦いです。
とても悪手でした。


その後のザンガのシーンも、バロンへの思いも、
バロンのザンガへの親愛などもとても良かったのですがそこだけちょっと……。
全体的に高いクオリティだからこそ気になってしまって。
まぁ、実際、復活してくれただけで本当感謝しています。
稲田先生にはご自愛いただき、一ファンとして続きを楽しみにしております。