幽霊列車とこんぺい糖

砂糖菓子*1ファンは読め、と言われて読んだ。確かにその推薦は正しい。読後にいろいろもやもやしたものが残っているけれど、とにかく面白かったという点だけは間違いない。
ついでに百合ものとしても良作かと。別に18禁でもなんでもないけれど、非常に倒錯的。もうごちそうさまとしか言えない。


自殺しようと駅まで行ったら一ヶ月も前に廃線になっていて絶望していた海幸が出会ったのはリガヤと名乗る芸術家。幽霊鉄道を蘇らせると豪語するリガヤに、自分を轢き殺して貰うため協力する海幸。
そんな鬱鬱とした話の筈なのにあまり暗くはない。むしろ何故か割とさっぱり系(最後はホラーに近いけど)。リガヤの明るさのせいか、それともそんな印象を受ける前に読み切ってしまったからか。幽霊列車なんかでどうやって海幸を殺す気なのか、という疑問を残したまま進む物語。
設定は上手く消費していて、小道具も綺麗で。幽霊鉄道のベースとなる廃棄車両、リガヤの好きなこんぺい糖、花嫁衣装に心中。ダンサーインザダークのBGMは知らないのだけれど、綺麗な曲なんだろうと想像。クライマックスは圧巻だと思う。砂糖菓子にはない派手さがあって○。
とにかく類型があまりない作品なので、先の読めない物語が欲しい人にはお勧め。


そういえば同じ作者の作品に「熾天使たちの五分後」ってのがあったけど、あれも割と人の生死にスポットを当てた話だった。雰囲気は全然違うけど。
例によって、後はネタバレ


駄目な母親のために自分にかけてきた保険も無意味になり、自殺の動機が無くなったにも拘わらずリガヤに協力すると言い出す海幸。ただ存在意義を見失って絶望したのかと思ってしまった。そして気が付けば自分はウェディングドレスを着せられて人形の乗客に囲まれていて。そんな中でリガヤに真相を語られた際には、心中落ちを覚悟してしまった。
それでもああやってリガヤをなだめてしまうというのは、結局リガヤに惚れていたということなのでしょうか。どこに惚れる要素があったのかが今一つぴんと来ない。単純に「自分の意味を見失っているところへ(代理とはいえ)自分の価値を求められたから」というただそれだけなの? そうするとクライマックスのところも「今更裏切るなんて許さない」という悲痛な叫びにしか見えないわけで、結局エンディングもまた海幸が無理矢理リガヤにしがみついてるだけってことになっちゃうの? そうだとしたら、全然ハッピーエンドじゃないわけで、片づけるべき問題も山積みなんだよなぁ。……でもそんな雰囲気じゃないし。読み返す時間が無いのが残念。
ちなみにラストシーンで、ああこりゃ燃えるな、と思ったのは内緒。燃やした方が印象的な気がするんだけど……でもありふれてて陳腐化してたかな。

幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ (富士見ミステリー文庫)

幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ (富士見ミステリー文庫)

*1:桜庭一樹砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」誰が言ったか知らないがライトノベル三大奇書なるものに含まれているらしい→keyword:ライトノベル三大奇書