「藤堂家はカミガカリ」

「走りたい」
「走りたい走りたい走りたい走りたい。……これで、いいですか?」
「もし生まれた時からこうだったなら、こんな思いはしてなかったかもしれません。でも、私は知ってるんです。自分の足で歩く感覚を。地面を蹴る感触を。だから余計に……願っちゃうんです」


「絶対に叶わない願いは夢とは言いません。寝言って言うんです」


あらすじ

人間界とは別の世界「ハテシナ」。ハテシナの住人である「ハテビト」建代神一郎と天霧美琴はある少年の護衛を任され人間界に降り立った。目的の少年・藤堂周慈とその双子の姉・藤堂春菜が住む「藤堂家」に押しかけ、強引に住み始める神一郎と美琴。周慈は普通の気弱な少年で特に変わった所は見られなかった…ただ一点、時折ハテビト特有の力であるはずの「英力」を放つことを除いては。ただの人間であるはずの周慈が何故に英力を出せるのか?そう考えていたのも束の間、早速、他勢力のハテビトが周慈の英力を察知してやってきて―


イラストは主人公の神一郎と美琴ではありません。二番目の敵レッテです。

第14回電撃小説大賞・銀賞受賞作。新人さん。
余談だが、漢字で書くと【神懸】。だが【魔睡】を「ますい」と読むなら【神懸】は「しんけい」と読むべきことに最近気付く。でも「カミガカリ」の方が格好良いよねぇ。何のことやらですけど。

白い肌に長く黒い髪、薄手の半袖パーカーにチェックのミニスカート。日本と季節に合わせたのだろう。危ない趣味のおっさんもしくはお兄さんが思わず誘拐したくなるような容姿だ。

な幼女が表紙な時点でお察し。いや俺は「絵師GJ!」と言ってやりたい気持ちでいっぱいですが。直球ド真ん中に見せかけつつ実は暴投、けれどストライクみたいなこの物語には相応しいと思うのですよ。ノリというかそういう物が。
兎にも角にも、テンポの良い文体で綴られるキャラ同士の掛け合いが最大の魅力。美琴&神一郎に果ては敵まで絡んで繰り出されるハイテンションな会話を筆頭に春菜のデレっぷり、油断してくると出てくるクリティカルな台詞まで切れ味抜群。無駄に長く語ることなく、全然軽い台詞なのに、キャラの心情を雄弁に語れる辺りが素晴らしい。
そして、秀逸な会話文のセンスに比べるとストーリーは微妙…だった。微妙〜と思ってたが読み終えてみると意外に良かったいうのが事実。読んでいる最中は、ご都合主義が過ぎたり、シュールな展開のまま突っ込み入らずにそのまま進行するのが気にかかっていた。作風上ある程度は仕方ないとはいえ不完全燃焼感が、ね。ただ、結末は良かった。素直に嬉しいと思った。ここでかなり救われた気がする。
アクション&ほんわかストーリーでも間違っちゃいないけど、アクション&コメディな方がしっくりくる作品。好きなように走りつつ、最後は収まるべき場所に収まった。一応異能バトル物。けど、命が懸かった戦闘の真っ最中でも容赦無く繰り出されるお馬鹿&シュールな展開。糖尿病で戦線離脱、ネトゲの進行に支障をきたすから戦線離脱、産地直送etc。敵も味方も「お前それで良いのか?」と言いたくなる状況が目白押し。間口自体は広い。が、「いい意味での不真面目さ」これを笑って楽しめるか否かで評価が分かれるのではないかとも思った。

4840241643藤堂家はカミガカリ (電撃文庫 た 21-1)
高遠 豹介
メディアワークス 2008-02-10