ピザ屋のスクーター


よく町でみかけるピザ屋のスクーターが、歩いている自分を追い越して、猛スピードで走り去っていくのを後ろから見ていたら、スクーターはやがて曲がり角に差し掛かり、左折しようとして車体を大きく傾けて、ほとんど内側60度くらいの角度に傾斜したまま、あまり速度を落とさずに華麗にコーナリングして曲がり角の向こうへと消えていったのだが、そのときの車体後方下部に位置する、駆動力たる2輪を回すエンジンの詰まった箱は、スクーターや乗っている人物の傾斜の度合いにまったく影響されず、しっかりと水平な姿勢で地面に設置して駆動し続けている。あれを見るといつもすごいと思う。


要するに車体の傾きを最初から計算に入れて、回転運動が可能なように後輪部分が「軸」をもとにして車体と連結されているということなのだが、あの「動き」を見るたびに、ああ、あの仕組みを作り上げた人というのは、実にすごい人だなあと、いつも思ってしまう。なんというか、車とかバイクとかスクーターとか、船でも飛行機でもなんでもそうだが、移動する物体というのは自分の運動性能に対して基本的には効率的な形状をしているもので、その意味ではピザ屋のスクーターもそうなのだが、しかしなんというか、ピザ屋のスクーターの、あの駆動力たる後輪部分とそれ以外を軸一点だけで連結しているあの技術というのは、なんか異様な感じがする。変な話だが、非常になまめかしい感じがする。たとえていうなら、船が、スクリューと舵で自分自身を制御しながら、場合によっては胴体の真ん中辺からジャバラ状になって身をくねらせて水の中を進んでるような感じがするというか…。そういう感じの、何か妙に過剰な印象を与える動きに思える。


だいたい、バイクやスクーターなどというものは、人間が直接またがって乗る乗り物であるから、跨るべき車体というのはある程度太くて固くてしっかりした棒状のものである事が望ましいのだと思うが、ピザ屋のバイクは、あろうことか、真ん中辺にぐにゃぐにゃの一点支点の股間節みたいなのが一個挟まってる、という感じなのだ。で、そのぐにゃぐにゃの感じを上手く利用して走るのだから、なんとも妙な、基本的に乗り物一般とは別の生き物なんだろうと思わせるような感じもする。あるいは、人間の胴体のもつ豊かな表情を感じさせるところもあるのだ。上下左右の運動性に加えてひねりや捻れや歪みまで表現すると、フォルムは俄然複雑で面白くなるということだろう。


(というか、元々は「馬」が起源か。しかしなぜか、乗り物としての馬には、あんまりそういう面白みは感じないのだが…)