重力を忘れる小説 #5novels


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「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」春は、誰に言うわけでもなさそうで、噛み締めるように言った。「重いものを背負いながら、タップを踏むように」それは詩のようにも聞こえ、「ピエロが空中ブランコから飛ぶ時、みんな重力のことを忘れているんだ」と続ける彼の言葉はさらに、印象的だった。

重力ピエロ  


きっかけは伊坂幸太郎だった。

Twitterで誰かと映画の話をしていて、アヒルと鴨のコインロッカーを勧められた。それを見ていた伊坂幸太郎ファンが、次々と小説を推してくる。ゴールデンスランバー、オーデュボンの祈り、魔王、重力ピエロ...

どの物語もラストが素晴らしかった。最後のページでアドレナリンが分泌され、最後の一行で鳥肌が立ち、静かに興奮した。

そして、伊坂幸太郎だけではなく、私が知っている最高の小説を誰かに伝えたい。そんな気持ちが徐々に湧いてきた。




20120726214009五分後の世界

箱根でジョギングをしていたはずの小田桐は、ふと気がつくと、どこか解らない場所を集団で行進していた。そこは5分ずれた『もう一つの日本』だった。地下に建設され、人口は26万人に激減していたが、第二次世界大戦終結後も民族の誇りを失わず、駐留している連合国軍を相手にゲリラ戦を繰り広げている世界……(Amazon


これほど最後の一行に興奮した小説はない。戦場のリアルな描写と、日本国民のプライド、そして小田桐の決意。人生で出会った最高の一冊を選べと言われたら、真っ先にこれを挙げる。村上龍は言う「絶望した時に発狂から救ってくれるのは、友人でもカウンセラーでもなく、プライドである。」




20120726214005容疑者Xの献身

花岡靖子と娘は、暴力を振るう元夫を殺してしまった。呆然とする母子に救いの手を差し伸べたのは、隣人の天才数学者・石神。彼は自らの論理的思考によって二人に指示を出す。一方、警察から相談を持ちかけられた天才物理学者・湯川は、当初この事件を傍観していたが、友人の石神が犯行に絡んでいることを知り、独自に解明に乗り出していく……(Amazon


花岡靖子に対する、数学者・石神の深く悲しい愛。物理学者・湯川の、石神に対する深く悲しい同情。自分を犠牲にして、これほど人を深く愛せるものなのか。狂気の愛とトリックが織りなす至高のミステリー。読後の虚無間が心地良い。




20120726214007今夜、すべてのバーで

アル中患者として緊急入院する事になった主人公の小島容。全身ボロボロの禁断症状の彼方に見える、健全な生活。親友の妹・さやかから叱咤激励される闘病生活と、次々に起こる珍妙な人間たちの珍事件。面白くて、止まらない、そしてちょっとほろ苦い長編小説……(Amazon


今は亡き中島らもの、吉川英治文学新人賞を受賞した最高傑作。「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」この言葉がこれほど似合う小説はない。最後の一行に乾杯。




20120726214006すべてがFになる

真賀田四季博士の研究所を訪れた犀川と萌絵の前に、不可思議な死体が姿を現す。更に続いて起こる殺人事件。2人は研究所で起きた事件の謎にとらわれていく……(Amazon


森博嗣のS&Mシリーズ第一作。論理的かつ客観的に事件を解決しようとする犀川と、頭の回転が速く直感力にすぐれた萌絵。変わり者だが人間味もある助教授と、世間ズレした理系少女のお嬢様が繰り広げる謎解き物語。作品中にちりばめられた哲学的思考とトリックが、脳内を刺激する。




20120726214008重力ピエロ

仙台の街で起こる連続放火事件。放火現場の近くには必ず奇妙なグラフィティアートが描かれていた。過去に辛い記憶を抱える泉水と春の二人の兄弟は、事件に興味を持ち謎解きに乗り出す。グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎を解き明かしたとき、その先に見えてくるものとは……(Amazon


重いテーマがタップを踏むように語られる小説。ゴールデンスランバーもそうだが、伊坂幸太郎はラストが素晴らしい。それまでの長い物語を最後の一行にまとめて、読者に余韻を与える。久しぶりに全作品を読みたいと思う作家に出会った。




小説を読むのは時間がかかる。映画や音楽よりも集中力がいる。だから闇雲に読むのではなく、誰かの意見を参考にしたい。

#5novelsというハッシュタグを用意した。どんなテーマでもいい、何冊でもいい、あなたにとって最高の小説を教えてほしい。

私はずっと探している。出会った事に喜びを感じる小説を。明日への糧となる最後のページを。重力を忘れさせてくれる最後の一行を。

#5novels














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