機動警察パトレイバー劇場版、作家性の効能。

ほどよき押井守風味。

感想を残しておこうと思った映画シリーズ、その2。

機動警察パトレイバー劇場版(1989/日本/99分)
監督:押井守
脚本:伊藤和典
原作:ヘッドギア
原案:ゆうきまさみ
デザイン:高田明美出渕裕

●あらすじ
舞台は近未来、1999年の日本。
21世紀へ向けた東京湾の改造開発計画「バビロン・プロジェクト」。この大計画は汎用人型作業用機械「レイバー」の実現によって本格化したが、レイバーの原因不明の暴走事故が各地で散発する。対レイバー犯罪のために設立された警視庁の特車二課は、その原因を探るうちに、ある一人の男と彼の犯罪計画に辿り着く。

近年「攻殻機動隊」やカンヌ映画祭コンペティション作品「イノセンス」などでさらに知名度を上げている押井守監督の作品。
89年当時では斬新な大規模犯罪と、廃墟のような古い街並みとそびえ立つ高層ビル群の対比で見せる世紀末都市・東京の姿を両輪に、旧約聖書の文言をフレーバーとして加え、一級品のテクノ・スリラーを完成させている。週刊少年サンデー連載の、原作の持つやや大人びた一面を効果的にとり上げ、原作に新たな魅力を吹き込んだ点でも、監督の手腕を大いに評価できる作品だろう。

東京の街並みを眺めながら飛び降り自殺を図る男のシーンからのオープニング、一転して自衛隊空挺レイバー部隊の降下と夜間戦闘から提示される根幹たる謎など、序盤から観客を一気に作品世界に取り込む。特車二課の篠原を中心に展開される謎の究明と徐々に明かされる大規模犯罪への緊迫感、その過程で明らかにされる登場人物たちの役割や立場、人間性などが丁寧に無理なく織り込まれ、原作を知らずとも話を理解できる配慮まである脚本にもさすがの一言。

また登場人物の造詣に関しては、原作を補完するようなシーンまである。物語後半に南雲第一小隊長の「犯人の動機は『挑戦』か」との問いかけを後藤第二小隊長は、

「やつは、そんなロマンティストじゃないよ」

と、一蹴する。後藤は続いて犯人の動機と意図を話すのだが、その時の顔に浮かぶ「悪意に満ちた嘲笑」は犯人のそれであると同時に、かつて「カミソリ後藤」と呼ばれた男の内面に潜むものでもあった。後藤は自分の中にある犯人と共感する部分を承知していながら「昼行灯の後藤」として、警察組織の中で「正義の味方」のあり方を探る。現実を見据えた「そんなロマンティストじゃないよ」として。犯人と共感しながらも現実と向き合い闘う後藤と、特車二課の人々の姿勢こそが事件の解決以上に、この作品の救済テーマでもあるのだ。


さらに、この作品で感じたのは押井守という作家性の効能。
テクノ・スリラーとして完成された作品だが、原作者ゆうきまさみがもつ独特の力の抜き加減、弛緩のパートのギャグのシーンが、この作品では「普通の人たちのオーバーアクト(演技過剰)・現実と乖離したわざとらしさ」に見えてしまう。押井守の構築したシビアでリアリスティックな作品世界と、原作のもつ漫画的な魅力との微妙な齟齬。*1この作品の出来にはほとんど影響を与えてはいないが、これ以上の原作との乖離は出来ないギリギリ、これを越えると原作との決定的な違和感を生んでしまう可能性も見せている、と云える。*2

押井守の作家性が生み出す独特の世界観は、時に観客には難解に写る。しかし原作つきの作品ではその作家性が新たな魅力を引き出す。強い薬も使い加減、単独ではキツすぎる押井守風味に原作という味を混ぜることによって上質の味に変わる。押井守の作家性を前面に出しすぎないことが成功の秘訣?*3

*1:具体例を挙げれば「俺に銃を撃たせろ」の太田は原作では「アリ」だが、この作品では「イタイ」しわずかに浮いている。

*2:劇場版2では泉隊員の成長をテーマに、このラインを越えてしまったとも云える。

*3:ただ自分が押井守で好きな作品は「ケルベロス」と「天使の卵」だからなんとも複雑だが。

Toda's Mail「サッカーズ」について。

http://www.l-and-s.co.jp/japanese/athlete/toda/mail_contents.php?code=12&date=20040430

この戸田選手からのメッセージは、雑誌「サッカーズ」で組まれた自分の特集記事への反論というか、本人による事実説明でファンやサポに対して判断を問う形にしてある。「主観と客観の相違」や「本人に裏付けをとらないような取材の不十分さ」を感情に流されずに語る姿勢に、この人の頭の良さを感じられる。

ネットという世間に自分の意図を発信できるツールがある現在、不十分な取材や記事に関しては、これからもこういうことは起きるだろう。様々な事象や人物を批評してきた既存メディアだが、現在自らも発表即日にネットで批評の俎上にのせられていること、メディアをとりまく環境自体が変化しつつあることを承知し、自らを変えてゆけるだろうか。

少なくとも、ネット上の掲示板などで発表すれば、即刻ツッコミが入りまくるような記事を書いて報酬を得ているようなライターが、駆逐されるようになってもらいたいのだけれど。