だからなぜ君の髪に触れなかった

iPod仲間のぴかさんから借りたGRAPEVINEの"Chronology-a young persons' guide to Grapevine"が、急速にこの夏のヘヴィ・ローテーションになりつつある。

なかでもお気に入りは2002年6月にリリースされた『ナツノヒカリ』だ。

ナツノヒカリ

ナツノヒカリ

GRAPEVINEのサウンドはUKギターバンドの雰囲気に近く、ミドルテンポに重く暗いギターという曲が多いのだが、『ナツノヒカリ』はGRAPEVINEのレパートリーの中では例外的にPOPな雰囲気を持っているように感じる。

ややアップ気味のテンポに、高音寄りのカッティングを刻む軽めのギター、サビのメロディを引き立てるまるでビーチボーイズのように優しいコーラス、間奏からCメロで聴かれるピアノの対位法的な使い方。要は「売れ線狙い」スレスレなのだが、それでもこの曲が爽やかなだけの俗っぽいPOPSに堕していないのは、歌詞に含まれたそこはかとなく内省的な「憂い」ゆえだろう。

向日葵なんか ちぎれてしまったんだ
坂道だった 君はなんて言ってた?

だからまだ君を抱きしめてなかった
だからなぜ君の髪に触れなかった
あのままで 他に何もいらなかった

だからさ ねえ
君が好きと言えなかった

ほらあの日だって

どこまでも続く気がして
それはずるいよね

別に夏だからといって誰もがポジティブになるわけでもないし、気持ちを伝えようという勇気が湧いてくるわけでもない。別に暑いからといって全ての人が過去を忘れてしまうわけでもないし、未来に目をつぶって刹那的に快楽を追求するようになるわけでもない。作詞を手掛ける田中和将も、そのような地平から彼の「ナツ」を語っているように見える。

このように、世間の類型的な「夏」のイメージを覆すような主張を潜ませた毒気のある歌詞を、ひときわ耳障りのいいサウンドに乗せているところに、このバンドの個性があるように感じる。UKバンドでいえば、軽やかなアコースティックギターに乗せて「DJが絶え間なく繋いでいる曲は僕の人生について何一つ語ってくれやしない」と歌っていたザ・スミス(The Smiths)にも通じるシニカルなところが魅力だと思う。

「だからなぜ君の髪に触れなかった」なんて、仮定法過去完了的なニュアンスで自分自身を責めるように問い質して、しかも、その答がほとんど明示されていないというこの凄さ! 相当根源的な文学だと思う。

GRAPEVINEはじわじわと効いてくる。それはいくら摂取しても死に至ることはないが、どうやら常習性の強い成分を含んでいる。何度も繰り返し味わっていると分かるが、気付いたときにはもう手遅れで、GRAPEVINE中毒、GRAPEVINE依存症になっている自分に気付くというわけだ。歌詞カードのコピーをとらなかったことを、激しく後悔…