もはや古典的良書―『メディア・コントロール』

ノーム・チョムスキーがこれを書いたのは1991年。すなわち、湾岸戦争の年。だが、本書はあまりにも正確に、その後のアメリカのイラクの未来を予想している。言葉の本来の意味で「知識人」とはこういう人のことを指すのだろう。

副題は「正義なき民主主義と国際社会」。チョムスキーは、民主主義には二つの種類があるという。一つは、言葉の真の意味で、民衆へ全ての情報をオープンにした上で、自分たちのことを決めるというもの。もう一つは、情報へのアクセスを一部の人間がコントロールして、そこで決定を行うというもの。歴史上実現している民主主義は後者のみであり、そこでメディアが情報のコントロールに大きな役割を果たしている、というのがチョムスキーの主張だ。

チョムスキーはアメリカの歴史を丁寧に紐解く。それを読んで「アメリカは怖い国だ」だとと他人事には思えない。日本のメディアの事情はもっと寒いからだ。

結局のところ、言論の自由の下で個人が何を言うことができたとしても、メディアがある方向にしか報じないとすれば、それは強い「コントロール」である。特に「国家の危機」が演出され「平和の敵」が特定されるときには要注意だ。僕らは誰かにコントロールされようとしているのではないかと疑うべきだろう。

メディア・コントロール ―正義なき民主主義と国際社会 (集英社新書)

メディア・コントロール ―正義なき民主主義と国際社会 (集英社新書)