特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

(通り過ぎる)パッセンジャーのように:マイレージ、マイライフ

日比谷でジョージ・クルーニー演じるリストラ勧告人の物語。http://www.mile-life.jp/
この映画のTVスポットではイギー・ポップの’’The Passenger''が流れていました。お茶の間でイギー・ポップの歌が流れるようになるとは、世の中変わったもんです。
主人公は1年の9割以上 出張生活を送っています。仕事はクライアント企業に代わってリストラ対象者にクビを言い渡すこと。リストラ対象者と面談する際の決まり文句は『新しい出発のチャンスです』。生きがいは出張で航空会社のマイレージをためること。旅から旅の暮らしの中で人間との過度な関係を求めずに独身生活を楽しむ彼のモットーは『バックパックに入る以上の荷物は背負わない』。
日本でもいつの間にかリストラという言葉がごく当たり前になってしまいましたが、世の中の断片をとてもうまく切り取った映画だと思います。ジェイソン・ライトマン監督は前々作『サンキュー・スモーキング』でもそうだったが、皮肉を交えながらもシニカルになり過ぎない風刺がうまいです。


映画での主人公の職業名が『モチベーション・コンサルタント』になっているのが面白い。やっていることは企業の手先としての単なるリストラ屋なのに、それを美辞麗句で飾り立てて自分の商売に仕立て上げる。コンサルタントみたいに自分では何も作れない職業のいい加減さを見事に表現しているんです。だいたいモチベーションなんてものは自分の心象風景の問題で、他人にどうこうされるものではない。それをどうにかしようということ自体がペテンそのもの。虚業の代表みたいな職業を取り上げることでカネ万能の世の中を皮肉っぽく表現しています。


出張してのリストラから、より効率的なネットでのリストラへの切替を提案する新人コンサル役のアナ・ケンドリックちゃんが可愛いです。初々しいスーツ姿はコーネル大首席のバリバリのエリートにはとても見えないけど、そのツンでれぶりには胸きゅん(笑)。
生真面目なケンドリックちゃんに触発されてか、劇中 主人公は自分なりに真面目な人間関係を構築しようとする。しかし、それは見るも無残に失敗する。それは今の世の中、つまり我々一人一人がそういうものにそれほど重きを置いていないから、です。失敗したリストラの重みに耐えかねて辞職したケンドリックちゃんの転職をサポートしたあと、主人公は旅から旅への、元の生活に戻る。
劇中 実際にリストラされた人のインタビューが挿入される。当然ながら、誰もが落ち込んで、途方に暮れている。この物語は映画の宣伝文句に載っているような、人間関係再構築の物語ではない。グローバリゼーションのなかで、人間がどうやって生きていくかの物語です。経済合理性を優先するシステムの中では、幸か不幸か人間関係は必ずしも重要ではないし、幸せをも意味しません。


今やイギー・ポップがTVで流れる時代だ。多くのものが商品化されているだけでなく、もしかしたら人間の精神構造だってそれに順応して変化しているのかもしれなません。昔あった人間関係や共同体を今現在にリバイバルさせようとしても不可能だし、不必要なこと。だったら背中の荷物を減らすことも良いし、通り過ぎる景色の中で物事に執着しないPASSENGERでいるのもいいじゃないですか。
 それにしても、平沼とか与謝野とか賞味期限切れの政治家が集まって新党(笑)とか言ってるが、こいつらこそリストラだよ。それにしても日本の政治家にはリストラって言葉はないんでしょうか。