Hatena::ブログ(Diary)

特別な1日(Una Giornata Particolare) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2013-03-25

喜劇の幕引きを学ぶ:『愛、アムール』

| 20:18 | 喜劇の幕引きを学ぶ:『愛、アムール』を含むブックマーク 喜劇の幕引きを学ぶ:『愛、アムール』のブックマークコメント

この日曜日ポリーニバッハ平均律クラヴィーア』と大澤誉志幸&山下久美子の『こっちをお向きよ、ソフィア』(昔の曲だが、この曲での大澤は天才!)を交互に聞きながら、本を読んでいた。

その本でこんなくだりに目が止まった。

円高で輸出が滞る円高不況が起こり、それを重く見た日本銀行は低金利政策をもって景気浮揚を試みた。しか金融緩和で発生した余剰金は国内の土地と株に投資され、地価株価を上昇させた。同時にアメリカ政府は日米協議を開始し、市場開放と内需拡大を要求した

さて、これはアベノミクスTPPのことを書いているんでしょうか?

はい、これは80年代後半のバブル期のことを書いた記述です(笑)小熊英二の新作『平成』の45ページから引用

平成史 (河出ブックス)

平成史 (河出ブックス)

思わず、唖然とした。金融グローバル化が進んだ今、余剰金が国内に留まるとは思わないけど、金融緩和も、アメリカ政府の動きも今とまったく同じじゃないか。その結果は果たしてどうなるか。

勿論 バブルの帰結はみんな知っている。リストラ経済縮小が続いた『失われた20年』だ(笑)

昨年の『社会を変えるには』(良い本だが結論は目新しくなかった)と同じように、小熊英二過去に起きた様々なことを体系だてて整理して本質抽出するのはピカイチと思った。

今日日経ビジネスに出ていた日銀通貨供給量マネタリーベース)と日経株価の推移。日銀供給量を増やしても株価には効果がないことが良くわかる(笑)

f:id:SPYBOY:20130325192939j:image

市場に響くか日銀「黒田節」:日経ビジネスオンライン

                                                  

                          

昨年の選挙石原慎太郎の三男が公選法違反した疑いが先週 報じられた。北海道新聞 どうしんウェブ フィリピンでカジノ計画を進めている企業(UE社、旧名アルゼ)から運動員派遣させた疑いが出ており、他にもコンサルタント料など不明瞭な資金の流れもあるようだ。

カジノ解禁論者の石原慎太郎が先月から入院して面会謝絶なのもこの疑惑のせい、というネットの噂もある。そうだとしてもうなずける話だ。所詮 勇ましいことを言っている奴が一番最初に逃げ出すもんだ、と言うのはボクの偏見だろうか(笑)



六本木で映画愛、アムール

f:id:SPYBOY:20130325193316j:image

                                          

パリに住む元音楽家の二人暮らしの老夫婦。夫婦むつまじく暮らしていたが、妻が病を発症し半身麻痺になる。病院嫌いの妻の希望を汲んで、夫は甲斐甲斐しく自宅で介護をするが、妻は認知症の症状を見せ始め----

そういうお話カンヌ映画祭グランプリアカデミー外国映画賞受賞作品。

舞台は老夫婦が住むアパートの中、妻役のエマニュエル・リヴァ夫役ジャン=ルイ・トランティニャン、時折訪れてくる娘役イザベル・ユペールのほぼ3人でお話が進んでいく。まるで舞台劇のようだけど台詞は少なく、夫婦の表情、しぐさなどの演技を緊張感溢れる画面で楽しむ作品。

ボクの生涯5本指に入る映画24時間情事』に岡田英次と出演したエマニュエル・リヴァが、齢84(当時)で文字通り体を張った演技を見せている。この人の気品を持った姿は今でも美しいと思うのだが、画面を見ていて『え〜、ここまでやるの』と感じるような演技だった。凛とした気品プライドを持った人が介護される側になったとき感情言葉に出さずとも伝わってくる。アカデミー主演女優賞ノミネートされたのは当然だと思った。

●『24時間情事』でのエマニュエル・リヴァ岡田英次

f:id:SPYBOY:20130325194439j:image

エマニュエル・リヴァが『24時間情事撮影当時に撮った写真集戦争の傷跡とそこから立ち上がる日本の人々のまぶしい姿が捉えられている。

f:id:SPYBOY:20130325192938j:image

ちなみに夫役ジャン=ルイ・トランティニャンダバダバダっていう主題歌が有名な『男と女』に出ていた人。娘役イザベル・ユペールも含め、ベテラン俳優たちの演技は繊細で押し付けがましいところがなく、文字通り胸に迫ってくるようだった。


●冒頭 理想的な老夫婦暮らしが描かれる

f:id:SPYBOY:20130325194700j:image

実際の介護もっと大変だろ、とか、二人だけでやってるとこうなるな〜と思わないでもない場面もあるが、画面でみるだけでも充分辛いし、孤立の問題もプライドを持って生きてきた二人の人生を考えるとうなずけるものでは、ある。

娘役のイザベル・ユペールも美しい

f:id:SPYBOY:20130325193452j:image

●老々介護心配する娘と意固地な父

f:id:SPYBOY:20130325195420j:image

お話のなかで、時折画面に挿入される風景画、音楽が非常に効果的だ。陰鬱な場面の後 印象派風の風景が無音のまま数分間アップになるところがお話コントラストを生じさせて、とても美しいシーンだった。また音楽シューマンベートーベンバッハの美しいピアノソナタが流れ、救われるような心持にさせる最後バッハというのがまた、いい)。だが、どれも演奏は途中で唐突に終わり、観る側は現実に引き戻される。その緊張感が話の重さに押しつぶされないだけの強さを観る側に与える。そこいら辺の演出は実にうまい

人間は最終的には美に頼るしかないのだろうか。そんな気にさせる。

                                        

ミヒャエル・ハネケという監督人間の悪意を強調する作風らしい(笑)。『愛、アムール』は表面的には観客の期待を微塵もなく打ち砕くような結末だけど(笑)俳優さんの名演と見事な演出、愛と死に関する重層的な視点を与えてくれる、完成度が高い、見てよかったと思う映画だった。ただエマニュエル・リヴァが居なかったら、全く成り立たなかった作品だとも思う。

                                                

この映画を見て、最も強く感じたのは、自分なりの『死に方』だ。人は老衰していくにつれ、その人の骨格が浮き出てくるように思える。そういうのを見ると『人間は本来の自分の姿に帰って死ぬ』という印象を受ける。この映画でも、死ぬときには自分精神のありようまで否応無しに浮き彫りにされる、ことを改めて思い知らされた。人間なんて本当におろかでちっぽけで、人の一生なんて喜劇みたいなものかもしれない。特にボクはそう(笑)自分人生の幕を引こうとするときに、それが露になるのは怖ろしい。だからこそ人間はいとおしい存在であるのかもしれないけれど。

●美しい音楽、美しい老婦人

f:id:SPYBOY:20130325194713j:image

D

nankainankai 2013/03/25 20:46 実は『24時間の情事』はDVDをもっています.あの時代の広島の景色もよかったです.あのエマニュエル・リヴァの映画ですね.何とか見てみます.それにしても人間の生涯とはなんでしょうね.

SPYBOYSPYBOY 2013/03/25 21:35 nankaiさま、コメントありがとうございます。
24時間の情事、ロマンティックで良いですよね!!(笑)。
『愛、アムール』は見て怒る人も居ると思いますが、カンヌのグランプリを取るだけのことはある、完成度が高い映画でした。
これを見ながら、自分の死に方はどうしたらいいのかホント、考えさせられました。こんなことを言っていてもあっけなく死んでしまうのかもしれませんが。

rosa_rojarosa_roja 2013/03/26 00:50 この映画の評判はなかなか良かったように思いますが、SPYBOY様の解説は立体的というか厚みがありますね。観客が音楽に絡められつつ画面に引きずり込まれる様子が伝わってきます。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/26 06:08 rosa_rojaさま、コメント有難うございます。
見ていて辛い部分もありますが、完成度は目茶苦茶高い、見事な映画でした。より良く年をとり、死んでいくってどういうことか、考えさせられました。

cangaelcangael 2013/03/26 10:32 見終わった友人がわざわざ電話して感想を話してくれました。
SPYBOYさんの解説を読んで、彼女の興奮の理由が良くわかりました。終わりよければ…の通りなのですが、隣りの両親を見ていると
毎日の過ごし方、生き方が自然な結末を与えてくれるような気もしています。でも、いざ、自分のこととなると・・・。

iireiiirei 2013/03/26 13:55 因果はめぐるといいますが、またぞろ不動産バブルが起き、またしぼんだら、20年前の教
訓を学ばなかった愚民として日本人は世界の笑いものでしょうね。

myrtus77myrtus77 2013/03/26 21:56 最近、一人教会員が亡くなりました。一人暮らしの婦人でしたが、玄関土間で倒れているのを発見されました。ちょうど教会の祈りの会の時間で、傍には鞄が落ちていたそうです。生前、ある方に「○○さんは、毎週日曜には教会へ行って、水曜には祈りに行って、何をそんなに祈っているの?健康で長生きしますようにって祈っているの?」と尋ねられた時、その方は「私はね、楽に神様のところに行けるように祈ってるんだよ」と答えられたということを聞き、願いどおりに、あっという間に逝かれたんだと思いました。可愛いお顔で眠っているようでした。その方は筋ジストロフィーのご主人を長く看取られた方でしたから、ご自分は楽に逝きたいと願われたのかも知れません。もう少し前に亡くなった方は長く寝込まれた方でしたが、二度目に病院から帰られた時、少し認知症状が出ていたようですが、「明日からは天国だ」と元気に叫ばれたのだそうです。「この言葉がその後の介護生活を支えてくれた」と亡くなられた後に奥様が話しておられました。
人の死は本当に様々ですね。願わくは、後の人に希望や平安を残せる死に方をしたいと思いますが・・。
話しながらことりと眠るやうに母逝きけりといふ夕明かり満ち
幼時より死を恐れゐる一人娘に母の遺しし静けき夕べ
私の母の死です。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/26 22:29 cangaelさま、コメント有難うございます。
普段は避けている、誰にでも訪れる自分の死というものを直視させてくれる映画でした。仰るように毎日の生き方が自分の死に関係することは間違いなくて、けれども、それだけではなくて、と。でも自分のことはわかりません(笑)。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/26 22:32 iireiさま、コメント有難うございます。
仰るとおりで、バブルって庶民には決していいことはないのだと思います。今 株の動きを見ていると輸出株の値上がりが一巡して、不動産株が上がっています。やっぱり日本人は笑いものになってしまうのかもしれません。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/26 22:36 myrutus77さま、コメント有難うございます。また貴重なお話有難うございます。
ボクは身内の数人の経験しかありませんが、仰るとおり人の死はさまざまだと思います。
お書きくださった歌、すばらしいですね。特に
<母ののこしし静けき夕べ
ここのところ。故人が送ってくれたGIFTなのだと思います。この映画のラストもまさにこれ、でした。感想で書き足りなかったことを見事に補完していただきました。ありがとうございます!

mursakisikibumursakisikibu 2013/03/27 06:43 封切られてすぐに観ました。
前評判の割にはいまひとつ、というのがわたしの感想です。
確かに「いかに死すか」という避けては通れない課題をつきつけています。
でも音楽家夫婦の末路としてはお粗末な感じをぬぐえませんでした。
全体的に寒々としていて温もりが感じられない。
「瀟洒な部屋」というキャッチコピーも当てはまらないように感じます。

Tsuda_KatsunoriTsuda_Katsunori 2013/03/27 10:53 >所詮 勇ましいことを言っている奴が一番最初に逃げ出すもんだ
その通りですね。石原、完全に逃げ出しました。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/27 20:57 murasakisikibuさま、コメントありがとうございます。
この映画は完全に好き嫌いが分かれる映画だと思います。この監督は悪意を提示して客を怒らせるのが作風だそうです(笑)。悪意と美の対比は素晴らしかったなとボクは感じました。ただ老夫婦を演じた素晴らしい俳優二人、特にエマニュエル・リヴァさんが出てなかったら、ボクもこの映画嫌いになってました(笑)。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/27 21:00 Tsuda_Katsunoriさま、コメントありがとうございます。
石原が尖閣騒動をあおって日本人に深刻な経済被害を与えたことをなんでマスコミは糾弾しないのかと思います。文字通りの国賊とはこいつのことでしょう。こんなに口だけの、臆病な卑怯者に投票するやつがいるのがいまだに信じられません。ましてや、そのドラ息子連中に入れるような奴は脳味噌大丈夫なのかと思っています。

hatehei666hatehei666 2013/03/28 22:01  小熊英二氏の本は相当ページが多いので有名ですが、デモにも参加し、痩せていながら精力的に活動していますね。そのスタンス、とても東大の偉い先生は真似出来ないでしょう。拍手喝采ですね。

SPYBOYSPYBOY 2013/03/29 06:09 hatahei666さま、コメント有難うございます。
小熊氏の『1969』なんかも是非読んでみたいのですが、あのページ数、値段を見るとさすがに躊躇してしまいます。ああいうのこそ図書館ですね(笑)。それでも普通のものはなるべく読んでみようと思っています。

rosa_rojarosa_roja 2013/04/11 00:46 遅ればせながら近所の映画館で本日(レディースデイ)観てきました。ピアノを弾く美しい老婦人の入浴介護を受けているシーン、ここまでやれる女優さんは凄いと思いました。正直なところ未だ自分の老後が絵にならないのですが、確実に機能が衰えていくことを突き付けられましたね。最後の鳩、空に放たれたんですね・・・。

SPYBOYSPYBOY 2013/04/11 06:00 rosa_rojaさま、コメントありがとうございます。
仰るように女優根性、すごいですよね。その他の介護シーンもちょっと衝撃でした。
鳩の暗喩はボクはちょっとわからなかったところもあるのですが、放たれた、ところがある種の解放を意味しているのかもしれませんね。ご教示ありがとうございました。