特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

沖縄のドキュメンタリー2題:『沖縄 うりずんの雨』&『戦場ぬ止み』

昨日は渋谷で高校生主催の安保法制反対デモが行われたそうです。題して『ティーンズ・ソウルhttp://teenssowl.jimdo.com/。SEALDsの抗議で知り合った高校生たちが主催したデモは、なんと主催者発表で5000人も参加したそうです。
●昨日の渋谷の様子:デモ直前に故障した車を修理して動かしたのは元陸上自衛隊レンジャー部隊の人だそうです

この子たちのことはボクはまだ良くわからないのですが、こういうスピーチをした高校生が居たそうです。


                                                                                         
この子が言ってることは、まさに正しい と思います。世の中で起きていることは、実は良く判らないことで一杯です。正直ボクはそう思います。でも政治家もTVも新聞も、簡単に○×はっきりつけたがります。小泉以来、その傾向が顕著です。でも、ボクは『判らない』ということを大事にしたいんです。お手軽に善悪正邪を決めることで見落としてしまうことが沢山あると思うからです。判らないということを大事にしつつ、自分で動いたり悩んだりする。その上で初めて見えてくるものがあるでしょう。。それは『重要法案でも法的安定性は関係ない』(笑)とか言う国会議員とは対照的な態度です。ちなみに安保法案担当の補佐官の礒崎は東大出の58歳だそうですが、この子は高校生です(笑)。
                                                                            
昨日は他にも横浜、宮城、巣鴨では高齢者のデモが行われたそうです。抗議はどんどん広がっています。
●『戦争行きたくないは利己的』と抜かした自民党のキ印議員お知らせ : 京都新聞に対する山口二郎教授のツイート
●高畑監督in安保法案に反対するママの会@渋谷


                                      
岩波ホールで『沖縄 うりずんの雨

『映画 日本国憲法』のジャン・ユンカーマン監督が近代から現代までの沖縄の歴史を描いたドキュメンタリー。『うりずん』とは沖縄が本土復帰した梅雨入り前の季節のこと

映画はいくつかのパートに分かれています。戦前、戦中、復帰以前、復帰後、沖縄の人への性暴力、これからの沖縄などのテーマに沿って記録映像やインタビューが並んでいます。

お話自体はそれほど目新しくありません。それでも米軍の映像資料を豊富に使った沖縄戦のすさまじさや復帰後の政治の様子は印象に残ります。なかでも占領当時のアメリカのニュースフィルムに『沖縄の子供に親切にしましょう。それが占領軍の安全を守る将来への投資なのです』というナレーションが入っていたのは印象に残りました。当たり前だけど、アメリカにはそういうリアリズム、プラグマティズムが根底にあります。日本のように感情論が先走ったりしない。一方 米兵は沖縄では何をやっても良い別天地だと思っていたことも描かれます。米軍の住民との調整官がインタビューで『米本土では酔っぱらって道を歩いていたら住民からバカにされるが、沖縄では泥酔して街を歩いていても後ろ指を指されない』と語っていました。占領初期 軍のジープが子供をひき殺しても何も罪に問われない。米軍は飴と鞭を使い分けながら、アジア最大の軍事基地として沖縄はアメリカの『太平洋の要石=Key Stone』になっていきます。
●やっぱり戦争体験者の直接の話は凄い。想像が出来ない世界だ。

                          
この映画で最も衝撃的なのは95年に12歳の少女を拉致して強姦した米兵3人のうちの1人がインタビューに応じていることです。強姦した米兵たちは約7年服役したが、出所後もロクな人生を送っていない。一人は帰国後も婦女暴行をして、警察に包囲されて自殺した。インタビューに応じた米兵も職を転々としている。

カメラの前で彼は、『(少女を襲うのは)最初は冗談だと思っていた。自分がどうしてあんなことをしてしまったのかわからない。少女の許しを得ることが自分の望みだが、たとえ許してもらっても自分は地獄に落ちるだろう』と語っていました。いくら彼が悔悟しても被害者が救われるわけではないが、悔悟の言葉を口に出すだけまだマシ、なんだとは思いました。
被害者のことを考えるとこういうフィルムを出すのが良いことなのかどうか、という意見もあるでしょうけど、この米兵は実名と顔を明かしているから例の神戸の卑怯者とは違うし、ドキュメンタリーとしてはアリ、だとは思いました。彼の存在自体が沖縄に押し付けられた基地負担の不当性を十二分に語っているからです。
                                        
それでも基地のフェンスに抗議のテープを貼りつける人たちもいれば、その抗議のテープを米兵と一緒に掃除する住民も映っていたのは面白かったです。


沖縄と日本との関係はパレスチナイスラエルの関係に似てきたのではないかという気もします。戦前から今に至るまで日本本土が沖縄を差別し、金をばらまきながら負担を押し付けてきた構図はだんだん理屈とかで解決できない問題になりつつあるとも思えるのです。この映画は沖縄がアメリカの戦利品として扱われてきたこと、また日本本土は戦前から沖縄の人を差別し、戦後もアメリカとぐるになって利用してきたことをしっかり描いています。
ボクは沖縄は日本から独立しなければ問題は解決しないのではないか、と思います。本土の沖縄の人への差別意識がどこから来るのか、ボクには判らないけれど、少なくとも政治の世界では厳然として存在しています。元来 沖縄の基地は本土に引き取るべきなんでしょうけど、そういう動きは右左を問わず正直少ない。いくら屁理屈こねようと現実に沖縄は不平等な日米地位協定のせいもあり、今もアメリカの戦利品として扱われています。それなら沖縄は日本から独立するしかない、と思うんです。

●米軍基地をすぐに日本から撤廃させるのは難しいのなら、まず本土が基地を引き取るべきだ、と高橋教授は語ります。彼は先日も国会前のSEALDsの抗議でマイクを握りました。



もうひとつ東中野でドキュメンタリー『戦場ぬ止み』(いくさばぬ とぅどぅみ)
この表題は昨年の知事選の際 辺野古のゲート前で掲げられた琉歌の一節だそうです。もう、戦場になるのは終わりにしようという意味。『標的の村』(ボクは未見)で著名な三上智恵監督の新作。

2014年から2015年春まで辺野古の基地反対運動を記録したものです。辺野古海兵隊キャンプのゲート前に座り込む85歳のお婆さん、家族ぐるみで参加する近隣部落の一家、反対運動の中心の山城氏、海から阻止活動をする漁師、基地賛成派の漁師などに密着したほぼ1年の記録。

最初に出てくる85歳の文子お婆さんの話でいきなり圧倒されてしまいました。沖縄戦で洞窟に隠れたら米軍の火炎放射器で焼かれて大やけどの重傷を負ったそうです。命はとりとめたが、火炎放射器で失明した母を抱えての戦後の暮らしは楽ではなかった。米軍基地で働き家計を支えながら結婚し辺野古で暮らすようになった。すると今度は基地の問題が持ち上がった。そういうお婆さんはどうするか。これはもう、何も言えません。
●85歳の文子お婆さん

家族ぐるみでゲート前で反対運動をする親子。お父さんと姉妹が毎週土曜日にキャンドルと垂れ幕を持って基地の前で抗議に立ちます。それを警察が大勢で遠巻きにします。その12歳の女の子が言うんです。『警察はすごく怖い。でも笑顔でいれば悪いことは起こらない、と思って笑うようにしている。』
●手作りのキャンドルライトを持った12歳の女の子(左)

この作品はこういうドキュメンタリーにありがちな一方的な価値観を押し付けるところはあまり感じられません。基地に反対している人の中には辺野古の住民は多くないこともちゃんと描かれています。辺野古海兵隊キャンプは占領下 軍に土地を接収されて設置されたそうです。もちろん村は反対しましたが、強圧的に脅されて仕方なく上下水道の整備と若者たちの就職を交換条件として土地を貸し出した。その交渉をした当時の区長は、その決断を誇りに思っている、とカメラの前で断言します。
また漁師たちの中には莫大な補償金をもらって反対運動を断念する人も出てきます。そういう人は補償金のほかに一日5万円の日当で一日 工事海域に船を出して監視業務を請け負うんです。と、言ってもやることは一日何もありません。『毎日コンビニ弁当も飽きたから、船の上でバーベキューをやった』という漁師さんの表情が空しそうでした。
                                    
翁長知事の誕生は反対運動の人たちにとっては大きな希望でした。翁長氏は辺野古のゲート前や浜へも足を運び、基地建設阻止を訴えます。その翁長氏の決起集会でスピーチする菅原文太氏の姿を画面で見たら、涙が出てしまいました。もう身体はやせ細っているが、言葉は快活で力強い。そして何とも言えない、まるで悟りきったような柔和な表情をしているんです。死の直前になると人間、あんな表情ができるんだろうか。ちょっと神々しい感じすらしました。亡くなる12日前だそうです。
                                               
●翁長知事の誕生に喜んでゲート前でカチャーシーを踊る

ゲート前に座り込む人たちの中心となっているのは山城さんという還暦近いおっさんです。昔から基地への反対運動をしてきて、本人曰く『連戦連敗』(笑)。市民運動をずっとやってきた、というと偏屈な人、という感じもしますが、この人はそうでもありません。ユーモアを忘れないし、警察や警備会社にも懸命に話しかけようとします。この人、毎朝 座り込む前に警備員に『おはようございます』と挨拶したり、世間話をするんですね。報道では一方的に警備側が乱暴をしているイメージがありましたが、現場ではある程度は会話が成り立っていた。それが一変するのが知事選後。翁長氏が知事になると、性急に工事が進められ、警備も手荒くなっていきます。
●山城氏

                                              
85歳の文子お婆さんは警察とのもみ合いで転んでしまい、頭を打って救急車で運ばれてしまいます。これには皆 激怒します。警察官たちも決まりが悪そうです。その後 無線で指示が来て警察は後ろへ下がってしまい、警備会社のガードマンを前面に立てます。汚い連中です。山城さんたちは怒りながらも、ガードマンたちに抗議を続けます。彼らの前で琉球空手の寸劇までやります。こんな時ですがガードマンが笑い出してしまうのをカメラはしっかりとらえています。
●警官が大勢 立っているだけで威圧的です。でも、この警官たちの多くも沖縄生まれです。

                                      
海上でも知事選後 基地建設の動きは加速したそうです。海上保安庁が抗議の人の船をひっくり返したり、負傷させたりしているのは報道されていますが、その様子がカメラに収められています。結局 国側は既成事実を作ってしまおうということだったのでしょうか。
●な〜にが海猿だよ。自分が恥ずかしくないんだろうか。

                                            
そんななかで印象に残ったのがお正月の光景です。山城氏らは基地賛成派の漁師と一緒に彼らが取った刺身を買って、海辺で新年のパーティを開くのです。賛成派の漁師は『うまい刺身でも喰って、反対なんかやめろ』と言いながら、宴会に参加します。酔っぱらうにつれて、だんだん和んでいく光景は、見ていて面白かったです。
基地反対派の若い漁師が賛成派の漁師を尊敬しているところも非常に興味深かった。彼は、ある賛成派の漁師を『あの人は沖縄でも指折りの漁の腕を持ってるんだ。沖縄の海人を単純に考えてもらっては困る』と言うのです。
                                                                                    
今も反対運動は続いています。85歳の文子おばあさんも回復してゲート前に立っています。リーダー格の山城氏は悪性リンパ腫が判明し 現在闘病中。
●今月 女優の樹木希林がゲート前まで、文子おばあさん(左)にわざわざ会いに来たそうです(映画のシーンではありません)。


                                                                                               
ボクは沖縄の基地問題はまず、沖縄の人がどう考えるか、ということだと思っています。昨年の選挙での翁長知事の得票は36万、前知事の得票は26万です。政府が36万票の民意を無視して基地を建設するのはどう考えても理不尽ですが、圧倒的な大差とは言え、26万という票数は無視して良い物でもありません。それを無視したら政府と同じことになってしまいます。本土が基地を押し付けているからこそ、ボクはそこが気になるのです。
うりずんの雨』は沖縄の基地問題を総論的に取り扱っています。それとは対照的に『戦場ぬ止め』は基地反対運動の記録、ミクロの視野に立っています。だからこそ、体験のリアルさが際立ちます。辺野古のゲート前で抗議する人たちは老人も子供も『国を止めるにはどうしたらいいんだろう?』『判らないけど、やれることをやろう』と言います。それは官邸前や国会前で抗議しているボクも含めた多くの人の心情と重なります(覚悟や切実さは違うかもしれません。)
この作品は良くある反対モノのドキュメンタリー、例えば『小さき声のカノン』みたいに一方的な見方を押し付けません。物事を比較的公平に見ています。もっと賛成派の人を出してほしかったとは思いますけど、反対とか賛成とかで単純に割り切れることができない人間の素顔を良くとらえています。非常に面白かったです。『うりずんの雨』も悪くはないんですが、『戦場ぬ止め』はその10倍くらいは面白かったです(笑)。
うりずんの雨』も『戦場ぬ止め』も共に音楽は小室等。アコースティックで演奏される美しい旋律が効果的でした。フォーク・シンガーのこの人、歌さえ歌わなければいい仕事します(笑)。