特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

シュプレヒコールの先にあるものは?:『0821 再稼働反対!首相官邸前抗議』と『戦争法案に反対する金曜国会前抗議行動』

17日月曜日のGDP前年割れのニュースを受けて、日経の記者がこんなことを呟いていました。

東京新聞は18日の社説でアベノミクスはもう破たんかとまで言い出しました。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015081802000132.html

要するにアベノミクスによる物価高に賃上げが追い付かず(実質賃金は約2年間ダウンしっぱなし)、その結果 消費が悪化して、景気まで低迷しているわけです。
頼みは住宅・爆買いのみ?「3四半期ぶりGDPマイナス」はアベノミクス終焉のサインか(磯山 友幸) | マネー現代 | 講談社(1/3)
マイナス成長が明確に示す経済政策の根本的誤り | 野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて | ダイヤモンド・オンライン
                                                                  
東京新聞はともかく、日経の記者までがこういうことを言いだしたのは驚きです。彼らには上層部から『アベノミクスは日本経済再建の最後のチャンスだから、精一杯プッシュしろ』という指示が出ていたからです。東京新聞が言うように『アベノミクスはもう終わり』かどうかは判りません。ボクの知る限り、7月の消費はまあまあだったようですから、これから景気が良くなることだってあり得ないわけではないです。でも事実として現状は厳しい。偶然の石油安がなければ、もっと酷いことになっていたはずです。
                                                              
そもそもアベノミクスが始まる当初から、賃金が目標インフレ率に追いつくためにはバブル期並みの賃上げ率が必要、という試算が各種シンクタンクから出ていましたから、こうなるのは最初から判っていました。じゃあ、対案を出せと言う声が聞こえてきますが、金融や財政の引き締めをしろってわけじゃありません。日経の記者が言うとおり消費性向が高い庶民に所得移転して消費を少しでも増やすしかないでしょう。消費増税を止めろと言う人もいるかもしれませんが、財政再建のことがあるからボクは懐疑的です。それに加えて政治家が人気取りのバラマキでも始めたら、それこそお先マックラでしょう。消費増税はしても、軽減税率なんて無駄なことは止める。そして低所得者向けに給付付き税額給付をするといったところでしょうか。そしてバブルを引き起こしかねない金融緩和の出口戦略を模索する。
                                           
本当は以前 某有名経済評論家が『TVでは言えないんだけど』と前置きをしたあと、ボクに話をした、相続税100%にすれば景気も財政も一発で問題は解決するんでしょうけど(笑)。

●実質賃金が伸びないから消費が伸びない。消費が伸びなければメーカーは値下げをせざるを得ません。デフレはなかなか終わりません。

●毎度お馴染み日本人ジョーク
                            
                                                                          
さて、度々書いていることですが、今回の安保法案の問題は『違憲の疑いが高いこと』、それに『国の安全保障について、まともに論じていないこと』だと思います。立憲主義、いや法治国家であることを無視している。端的に言うと『勝手に決めるな』ということでしょう。

                                               
一方 巷では安保法案を『戦争法案』とか『徴兵制が復活』とか言う向きもありますが、必ずしもそうとは言い切れない。少なくとも安倍晋三のようなアホだって、自分からは戦争は仕掛けないでしょう(たぶん)。ちゃんと言えば巻き込まれるリスクが増えるかもしれない。もっと厳密に言えば、どういう場合にリスクが増えて、どういう場合にリスクが減るのかはきちんと議論がされていない、というのが正確な表現でしょう。
それでも地理的制約を外した時点で『戦争法案』の恐れは濃厚だし、デモなどではわかりやすいフレーズは必要だと思いますから、『戦争法案反対』でも『いいかな』とは思います(笑)。でも、ボクは多少の違和感があります。『戦争反対』や『9条守れ』で思考停止しちゃまずいし、それこそ奴らの思うつぼなんじゃないかな、と。

                                                                                                      
8月13日の日経1面に載った元国連難民高等弁務官緒方貞子氏のインタビューには考えさせられるものがありました。緒方貞子氏「ODA超えた貢献を」 (これからの世界) :日本経済新聞
一部を抜粋します。太字・着色はボクによるものです。まず日本の戦後70年の外交についてこう述べています。

日本外交はもう少し、国際的な広い視野に立って進めるべきだった。日米関係はもちろん基軸だが、米国は自分の世界戦略で動く。1970年代初めに突然、中国に接近したのも、対ソ戦略だった。 日本は世界を見渡すというより、対米や対中など二国間の視点で考え、米国の動きを追いかけがちだ
経済的には中国との協力なしにはやっていけない。そのことは政府より、むしろ経済界がよく分かっている。日本側の一部の層に安易なナショナリズムがある一方、中国側の一部にも傲慢な傾向がみられる。どうすればよいか、答えは簡単に見つからない。だが日米関係を強めれば、日中関係も安定するというほど状況は単純ではない

                                          
現実の世界には単純な答えはない、ということなのでしょう。アメリカとくっついていれば良いわけでもないし、対米従属から脱却すれば良い、という話でもない。3年くらい前 マウリツィオ・ポリーニ先生のコンサートへ行ったとき、この人はボクの2つ前の席に座っていました。齢80を超えていたにも関わらず、1時間半の演奏時間、背筋がしゃきんと伸びたままだったのが印象的でした。今は87歳。全然 ボケていません(笑)。こういうのを『叡智』と言ったら言い過ぎでしょうか。
安保法案について、彼女はこう述べています。

――安倍政権は自衛隊の海外での活動を広げようとしています。国会で安全保障関連法案が審議中ですが、国際貢献のあり方をどう考えますか。 
軍事力を使って、他国の紛争に介入することはやるべきではないし、やれることでもない。日本にそんな人的な資源があるとも思えない。ただ、海外の紛争地で人々を守ってあげるという、警察的な役割は大切だ。自衛隊が海外で治安維持の活動を展開することもひとつの方法だと思う」
 ――治安維持のため、自衛隊が海外での活動を増やすなら賛成だ、と。
 「国際的に期待される治安維持の役割があるときには、自衛隊も出ていけばよい。その大前提は、必要な訓練がきちんとされていて、国際的な活動の一部として出て行くことだ。ただ、それを国際貢献の看板とするには無理がある。自衛隊を出すにしても物理的な限界がある。日本はもっと紛争国間の調停に入り、和平を仲介する役割をめざすべきだ。それには国際政治をよく理解し、交渉力がある人材を育てなければならない」


国際的な活動の一部として警察的なことなら自衛隊がやってもいい、と言っていますが、その一方で『その分野では日本は大したことはできない』、『日本はもっと他にやることがあるだろ!』、と仰っているわけです。さすが!

 ――世論調査では安全保障関連法案への反対が多いです。押し切ってでも、成立させるべきだと思いますか。
法案によって何ができるようになるのか、どのように世界に役立てるのか。その見取り図を、政府がもっとしっかり、出せるようにならなければならない。そこをはっきりさせないと、世論の理解は得られない。以前私は、日本だけが『繁栄の孤島』となることはできないと言ったことがあるが、日本人だけが危ないところに行かず、自分たちだけの幸せを守っていけるような時代は、もう終わった」

      
これも非常に薀蓄のある発言で、『政府は国民に、安保法案になんのメリットがあるのか明確にしていない』という問題点をズバッと述べています。その上で彼女は、『じゃあ何ができるのか』ということを考えなくてはいけないと述べています。すご〜く本質的な指摘です。

515事件で曾祖父の犬養毅を殺された彼女はインタビューをこう締めくくっています。
 『『軍部は悪い』という話を、私は聞かされて育った。そういう考え方は、いまも染みついている。だから、国際関係を勉強した』                                                         
                                                                                               
彼女が言っていることは、国連で長年 武装解除の実務に携わってきた伊勢崎賢治東京外語大教授が7月17日の毎日新聞でもっと具体的に表現しています。
『安保法制は廃案にしなければならない。しかし、ただ廃案にしただけでは、元の状態に戻るだけだ。問題が起きたときには悪い方に9条が変わることになりかねない。その前に、護憲の精神で、9条をいつ変えるか、どう変えるかを考えなければならない。日本の外交では、自衛隊を平和利用だけに使うように徹するというビジョンが必要だ。』 
*毎日7月17日の記事 http://mainichi.jp/shimen/news/20150717ddm004070025000c.html


                                          
戦争の現場にいた緒方氏も伊勢崎氏もほぼ同じことを言っています。それは『今の安保法案は問題外(笑)、だけど『じゃあ、どうする』というエクスキューズはある』、ということです。

9条を変えるべきかどうかも含めて、どうやって平和を守ったら良いか、ちゃんとした議論が必要だと思います。安全保障とか外交は一般庶民とは程遠い話です。でも黙っていたら、自分は戦争に行かなくていいと思っている政治家や官僚がロクでもないことを始めます。                                                 
ボクは安保法案には勿論 反対です。だけど『戦争反対』、『9条守れ』と言っている『だけ』じゃ、平和は守れないと思います。『戦争に行かないのは利己主義』と言い張る武藤貴也議員(笑)のようなマヌケは除けば、戦争をやりたい政治家はそんなにいないでしょう。連合軍から『Warmonger』(戦争挑発者、戦争キチガイ)と罵られた東条英機だって、恐らく対米戦争はやりたくなかったでしょう。でも、彼には戦争を回避するだけの知的能力や先見性、何よりも現実を直視する勇気、そして国民や軍部を説得する勇気がなかった。対米戦争に反対していた海軍の井上成美中将は『(対米戦を回避して国民の不満が高まって) たとえ国内で革命が起きても、空襲で日本中が焼野原になるよりマシ』と開戦前から喝破してました。戦争を防ぐには、そういう知性や胆力が必要だったんでしょう。


『戦争に反対』と言ってるだけじゃ平和は守れない、と思います。我々一人一人がもっと頭を使うことが必要なのだと思います。ボクだって、デモへ行けば『戦争法案 絶対反対』のシュプレヒコールに唱和はします(笑)。でもシュプレヒコールの先にあるものを頭の片隅で常に考え続けなければいけない、と思うのです。
ま、ボクは右左を問わず集団の『熱狂』ってものが嫌いだから、こういう風に思うのかもしれないんですが(笑)。


ということで(笑)、官邸前&国会へ。東京では夕方から強い雨が降り出して心配しました。幸い抗議が始まる頃には止みましたが、空気が湿っぽい。
●抗議風景@官邸前








今日 さっそく川内原発でトラブルが起きました。復水器に海水が混じったため、出力上昇を延期するそうです。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150821/k10010197331000.html
ワールドワイドに見ると、今まで3年以上停止した原発は全てトラブルを起こしているそうですhttp://www.bloomberg.co.jp/news/123-NS4J5H6JIJUR01.html。川内も例外ではなかった。これくらいで済めばいいんですけど。果たして避難計画もないままの再稼働って、いいんでしょうか。このことは原発の賛否なんか関係ないと思うんだけどな。今日の参加者は主催者発表で2500人。


そのあと国会前へ。国会議事堂前駅から大学生くらいの若い子が続々と歩いてくる。デートついでみたいなカップルもいる。なんかフランスのデモみたいだよな。それにしても、みんな若い(笑)。
●抗議風景@国会前








青いプラカードはSEALDsの子たちが『皆で掲げてくださいね』と言って、事前に配っておいたものです。視覚効果まで考えているんですね。
佐高信の下品なスピーチ(笑):『学生たちを利己主義だと言った武藤が一番利己主義だった』。そりゃそうだけど、皆 敢えて、あんまり言わないようにしてるんだから(笑)。あんなバカ、相手にしてないんだよ。

                              
見回り弁護士会の皆さんが警察の過剰警備に正式に抗議を申し入れてくれたせいなのか、警察の警備も正常になってきました。道を変にふさいだりすることもなくなり、列への出入りもスムーズにできます。人の流れもスムーズになってきました。最初からそうしろって。今日の参加者は先々週と同じくらい、8000人くらいでしょうか。
                                         
相変わらず、こちらの抗議はいい感じです。リズムに載せたシュプレヒコールも心地好いし(日本で『ノー・パサラン』なんて言ってるのは彼らだけでしょう)、参加者は互いに譲り合うし、体調が悪い人のためにボランティアで大勢の医療班や給水班が待機している。どこが利己主義なんだよ(笑)。何よりもスピーチする人がヒステリックにならずに、自分のコトバでしゃべっているところが良い。各自がやれることをやり、組織や誰かに押し付けられた台詞ではなく、自分で考えた、自分の言葉で話す。確かに民主主義はここにあるのでしょう。それだけでも驚くべきことです。今週も行って良かったです。ちょっと疲れたけど(笑)。
●結局、こういうことなんだよなあ。