特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『民主主義ってなんだ?』と『安保法案成立後の世論調査』と、映画『わたしに会うまでの1600キロ』

今 大きい本屋へ行くとこの本が平積みで並んでします。ゴミみたいな嫌韓本とかくだらない煽情的な本が並んでいる中で、まともな本が久々に目立っている感じがします。『民主主義ってなんだ?』は作家の高橋源一郎とSEALDsの諸君の対談本です。

民主主義ってなんだ?

民主主義ってなんだ?

これがとても面白かったです。さっと読んで付箋を4〜50枚つけてしまったくらい刺激的な本でした(笑)。とにかくすごく面白かった。
高橋源一郎が映画『首相官邸の前で』のトークショーでSEALDsの子たちの相談に載っているようなことを言っていたので 蒔かれた種子:映画『首相官邸の前で』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)   首相官邸前抗議、なぜ取り上げられなかった…反原発ドキュメンタリー監督が分析 - シネマトゥデイ、どんなつながりがあるのか、と思っていたんですが、彼は奥田君たちが通っている明治学院大で教えていたんですね。かって横国大の学生運動に加わり、長期間入獄した彼は、デモのやり方の相談を受けて『とにかく自分のコトバで話なさい』というアドバイスをしたそうです。
前半は彼らがデモを始めた経緯が語られます。彼らが時折 批判される『選挙の方が重要で、デモなんかしてもしょうがない』とか『今頃デモなんかしても遅い』なんてことは、当然 最初から考えていました。それでも彼らが優先したのは、やらなきゃ何も変わらない、というフィジカルな態度です。その上で出来ることを自分の頭で考え抜く。これはまさにロックンロールの精神です(笑)。
また彼らは『安倍晋三も民主主義者だ』とも言っています。ただ定義が違う、と(笑)。だから民主主義の定義から始めなくてはならない。 この発言だけとっても『何も考えてない』という彼らに対する批判が的外れであることが良くわかります。遠いアテネの時代から今に至るまで、いつだって民主主義は自ら始めるものなのでしょう 前身のSASPLの時からそうでしたがSEALDsの子たちは自分たちで議論を続けて、自分たち自身を疑い続け、反知性主義の罠に陥らなかった。これは学歴とか年齢とか社会的地位とかは全く関係がない、『人間としての賢さ』です。年柄年中 内容がなく同じことしか言わない『総がかり行動実行委員会』の人たちや、先週もデマを拡散して笑いものになったばかり立教大学の西谷修教授に非難 三菱鉛筆を三菱グループだと誤認 - ライブドアニュースのIWJの岩上安身(問題のデマツイートは直ぐ削除したが逃げ切れず痛いニュース(ノ∀`) : 立教大の西谷修教授「(防衛産業を抱える)三菱のものは明日から鉛筆一本買わないことが大事!」 - ライブドアブログや田中龍作など法案に反対していてもデマを流して皆の足を引っ張る似非ジャーナリスト連中こそ、反知性主義に首まで使っている(安倍晋三と同じ)とボクは思っています。
                                               
あとSEALDsの子たちが『自分たちは60年代安保や70年代安保やべ平連、それにオキュパイ・ウォールストリートなど世界の運動のいいとこどりをしている』という発言も面白かった。ネットを見ながら世界各地の格好いい抗議のやり方を皆で研究したそうです。彼らのコールのやり方はラップの影響が本当に大きいですが、哲学とラップが大好きな牛田君という子が『いいとこどりするやり方はヒップホップのサンプリングと同じなんです』と言っていて、成るほど〜と膝を叩いてしまいました。『フィジカル』と『内省』がいい感じでバランスされている。だからこそ、彼らのコトバはあんなに生き生きしているのでしょう。
書きたいことは沢山あるのですが、とにかく面白い本でした。もっと勉強しなくちゃ、身体を動かさなくちゃ、という気持ちにさせてくれる本です。


さて、安保法案成立後の世論調査の結果が揃ってきました。内閣支持率の話です(朝日は先週比較、他は先月比較)。

この前 定期的に話を聞いている某大臣の元政策秘書氏と議論をしたんです。今も国会に出入りして自民・民主両方に話をしている人です。ちなみに戦争法案に対する彼の意見は『改憲して、法案を作り直すべき』です。
今後について彼は、法案が成立して支持率が下がっていくか、下げ止まるかが今後のキーだ、と言ってました。ちなみに彼は内閣の支持率は下げ止まるのではないか、と予想していました。野党の支持率は全然伸びていないからです。一理ありますが、この結果を見ると外れたのかな。
じゃあ、今の支持率はどう考えたらよいのでしょうか。森内閣から現在までの内閣支持率日経平均をプロットしたこのグラフを見てください。内閣支持率はNHKのものを使っています。

                                           
画像が少し小さくて恐縮です。支持率が落ちかけた時点で訪朝して盛り返し最後まで50%を割ることがなかった小泉(水色)を除いて、どんな内閣も次第に支持率は下がっていきます。そして支持率が30%台の半ばを切るとほぼ死に体状態になっています。第1次安倍内閣(緑色)は30%後半を切った時点で一気に転落が始まっています。今回は毎日を除いて前回調査より支持率が下がっています。すべての調査で支持率を不支持率が上回っています安倍内閣がくたばるまでもうひと押し だと思います。ちなみに安倍は支持率回復のために、北朝鮮に対して、日本人人質返還交渉を裏でやっきになってやらせているそうです。でも北朝鮮からはゼロ回答しか帰ってこないために頭を抱えていると聞きました(笑)。

では野党はどうでしょうか。先の政策秘書氏は近いうちに民主党の分裂があるだろうと予測していました。右寄りの議員、前原とか長島などは耐えられずに出ていくだろう、というのです。今まで民主党は彼らを切り捨てることが出来ずにいました。あとは国民を選ぶか、目先の議席数を選ぶか、なのだと思います。先月まで『選挙協力はしない』と言っていた共産党が唱え始めた、安保法案潰し1点に絞った『国民連合政府』という構想は良いと思います。国民が現実的にそういう政府を選ぶかどうか少し苦しいところですが、それしか策がない。人々の声で共産党は変わったようです(信用できませんが)。あとは民主党が変われるかどうか、国会の終盤で見せた、あの気持ちを忘れないでいられるか、です。

いずれにしても、これからが勝負です。政治家共に『国民は忘れる』なんて言わせないとりあえず、明日はSEALDsの諸君も参加する、この抗議へ行ってきます

★KEEP CALM AND NO NUKES! 0922 反原発★首相官邸前・国会前大抗議 | 首都圏反原発連合



日比谷で映画『私に会うまでの1600キロ

主人公は26歳の女性、シェリル。1995年、彼女は離婚、クスリ、母親の死、自らの自暴自棄な生活で負った心の傷を癒すために、メキシコからカナダまで数千マイルにもわたる長距離自然歩道、パシフィック・クレスト・トレイルを単身で歩き通すことを決意する。

東京でも2館でしか公開されてない作品なんですが、内容は超豪華です。監督はアカデミー受賞作品の『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン・マルク・バレ、脚本は『ハイ・フィディリティ』、『17歳の肖像』、『アバウト・ア・ボーイ』の有名脚本家ニック・ホーンビー。この作品の主役のリース・ウィザースプーンは昨年のアカデミー主演女優賞に、主人公の母役のローラ・ダーン助演女優賞にダブルでノミネートされています。日本の映画会社の地味な扱いは完全に間違っています。

                                                 
パシフィック・クレスト・トレイルとはメキシコ国境からカナダまで太平洋岸の長距離自然歩道で毎年300人ほどが踏破を目指すそうです。と、言っても雪山あり、砂漠あり、急流あり、危険な野生動物ありの大変な歩行コースです。距離が距離ですから、歩きとおすのも3か月以上かかります。この作品は実際に踏破した女性、シェリル・ストライドの『Wild: A Journey from Lost to Found』という自伝が原作になっています。

わたしに会うまでの1600キロ

わたしに会うまでの1600キロ

映画は山の頂上で主人公が怒りにかられて登山靴を投げ捨てるところから始まります。大自然の過酷さとリース・ウィザースプーンの華奢な身体が実に対照的です。その次のシーンは自然歩道の近くの安モーテルに宿を取るところです。感じの悪いフロント係員と安っぽい部屋。自分の体重より重そうな彼女の大荷物。彼女の過去やトレイルを始める理由は最初は説明されません。過酷なトレイルと回想が織り上げられるようにお話は進められます。
●華奢なリース・ウィザースプーンが担いでいる荷物のでかいこと!旅の過酷さが観客にもひしひしと伝わってきます。

語り口のトーンは暗くはないんですが、ビターです。大自然の美しい光景と過酷な環境。割れた足の爪。シャワーを浴びる際のリース・ウィザースプーンの身体に焼印の様についたバックパックの跡が生々しいです。精神科の診察で用いられる自由連想のように挿入される彼女の過去。父親のDVに苦しめられた生い立ち、最愛の母の急逝、幸せではあったけど自らの過ちで破たんした結婚生活。
●最愛の母(ローラ・ダーン、左)との回想シーン。この映画はアカデミー主演女優賞、助演女優賞にノミネートされています。

この語り口が大成功しています。主人公が度々引用する詩人の警句や日記に書きつける散文は少し気取っているし、映画自体もちょっと間違えば良くある自然賛歌やくだらない自己発見ものになりかねません。ですが、敢えて過酷さを描くことで、そんなファンタジーを紛れ込ませる余裕を排除しています。何よりもリース・ウィザースプーンが文字通り身体を張った演技は安っぽさとは無縁です。細い身体に重い荷物が文字通り食い込んでいる姿はそれだけで説得力があります。ちなみに彼女は自ら映画制作会社を起こして、この映画を作品化しています。エンドロールで旅している時の原作者の写真が写るのですが、本当にそっくりなのには驚きました。


この映画を見ているうちに主人公の人生と過酷な旅がどんどんシンクロしてきます。この作り方は本当にうまい。描かれる主人公の旅路は映画の中の『人生は選択肢がなくても生きていかなければならない』という台詞そのもののように感じました。

劇的なことが起きるわけでもないし、印象的な他人との出会いがあるわけでもありません。出会う人は善人も悪人もほどほどの人ばかりです。女性の一人旅ならではの危険もありますが主人公は注意深くそれを回避します。多くの親切なハイカーや住人にも助けられます。粗野で怖い外観の人が案外良い人だったりします。主人公は自立した女性としての意識もありますが、麻薬や男に走るなどそれほど立派な人間でもありません。我々の人生みたいじゃないですか。そういう人間が過酷な旅を経てどうなるか。
●美しい自然は出てきますけど、主役は彼女の内面です。そこが良いんです

                                                      
3か月以上の旅を経て、主人公がたどり着く終着点の橋は雲が立ち込めています。まるで我々の人生みたいです。幾分かの充実感はありますが、いつもいつも爽やかな青空とはいきません。離婚したばかりで、職もカネもない主人公は『旅が終わったら、たった20セントで自分の人生を立て直さなくてはならない』と判っています。彼女はそれでも歩き続けるのです。
                                                                                        
選択肢がなくても、生きていかなければならない』、この映画は観る人をそんな気持ちにさせてしまいます。甘さを排した演出と両女優の身体を張った演技自体が過酷な旅と重なる、観客自身の人生とも重なるからです。我々の人生だって長い旅のようなものです。わたしに会うまでの1600キロはちょっと風変わりだけど、完成度も高いし、人の気持ちを動かす素晴らしい作品です。SEALDsの子たち同様、この映画もまさに『フィジカル』と『内省』のバランスが取れている。評論家などの高評価がうなずける、充実感がある味わい深い映画でした。