特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

 ボクは君に生きて欲しい:映画『BPM ビート・パー・ミニット』と『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』

4月になって電車の中の光景も、職場の顔ぶれも変化がありましたが、随分いろんなものが値上げするんですね。公共料金も食料品も様々なものが値上げされます。この表は雑誌『女性自身』(笑)がまとめたそうです。


果たして これだけの値上げをカバーできるほど給料が上がる人って どれだけいるのでしょうか。元々弱い国内消費に加えて、為替、株式市場の変調、それに輸出市場の変調で、今年の景気は結構悪くなると思います。さらにこれらの値上げで、暮らしはますます厳しくなるんじゃないですか。5年間のアベノミクスで実質賃金は下がり続けましたけど、これ以上実質賃金が下がったらどうなるのか。これは人災です。

じゃあ、どうすればいいのかって?こういうことです↓。

ドイツはベビーブーム、2016年の出生数が96年以来最大 | ロイター

この期に及んで減税とか寝ぼけたことを言っているバカもいますが、騙されちゃいけません。減税はどうしたって金持ち中心になるし、財政悪化と福祉切り捨てにつながります。それがこの30年 世界各国で行われた新自由主義的な政策の結果です。まだわからないのか(笑)。
格差を減らし景気を良くするには、男も女も関係なく安心して働きやすいようにする。そのためには所得や資産に対して累進課税を強化して、消費性向の高い層に向けて現物給付を含めた再配分を強化していくしかありません。そして、男が家事やれって。
●昨日 大阪では社会の多様性を訴えるダイバーシティ・パレードが行われたそうです。立憲民主党共産党の国会議員に加えて、前事務次官の前川氏も参加。



●東京でもデモが行われます。




今回は 昨年のカンヌ映画祭の受賞作です。まず、有楽町で映画『BPM ビート・パー・ミニットhttp://bpm-movie.jp/

舞台は1990年代初頭のパリ、エイズが流行し始めた時代。エイズは同性愛者や麻薬中毒患者の病気と決めつけられ、患者は国や社会からは偏見を持って見られていた。同性愛者の団体「アクト・アップ・パリ Act Up-Paris」は偏見を正すために、国の保健機関や新薬の研究成果を隠す製薬会社を襲撃したり、高校でコンドームの使用を訴えたり、ゲイのパレードに参加したりするなどの啓蒙活動を行っていた。アクトアップの中でも過激な行動を先導していたメンバーのショーン(ナウエル・ペレース・ビスカヤート)は加わったばかりのナタン(アルノー・ヴァロワ)と愛し合うようになるが、次第にエイズの症状が表れてきて……。



80年代から猛威を振るったエイズ。当初は同性愛者や麻薬中毒患者の病気とされ、患者は偏見の目に晒され、なかなか救済の手は行き届きませんでした。そこに立ち向かった同性愛者たちの団体『アクト・アップ』のパリ支部のメンバーたちの活動と愛を描いています。映画の監督・脚本は実際にアクト・アップのメンバーで、昨年のカンヌ映画祭でグランプリ(次席)を取った、非常に評価が高い作品です。


前半はアクト・アップ・パリの活動が描かれます。アクト・アップはNYで始まった運動ですが、パリの同性愛者たちもそれに刺激されて活動を始めました。情報公開を求めて政府機関や製薬会社に押しかけたり、偽の血をばらまく抗議をしたり、高校の授業中にコンドームの使用を進めるパンフレットを配ったり、非暴力と言えども活動は過激な色彩を帯びています。映画では描かれませんでしたが、新薬の費用が高すぎることに対しても激烈な抗議が行われたそうです。彼らには時間がないんです。新薬の開発も承認も、お役所仕事や市場原理だけで進められたら、どうなるか。みんな死んでしまいます!
●彼らには時間がない。非暴力直接行動で役所や企業にどんどん乗り込んでいきます。


アクト・アップの活動はメンバーが毎週 集まって決められます。抗議の対象ややり方、プラカードのスローガンまでディスカッションが行われます。彼らはやみくもにだべっているのではありません。発言はファシリテーターに従って、発言は手短に、発言の邪魔をしないよう拍手ではなく指を鳴らして賛意を表す、などのルールがあります。効率が重視されています。彼らはイデオロギー論争なんかしている暇はない。日本の旧態依然とした市民運動とは全然違うんでしょう。やはり真剣味が違う。
●メンバーは若い人だけでなく、息子がエイズにかかった母親(中央)もいます。


会合が終わった後、彼らはクラブへ繰り出したり、恋人と過ごします。おしゃれな映像が映画の中のアクセントになっています。彼らの活動とともに疾走するような前半はとても面白かった。
ゲイ・パレードにはチアガール姿で参加しました。同性愛者への偏見を逆手に取ったのです(これは実際の活動の写真です)。


後半は過激な行動をリードしてきたショーンと恋人のナタンの姿が中心に描かれます。ショーンの体調は徐々に悪化していく。心配した恋人のナタンはショーンと一緒に暮らすようになります。ここで描かれる恋人たちの姿は赤裸々です。えーと思うところもあるけれど、それが彼らが過ごした時間なのでしょう。
●同性愛者への偏見にキスで返答するショーン(左)とナタン


ショーンの体調の変化と共に映画はどんどん失速していきます。前半は疾走していた映画が徐々にスピードが緩まっていくかのようです。これは悪い意味ではなく、彼らの感じる愛情や怒り、恐れなどの丁寧な描写が中心になります。納得できるところもそうでないところもありますが、二人の愛情の深さには感動せざるを得ないのは、彼らの姿を包み隠しなく、正面から描いているからだと思います。同性愛者というと自分とは違う世界の事のように思えるけれど、そうじゃない、我々と同じだ、ということが判ります。


始めて真正面からゲイの少年を描いて80年代に大ヒットした『スモールタウン・ボーイ』が流れるシーンは美しいです。オリジナルの軽快なディスコ・ビートではなく、肉声のアカペラが中心のミックスが使われる。周囲からのイジメで自殺する同性愛の男の子(実話)に『死ぬな。逃げろ。』と呼びかける歌とショーンたちとの組み合わせは文字通り、心がえぐられるようです。


後半、また映画は疾走を始めます。この怒りをどこにぶつけたらよいのか。しかし、彼らも観客も生きていかなければならない。ボクは彼らがデモのプラカードに使ったスローガン『ボクは君に生きて欲しい = J'ai envie que tu vives』を忘れることができません。一見 過激に見える彼らの行動は全て、自分と恋人、友人たちに生きていて欲しい、というシンプルな愛情に基づいています。この世の中に真理というものがあるのなら、この想いはまさにそうだとボクは思います。
●J'ai envie que tu vives:私はあなたに生きて欲しい。今もこのスローガンの下でアクトアップ・パリの活動は続いています。


前半は政治を中心に、後半は恋人同士の愛情が中心に描かれる作品ですが、一言で言えば鮮烈な青春映画です。哀しさ、重苦しさのなかで爽やかさも感じてしまう。だから、この映画は余計に切ないんです。現在は彼らの闘いと医学の進歩の結果、エイズも症状を抑えることができるようになり、必ずしも死に直結する病ではなくなりました。しかし、同性愛者やエイズ患者に対する差別や偏見は残っている。今もアクトアップの活動は続いています。
●現在のアクトアップ・パリの活動




もう一本は、六本木で映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ

南北戦争下のアメリカ南部。男たちの多くは戦場へ行き、残された女子寄宿学園には園長(ニコール・キッドマン)や副園長(キルステン・ダンスト)、生徒(エル・ファニング)ら女性7人が生活していた。ある日 森にキノコ採りに出た生徒がけがを負った北軍の兵士(コリン・ファレル)と遭遇する。敵方である彼だが、見捨てることもできない彼女たちは屋敷に運んで介抱するが、園長をはじめ女性たちは、だんだんと彼に密かな欲望を持つようになる。


監督・脚本・制作はソフィア・コッポラ、70年代、クリント・イーストウッドが主演した『白い肌の異常な夜』を女性視点からリメイクして昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品です。


映画の冒頭から、やたらと砲声が聞こえてきます。深く静かな森の中にある寄宿舎ですが、戦場はそれほど遠くない。そんな場所にある、信仰を守り、貞淑な女性を育てる学校に居るのがニコール・キッドマンキルステン・ダンストエル・ファニング、まばゆい美女のそろい踏みです。そんな中に負傷した男が一人迷い込んだら、どうしましょう(笑)。うらやましい(笑)。観客としても目の保養なんですが、これはホラーです(笑)。
●女性だけの寄宿舎学校です。ここだけは戦火から離れている。1枚目左端がエル・ファニングちゃん。右から二人目が校長役のニコール・キッドマン

上から下まで白い服を着た貞淑な女性たち。森の中でフランス語を勉強し、夕食の際は『ポナペティ』と声をかける上流階級です。そんな彼女たちですが、若い娘たちも歳を経た先生たちも久しぶりに見る生身の男に心をかき乱されます。彼が担ぎ込まれた翌日からさっそく彼の部屋のドアに耳をつけて様子を伺ったり、彼を意識してアクセサリーをつけたりする。しかも彼は負傷して、歩くことができない。ルックスは良いが、気は弱くて頭は軽い男役、コリン・ファレルが良く似合っています。


光線が印象的です。蝋燭の光が多用されて画面が暗い。その中に白い服を着た女性たちが浮かび上がる。闇に隠れて顔はあまり見えないけれど、時折 蝋燭の光に照らされて見える、男に対する表情が美しくも艶めかしい。ニコール・キッドマンキルステン・ダンストエル・ファニングちゃん、三人三様の表情は言葉に出さなくても非常に雄弁です。3人とも適役というか、非常に良かったと思います。特にエル・ファニングちゃんの妖艶さには非常に感心しました。髪の毛をアップにしたところはベビーメタルのSU−METALちゃんみたいでした(笑)。
●映像はあくまでもスタイリッシュ。1枚目左からキルスティン・ダンストエル・ファニングちゃん、ニコール・キッドマン。美女のそろい踏みです。


この3人だけじゃなく、幼女から熟女まで皆、男に対して一物持っています。心の奥底に欲望を抱いている。頭の軽いコリン・ファレル(実際は知りません)でなくても、困ってしまいます。女性たちの欲望が裏目に出たときは、より一層こわーい。怖いんだけど、後味は悪くないです。バカな男はポイ捨てでいいかな、とボク自身思いますもん(笑)。

●ここだけは戦火から離れた、いわば密室です。安全を求めて逃げ込んだ男でしたが、安全ではなかった(笑)。女性怖い(笑)


女性の激しい欲望と残酷さを美しく描いた作品。女優さんのルックスも演技もインテリアも洋服も、女性たちの服装の白さと空間の暗さを強調した映像も美しい。セリフが少ないところもいい。ある意味 表現があっさりしているんです。ボクはどぎつい表現はあまり好きでないので、こういうスタイリッシュな作品は楽しかったです。