Sagittarius_Arrowの経済・金融日記

2018-05-15

続く新興国通貨安は在りし日のデジャヴか

米国インフレ率がじわり上昇する中、米連邦準備理事会(FRB)は、緩やかなペースながら淡々と利上げを継続する姿勢を示している。米国経済が堅調であること自体は昨年と変わらないものの、「低インフレ」「低金利」の「ゴルディロックス(適温相場)」からは徐々に脱する兆しもみえる。

米国の金利上昇が今後続いた場合、心配なのは新興国への波及だ。特に足元、米金利上昇とドル高に伴って、新興国通貨の下落ペースは加速しつつある。主な新興国24通貨のうち、年初来対米ドルで上昇しているのは中国人民元マレーシアリンギ、タイバーツくらいで、他は軒並み下落している。

特にアルゼンチンペソの下落ぶりは目立っており、年初来対米ドルで18%に及ぶ(5月9日時点)。他に目立つところでは、トルコリラが13%、ロシアルーブルブラジルレアルがそれぞれ10%近い下落幅となっている(全て年初来対米ドル、同9日時点)。

むろん、下落の背景にはそれぞれ異なる事情があるが、これらの国々には、経常収支財政収支が赤字、高インフレ、という主な共通点がある。

通常は経常赤字を海外からの投資マネーでファイナンスしているが、米国の金利が上昇すると、新興国から米国へ資本が流出し、新興国では通貨安が進む。通貨安が続くと輸入物価が上昇し、インフレが一段と加速、景気を腰折れさせるリスクが高まる。また、これがさらなる通貨安を生む。通貨安によって、外貨建て対外債務の返済が困難になり、債務危機に陥る恐れも浮上する。

実際、アルゼンチンでは、通貨安を起点に、債券安、株安のトリプル安が誘発されている。アルゼンチン中銀はペソ安に歯止めをかけるため、4月27日に緊急利上げを実施。以降たった8日間で3回の利上げを行い、政策金利(7日物レポ金利)を40%まで引き上げた。また、アルゼンチンのマクリ大統領は5月8日、同国政府国際通貨基金(IMF)と300億ドルの弾力的信用枠(FCL)設定に向けた交渉を開始したことを明らかにしている。

こうした動きは、14年1月の「アルゼンチンペソ・ショック」を彷彿させる。同年1月23日、アルゼンチン中銀がアルゼンチンペソ買い介入をやめる姿勢を示したことで、ペソはたった1日で11%も急落。不透明感が高まる中、グローバルにリスクオフとなり、日本にもそのしわ寄せが株安・円高という形で波及した。

現状は当時との類似点もある。アルゼンチンペソ・ショックに先立ち13年5月、バーナンキFRB議長(当時)が「量的緩和縮小(テーパリング)」を示唆し、米国金利の急騰とともに、株安、新興国通貨安が起きた。この「バーナンキ・ショック」後、米10年債利回りは3%付近まで上昇。FRBの緩和からの出口戦略による米金利上昇とドル高が、結果的に翌年1月のアルゼンチンペソ・ショックの火種となったのである。

今年2月にも米金利急上昇に伴い世界的に株価が急落したが、足元で米10年債利回りは当時と同様に3%付近まで上昇している。こうした類似点をみると、アルゼンチンペソ・ショック再来への懸念も浮上しやすい。

しかし、当時と決定的に異なるのは、アルゼンチンの外貨準備高だ。当時は相次ぐ介入により外貨準備高が290億ドルまで減少したことで、アルゼンチン中銀が介入の継続を一時断念せざるを得なかったが、現在アルゼンチンの外貨準備高は567億ドルと、当時の約倍まで回復している。今回は同国政府が早々にIMFと交渉を開始したことも安心材料となり、昨今のペソ安が4年前のように世界の金融市場を揺るがすほどのショックにつながる可能性は低い。

ただ、このように新興国通貨には投資家のリスク選好度が如実に反映されるため、特に株式市場との関連性は深く、その動きは警戒しておくべきだろう。前回「ゴルディロックス」と言われた04-07年は、市場全体がリスクオンのムードに包まれる中、米株高とともに新興国通貨も上昇を続けた。

新興国26カ国の通貨を指数化したMSCI新興国通貨インデックスはこの間約40%も上昇。FRBが1%から5.25%まで利上げを続けていたにもかかわらず、リスクオンは長期にわたり続いた。

現在も、15年12月以降、FRBが極めて緩慢なペースながら利上げを続けているが、米株価とMSCI新興国通貨インデックスは右肩上がりトレンドを維持しており、前回の「ゴルディロックス」に類似している。株高・新興国通貨高がひとしきり続いた後、07年以降サブプライム・ショックやリーマン・ショックといった金融ショックによって世界的にリスクオフに転じたことを踏まえれば、「足元の株高・新興国通貨高はいつまで続くのか」といった不安もよぎる。

しかし、これまでと比較すると、主に3点ほど重要な相違点もみられる。

第1に、新興国通貨の上昇にはまだ前回の「ゴルディロックス」ほどの過熱感はみられない。前回、新興国通貨インデックスは約40%も上昇したが、今回は同インデックスが底を打った16年初比で19%と、上げ幅はまだ半分程度にとどまっている。

01年以降、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を並べた「BRICs」(その後、南アフリカも加わって全て大文字の「BRICS」)という造語が脚光を浴び、以降08年まで新興国通貨全般に一本調子の右肩上がりが続いたが、足元の新興国通貨インデックスの上昇は14-15年の原油安と15年夏の人民元切り下げに伴う「チャイナ・ショック」による大幅調整(約15%)を経た後の反発局面であり、前回の約7年にも及ぶ新興国フィーバーとは環境が異なる。投資家も米金融ショック以降何度か新興国通貨の急落を経験しており、新興国投資には前回より慎重だろう。

第2に、米国の利上げペースも異なる。前回は04年6月から2年で4.25%もの利上げとなったが、今回は15年12月から2年で1.5%とペースは緩慢だ。

消費者物価指数(CPI)の前年比は、総合指数も、食品とエネルギーを除いたコア指数も2.0%を上回っている。しかし、これは前年の携帯電話サービス料金値下げの裏返しである上、IT化という構造的な要因も物価を抑えるため、インフレは緩やかな上昇にとどまり、今後FRBが利上げペースを一段と加速するリスクは低いだろう。

第3に、バーナンキ・ショックの際に注目された「フラジャイル・ファイブ」の動きも異なる。トルコインドネシア、インド、ブラジル、南アフリカは、海外からの資本流入に特に頼っている国々だ。体質的に米国の利上げに弱く「脆弱な5通貨=フラジャイル・ファイブ」と呼ばれ、バーナンキ・ショック後の4カ月間で15-30%下落した。

一方、18年2月の米長期金利急上昇以降5月9日までで、トルコリラは13%、ブラジルレアルは10%とやや下げ足を速めているものの、他はインドネシアルピアが4%、インドルピーが5%、南アフリカランドが4%と、まだ下げ幅は小さい。

むろん、新興国にとって米国の利上げや保護主義など、逆風は徐々に強まっているため、新興国通貨の急落がリスクオフにつながり、間接的に円高へ波及するリスクは警戒すべきかもしれない。ただ、上述した過去との環境の相違点を踏まえれば、新興国通貨の下落が世界の金融市場にショックを与えるようになる可能性は、今のところまだ低いようにも思える。

2018-05-10

米国の金融規制は金融業界にとって敵か味方か

ウォール街トランプ米大統領が掲げる金融規制の抜本的な緩和を実は望んでいない。米国でこんな観測が広がっている。議論中の法改正は中堅以下が主な対象。総じて大手への恩恵は乏しいが、現行規制の微修正が望ましいという空気すら漂う。なぜだろうか。

首都ワシントンでの渉外を担う米大手銀行幹部は、現行規制の大半が残ることよりも「厄介なシナリオ」があると明かす。規制が激減して「IT(情報技術)企業が参入することだ」。

17年11月。ウォール街を震撼させる出来事があった。

「(IT企業が)今の金融業界よりも良いサービスを提供できたとして、それが阻まれているのなら消費者の不利益だ」。銀行監督を担う米通貨監督庁(OCC)のノレイカ長官代行(当時)は講演で語った。「アマゾン銀行の誕生か」。米メディアはアマゾン・ドット・コム銀行業参入を巡る思惑を書き立てた。

その後就任したオッティング現長官も4月、IT企業を対象に「連邦単位で銀行業に準じた認可が必要かどうかを検討する」と発言。具体的な動きはないが、ウォール街は警戒を解けない。

米国では99年の法律で銀行と証券の融合が解禁された際、連邦法制下では異業種による銀行免許の取得が認められなくなった。日本でのセブン銀行ソニー銀行のような異業種参入の道は、実は、米国では極めて狭いのが実情だ。

世界最大の小売業、ウォルマートは99年以降、4度にわたって銀行免許の取得に動いたが、金融業界の反対と規制に阻まれ、結局07年に申請を取り下げた。州単位での動きも鈍い。オンライン決済のスクエアはユタ州に銀行免許を申請中だが、「棚ざらし」に遭い、認可のメドは立っていない。

強固な規制は新規参入を食い止める「参入障壁」にもなる。ウォール街にとって、規制が一気に緩んで新規参入に弾みがつくくらいなら、現行規制の微調整くらいのほうが望ましいともいえる。

アマゾンは銀行業に参入したいのか。公式に表明したことはないが、金融関連のサービスを手がけているのは事実だ。

JPモルガン・チェースと組み、「預金に似た金融サービス」も検討しているが、銀行業への参入ではない。米証券の制度調査担当は「(免許をとって)預金を受け入れると規制の網にかかり、本業の障害にもなりかねない。そんな事態は避けたいはず」と読む。

だが、潜在力は脅威だ。「ブランド力や確立された顧客とのアクセス。アマゾンには米国の銀行業で成功を収める条件がそろう」。米コンサルティングベイン・アンド・カンパニーは3月、こんな報告書をまとめた。

例えば、インターネット上に持つ圧倒的な顧客基盤。若年層を中心に、金融取引でも店舗よりもスマートフォンなどを好む傾向が強まる。大手銀もIT対応を急ぐが、需要をつかみ切れない。ベインの調査では、米国民の5割、18〜24歳に限ると7割がIT企業の金融サービスを利用することに抵抗がなかった。

アマゾンが既存顧客の半分でも「銀行サービス」に取り込めれば、5年で7000万人を超える「預金客」を獲得できるとベインはみている。これが実現すると、米銀3位のウェルズ・ファーゴに匹敵する「巨大銀行」が一気に誕生することになる。しかも実店舗が不要なので、あまり追加投資をかけずに事業を展開できるのだ。

購買履歴の膨大なデータも武器になる。就職結婚出産といった人生の節目を細かく把握できるからだ。融資住宅ローン保険資産運用など幅広いサービスをそろえれば、一人ひとりの事情に応じて興味を引きそうな提案絶妙なタイミングで仕掛けられる。

規制の重みから「アマゾンは法的な銀行にはならない」とすれば、大手金融は事業パートナーとしての「共生」も模索できる。だが、規制の障壁が低くなり、自ら銀行業の「本丸」に乗り込むなら、書店や小売業と同様に金融業界が侵食される「アマゾン・エフェクト」が吹き荒れる未来も否定できない。

ウォール街には経営を縛る「手かせ足かせ」のはずの金融規制が、今や自らを守る「頼みの綱」に映るのかもしれない。

2018-04-27

地銀が膨らませる外債損失

地方銀行米国債など海外債券の運用で損失を膨らませている。全国105行の債券運用益は5年前に比べ2600億円も減り、18年3月期は赤字になった可能性がある。損失の主因は米長期金利が上がって債券が値下がりしたことだが、もう一つの理由は十分な体制がない地銀による「素人運用」。金融庁は地銀経営の最大のリスクと懸念し始めた。

関西地盤池田泉州銀行は18年3月期に米国債の評価損を約140億円計上する。16年秋以降の米金利上昇で損失が膨らんだ。17年末の外債保有高は1500億円と前年末の半分に減らした。藤田博久頭取は「債券運用は難しい」と漏らす。

日銀マイナス金利も逆風となり、地銀が債券運用に困っている。全国地方銀行協会第二地方銀行協会の資料からまとめたところ、17年4〜9月期の「その他業務利益(国債等債券損益を含む)」は105行の合計で82億円。13年3月期の2675億円から97%減った。18年3月期は09年3月期以来のマイナスに陥ったもようだ。

主因は米国の金利上昇だ。米長期金利は16年7月には1.3%台だったが、足元で3%台にのせる場面があった。トランプ米大統領による景気刺激や米連邦準備理事会(FRB)の利上げなどで、金利は緩やかに上昇。金利が上がれば債券は値下がりし、米国債を持ち続ければ損失が出る。

FRBや欧州中央銀行(ECB)はリーマン・ショック後の大規模な金融緩和手じまいする「出口」に動く。中銀トップによる発言の微妙な変化に金利が過敏に反応し、「債券の運用は難易度が上がった」(ドイツ証券の山田能伸シニアアナリスト)。金融庁は16年末ごろから、地銀に外債運用に気をつけるよう呼びかけてきた。

それから1年以上たっても「まだピンときてない地銀が複数いる」(金融庁幹部)。同庁によると、18年3月期決算では、銀行融資などの本業で稼ぐ「コア業務純益」の予想額とほぼ同じ水準まで債券の評価損が拡大した銀行があるという。

表面化したケースもある。福島銀行は4日、含み損を抱えていた運用商品の売却で18年3月期に6億4100万円の損失を計上すると発表した。6億7000万円を見込んだ通期純利益がほぼ吹き飛ぶ。同行の広報担当者は「中身は言えないが、金融庁からいろいろ指導されている」と話す。

なぜ、地銀の外債運用がうまくいかないのか。金融庁は背景に「素人同然」(幹部)の運用実態があるとする。

「1人の運用担当者の勘で売買していた」。「運用チームが数人しかいない」。「値上がりで利益が出る商品と、値下がりで利益が出る商品を同時に買う。利益は決算に計上する一方、損切りはせず損失を抱えた」

金融庁が地銀の外債運用の実態を調べると、脆弱な体制がいくつも報告された。「地銀では運用畑は軽視される。運用の現場が長い頭取がいないことが象徴だ」。ある幹部はこう指摘する。

地銀にもやむにやまれぬ事情がある。日銀による大規模な金融緩和で低金利が続き、融資の収入は縮むばかり。高い利益を見込めるカードローンやアパートローンは、過熱を警戒する金融庁が監督を強化した。八方ふさがりになり、比較的安定した収益を期待して債券投資に頼った面がある。

金融庁は4月以降、外債運用のリスクが高い複数の地銀に対し、運用状況を改めて確認する実態調査に乗り出す。必要なら立ち入り検査をし、不備が見つかれば業務改善命令も検討する。

地銀による外債運用の損失は今後、次々に表に出る可能性がある。金融庁は19年3月期から、地銀などが保有する国債や外債の金利変動リスクを厳しく見積もる新規制を導入する。規制に触れれば警告を出す。地銀は含み損を抱えられず、評価損の計上を迫られる。

地銀には「金融庁の行き過ぎた干渉だ」(中部地方のある地銀幹部)との不満も強い。だが、身の丈に合わない債券運用を続ければ、損失が一気に表面化しかねないのも事実。国内では低金利、海外では金利上昇という2つの「金利難」に直面する地銀の悩みは深い。

2018-04-24

iDeCoの主体を投信にシフトするりそなHD

個人確定拠出年金は、「iDeCo」という愛称で呼称されるよりもはるか昔、01年の導入時点から、金融業界で「もうからない」といわれ、どの銀行も積極展開に踏み切っていなかった。

大勢は、今も変わらないのだが、りそなホールディングス(HD)は、iDeCoの普及に力を入れている。東京大阪に専用店舗を設け、5月には基本商品を定期預金から投資信託主体で運用するように促す取り組みが始まる。元本確保型がが65%を占めるとされるiDeCoで、投信を基本商品とする戦略を採ったのは、大手行で初の試みだ。はたして、りそなの「先手」に勝算はあるのか。

東京駅八重洲地下街の一角にあるりそな銀行年金相談特化型の店舗「つみたてプラザ」。ビジネスパーソンが行き交う都心に専門店を設けたのは理由がある。

いまはiDeCoの商品説明をする職員は通常の金融商品販売を兼ねることができない。大半の銀行は顧客からiDeCoの加入相談があっても、専用のコールセンターに電話するよう説明している。「放置していたのが不可解」(銀行関係者)といわれる変な規制だ。

りそなは「いずれ見直される」とみて、通常の支店で取り扱えるようになる時に備え、専門店でノウハウを蓄積してきた。見通しが的中し、所管する厚生労働省20日、18年度中にも規制緩和する方針を決めた。りそなは他行より早く店舗でiDeCoを取り扱える体制を生かし、顧客を広く囲い込む。

もう一つ先手を打ったのがiDeCoの商品だ。加入者が運用先を3カ月以上選べない場合、自動で定期預金に掛け金を振り向けてきた。5月からは投資家の年齢に合わせリスク資産比率を変える「ターゲットイヤー型」の投信にする。これは、加入者が年齢を重ねていくに従い、運用リスクを下げていき、投資する資産内容を変えていく仕組みだ。若いときは株式などへの比率を高め、一定のリスクを取って高い利回りを目指す。年金を受け取る時期に近づくと債券など安定資産の比率を高め、増やした資産を減らさないようにする。

投資信託先進国米国では、確定拠出年金(401k)の資産規模は5.27兆ドルで、株式やターゲットイヤー型の投信での運用が資産残高の7割近くを占める。07年に初期設定商品にターゲットイヤー型投信を導入しやすくし、資金流入が大きく増えた。日本でもこうした例を目指そうとしている。

りそなのほか、野村証券も初期設定を投信に変更する方向で検討に入った。ネット証券では楽天証券が今夏にも切り替える方針で、マネックス証券も今秋にも対応するという。

ちなみに、手数料(信託報酬)は年0.2-0.3%台。売れ筋投信は年1%を超える。銀行からすれば、かなり低い手数料だ。単年度でみれば、決して儲かる商品ではない。ただ、若い世代を取り込めば、運用期間は40年近い。それだけりそなとの付き合いは長くなる。この間、住宅ローンや他の金融商品などでも取引を期待できる。

iDeCoは少額投資非課税制度(NISA)に比べて、税制上の優遇など優れた点が多い。それでも加入者がNISAの10分の1以下の82万人にとどまっているのは銀行に責任の一端がある。薄く、広く、長く――。そんな戦略が利益に結びつくかが今後の普及のカギを握る。

2018-04-15

景気拡大への道のりをたどる日本

日本の企業景況感は、80年代後半から90年代初頭のバブル期以来の高い水準にある。3月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)では、中小企業の業況判断DI(良い-悪い)が、製造業でプラス15、非製造業でプラス10と、いずれも2桁のプラスを記録した。

中小企業は大企業中堅企業に比べ景況感の改善が遅れがちで、水準も低い傾向にあるが、その中小企業においてですら、業況判断DIが、製造業、非製造業ともに2桁となるのは、91年9月調査以来である。

労働需給は、バブル期と同程度に逼迫感が強い。失業率は1月に2.4%まで低下し、93年4月以来の低水準。有効求人倍率は1月に1.59倍と、バブル期の最高(1.46倍)を超え、74年1月以来の高水準に達した。日銀短観では雇用人員判断DI(過剰-不足)が、大企業でマイナス22と92年3月調査以来、中小企業はマイナス37と91年12月調査以来の大幅マイナス(不足感が強い状態)となっている。

労働需給の逼迫は、賃金の増加につながる。2月の現金給与総額は前年比1.3%増と、約1年半ぶりに2カ月連続の1%超えを記録した。賃金の増加ペースは企業収益に比べ弱いとの批判がつきまとうが、賃金は減少が続く局面から脱却し、増加局面に転じたとみていいだろう。

自然に考えれば、賃金の増加は、個人消費の増加につながる。個人消費の増加は、企業の設備投資意欲も刺激し、最終的には内需中心の景気拡大を促すだろう。景気拡大が続けば、労働需給もさらに逼迫する。この結果、賃金増加の動きが続くことになり、日本景気は内生的な好循環のもと拡大局面が長期化する可能性が高まる。12年12月から始まった今回の景気拡大は、高度成長期の「いざなぎ景気」をすでに超え、02年2月から73カ月間続いた戦後最長の景気回復が視野に入る。

しかし、日本景気の先行きに対する慎重な見方は根強い。景気拡大が長く続いたから、そろそろ景気拡大は止まるという見方は、直感的には理解されやすい。

過去の経験が人々の見方を慎重なものにしている可能性もある。バブル崩壊後の日本経済は90年代後半にアジア危機金融危機、00年代初めにITバブル崩壊、そして00年代後半にはリーマン・ショックと、数多くの大型不況を経験した。今はいいかもしれないが、どうせそのうち、またひどい目に遭うという見方は、人々の心にそれなりの説得力を与えるのかもしれない。

ただ、こうした感覚が人々の心に植え付けられる間、日本経済では企業のバランスシート調整が大きく進んだ。昨年末の日本企業(金融・保険を除く)は、自己資本比率が42.7%と54年6月末の統計開始以来の最高を更新。保有預金は196.1兆円と、9月末時点の199.6兆円から減少したものの、過去最高水準を維持している。バランスシート問題で苦しんだ日本企業は、今となっては、借金をしない、現預金を有効利用できていないなどと、バランスシート問題とは真逆の批判を受ける立場にある。

バランスシートがこれだけ強靱なものとなれば、海外景気の悪化、需要の一巡などによる在庫調整、消費税率の引き上げといった負の外生的なショックが今後発生したとしても、日本企業は大きな雇用調整に踏み切らずに、こうした負のショックを乗り切るだろう。

リーマン・ショック時のように、金融市場で予期せぬ急変が大規模な負の外生ショックとなり、日本経済を襲う可能性はゼロではないだろう。しかし、20カ国・地域(G20)を中心とした世界の金融当局は、過去の教訓を踏まえ、規制を通じ金融システムの監督を強化している。リーマン・ショックのように、金融市場の急変が世界経済を危機的状況に導く事態に直面することはないと期待される。

今後、大規模な負の外生ショックはなく、海外景気の悪化といった一般的な外生ショックのみが発生するとすれば、日本企業は大規模な雇用調整に踏み切ることなく、個人消費の底割れも回避されるだろう。個人消費が安定的に推移すれば、企業の設備投資意欲が大きく後退することもなく、外生ショック効果の一巡とともに、日本経済は自律的回復をみせ、景気後退短期かつ浅いもので終わるとみられる。日本経済は、短期的には循環的な景気変動が生じるのだろうが、中期的には緩慢なペースかもしれないが拡大を続けると予想される。