交歓SM日記

2013-01-24

SandM 0124

sitarです。ものすごく、ものすごくお久しぶりなのでこっそり更新します。

しばらく読むばかりの日々を過ごしていました。

感想メモするのももどかしく、次へ次へとただ読む。

体内に活字を貯める為に読んでいるような変な感じ。

文字の餓鬼道のような期間が過ぎて、少しペースダウンした所にやってきたのがこの本。

国書刊行会のが素敵だけれど欲しい本が有り過ぎて、お財布と相談して文庫で購入しました。

著者は「白い果実」の訳者にも名を連ねていたけれど、小説を読むのは初めて。


冬眠者、人形ゴースト、版画、落ち葉焚き、痘瘡、聖なるもの、怖いもの

タイトルは深く青い鉱物。私の好きなものたっぷり

ネタバレしない程度にレビューしたつもりだけど、これでもかなり書き過ぎかもしれません。

上記のキーワードだけでわくわくできる方は、迷わずお読みになるのをおすすめ致します。

S「ラピスラズリ山尾悠子 

ちくま文庫



この本は短編と中編の5つの話でできている。

「銅版」「閑日」「竃の秋」「トビアス」「青金石」の5編。


「閑日」と「竃の秋」は時期の前後はあれど同じ場所でのお話

中世あたりのヨーロッパの一地方だと思われる。

領主の住む大きな館と、使用人たちの棟。冬だけに使われる塔の棟。

物語は自在に広がり戻り、私の想定ルートからはどんどん外れて行く。

こういう話だろうという私の予想は当たらない。


「トビアス」の舞台日本の廃市。廃市というと福永武彦を思い出すが、おそらくそれ位の日本風景

でも時代位相はわからない。

なんとなく広島とか岡山あたりの感じで、海があるから広島だろうか。

ビアスは犬の名前。愛らしく忠実で、ゴム人形に魂を与えた犬が出てくる。

この犬が出てきた所から、私は突然数倍の愛しさを覚えて読みはじめた。

車の後を走ってついてくる愛しいトビ(思い出すだけで涙)


最終話「青金石」で時間軸は一番古い時期、もしくは「竃の秋」の少しだけ後の時期に移る。

ここで登場するのはお馴染みのあの聖人なのだ

つの世界、5つの時代時系列があるようでないようで、前後しながら漂っている。

「青金石」の後で冒頭の「銅板」に繋がり(直接的ではないが)、円環になって廻り始める。

つの季節が場所と時を変えながら、くるくる螺旋状に廻っている。


「銅板」に出てくる旅人と母の過去とか、人形役割とか、結局どうだったのか。

謎が謎のままになっている所が多いのが良い。

セピア色の雰囲気があるのに、様々な色や香りや古い布や新しい布の質感があふれている。

おいしそうな料理も、あっさりからこってりまで堪能できる。五感に訴える小説だと思う。

それにしても、ラピスラズリに辿り着いた時の清々しい読後感といったら。

季節で言うと、今くらいの春待ち時に読むのが一番ふさわしい気がする。




山尾悠子幻想文学の人だが、最初SF誌に書いていて長く筆を置いていた方だと聞いている。

私は当時ほとんどSFを読んでいなくて、幻想文学を読んでいた頃には氏は活動されていなかった。

澁澤龍彦に熱を上げていた頃、名前を目にしているはずだけれど作品に触れる機会はなかった。

それは単に私の不勉強によるものだけど、今になって読める事が嬉しい。

過去のものを遡って読めて、新しいものを読める可能性もある事が嬉しい。

MM 2013/03/06 20:21 ネット経ちしてたので今頃で恐縮ですが、おおーーS様のレビューが!!!!更新嬉しい嬉しい!!!!
「冬眠者〜」なんとも心惹かれるキーワードの連打です。これらがどう繋がった物語なのか気になります。五つの物語が直接でなく連なり円環になっていくというのがなんとも幻想的でロマンティック。
そしてトビアスが気になる〜!某所で「日本人はモノに心や魂が宿るお話が好き」という意見を目にしたのですが私もそうで、人形やロボットや樹木や岩や、それらが心を持って動きだすお話には弱いです。付喪神/八百万の神信仰の伝統かしら。
私は文章の中の色や香りや質感への感性が鈍くて、読んでても気が付かなかったりすることが多いのだけど、S様はそれら五感を敏感に読み取ってられるので、すごく参考になります。
「過去のものを遡って読めて、新しいものを読める可能性」ほんとそうですよね!大昔読んだものが今になってふと繋がったり。そこからまた新たに広がったり。だから本を読むのは楽しい、やめられないです。

S 2013/03/06 22:50 この気になるアイテムの数々は、Mさんもきっとお好きなのではないかと思います。
全然違うけど、幻想文学とSFの間というと山田ミネコの漫画(最終戦争シリーズ)を思い出したりします。大昔読んだものが繋がるのって小説だけではないのですね。やっぱり本は面白い!

2011-09-02

SandM2011-09-02

台風どんどん近づいてますねえ。ゆっくり近づいてるのが微妙にイヤンです。

さてさて、今回はS様にお借りした本を。

感想思いっきり被ってる(つかほぼ同じw)な上ネタばれですが、気にせずゴー!

M「虐殺器官伊藤計劃

ハヤカワ文庫



タイトルに少々ビビリつつ読みましたが、いや面白かったです。


まず「うわあ」と思ったのが、やはりその引用の多様さ。

S様も書いておられる通り、映画聖書言語学進化論軍事歴史、色んなとっから自由自在

モンティ・パイソン結構頻度多くて、お好きなのかなあと思ったり。「黒い騎士アーサー王と戦う映画」というのは「ホーリー・グレイル」ですね。SWD=シリー・ウォークデバイスパイソンネタだろうなあ。

ジョン・ポールという名前面白い。両方とも通常名前に使われますよね(違うのかな?)。某ビートルズの二人とも読めます

あと、「フジワラという名前のトウフ・ショップが使っていた車」はちょっと笑った。イニシャルDですやん!


ま、そういう引用の楽しさもあって、サクサク読み進めてたんですが。


読み始めてすぐ違和感があったのが、主人公のナイーブさです。暗殺を主な任務とする特殊部隊員にしては驚くほどの青臭さ。

読了後、解説で、このナイーブさは作者の狙ったものというのを知ったのだけど、(「ぼく」という一人称も未成熟さの演出?)ラストまで、いまひとつ腑に落ちないまま読んでいました。


そのナイーブさ引きずったまま、第三部でルツィアとの進化適応良心の対話に突入したんで、ちょっと読むのが辛くなったり。第四部の「マスキングされたなら殺意はあるのか」や「意識モジュールの問題」ともども、“このへん作者のテーマなのかなあ”と思いつつも、どうも理屈先行で、少々しんどかったです。


そしたら第五部で、ジョン・ポールの目的が明かされて、さすがにびっくり。

散々何度も「完璧正気」と描写されてるにも関わらず、やはり狂気しか思えないこの行動原理。いや「愛する人を守りたい」という動機自体はまっとう、と言える、の、か?だから彼は「正気のように見える」のか?

しかし動機はまっとうでも、その為の手段がもう無茶苦茶なんですけど〜(汗)。

でもまあ、ルツィアが死んで、ジョン・ポールがあっさり出頭しようというのは納得できました。守ろうとした人が望んだことですもんね。


問題はエピローグ。ナイーブな「ぼく」が、虐殺言語を使ってアメリカ内戦を引き起こさせる。「命令とは関係なく、ぼくの意思でこの虐殺に終止符を打つつもり」だった彼が。


えーなんで??なんでそうなるの??


彼が罰を欲していたのはわかるんです。本当に罰してほしかったのは母親で、でももういないから、恋に落ちた相手でありジョン・ポールの愛人であるルツィアに母親役割投影し、彼女からの罰を欲していた。

でもルツィアも、もういない。しかも、愛されていると思っていた母親の中に、自分存在殆ど意味をなさなかった。あの視線愛情からではなかった。


彼にとって、自分の罪を罰する相手は、いくばくなりと自分愛情を抱いている相手からでないと意味がなかったのも。

から母親ライフログを読んだ時、彼は「真の空虚に圧倒」され、自分自分を罰しようとしたのも。


けれど、一時心を通わせたルツィアの望みは、アメリカ虐殺を引き起こすことではなかったはず。

虐殺言語によって引き起こされた他国の内戦のおかげで、アメリカ平和が保たれている事実を知らしめ、他人の多くの死によって享受している自由への責任をとる道を探ってほしいと思っていたはず。だからジョン・ポールも出頭しようとしたんだし。

けど主人公が取ったのは全然方向違いのやり方だった。


ここに至って、彼がナイーブに設定されているのは、ここへ持っていくためやったんかな?とチラリ思ったりしました。

母親への復讐が見え隠れする青臭い自罰。しかも本人は買い貯めた食糧のある自宅で安穏とピザを齧りながら、(自分引き起こした結果である)外で聞こえる銃撃音を「うるさいな」と感じ、しかし「ここ以外の場所は静かだろうな」と考えることで自己満足。エエー。

それって「罪を背負うことに」なるんかなああああ。

全然「背負って」なんかないですよね。単なるポーズにしかすぎませんよね。

本音は荒れた世界と隔絶して、自らは安全な繭の中でゆっくりと死を待ちたいだけですよね。

胎児連想させるその姿はなんとも子供っぽい、未成熟ものに見えてしまます

そんな“ナイーブ”な彼だからアメリカ虐殺をとか思いついたんかな、とか。うーんうーん。


最後主人公が虐殺言語を使って内戦を引き起こすというラストは、十分衝撃的でドラマティックだけど、やっぱり動機がよくわからん、つうか弱いといえば弱いので、そこを真面目に考え出すと、ちょっともにょってしまいました。

なので、色々こねくりまわして考えてはみましたが、今ひとつよくわからないなあ。

まあドラマティックやからええか、みたいな(いいのか)。

SF的な様々な道具立ては素敵だったし軍事トリビア面白かったしね!

M「デンデラ佐藤友哉

新潮文庫



実は以前「エナメルを塗った魂の比重」を読んでいまして、その余りのアイタタタタぶりが印象的でしたんで、今回老婆ばかりのお話と聞いてちょっと意外でしたが、これはこれで楽しく読めました。

70オーバーの老婆達が皆とんでもなくタフなところとか、“70年頭を使わず生きて”きて、おそらく教養もないだろう斉藤カユが普通に会話で「韜晦はやめろ」「愚弄するのか」という言葉を使うところとか、ありえないと言えばそうだけど、「ですます」調の地文といい、狙ってやってるんだろうなあと。

その辺がいかにも物語チックで、リアリティ排除されてるんで逆にスルスル読めましたねえ。ほんと数時間で読めちゃった。


人喰い羆の描写はえぐいと言えばそうですが、三毛別羆事件は読んでたので、へこたれることなくクリア

貧しい村の風習「お山止め」「指切り」「雨止め」「垂れ口」「垂れ股」という数々の暴力も、悲惨なんですが、前述の「つくりごと」感で大丈夫でした。


話は二転三転。

始めは村を襲撃する話かと思ったら羆との戦いで、かと思ったら疫病の話が出てきて、したら仲間割れで堂々たる100歳老婆が中盤であっけなく死んで、残りの穏健派筆頭も羆に殺されて、50人いたデンデラの人数は6人に。うち三人はラストまでに死ぬし、残り三人はどうかなあ。デンデラ再建すると言っていましたが難しいかも。(このへんあまり関心持てず…笑)


でも主人公の斉藤カユは最後まで走る。そこがちょっとカッコ良かったかな。

考えさせられるとか衝撃とかはないけど、エンタとして楽しく読めました。


しかし解説にはぐったり…。すごいなあ、ここまで本文の面白さを削ぐ解説久々に見ましたよ。

まさに「生きた小説を標本にする」解説ですな。

S 2011/09/03 22:45 この本についてはお会いした時にちょこっとだけ話をしましたが、やっぱりそうそう!そう思うよね!

「虐殺器官」では一番ハートを鷲掴みにされたエピソードがSWD=シリー・ウォーク・デバイスでした。馬鹿歩きの回ですね。もう完全に脳内で再現できたもん!
「ホーリー・グレイル」は観てないし、イニシャルDも読んでない。きっと気づいてないネタがまだまだあるのだろうなと思います。
主人公のナイーブさと身勝手さは、私もついて行けなかった。賢い子供という感じです。ルツィアに対する気持ちも身勝手な妄執に近いし、閉じてるなぁという印象でした。
でも映像を観たような気持ちにさせる描写の上手さとか、細部の設定や小道具まで作り込まれた緻密さは読んでいて引き込まれたし面白かったです。

「デンデラ」はもうね。実写というよりもアニメな感じがしました。
老婆達の目的が場当たり的にどんどん流れて行くのも、元より彼女達には思想ありきというより状況次第な訳で納得してしまった。
突飛な言動もMさんが書かれてるようにリアリティ排除に一役買っていますね。あえて感情移入できないように書かれていて、キャラクターと割り切る事で物語につきあって行けているような気がしました。
熊に下半身を持ってかれた友人が槍持って闘う、とかね。リアルに考えたらやってられませんもの。

今年映画化されていますが、「諦めずに生きるって素晴らしい!」という風に宣伝されていましたね。
それこそやってはいけないパターンじゃないのかなぁと思います。
老婆達を超人のように、アメコミのダークヒーローように描いてこそ面白みが生きるような気がします。
でも機会があれば映画も観てみたいです。良い話にしておかないと宣伝できなかったのかもしれないし、わずかに期待も残しておきます(笑)

MM 2011/09/06 18:28 そうよーそうなのよ!

シリー・ウォーク・デバイス素敵よね。このへんのネーミングセンスとかは結構好きです。世代近いからというのもあるかもしんない。
ただ主人公はね…。戦闘中はあんなにプロな振る舞いなのにね。なんかすごいアンバランスで、読みながらずっとお尻の座りが悪い気持ちに。
だからといって、この本そのものが嫌になるという訳ではなくて、ちょっとひっかかるくらいのものですんで、全体としては私も面白かったです。

「デンデラ」はねー。笑っちゃうよね。
人喰いシーンがアレでナニなんで、おおっぴらには言えませんが、ゲラゲラ笑いながら読んでちょうどいいような気がします。

それが「諦めずに生きるって素晴らしい」という方向に変換されるとは。いやいやちょっと待って(笑)。そんなええ話ちゃうし!。感動大作になってるのかしら。ひえー。
違うよねえ。

>アメコミのダークヒーロー
それだ!それなら私も観てみたい。
まあ実は原作に忠実かもしれませんね。実際見た方の感想楽しみ。私?私は…TV放映されてるときにTVつけてたら見るかも〜(汗)

2011-08-23

SandM2011-08-23

このところ読書欲がふつふつと沸いており、感想メモたまるばかりのSです。

更新は遅々として進まずですが、とりあえず3冊いきます。

いつもながらネタバレです。未読の方はどうぞご注意下さいませ。

S「柘榴スープ」マーシャ・メヘラーン 

白水社



テヘランから逃れてきた美しい三姉妹アイルランド田舎ペルシア料理店「バビロンカフェ」を開く。

この設定だけで読みたくなるでしょう?各章ごとの扉絵にはアラベスク模様のタイルや細い首のガラス瓶やスパイスが書かれていて美しい。その裏にはペルシア料理レシピひとつずつ。バラの香りとスパイスとハーブが漂うようで心が踊る。


長女には料理に天賦の才があり、次女はとても繊細で真面目な性格シナモンローズウォーターの香りがする自由奔放な三女。

大家さんのエステルデルモニコさんの可愛さいじらしさ。妖精フィネガンを待ち続けるミニマートのおじさん。パブオーナーにに牛耳られている古い体質の村人達、スパイスの香りに抵抗できず新しい物を受け入れる人達など、登場人物が魅力的で楽しい

エピソードのひとつひとつがとても愛しく思えて、どこに涙する所があるのかわからないまま涙ぐんでしまったりする。知らない土地の話なのに、どこか郷愁を覚える。



美しい3姉妹過去はとても厳しい。イランでの日々もロンドンに来てからも試練の連続で、過去の重みに胸が痛む。それでもこの姉妹大丈夫だと思える何かがある。それは長女が作る料理の力なのかも。

ショコラ」とか「マーサの幸せレシピ」とか映画でよくあるけれど、愛情ある手が作った食べ物の起こす魔法のようなものがあると思える話が好きだ。ミントを山ほど刻むシーンが出てきて、そこがとても気に入った。



ペルシア美人、ざくろ色の壁、美しいティーポット、アラビア文字、青いタイル。全てが美しくて素敵。映画で観てみたいような、イメージの中で大切にしたいような本だった。結末も良かったし、久々に読後感の良い本。

S「デンデラ佐藤友哉 

新潮文庫



70歳を迎えて山に捨てられた老婆達が生きて村を作っていて、人喰熊と戦う話。

お話としては以上!なのだけど、面白かった。

サバイバル小説。63歳から100歳の老婆達がタフ!私よりもずっとタフ!



名前がみんなカタカナ可愛い。おばあちゃんぽくもあり、アニメ的な感じもする。

私の祖母の名はミツだったし、姑の4姉妹も全員カタカナ2文字の名前なので妙に親しみが湧いた。


主役のカユをはじめ老婆達の言葉遣いが不思議方言だと男言葉の所も多いし、おかしくはないのだけど。

お互いをフルネームで呼び合っているのも、なんだか女学生みたい。

母熊・赤瀬の本能で動く感覚が好きだった。人間はそれぞれに思想や私利私欲があるが、熊は怒りと空腹で動く。

熊の方により共感できた。熊、頑張れ!全員もう食べちゃえ!と思ったりした(ごめん…)


とにかく熊が出てきてからは流血の惨事グロテスクな描写が多い。

スプラッター映画コミックを読んでいるような感じで、グロイけれどあまりリアルさはない。

とにかくほとんど食べていないはずの老婆達の体力が素晴らしいので、リアルさがほどよく消えている。

ラストはカユと共に走っている気がして、カユとも熊とも一体になったような不思議な浮遊感があった。

この終わり方は、なかなか良いなと思った。


小説スピード感があってどんどん読めて面白かったけど、文庫版解説がいただけない。惜しい。

テクスト解体して分類して、なーるーほーどねーと納得する。

構造的に民俗学的に様々なアプローチでよく説明されていると思う。

でもこれを読んで一気に冷めてしまった。生きた小説を標本にしてしまう苦手なタイプの文学評論

S「虐殺器官」伊藤計劃 

ハヤカワ文庫


この本のタイトルはずっと気になっていたのに、著者の訃報とほぼ同時に知ったので読みそびれていた。

自分よりも少し若い人が書いた本で、しかも既に亡くなっているとなると…なんとなくフィルターをかけて読んでしまうような気がして。今回は文庫版を見かけてなんとなく手に取って読んでみた。



タイトルと著者名の文字のイメージでもっとゴリゴリSFなのかと思えば、ほぼ現代そのまま。少し違和感を感じる程度に斜めにスライドした世界

微妙に気持ち悪くてその加減が絶妙で、ぐいぐい引き込まれて読んだ。


とても映像的なものを書く人だと思った。人工筋肉とか、光学迷彩とか、身体を拡張する様なハードではなくソフトウェア武器とか。人工筋肉突入ポッド飛行機の羽根、それを作る過程が印象に残って(目にしてないのに)目に焼き付いてしまう。

もしかして湾岸戦争以降、本当は世界はこんな風になっているのではないかなと思えるリアルな空想。



構想も面白かったけれど、全編に仕込んである映画キーワードにやられた。

カフカエンゼルハート、リッジモンドハイ、チョムスキー、ジェイコブズラダー、モンティ・パイソン…。

あの黒魔術の街で浮いてるミッキー・ロークの佇まいとか、言語学とか文化人類学の用語とか懐かしすぎて。

大学時代の私の周りにあった言葉映像感情がふわふわと立ち戻ってくる。

でもこれも現実にあった私の過去とは少しずれた過去みたいで、なんとも不思議感覚



続編にあたる「ハーモニー」も面白かったけれど、「虐殺器官」の方が引力が強いと思った。

それは同時代性を強く感じる作品だったせいかもしれない。

ここに出て来るキーワードになんら感情移入しない世代の人が読む時、私と全く違う世界を見ているのではないだろうか。

主人公のクラヴィスとか戦友ウィリアムズ虐殺をもたらすジョン・ポールの内面感情にはあまり共感はできなくて、舞台装置ばかりをじっと見ていたような印象がある。

キーワードに引っ張られずに読むと、もっと登場人物の内面に沿うことができるかな

しばらくしてから、また読み直してみたい一冊。

MM 2011/08/23 07:14 「柘榴のスープ」という字面が既に素敵!「蝶々の纏足」とか、字面だけでウットリしちゃうタイトルってありますが、これもそんな感じです。(といいつつ「蝶々の纏足」読んでないのですが(すみません:汗)。
ペルシアとアイルランドの田舎の出会いというのも魅力的。お互いとっても異文化な相手。戸惑い、反発、歩み寄り、受け入れ、そんな過程が描かれてたら、私たいてい大喜びです。
中でも“妖精フィネガンを待ち続けるおじさん”が気になりました。フィネガンってどんな妖精なのかな〜と検索してみたのですが、ハリー・ポッターシリーズかゲームしかひっかからず。アイルランド古来の妖精じゃないのかしら。「フィネガンズ・ウェイク」も連想したけど違うよね。
料理の力、普段の実生活でも感じるときあります。「同じ釜の飯食った仲」じゃないですけど、共に作り共に頂くというのは不思議な淡い絆が出来たりするような。レシピがあるのも楽しそう。

「デンデラ」「虐殺器官」の感想が読めて嬉しいです!私も無事読了しましたので、次回感想書きますね。結構同じポイントで感じいってたりしたので面白いです。特に「デンデラ」は、ほぼ同じ感想になってしまいそう〜。まあそこも合わせてさらっと書いてみます♪

S 2011/08/23 10:49 「柘榴のスープ」の字面は良いですよね。ざくろじゃなくて柘榴。
「蝶々の纏足」とか、「胡蝶の夢」とか「桃園の契り」とか、漢字のもつ雰囲気でうっとり感が増します。
ずっと読みたくて読んでない本なので、「フィネガンズ・ウェイク」との関連は私も気になりました。ジェイムズ・ジョイスもアイルランドの人ですものね。
ペルシア料理のレシピは試してみようと思います。食べた事があるものがほとんどなくて、成功なのか失敗なのかがわからないかもしれないけど。
「デンデラ」「虐殺器官の感想、楽しみにしています。どちらも映画を観てる感覚でどんどん読み進み、あっと言う間に読了した本だったので、大事な所を読み飛ばしている気がしてなりません(汗

2011-08-02

SandM2011-08-02

以前、NHKスペシャルで「孤独死」が取り上げられたことがありました。

かなりの衝撃だったこの案件、今回関連本を手にすることが出来たので更新〜。


例によって内容の詳細説明はナッスイングですアハハ。

では「かんそう」ゴー。

M「ひとり 誰にも看取られず」NHKスペシャル取材班&佐々木とく子

阪急コミュニケーションズ



ううううう〜。幾つか事例が紹介されていますがコレが辛い辛い。

死後三年経過し白骨死体になるまで発見されなかった男性なんて最たるもの

その間誰も訪ねる人も連絡する人もなかったということだものね。

他にも、妻子もなく最後まで職安に通い求人票の束の中ひっそり死んでいく男性

認知症になり、親族団地へ放り込まれた女性


うーむ、他人ごとではない!


孤独死」という問題が表面化してから地域行政ボランティアによって様々な取り組みがされていることが紹介されていて、一定の効果はあるとは思うんですが、

でも結局は、「本人が孤独死したくないと思い行動する」に勝る予防策はないんだろうなあ…。

そんな気がしたです。

家族親族との連絡を絶やさない、地域交流する、辛いときは率直にSOSを出す、などなど…。


でもなかなかそうはいかないですよね。家族がいなかったり、いても疎遠だったり、交流できる地域組織がわからなかったり、SOS出せる仕組みが身近になかったり…。


実は結構孤独死でなにが悪い」という意見もあるそうです。

でも死んで発見までに時間がかかると、遺体は悪臭を放ち蛆がわき下手すると床にまで人間の脂は染み込み、賃貸住宅なら前面改装費用も手間もかかる。

私個人は、誰にも看取られず死ぬのはこれまでの自分生き方から致し方ないと思ってはいるのですが、後始末で迷惑をかけることは避けたい。

なのでゆくゆくは、遺言執行人を指定して「死後事務の委任契約」を結んでおくか、もしくはNPO法人のサポート契約を利用したいと思っています

とりあえず後始末にかかるお金くらいは貯めておかねば〜!!


話それました。

事務処理はそれでいいとしても、死後何日も放置されていたら、直後の後始末は大変です。

なので可能な限りすみやかに発見されるようにしたいものです。

となると、できるだけ他者との繋がりを心がけておかなくてはいけないのでしょうね。

しまった、苦手だな…うーん。あれだな、「あんしん電話」とか設置しなくちゃだな。

M「男と男の恋愛ノート」簗瀬竜太伊藤

太郎次郎社


まあ、「あんしん電話」は最後の手段として(えっ)

孤独死の本を読んで、

家族がいなかったり年上だったり、いても繋がりが希薄なら、他人と繋がっていくしかない。それにはどうすればいいのか?」

という繋がりで読み始めたこの本。


これは、ゲイである著者二人が、家族へのカミングアウトを経て、

母親と暮らす伊藤家に、簗瀬氏が同居してからの日々を書いてるんですが


いや〜、もう、壮絶!


赤の他人が一緒に暮らしていくのは、本当に並大抵では出来ない!

このケースは、いきなり相手の母親と同居なんだからそのハードルたるや。

しかも掲載されている家の見取り図見て絶句

トイレ風呂洗濯全て母親のベッドがある部屋に隣接、その部屋を通らねば二階にもトイレにも行けない。

これは厳しすぎるでしょう。というか無理でしょう。

そりゃ何をするにもいちいち気を使うし、それくらいならと洗濯物を実家に持っていくのもわかる。

それを「図々しくなって自由に使えばいい」というのは無理があるかと思います伊藤さん。


転がり込んできた側が当時無職という負い目もあって母親家事を手伝いだす、すると母親が段々「手伝ってくれて当たり前」と思うのは当然で、そうなると初めは善意で始めたことでも、しなければならない義務・プレッシャーになっていくわけで、でもパートナーは「仲良くやってるじゃん」くらいの意識しかなくて


そりゃー大喧嘩になるわ。修羅場になるわ。

でも大喧嘩しながら乗り越えていくのがすごい。そこを赤裸々に書いたこともすごい。


パートナーシップの話からは少しずれますが(でも繋がってますが)、

家族、ことに母親に対しては、どうしても無意識で甘えちゃうんだろうなあという事も思いました。私含め。「してくれて当たり前」と。

でも実は全然当たり前じゃないんですよね。

簗瀬さんと母親の会話にも触れられてるけど「生活をするってことは人間の基本」なのだ。

橋本治いわくの「自分の食い扶持は自分で稼ぐし、自分の汚れ物は自分で洗う」のが当然なのだ。


それを自覚して、自立した人間となったとき、よりよいパートナーシップを相手と築いていく「自分の足場」が出来るんじゃないかと思う。


そう、あくまで足場。あくまで「スタートラインに立てる」というだけです。

誰かと一緒に住んで生活を作り上げていくには、他にもいろんな努力が必要ではないかと。

その中の一つが、陳腐ですが話し合い。それもマメに。

なんつうか、生活の一つ一つの作法が違うから、いちいちしょーもない細かいとこでひっかかったりするのですね。

それをお互い譲ったり許したり受け入れたり、そういう作業を細かくしていくうちに、「二人の作法」が出来上がっていくんだと思いますです。

時間も根気もかかりますけど。相手と一緒にいたいという気持ちがないと続かないですけど。


本書の終わりでは、またまた喧嘩して同居を半分解消している描写があり、ちょっと心配だったのですが、これより10年後に出た某文庫の後書きに伊藤さんが登場しており、変わらず簗瀬さんと一緒にいるご様子でほっとしました。

S 2011/08/06 23:14 うーむ、身につまされる2冊です。
老い先の住まい方を考えていて最近思うのは、他人とつきあう生活に慣れておかなきゃなということ。
グループホームとか施設とかで暮らす事になると(自宅であっても他人の手を借りることになるなら)共同生活は基本なのだなぁと。
他人が近くにいること自体がストレスだと、日々の辛さは倍増だと思うのです。
独りで気楽に暮らせていたら、それが続けられなくなった時に急に協調性を発揮なんてできそうもないし。
孤独死でも良いのだけど(ご迷惑をかける事は別として)、そこに至る迄の暮らしは想像を超えています。
他人と笑って暮らせるようになるには、Mさんの書かれている通り「自立した人間」である事が前提である気がします。
他人の生活作法を受け入れるにも、自分の作法を客観的に見られていた方が折り合いのつけ所がわかりますしね。考えさせられるテーマでした。

MM 2011/08/07 01:26 はい、今回はちょっとシビアな二冊でした。
この二冊はたまたま目について借りたのですが、親についても自分自身についても、そろそろ考え始めなければいけない(遅いですけど)時期にきているから手に飛び込んできたのかなと。
けれど、正直、特に自分自身の老後についてはまだまだ具体的に描けない状態で…。なので一足飛びに死後処理に頭がいっているのだと思います。
実は「孤独死おおいに結構。孤独は怖くない」的なことを書いてる本もあったのですが、いやいやそこじゃないよと思ったり。一人で気ままに暮らしてポックリいけたらそりゃ理想だけど、なかなかそうはいかない。死ぬまでには人の手を借らざるを得ない状況の方がずっと多いと思うのです。
今回(の2冊目)は恋人と同居する場合でしたが、恋人や配偶者や家族と死ぬまで一緒というのはとても幸運で、そうじゃない方が多いのではと想像します。
じゃあどうなる。たとえば施設などに入ったとしても、赤の他人大勢といきなり一緒に暮らすことが出来るのか。まさに想像の埒外です。
とりあえず、他人と付き合う生活に慣れておくというのは必要ですね。頭ではわかっているのだけど…むずかしい…(汗)

2011-07-10

SandM2011-07-10

あとは読んだミステリなどからちょろっと。しかしこうしてみると創元祭りだわ(笑)

M「悪魔は夜はばたく」ディーン・R・クーンツ

創元推理文庫


実はこれが初クーンツ

モダンホラーってスティーブン・キング以外殆ど読んだことがないのです。「物語の中でくらい救いをくれよ!」が信条でございますので(笑)、基本的に救いのない結末・後味が悪そうな本は避けて通ってるのです。ジャック・ケッチャム「隣の家の少女」とか絶対読まない!w

で、これはどうだろうなあーと、ちょっぴり危惧しながら読んだのですが、いやいやこれは良かった!

まさに巻を措く能わず。夜中までかけて一気に読んじゃいました。翌日仕事なのに−!


まず殺人者透視する能力者という設定が良いですわあ。厨二病全開でw。

途中あまりにも、「夫マックス連続殺人者である」という仄めかしが頻発するので、却って夫ではないな、と推理

…と見せかけてやっぱり夫でした、は刊行年から見て、ないな、とまたまた推理

となると、犯人透視能力メアリーの兄アランしか残らないじゃないか!w


けど、犯人目星がついても、牽引力は変わらず。これがすごい!

大抵犯人がわかってしまうと、興味半減して流し読みになってしまうんですが、これは読むテンションは変わらずドキドキしながら読み進めました。

メアリーがどうやって犯人に対抗するのか、というのも興味の一環だったからかなあ。

最後には色々な謎に整合性を与えすっきり。陳腐かもしれないけれど、最後に悪が倒れるのはやっぱり嬉しい。

サスペンスとしてもミステリとしても面白かったです。

M「死者を起こせ」フレッド・ヴァルガス

創元推理文庫


これ案外面白かったです。

歴史専攻の学者三人が、貧乏食い詰めて一軒のボロ家を借りて共同生活。

専攻も性格も体格も様々な三人の男、これだけでも十分面白いのですが、冒頭提示される謎が、「元オペラ歌手の庭にある日突然一本の木が植えられている」というなんともいえないもの

そしてオペラ歌手失踪。主人公の伯父の元刑事(それも悪徳刑事 笑)も入って色々推理

犯人結構意外で、結末までテンポよく、最後まで楽しんで読みました。

M「誰も批評家を愛せない」ジェーン・デンティンガー

創元推理文庫


ショービジネス界内幕ものって基本的に好きです。

これは売れない女優兼演技指導者演出家が主人公のブロードウェイもの

まあまあ面白かったです。

主人公より恋人刑事ゲイ演出家がいい感じでした。

M「死への落下」ヘンリー・ウェイド

教養文庫


「推定相続人」の作者。なんですが、うーん…

謎解きの楽しさがない。犯人逮捕カタルシスもない。

結局主人公が犯人というのがラストでそれとなく示されるけれど、殺しの方法はハッキリしないし、犯人はそのまま逃げおおせることも暗示されているのもモヤモヤ

倒叙物とは相性が悪いのかもしれないなあ私。

でもアントニイ・バークリーの別名フランシス・アイルズ名義「殺意はいつか読んでみたいです。

M「家蝿とカナリア」ヘレン・マクロ

創元推理文庫


犯人がわかるところまではすごく面白くワクワクしながら読みました。

メスの柄の方に蝿がたかるのは何故か?

何故犯人はメスを研ぐ為押し入った刃物研磨店のカナリアを解き放ったのか?


しかし、すれちゃってるので、真犯人「以外」の怪しい点を順繰りに描写していく時点で、真犯人がわかってしまいました。

推理とは全く関係なく。なんて申し訳ない解り方。

劇団舞台なので人間関係入り組んでそこも面白かったです。

M「ヒトはなぜヒトを食べたか−生態人類学から見た文化起源マーヴィン・ハリス

早川書房


結構時間かかったのに特に面白くなかったようクスンクスン。

やたら「コストベネフィット」で論じようとするから、どうも段々我田引水の感が強くなってきてしまい、途中からは「も、もしかしてトンデモ本??でも早川だし…。いやでも…」のせめぎあい。

なんとか最後まで読みましたが、ちょろちょろ面白いところもありましたが、いまひとつ頭に入りませんでした…。

真面目な本なんですけどね…。

SS 2011/07/14 23:02 ミステリにうとい私だけど、創元大好き!
読んでるよと小耳に挟んだ時から感想が聞きたかった「ヒトはなぜヒトを食べたか−生態人類学から見た文化の起源」ですが…あれ?
「コスト=ベネフィット」ではタブーを冒してまで食べちゃうのに今ひとつ説得力がない気がするのは、私が浪漫主義者過ぎるのかなぁ。
「食べずにいられないのっぴきならない心理的な何か」を求めてしまいます。
スーパーに行く交通費よりも安くつくし。とかいう理由で食べられるのは嫌だなと思う訳です。
前提として食べられる側に自分を置いて、食べる心理を知りたいと思っているのかな。
そこも含めて、やはり読んでみたいです。

MM 2011/07/21 22:44 ああー、「ヒトはなぜヒトを食べたか」はねええええ…。
「少なくなった動物を狩に行くより近くの奴隷食べた方が安くつくし」てな、まさに「スーパーより」理論なんですよねえ…。
「アステカ族が神殿で毎日人身供儀を行っていたのも、呪術的理由ではなく、他に肉を手に入れる手段がなかったから」「敵対する部族の捕虜を食べるのも、食べることでその人間のパワーを取り込む為ではなく、単に手近な蛋白源だから」ということになるのですよねこの本によると…。心理的何かなんてナッシングです。
「人口が増えて食べ物が足らなくなると、女児殺しと戦争が盛んになる」とか項羽と劉邦を想起させる「ビッグマンは人々をたらふく食べさせる義務があった」とか、ところどころ面白いところもあったんですが、とにかくなんでもかんでも「コスト=ベネフィット」一本槍なんで、最後はちょっと笑えてしまいましたw
これは近くの図書館でお借りしたので、よろしければ借りてみてください〜。

2011-07-09

SandM2011-07-09

もうすっかり暑さにやられているMですこんにちわこんばんわ。

色々読んではいるのですが、いまひとつグッとくるものがなく。きっと暑さで脳みそがゆだっているせいかと。

そんなこんなで、とりあえず箇条書きです。

まずは評論から出ている怪奇民話シリーズから

M「ロシア怪奇民話」金本源之助訳

評論


いやー、ロシアってやっぱ独特ですなああ。


骨と皮ばかり、魔法を使い、人を喰らう老婆「バーバ・ヤガー」。これよう出てきました。ポピュラーなんでしょうね。

ロシア子供は「バーバ・ヤガーが来るぞ!」と言われたら慌てて寝床にもぐりこんだりしたのかしら。

たまに人助けするけど、大抵極悪です。


森の方を向いて立っている鶏の足をした小屋も印象的。これもよく出てきました。

小屋小屋!もとのとおりに森に背を向け、わたしの方に表を向けよ!」と呼びかけると、

ぐるっと回ってこちらを向き扉が開くのも共通。


追っ手をはばむため、櫛など小物を投げると、森や川になる、というのも多かったです。

これは日本神話にもあったような。

ロシア版は、追っ手は森や林をバリバリ噛んで道を切り開いてくる、というのが豪気。


しかし一番ぐっと来たのはあとがき

「ところで私は、ロシアの口碑文学殊にその民話に心を向けてから、年すでに久しい。

それらの草稿の多くもまた、きょう底に眠ること、これまた年すでに久しい。

それがこの度、その一部とは言え日の目を見ることになったのは出口保夫先生のご厚意による。

嬉しく、感謝いたします。」という訳者の一文。

どうやらかなりのお年のご様子です。

そして訳者の現住所が明記されてるのに吃驚。

昭和57年初版当時は当たり前なのでしょうか…。のどかさ隔日の感です…。

M「スウェーデン怪奇民話」清水育男訳

評論


巨人の話とトロルの話多し。で、巨人はたいていお馬鹿さん(笑)。

トロルは靴屋の小人よろしく、いろんな仕事をこなしてくれるが人間の前には姿をあらわさないのが定石。


山中にある見事な大邸宅に眠る12人の眠れる騎士は、スウェーデンに危機が迫ると、目を覚まし国を敵から守る、というのは素敵。


で、一番印象に残ったのは「ミューリング」。

ミューリング」とは、洗礼を受けずして殺された子供の霊。殺された子のためにキリスト教葬式をあげ、その殺し手を発見し罰するまで、生者を困らせる霊なのですが、この話のミューリングは「踊りを踊りたいんだ」といって、たまたま屋敷に逗留していた靴屋の前で長いこと踊り続けるのです。それがとてもものしかったです。

M「アメリカ怪奇民話」高田邦夫訳

評論


うーん、ここに収められているのはどれも、あんまり民話という感じじゃなかったですねえ…。

多くを占めるのは、魔女狩りの話と海賊の話なんですけど、

特に魔女狩りの話は、「ひどいこと昔はあったけど、今の私たちは正気から、それがひどい事だとわかってますよ」というのを言いたいだけのような…。

まあ幽霊の話とか不思議な話も、あるといえばあるんですが全然少ない。

物足りなかったです。

M「フランス怪奇民話」高橋彦明訳

評論


人魚妖精でまるまる一章というのが、らしいなあと思いました。

あと、死人の腿肉食べるとか、狼に食べられて手足バラバラとかとか、サクっと人肉を喰らっちゃうお話

何気に多かったです(笑)

SS 2011/07/14 22:45 民話のおどろおどろしさ。なんだか魅かれますね。挿絵は版画みたいな勝手なイメージがあります。
北欧の方は長身ですが、そこにさらに巨人神話がある事がかねてから不思議に思われてなりませんでした。
たまたま今日観てきた映画「マイティ・ソー」も北欧神話を元にしたアメコミが原作なのですね。
巨人族は悪者扱いなのですが…なんだかなぁ。
滅ぼされてしまった小柄な人達の伝承が残っているのか、長身の北欧人よりもさらに大きな人達が本当にいたのか。気になります。
個人的にはフランスの狼に食べられたり、人魚食べたり食べられたりが好きかも。
小川未明「赤い蝋燭と人魚」しかり、人魚ってどうも不吉を背負わされていて哀しくて怖いけど好きです。

MM 2011/07/21 22:32 わーコメント遅くなりました!m(_ _)m
むふふー、民話は、シンプルなだけに生や死や各種欲望にダイレクトに結びついている感じが好きです。でも主人公や小道具は人魚や小人や魔女など、ここにはない、幻想的なものたち、というのもますます好き。この手のもので初めて読んだのは、ちくま文庫から出ているイエイツの「ケルト幻想物語」なんですが、これがとっても良かったので、はまってしまったような気もw
「マイティ・ソー」は北欧神話が元なのですね。おお。巨人族が悪者というのが意外。この民話では、オバカさんだけど憎めない、的な位置付けでした。むしろトロルの方が性悪な感じでしたね。
人魚の肉といえば高橋留美子の人魚シリーズを思い出します。人魚の肉を食べると不老不死になるが、毒が強すぎるため大抵の人間は「なりそこない」と呼ばれる化け物になるのです。あれも怖いけれど哀しいシリーズだったなあ。

2011-05-13

雲霧仁左衛門

S「雲霧仁左衛門池波正太郎 

新潮文庫


私事ですが、うちの2匹目の黒猫名前仁左衛門。ちょうどこれを読んでいる時にうちに来た。

来たは良いが、姿は見えず。餌は食べているようだが、雲のように現れ霧の様に消えてしまう。

それで仁左衛門(義姉猫は尻尾の形状から、ぐるぐる)。5年ほど飼って最近少しは懐いてきたけれど。

本格の大盗賊名前を戴いてしまったから、こんな猫になったのですね。


その仁左衛門を久しぶりに読み返した。初回も感じたように、やはり渋くて哀しい。

物語は息をつかせず展開し、よくできている。

けれどその盗みは危機一髪連続、行き止まりの予感がつきまとうのだ。

一滴の血も流さず、犯さず、時間をかけて周到な仕掛けの上での大仕事

その彼の丁寧な昔気質の仕事が時代に合わなくなった。

ひとつの時代を築いた男の仕事がほころび、裾野から傾いて行く様子。

さっさと殺して盗む「急ぎばたらき」が主流の世の中、何年もかけての大仕事は難しくなってくる。

彼自身も年を取り、焦ってきたのかもしれない。

周到な仕事であればこそ、小さなほころびががせつない。去り際というのは難しい。


雲霧一味を追う盗賊改メもまた、時代に合わない丁寧な仕事をしている。

長官、与力、同心、目明かしに至るまでが心をひとつに無私の仕事をしている。

その家族迄が江戸治安を守る為に稼ぎ、父や夫の活動を支えている。

長官阿倍式部、同心の山田藤兵衛、配下の同心高瀬や目明かしの政蔵。

どうも武家出身らしい仁左衛門、小頭の木鼠の吉五郎、「引き込み」お千代

どの人物にもドラマが見え隠れして、読みながら心穏やかではいられない。

誰も魅力的だから、両チームを助けたい。もう誰を応援して良いかわからなくなるのだ。


最初に読んだ時にはただただ毒婦と思えた「七化けお千代」。

とにかく可愛いのだ。尼僧姿に扮して押し込み先の松屋吉兵衛を手玉に取る悪っぷり、仁左衛門への純情。

前はこなれた悪女だと思ったのに、今回はとてもいじらしく感じられた。

だって、2人の時は「おじさま」って呼ぶんですよ。

7歳位から知っていて(男女の仲になったのはずっと後)、ずっと好きだったなんて。やだな。

そんなのクラリスルパンの一味に入って、後日不二子ちゃんになったようなものではないですか。

そんなお千代も二十代後半の設定で、仁左衛門に至っては四十をいくつか超えた位。

おいおい、妾はお頭と同い年位じゃないのかえ。

初読の時にはそこはスルーしていた。ドラマ山崎努仁左衛門を観た時にはぴったりだと思った。

けれど本当は現代の感覚よりも十歳位は若いのではないのかえ。

それだけ江戸時代に比べて、現代人は子供なのかしらねと考えたり。


この物語には様々な立場、年齢の人々が登場する。大きな枠組みでは尾張の騒動とも関わっている。

いつ読んでも誰が読んでも、解多く色々な読み方ができる話なのだ。

全てを書き切らず多くのことを示唆している、上手い仕事だなぁと唸ってしまう。

池波作品を読むと、どの作品に限らず鬼平が言う「人は良い事をしながら悪い事をする」と

いう人間観が感じられる。そこが好きなのだなぁと、つくづく思う。

M 2011/06/01 21:24 おお、「雲霧仁左衛門」!
大昔に読んだきりだったのですが、これを読んでほんのりと思い出しました。池波正太郎さんのはどれも良いのですけど、これはちょっと切ない読後感だったように思います。それは、文中にもありますがやはり、最後の大仕事がうまくいかなかったきっかけが、ほんの小さな綻びだったというところかも。
私は木鼠の吉五郎が好きだった記憶が。反対にお千代のことはあまり印象になかったのだけど、これを読んでなるほど!確かに幼い頃から知っているおじさまの情婦になるなんて、えっちだわぁえろすだわぁ。池波さん時々何気にえろーすだよね(笑)

S 2011/06/15 19:15 あ、コメント気がついてなくてすみません。
木鼠の人、良いですよね。今回の仕事は何かおかしい感じがすると胸騒ぎがしてるのだけど……お頭を信頼しているから言えないのですよね。なんとも辛いです。
お千代さんはノワールな男達の中にあって、えろーす担当だと思います。こんな情婦が持ちたいなという男の夢なのでしょうかしら(笑)

2011-05-06

SandM2011-05-06

まずは、前回Sさまが書いてくださったレビューを読んですぐに連想した本を。

読んだのはもう数十年近く前。けれどいまだに強烈な印象が残っています

M「エンジンサマージョン・クロウリー

福武書店


これはもう、すごく、ものすごく良かったです!!!

遠い未来現在人類「天使」という形でかすかに記憶がある位の遠い未来

リトルレビアという土地に住む「パームコード/手のひら系」の《しゃべる灯心草》という名の少年が主人公。

彼が《一日一度》(ワンス・ア・デイ)という少女に恋をして、生まれ育ったリトルレビアを出て、聖人になるため旅に出ます


旅の途上、樹上の聖人に会い、“リスト”達と暮らし、“ドクター・ブーツ”と一体となり…。

それら一つ一つの出来事に、様々な寓意や象徴が散りばめられ、まるで水晶で出来たおとぎ話のように美しくて、涙します。読み進むのが勿体ない。


ドクター・ブーツ”と一体となったあと、《しゃべる灯心草》はまた自分にもどります

そして聖人というか、彼自身が聖なるもの/語り継がれていくものになっていく、のです…。

あーもうここに至っては涙腺の堤防決壊。

それまでの出来事/物語が見事に収斂していきます

ラストからは様々な事が読み取れ、、読者である私こそが今、《しゃべる灯心草》と一体になっているのに気付き、そして《しゃべる灯心草》の言葉に涙あふれ…。

呆けすぎて、読んだあとしばらくは、使い物になりませんでした。

宝物のような本です。




あとは、このところ読んだSFものをいくつか。






M「タウ・ゼロポール・アンダースン

東京創元社


いやー壮大です。

遠い星に殖民のため地球を出発した宇宙船

ところが船の減速装置が壊れてしまい、どこまでもどこまでも加速し続けることに。

速すぎて、宇宙の成長速度も追い越しちゃったー!

ビッグバン始まっちゃったよ!じゃあ生まれた若い星に殖民しちゃおう!みたいな。


いやあ壮大だ!


勿論理論付けの部分もパッチリ。巻末の説明があって助かりました(でないとわからんw)

でも、理論的部分がわからなくても面白く読めたように思います

それは、乗組員たちの恐怖や絶望、そして立ち直りが、方策も含め具体的に描かれていたから

宇宙的規模の話と数10人の人間ドラマ。どちらも興味深く面白く、愉しんで読みました。


しかしほんとにおっきい話です。それだけに夢がいっぱい。こういう話を読めるとうれしくなりますなあ。

M「スロー・リバー」ニコラ・グリフィス

早川書房


うわああこれは。

大富豪の娘フランシスロリエン・ヴァン・デ・エストが誘拐され、逃げ出し、地下アウトロー生活の後、下水道処理場で働く作業員として働き始め、そこで破壊工作事件に直面し、誘拐事件の真相にたどり着く。


「大金持ち娘時代」「ハッカーとして生計をたてるスパナーとの同棲時代」

下水道処理場で汚物をさらって働く作業員時代」

この三つの時代が交互に描かれますが、混乱することなくスッキリ読めるのはさすが。

どの時代も過去から未来へと描かれるので、興味が弛まず持続します。


幼児虐待記憶レイプされ続けた誘拐時。毎夜体を売らざるを得なくなったアウトロー時代。

これだけの凄まじい経験をしつつ、けれど自己憐憫に浸るのはこれが最後自分を戒めるローア。

実際こんな状況になったら、もとが大金持ちだけに、そんな心持になるのは難しいかもだけど、物語ですからね。こうでないと。


そしてローアが自分自身と向き合おうとしたとき、ばらばらだった三つの時代は融合し、ただのローアとなる。

このへんはすごく良かったです。メインテーマかも〜。

出てくるラブシーンはすべて女性同士ですが、それが当たり前のように描かれていて、とくにこだわった感じもなく自然な感じでした。


ちょこちょこ出てくるSF小道具も楽しかったけれど、どっちかというと貴種流離譚という感じで読んでました。

一人の女性の成長譚という感じでもあります。力強かったなあ。

M「時間泥棒」ジェイムズ・P・ホーガン

創元SF文庫


すんごいアッサリ読めました。文庫で169Pですからねえ。手軽で気の利いた小品という感じです。


近未来舞台はNY。

あちこちの時計が狂いはじめる。

次第に場所によって時間の流れが違うことがわかる。

時間が盗まれてる!→時間泥棒だれだ?→犯人を探さなくては!

→よっしゃNY市の刑事出動


…ってw


時間が消えていくというSF的現象に、警察による犯人探しという現実的行動をぶつけてくるのがおもしろいです。

実は時間は盗まれるというか食べられてたんですが、排泄までも考慮されてたのでそこは「おお」っと思いました。

あと、この現象の手がかり探しの過程で刑事が出会ったアイルランド人の司祭がいい感じ。


しかホーガンってハードSFのイメージがあったから意外でしたねえ。

ハードっつうより、どたばた・スラップスティックコミカルお話でしたのよ。

解説によると、これはホーガンにしては異色作らしいです。






M「ダブルスターロバート・A・ハインライン

東京創元社


落ちぶれ役者が、某政治家の身代わりになって大嫌いな火星に。

冒険譚といいましょうか、次から次へと事件が起こり、いやおうなく巻き込まれながらも主人公がとにかく動いていくので楽しかったです。


難を言えば、SFである必要あんのかな?という気もしたりして。

はじめの火星人云々のとこだけだよね、SFっぽいの(笑)。

まあ面白いのには変わりないので全然良しです。

皇帝に正体がばれるところはハラハラしましたねえ。あそこはなかなかクライマックス


結局政治家は死に、一時の代役のはずがその後25年にもわたり代役を演じ続けた主人公は、いつしか役者だった自分を他人のようにどこか遠くから眺め回想する。へえー!

演じていた相手とすっかり同化しちゃったというのがなんとも面白かったです。

SS 2011/05/07 13:08 Sです、こんにちは。SFにもいろいろあるのですね。基本設定にSF要素があるけど小道具な感じのもの、がっつり宇宙だぜ!なものという感じでしょうか。

どれも面白そうですが、特に「エンジン・サマー」を読んでみたいです!
人類はもういないようだし、画像の帯に書かれている「機械文明の黄昏」という文字で想像するに、主人公達は機械?
遠い未来、私達は誰もいなくて、でも誰かが旅をしているんだなぁと勝手に妄想してきゅんときました。これは、メモメモ。

「タウ・ゼロ」も魅力度高し。人間ドラマ+自然科学ではたまにノンフィクションで秀逸なものがありますが、小説ではあまり見つけられません(探す棚を間違ってるのですね)。全然わからないのに理系読み物が好きなので楽しく読めそう。
「時間泥棒」、「ダブル・スター」は私のイメージするSFらしい感じですが。時間、火星というモチーフ以外はSFでなくとも…な感じなのでしょうか。
「スロー・リバー」は最も読み応えがありそう。主人公のドラマチックな人生が暗く辛いだけで終わっていないようなのが良いです。あとラブシーンが女性同士で上手くさらりと書いてあるというのも読みやすそう。ハーレクイン的燃え上がる恋(素敵な男性と)が盛り込まれるとねぇ…。型通りの激しい女性像ですね、とがっかりすることがあるのです。

MM 2011/05/09 23:36 すっかりレスが遅くなってしまいました、Mです。
SFほんとさまざまです〜。基本銀背か藤背の文庫本だと無条件で掴む癖があるので(笑)、読んでみてビックリ「こういうのもあるのか!」と驚くことも多いです。

「エンジン・サマー」実は数十年前に書いた感想文を、語尾等一部のみ変えて、ほぼそのまま掲載していますm(_ _)m。なので、細かいところは記憶の彼方なのですが(汗)、主人公達は機械ではなかったかと。機械文明が隆盛後滅びた時代のお話で、主人公達はどちらかというとアナログで/素朴で/手作業な社会で暮らしていたような。名前の付け方などもそうですが、アメリカ先住民の生活を思い浮かべてもらうと近いかも。タイトルも「インディアン・サマー」からきているそうです。

「タウ・ゼロ」は、これぞエスエフー!という感じで面白かった。ベース理論は古典ビッグバン宇宙論を背景とした恒星間ラムジェットらしいんですが、もうちんぷんかんぷん!なのに私もこういうのが好きなのです(笑)。解説が古今の宇宙論の変遷を詳しく書いてくれてるので、それ読むだけでも楽しいですよー。

そういう意味では「時間泥棒」「ダブル・スター」は、理論云々とか考えなくても大丈夫なので、楽しくあっという間に読めちゃいます。「スロー・リバー」もそうですね。SF的小道具はごく一部であまりストーリーには関与しません。一人の人間が、独りで力強く歩みだすところが読みどころです。

しかしやっぱ、理論が先行してようと小道具にすぎなかろうと、SFやっぱ好きです!読んでて楽しいです。我を忘れる。これからもいっぱいいっぱい読みたいな〜♪

2011-04-03

白い果実

Sです。まずは3月11日東日本大震災で被災された皆様、ご家族の皆様にお見舞い申し上げます

少しでも皆様の毎日が楽になりますように。心からお祈りしています

被害のなかった地に住む私も、あの日から何かが変わってしまったような気持ちで過ごしています

こんな時に何を書けるのか迷いましたが、久々にアップします。

S「白い果実」ジェフリー・フォード 

国書刊行会


3部作の1作目。可愛い表紙に魅かれて読み始めたが、悪夢の様な内容で残虐非道。

観相官クレイが主人公で、理想形態から独裁者スタービロウ派遣されてある村に来る。独善的で偉そうで、本当に嫌な感じ。

炭坑で長く働いた為に鉱石と同じ青い石のように固まってしまう人々。クレイに顔の造作を計測されただけで犯罪者烙印を押されてしまう人々。物語が進むに連れて、災厄が起こり人狼のえじきにされ、魔物に喰い殺される人々。主人公が憧れる美しいアーラ、その顔を覆うようになる緑のヴェール、謎の木人。魔法のような力を持つ白い果実。


と、なんとなく気になった部分を書き出すと面白いんだけど実際は全然読み進められなかった。

幻想小説というか空想小説というか、全く違う世界が作り上げられてはいるのだけど…あからさまな露悪趣味違和感があって、なんだか悲しくなる位に進まなかった。

後半は面白くなってきたけれど、続編はもう読まないで良いかなと思いながらなんとか意地で読了



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S「記憶の書」ジェフリー・フォード 

国書刊行会


あまり良い印象のないまま終わったこのシリーズ第一作目だったけれど、半年経ってなんとなく続編を手に取ってみた。

するとどうでしょう!1作目は1ヶ月もかかったのに、これは2日半で読了。つまり面白かったのです。


理想形態市の崩壊から8年経ち、冷酷だった元観相官のクレイは全くすっかり別人のようになって暮らしている。薬草を摘んでは村人の役に立てたり赤子を取り上げたりして人々にとけ込んでいる。

そんなある日、村の広場で突然マスタービロウの声が聞こえてきて、クレイが暮らすコミュニティーの村人達は眠り病に陥ってしまう。彼らを救う薬を探しに、クレイビロウの頭の中にある浮き島へ旅立つ。

そこでは物や人に記憶をあてはめてビロウ発明したあらゆるものが保存してある。頭の中の部屋に物を配置する記憶術があるのは聞いたことがある。一体どうするんだろと思っていたので、興味深く読めた。


不思議イメージ連続、奇天烈な設定も今回はより楽しく読めた。人語を話し眼鏡をかけた魔物。美薬(という名の麻薬)や白い実や緑のヴェールなどの3作を通じて登場する象徴的な物も効果的に配されていてわくわくした。

浮き島の周りの水銀の海は、常に表面の波がビロウ人生の様々な場面を再現して常に動いているというのも美しい。

私はとりわけ〈トッテコイ〉が好きだったな。空中を移動する生首だけの女。黒髪はヘビの様、唇は暗赤色、残虐さが見える緑色の顔。鋭い歯と虹彩のない目は純白。島に囚われている人達記憶を吸い取って去って行く役目。

第2部のヒロイン、アノタインも好きだ。強くて弱くて、存在感があるのにはかない。

第一部のクレイあんな嫌な奴だったのは、2作目への為だったのかと納得。1作目を読んでそのままやめなくて良かった。




f:id:SandM:20110403224637j:image:right

S「緑のヴェールジェフリー・フォード 

国書刊行会


そして完結編。浮き島から帰還したクレイ眼鏡をかけた魔物ミスリックスと〈彼の地〉への旅に出る。途中で別れたクレイミスリックスの話が交互に進んで行く形式。

この3作目が一番面白かったし、独立した冒険潭としてもとても良かったと思う。不思議な生き物が全編オンパレードだ。鳥を喰らう樹木とか、肉桂(シナモン)の香りがする桃色の毛皮の猫、ある部族女性ミイラ、その幽霊。全身に青い刺青をほどこした沈黙の民。

様々な人達と出逢いながら冬の森や砂漠海辺を旅して行くクレイと犬のウッド。都会人で威圧的な官吏だったクレイは別人にように逞しくなり野に生きる術を身につけて行く。第二部では最初は狂犬みたいだった相棒ウッドがとにかく良い犬で泣かせる。ウッドは洞窟の中で、砂漠の中で、クレイに表紙だけになった本を手渡しては読んでもらいたがる。


クレイと別れて廃墟で暮らすミスリックスの、魔物でもなく人間でもない外れものの孤独にも気持ちが近づいて行く。気弱で見栄っ張りで博学な魔物。父であるスタービロウを失って、ひとりぼっち。ずっと独りの生活に変化が訪れる。希望を手に入れ代償を支払った末に、クレイミスリックスもそれぞれの結末を迎える。

たくさんの登場人物と豊穣なイメージひとつずつ去ってゆき、物語が静かに終わる。クレイやウッドや樹の人ヴァスタシャや砦の兵士達と親しくなってしまったせいで、余韻に浸りながら寂しくてたまらなかった。

終わってみれば1作目同様にやはり残酷理不尽世界。これが世界のあるべき形?この終わり方で良いの?と少しだけ思う。

でも違うのは1作目のクレイは身勝手愛情で人を傷つけたけれど、2作目では他人の頭の中で深い愛を見つけたし、3作目ではさらに広い意味での愛情を知ったこと。

3冊とも繋がった話ではあるけれど、大きくそ世界イメージは異なっている。クレイ独裁者ビロウも変わって行く。人はいつも同じではなく、心の通じた人ともずっと一緒にいられる訳ではない。それでもこの世界で生きて行くしかないのだし、愛するものがあるって良いことだな、と思う。

そんなに「愛だぜ」みたいな事ばかり謳っている訳ではなくて、妙な物がたくさん出て来る不思議潭で良いのだと思う。

でも終わってみればなんとなく、ラブストーリーだったのかなと思いました。

MM 2011/04/04 22:28 Mです。コメント欄からになりますが、今回の震災で亡くなられた方達のご冥福をお祈りすると共に、被災された方々の一日も早いご回復を心から願っています。

さて今回の御本。最近なかなか長大な作品には手が出なくなっているMですが、久々に挑戦してみたいと思わせる、魅力的な本ですね!三部作に渡って描写できる空想世界を構築できるって、けっこうな凄腕なのでは。読み進むにつれて登場人物の成長/変化を味わえるのも魅力的。中でも犬のウッドが気になります。「表紙だけになった本を手渡しては読んでもらいたがる」なんて〜!これだけでもウルウルきちゃいそう。
「愛」が背骨に通ってる不思議譚。いろんな形のラブストーリーが詰まっているのかな。
あまりに露悪的なのは少し苦手なので、一作目同様の世界だったという三作目の、最後の終わり方が少し気にかかります。

SandMSandM 2011/04/04 23:24 Sです。今回の震災で亡くなられた方々。そのおひとりずつについて考えると言葉もなくなります…。ご冥福をお祈りするばかりです。

「緑のヴェール」の結末、どう受け取るかはその人次第なのかもしれません。悪い終わり方ではないように思えます。あまりにネタバレだから言えないのですが…もし読まれたらそこのところを語り合いたいです!

2011-02-24

SandM2011-02-24

M「おれの中の殺し屋ジム・トンプスン

扶桑社ミステリー


うー・わ!

なんだろう、なんだこれ、なんかわからないけど、

読み始めたら止まらなくなって、もう一気読み。


決して爽快な話ではないです。なにしろ一人の男が人殺しを続けていくのですから

かといって陰鬱、というわけでもないのです。湿り気がないのです。

更に、例えば「アメリカン・サイコ」だと、パラノイアックで神経症的な部分があったのですが、そんなこともなくて。

読んでいると、この男にとっては誰かを殺すということが、ごく当たり前のことのように思えてきてしまいます。

当たり前といっても、金銭とか、恨みとか、そういうハッキリとした理由があるというわけでもないのです。うーん説明しにくいな。

“やむにやまれぬ殺人衝動がある”これも、先ほどよりは近づいた気がするけれど、しっくりこない。

殺すのを運命づけられている、という感じでしょうか、しいて言うと。

途中彼が叫ぶ「どいつもこいつも、どうしておれのところに殺されにくるんだ?」という叫び。

ラスト近く彼が言う「おれは生きている限り自由にはなれないので…」という言葉

彼は確かに、自分の中の殺人衝動を抑えようと努力していました。忘れようとしていました。言葉や態度で何気なく相手をいたぶることで満足しようとしていました、必死に。

けれど結局逃れられなかった。そんな気がするのです。


舞台テキサス州セントラルシティ。

市境の看板には“ここの握手は少々きついぞ”と書かれており、“男は男で、男は紳士で、そうでなければ人間じゃない”土地柄。

彼はルー・フォード。そこで保安官助手をしている。しょっちゅう人を煙に巻くような事を言う退屈なお人好し。正直ルー。幼馴染で教師のエイミーとは長く付き合い、結婚するものと誰もに思われている。表の顔。

だけど本当は、女を傷つける性癖があり、町外れの売春婦と関係を持ち、殺人を計画する。

同時に、町の問題児ギリシャ人の息子を気にかけ、損得抜きでなにくれとなく面倒を見る。

そのアンバランスさ。


冒頭に書いたように、決して爽快な話ではないのですけど、

読後、私がまず感じたのは、憑き物が落ちたような、すっきりとした気持ちでした。

何か目の前の霧がはれやかに消え去ったような、晴れ晴れとした心持ち。

「なんでかな?」と、度々考えてみたのですけど、いまだにはっきりとした答えが出ません。

ただ、以前一度読みかけた時は、どうしても物語の中に入っていけなくて途中で本を置いたので、そういうタイミングだったとしかいいようがないのかも、という気もします。


タイミングとは関係なく言えるのは、ジム・トンプスンの文体が好きということ。

本文中に、主人公ルー独白として

「ずいぶん本は読んだけれど、ここが見せ場というところに来ると作者は必ず頭に血がのぼってしまうようだ。句読点がおろそかになってきて、やみくもに言葉を羅列して、瞬く星が深い夢のない海に沈んでいくなどという戯言を並べ出す。」

という文章があるのだけれど、なんかとっても頷いてしまいました。


とにかくガツときましたねえーこれ。

そいでもって、なぜかとても人生に前向きになりました。そんな話じゃ全然ないんですけどね!

SS 2011/02/26 17:03 どんどん殺して行くのに、爽快感のある話。
ただただ殺されて行くのに、人生前向きな気分になってしまう話。
それだけ聞いても興味津々です。面白そうです。

こういう理不尽だけど理屈があるような連続殺人は、アメリカ南部とか中西部とかが合っているような感じがします(勝手なイメージですけど)。
理由はないのにどんどん殺してしまうといえば、レクター博士を思い出します。
あのシリーズも一部を除いて好きでした。
そこに正義も他人に理解される理屈もなくても、確固たる実行力で殺人しちゃう所が好き!語弊があるので、魅力的としておこう(笑)

M 2011/02/27 20:03 これはねえ〜、私はすごく好きなんだけど、人によっては全然ダメかも。私は元々ジム・トンプスンが好きでいくつか読んでたのだけど、その中でも(今のところ)これが一番好きです。
でも受け付けない人もいるだろうな、とも思います。私も、別の時に読んでたらダメだったかもしれない。人生前向きどころか、陰鬱な気持ちになって落ち込んでたかもしれない。というか通常落ち込みそうな気もします。でもスッキリパキパキした文体なので、気持ちよく読めちゃうんですよね。殺人者の話なのに。
レクター博士シリーズ、私も一部を除いて(笑)好きでした。なんで殺人のお話って魅力的なのでしょうねえ。昔っから好き…いやいや、惹きつけられます。