ST.LUCY'S HOME FOR GIRLS RAISED

狼少女たちの聖ルーシー寮

狼少女たちの聖ルーシー寮

『狼少女たちの聖ルーシー寮』カレン・ラッセル〈河出書房新社

制服を着せられた狼少女たち。ワニとレスリングする少女。雪の宮殿を守るイエティ婦人。ミノタウロスは西部を目指し、海賊の子孫は雪山で歌う……。ファンタジー、ホラー、現実と非現実の境目を跳躍する、カレン・ラッセル初短篇集。摩訶不思議で奇妙、孤独で可笑しい10の物語。

『スワンプランディア!』*1の作者によるデビュー短篇集。
「帝国のための糸操り」*2は第二短篇集に入るのかな?


上記した二作での印象は「少女の成長・自由には、引き換えとして痛みが伴う」というものだったんだけど、この短篇集を読んで、やはりそういう作風なのね、と確信。


短篇のため、その喪失感はより強い。
少年少女が主人公の作品が多く、彼らが目撃し、体感するファンタジックな現象は、成長に伴う喪失のメタファーなのか、それとも喪失に対する代償としてファンタジーが与えられるのか。


収録作品
・「アヴァ、ワニと格闘する」
『スワンプランディア!』の原型短篇。
あらすじは長編版と同じ。
キーウイがいないのが一番の相違点。だから、この後に幸せが待っているのか微妙……


・「オリビア探し」
幽霊が見える水中メガネで、死んだ妹を探す兄弟。
彼女はツチボタルノドウクツにいるらしいのだが……


・「夢見障害者のためのZ・Z睡眠矯正キャンプ」
様々な睡眠障害児を集めた矯正キャンプ。
イライジャは過去の事件の予知夢という珍しい障害。
もう一人、同じ障害のオグリと親友だったが……


・「星座観察者の夏休みの犯罪記録」
夏休みに訪れたビーチで、学校のいじめっ子と出会ってしまう。
しかし、一緒につるむことになり、卵からかえるウミガメにイタズラをしてやろうということになるが……


・「西に向かう子どもたちの回想録」
ミノタウロスの父を持つ一家。
彼らは、住み慣れた土地を捨て、西の開拓地を目指すが……


・「イエティ婦人と人工雪の宮殿」
イエティ婦人が切り回す、人工雪の施設。
そこには、大人だけが参加できる夜の催しがある。
少年たちはこっそり忍び込むが……


・「貝殻の街」
観光地になっている巨大な貝殻の島。
閉園になっても、そこから出られなくなった少女は……


・「海のうえ」
「アヴァ、ワニと格闘する」に登場するおじいちゃんが主人公。
船を改造した養老施設にいるソウトゥース。
ボランティアで不良少女がやってくることになったのだが……


・「事件ナンバー00/422の概要」
雪ぎにに暮らす、かつての海賊の子孫。
儀式で歌うために飛行機で向かう途中、氷河に墜落してしまう…


・「狼少女たちの聖ルーシー寮」
人間になるために聖ルーシー寮に入った狼少女の姉妹たち。
その教育の成果は徐々に現れていくが、妹の一人は……


成長にともなって、何かが失われてしまうのはどうしようもないことだけど、そこには、もう戻れない寂しさを感じる。
表題作はそれを最も強く描いていて素晴らしいんだけど、「夢見障害者のためのZ・Z睡眠矯正キャンプ」で描かれる喪失感がたまらない。睡眠障害が治癒に向かっているから喜ばしいはずなのに、その障害による特別感が失われる、それも友人が、というところに裏切られた感触を覚えるのは、中二的精神でよくわかるよね!?
「オリビア探し」「星座観察者の夏休みの犯罪記録」など夏休みだけの魔法を描いた作品も多く、それもまた、失われてしまう存在。
奇妙な出来事ばかりを描いておるにもかかわらず、その喪失感に実体を感じる。