1457. 先行感想 - エム×ゼロ M:1 「魔法学校!?」

今週号の「エム×ゼロ」について、大きくネタバレを含んだ感想記事です。未読の方は閲覧を控えて下さい。


さすがはベテラン作家の叶恭弘先生。読切時よりも画力・設定・内容共に充実しています。

今回の新連載投入、いとう先生→矢吹先生→叶先生の安定力は抜群だなあ。今のところどの漫画も、即打ち切りに至る不安は感じません。特にエム×ゼロは、先に連載した二漫画と比べ、最も物語を広げやすいと感じます。


「魔法」「恋愛」「学園」の三本柱
本作でキーとなるテーマは「魔法」「恋愛」「学園」の三本。後ほどポイントごとに感想しますが、エム×ゼロはいずれに焦点を当てても、物語を長期化できる安定感があります。「先の二漫画と比べ物語を広げやすい」とは、そういう意味です。

魔法モノに飽きたら恋愛モノへ。恋愛モノが一段落したら学園モノへ。ジャンルを模様替えできるのは、叶先生にとってもプラス。何分、叶先生は一話完結型コメディに強い。プリティフェイスの作風には賛否あるものの、単発で「お色気コメディ」を続けた実績もあり、その点では信頼をおけます。

今週号のエム×ゼロに関するアンケートハガキより、この漫画のねらい所を、やや強引に「魔法」「恋愛」「学園」の三本柱でカテゴリ分けして解釈すると、次の通り。

【今週号のアンケートハガキより】
今後どのような展開を期待しますか?

  1. 主人公とヒロインが仲良くなっていく(→恋愛)
  2. 魔法を使ったドタバタ(→魔法)
  3. 魔法を使ったちょっとエッチなストーリー(→魔法+恋愛)
  4. 主人公が魔法を使えるようになる(→魔法+学園)
  5. 主人公が悪を倒す(→魔法)
  6. カワイイ女の子が沢山出てくる(→学園)

アンケート方針から今後の物語展開を分析すると、魔法3、恋愛1.5、学園1.5といった比率か。


お色気の排除
第一話時点で、無駄なパンチラ・お色気をちらつかせなかったのは、個人的に極上の評価を捧げたい。ToLOVEるがあざといお色気を乱発したおかげか、相対的にエム×ゼロは清らかな印象さえ抱けたもの。

私的にイチオシしたい演出として、「読者には見えてないけど主人公には見えているお色気シーン」があります。

通常、読者は主人公に感情移入するので、感覚的には「主人公の視覚物=読者の見たもの」と捕らえられる。しかしながら、実際に読者の目にはお色気の一切を視覚できないので、想像力で補うしかない。

つまり「見えないモノを妄想させるお色気演出」こそ、21世紀型のエロスが眠っているとオレは提唱したいのです!

言葉責めは直接表現より、間接的な方がかえって卑猥なのと同様の手口です。感情移入して「見ている」感覚はあるのに、されど実物を見られず悶々とする中学生男子! いいではないか。青く清く美しいではないか。この調子で、読者を焦らし放題の放置プレイにして下さいよ、叶先生!


「魔法」について
読切時の感想で懸念した「なんでもアリの魔法設定」が、根っこから吟味されたのは嬉しい。まず、作者のさじ加減一つで好き放題に魔法描写できる弱点は解消された。カードを介入して魔法を唱えるギミックが、自ずと魔法設定を制限しています。

一切の文章説明がなくても、見た目で大まかな意味は掴めるし、「魔法」と「カード」の設定の見せ方、その曖昧さは絶妙でございます。

この手の漫画にありがちな『長々と設定を解説した、取扱説明書の付録のオマケ漫画』状態にならなかったのも高評価。なるほど、魔法・恋愛・学園を均一のバランスで料理したから、「魔法(カード)の設定」に偏らなかったんだなあ。

カードなしに魔法は使えない、所持者の階級/能力で色分けされる、魔法の種目など、魔法の制約や非万能性を暗に仄めかしてチラ見せするテクニックもニクい。このチラリズム効果で、読者は自由な期待・妄想を膨らませることができるのは強い。結果的に『読者の期待感を高める』効果と等しい。

今後、長々と言葉の説明があるのだろうけど、第一話でそれを回避したメリットは大きいです。


「恋愛」について
ヒロインは読切時から据え置きのデザイン・愛花。性格は「不思議天然系」の成分が増した感触。ヒロインを鈍感の天然美少女にして、恋愛成就と阻むプロットは、もはや叶先生のガイドライン入り確定だ。先生が父親なのは中盤のオタマバトルから直感で察したけど、この設定の真の狙いは、主人公とヒロインの「感情の変移」だったとは、恐るべし叶先生。

主人公は「憤怒→恋愛」へ、対するヒロインは「謝罪→憤怒」へと感情変化する。この一筋縄にいかない感情の交差は、単に恋愛マンガとしても先が気になる展開です。


「学園」について
進級するごとに上級の魔法を学べる、「魔法ポイント」なる単位の存在、魔法学校という存在自体の謎など、「学園モノ」で話を広げる余地も大いにあり。第一話の印象も含めて、叶先生は単発のコメディがデキる作家サンですので、学園生活ものびのび描いて頂きたいところだなあ。

今のWJだと、BLEACH、ムヒョロジ、みえるひとなどは、期待していた『日常生活』が一切描かれなくて非常に残念な気持ちなので、どうかエム×ゼロは「学園」という日常を捨てないでいて欲しいです。


その他の見所

  • 柊先生の悪人ヅラも、「叶先生のガイドライン*1テンプレートからコピペしてきた様なデザインだわ。
  • 魔法は使えないけど喧嘩は最強の主人公。「喧嘩上手」って設定も「叶先生のガイドライン」だなあ…。
  • 首輪をネジで回避するという着眼点だけなら凡人レベル。だけど、主人公は「首輪を回避する目的」じゃなく、「愛花と話すため」に首を投げたんだよね。その行為が偶然、首輪抜けに繋がってる。芸術的なまでに効率的、かつスマートな展開運びです。
  • つか、背景が細部までやたら細けえー。第一話だけのクオリティだよなあ、こんなの…。
  • 『どーするの? 俺』に打ち切りのカード。エム×ゼロに限っては安定圏でしょ。
  • 大亜門先生がこのマンガをどのように料理して下さるのか(料理できるのか?)、今から楽しみでならない。
  • 大オチのガス爆発は読切ネタだけど、画力・演出・笑いのどれもがパワーアップ。コメディマンガとして強烈なインパクトを放った。圧巻!

*1:こんなの実在しませんよ!