1578. 少年漫画の「死」というリアルについて

今週号の『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』の感想を軸に、現代型少年マンガにおける「死」について、また持論を記述してみました。べ、べつにこんなの、一般論だなんてちっとも思ってない…っ!(///)


フラグバッキバキだなペイジさん!
今話の第88条『希望』は、ムヒョロジ大ファンを自認するオレから見ても、大失策としか思えなかった。

「悪魔なのに人間如きにサービスするとは何事だ!*1」とか、「そんな偶然に今井さんと遭遇できるなら、不時着した意味は何だったんだ!*2」とか、「悪魔長と『肉体の契約』を交わしたのに、後から回復できるんかい!*3」とか、「どうしよう、『ハラシャケ』が美味しそうで困ってます…」とか、そんな低次元な話ではなくってね。

心の底からの願望として、ペイジさんには死んで頂きたかった。と主張すれば、過激派と捉えられるかもしれない。そんな些細な誤解なんて承知です。

ペイジさんは今週で死んでおくべきだったんだ。そのまま感動の『お涙頂戴話』でもして、彼の数多ある失態をうやむやにすべきだったんだ。ペイジは死後に美化されるべき存在だったんだ。


ムヒョロジ=登場人物が死亡するマンガ
そもそもムヒョロジは、少年マンガ独特の『登場人物の全員生還論』から距離を置いていた。だからこそ、自分はこのマンガを評価してきた。六氷が「冷血非情のリアリスト」であることは、本作にとっての善意だ。同様に、このマンガで「敵味方が簡単に死ぬ(退場する)こと」は、やはり本作にとって善意だったと断言できる。

所詮は少年向けのマンガなんだし、その大半は「希望」や「理想」や「冒険心」なりの空想で満たして構わない。だけどね。肝心な局面では『リアル(死)』に徹した描写演出がないと、やがて作品自体が空虚な『夢物語100%』になるんだよ。

嘘っぱちの希望で塗り固めたマンガ。そんなのから、本当の「希望」なんて抱けないじゃない? マンガから「リアル(死)」を損うことはイコール、夢を損なうことと同じだ。なぜなら、過酷なリアルから勝ち取る「希望」が見出せないから。ToLoveるのような、アンリアルお色気マンガも同様に、苦手なマンガの部類に属してる。


マンガの中の「リアル」について
結論から述べると、『リアル』の積み重ねってのは、読者に『夢』を与えるために不可欠な要素なんだよ。

以前にはかがみさんジャンプ感想でも「ワンピの不死論」で盛大に物議を招きました。騒動が収まった今、わざわざ蒸し返すのも酷い仕打ちなんですけども…。

ガッシュには感動するが、ワンピースには感動しない」という意見は、自分の持論から展開すると、これは筋が通る意見です。どちらもバトルで死なない。だけどガッシュには、確固たる「負けて失うモノ」が設定上にある。これぞ『リアル』だ。

ワンピに限らず、『誰一人死なない』設定ってのは、バトルマンガとしては盛大に白けて当然なんだわ。だって、負けても失うモノはないもの。ドラクエだって、全滅したらゴールドが半分になるのにね。特にワンピの中だるみしまくるバトルなんて、中身は完全にハッタリ(カッコイイ必殺技のお披露目パーティー)でしょ? その実態は、尾田先生の印税稼ぎと、次の冒険の構想を練る時間稼ぎでしかないんだな。

しかし、ワンピにとって不死設定というアンリアルは、バトル展開にのみ引っかかる要素です。ワンピにとってバトルは『ワンピース作品の一カテゴリ』でしかない。例えば『冒険活劇』や『過去感動』のカテゴリには、一切の枷にならない。だから「冒険のワクワク」や「想いを継ぐこと」というストーリーラインには、やっぱり感化させられる。人並み以上に涙を流して、感動できちゃう。

「冒険」や「過去」にとっての『リアル』は、「ルフィ達の死」に関与しないんですよ。例えば、かがみさんが一例を挙げて仰ったような「島の設定作りが緻密なリアル」であったり、「過去編では伏線がバンバン解消されると共に人が死ぬリアル」だったりするワケで。そうしたリアルが作中の根幹に息づいてるので、世界観からどっぷり感情移入できると。


ムヒョロジに話を戻して
魔監獄編は、味方勢から大量に死者が出たことで、たいへんな緊張感が生まれました。コミックス1.5巻分に及ぶあの長丁場を、緊張の連続で『読者に読み込ませる』のは、至難の業だ。あの状況を、人物の死を利用してなんとか乗り越えたと思う。寧ろ、あの頃の掲載順は上位を占めており、読者を惹き付けることにさえ成功していた。

最近じゃ、ヒロイン格を狙えるパンジャだって、簡単にリタイヤした。毒島さんだって、死のリスクを秘めている。ペイジさんも、この展開の流れなら確実に死ぬと思ってた。久々に、ぬるま湯に浸かりきったこの本編を、じいさんの死で引き締めると思った。

その矢先…まさかの生還。ここで『ムヒョロジ本編の諸悪の根源』のペイジを生かす意味が、一体どこにあるのか? 今回ばかりは西先生の判断が読めなかったッス…。次週、状況の補足を待ちたいです。


人の死を利用した感動って、すっげーあざとい。だけど、人が全く死なないあざとさの方が、よっぽど奇妙に感じるのです。

*1:デビルーク星の美少女は、毎週週刊少年ジャンプ読者の人間に大サービスしてるけど。

*2:毒島さんは明後日の方向に発砲したんじゃないのか説浮上。

*3:契約で奪われた肉体を…回復? それって増殖では…。