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近況

『中央評論』にてアニメ論(更新2011.8.5)

『中央評論』第276号(中央大学出版部)の特集「映画の現在」におきまして、「ソラリス・シンドローム――日本アニメの現在」を書きました。 2月25日(金)より、清流出版より拙訳にて『不完全さの醍醐味 クロード・シャブロルとの対話』が刊行されました。 中央大学人文科学研究所編『映像表現の地平』(中央大学出版部刊)におきまして、「クロード・シャブロル、あるいは逆説の日常――『ヴィオレット・ノジエール』をめぐって」を執筆しました。


2008年02月12日火曜日 Daniel Schmid and Edward Yang

 大学生協の書籍部にて『UP』2008年1月号を手に入れ、蓮實重彦氏の巻頭エッセイ「このところ、自分の年齢を強く意識せざるをえないできごとが続いています」*1を読む。東京大学出版会のPR雑誌である『UP』では、ここ数年、毎年1月号の巻頭に蓮實さんのエッセイが載る。これを読むのが毎年新年の愉しみである。トピックはさまざまである。ある年は、我が国の首相の映画的教養の無さへの揶揄であり、またある年は、中国映画作家の最新作に流れた『東京物語』の旋律の驚きであり、またある年は、やはり『東京物語』で原節子が口にした一言の台詞の衝撃であったりしたのだが、概して昨年の映画をめぐるものであった。今回はタイトルが凄いので、いったいなんのことかと思って読みはじめたら、ダニエル・シュミットエドワード・ヤン両監督の追悼であった。

 東京国際映画祭のトークショーのときに話された講演、それからアテネ・フランセでのシュミット追悼での講演と、話の内容はかなり重複している*2。ヤン監督が撮りたかった次回作Assasinationという映画の企画、それから京都の知恩院を颯爽と自転車で駈けぬけていったエドワード・ヤン。晴美埠頭に停泊中の東大の実習船を動かせと命じてきたダニエル・シュミット。……それでも読みながら、しばらく鎮静していた胸奥の疼きがふたたび昂まるのを感じる。しかしながら、蓮實さんが、二人のシネアストを「小鳥」に喩えられていることに、不意をつかれる思いである。いや、正確にはこの二人は「小鳥のような印象」を蓮實氏に残した、というべきである。少し引用しておきたい。

海外の国際空港という抽象的な空間で偶然に出会ったことがあるのはこの二人だけです。しかも、そのとき、なぜか小鳥のような印象が記憶に残っている。とはいえ、眼鏡の奥でしばたかせていたエドワードの瞳や、右肩にそっと触れたダニエルの指先がふと小鳥を思わせたのは確かですが、彼らは二人ともほぼ私と同じぐらい背丈の高い男で、ダニエルとは、時折思いだしたようにスーツを交換したりする仲でした。しかも、大柄な二人が、ともに成瀬巳喜男監督の作品をこよなく愛している。サン・セバスチアン国際映画祭でのカタログ作りを山根貞男氏とともに任された私が、この二人に原稿を依頼したのはいうまでもありません。彼らは、二つ返事で寄稿してくれました。その美しい文章の日本語版はいま『成瀬巳喜男の世界へ』(筑摩書房)で読むことができます。

 なぜ小鳥なのか。これは説明のつかないものだと思う。「抽象空間の鳥」というイメージは、あの名篇「シルバーシート青い鳥」(『反=日本語論』asin:4480020438所収)を思わせなくもないのだが、まああまり放恣な連想に淫することは控えたいと思う。ただ小鳥のような印象というのは、二人の映画監督のとらえどころのなさを的確に――とらえどころのない、あいまいな状態を維持しつつ――描出しているように思われる。軽やかで、柔らかく、傷つけることを知らず……という二人のシネアストの生のたたずまいのようなものが伝わってくる。エドワード・ヤンについては、篠儀直子氏の翻訳により、この年末、ジョン・アンダーソン著『エドワード・ヤン』が青土社から刊行された。この中のインタビューを読みなおしつつ、今一度、エドワード・ヤンへ思いをはせた。

 と、唐突に蓮實さんのエドワード・ヤン追悼講演で、本筋とまったく関係のないことを思い出したので書いておく。あるとき、蓮實さんがエドワード・ヤンとその兄夫妻(ヤン氏の兄上は通産省官僚のエリートであるとの由)と夕食をすることがあった。そのとき「好きな女優は?」といった話題になったという。それでエドワード・ヤン監督の兄上は、なんと、「私の好きな女優はステファーヌ・オードランです」と言って、蓮實さんもビックリし、ヤン監督は「兄さん、その女優さんは誰なんですか? ぼくは知らないゾ!」とあわてたという。ステファーヌ・オードランはフランスの女優さんで、いろいろな映画に出ているが、何といってもクロード・シャブロル監督とのコンビでサスペンス映画の傑作――『肉屋』『不実の女』『一寸先は闇』*3など――に出たことで知られる。そんな女優さんを、どうして通産省の高級官僚が知っていたのかということで盛り上がり、そのときの晩餐は「ステファーヌ・オードラン・ナイト」になってしまったという。エドワード・ヤン追悼で唐突にオードランが出てきたので、強く印象に残ったのであった。

エドワード・ヤン

エドワード・ヤン

成瀬巳喜男の世界へ リュミエール叢書36

成瀬巳喜男の世界へ リュミエール叢書36

*1http://www.utp.or.jp/topics/up/up2008/

*2http://www.tiff-jp.net/report/daily.php?itemid=134

*3:この作品は、エドワード・アタイヤの『細い線』という小説の映画化なのだが、成瀬巳喜男監督も同じ原作で『女の中にいる他人asin:B0009OATUSという映画を手がけている。

S.オードランS.オードラン 2008/02/14 19:59 先日、G.ボールガール特集にて
シャブロルの「悪意の眼」を観たばかり!!
F.サガンの監督作も素晴らしかったです!!

SomeCameRunningSomeCameRunning 2008/02/14 23:04 『悪意の眼』のオードランも素晴らしいですね。エドワード・ヤンの兄上が、一体どのオードラン出演作から入っていかれたのかが知りたいところですね。川崎市民ミュージアムのジョルジュ・ド・ボールガール特集、気がついたら終わっていて、サガンの『絹の瞳』も見れず、『317小隊』はまたしても見逃してしまいました。メルヴィルの『モラン神父』は以前見たのですが、これは大好きな映画で、再見したかったのですが都合がつけられませんでした。残念です。

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