Strongbow lives in …

2011-09-24 映画『モテキ』鑑賞記

映画『モテキ』鑑賞記 ※【注意】セリフ引用で若干ネタバレします【ネタバレ】※

今、サカナクションの5thアルバム『DocumentaLy』のust放送を待ちながら、めっきり寒くなってきた札幌市の一角で、このブログを書いています。

眼の前には、コンビニで買ったB6ノート48枚つづりの30枚以上に、映画館の中で必死に書きとめたとある映画のシノプシス

それを読みながら、作品の味わいを振り返り、どこか胸の奥が締めつけられています。

―ああ、俺にはできなかったことを、ついに幸世がやってのけてしまったんだな。



明けて昨日、僕は映画『モテキ』を見てきました。

D

先に感想を一言でまとめます。

「果たして、幸世は、本当の恋愛に辿りつけるのか?」

このテーマから一歩も逃げず、最初から最後まで曲がりくねった人間関係の軌跡を描き続けた秀作でした。

モテキ』自体の詳しい設定や2年間にわたる作品自体の歴史は、もうかなり有名かつ入手可能になっているので、省かせていただきます。

少し、この青年漫画発祥の、女性作家が書いた男性視点の漫画と僕との馴れ初めを語らせて下さい。

僕自身はイブニング連載中からこの作品の存在を知っていて、サブカル紙面で注目を浴び始めた2009年からドラマ放映の2010年、そして2011年まで、この物語と共に生きてきました。

そして、その物語と一緒に、幾つかの恋もしてきました。

いま、それら全ての恋は終わっていますが…。

大切な人を得ては失っていく中で、モテキモテキコンピCDは常に僕の座右で、辞書のように、存在していました。

手放そうにも手放せない大事な作品になったのです…。

そんないきさつも踏まえた今回の映画。

僕は見終わった後、静かに心を抉られて、未だに呻吟しています。

さっきも言った通り、僕は幸世に勝てないからです。






* * *

あまりネタバレをしないように書こうとしても、

どうしても、書かなければいけない部分が沢山あります。

例えば、セリフ。

次々と繰り出される名言に、暗闇でメモを取る僕の右手は震えっぱなしでした。

あまりにもセリフが胸を打つものだから、時折、ペンを持つ手が止まってしまいます。もっと言えば、高速回転ショートする脳内からの熱を伝える額を、右手指で慰撫していたくらいです。

少しだけ、感想も込めて抜粋していきます。

ネタバレ・恋愛ネタお嫌いな方は、バックかスクロールよろしくです。





(ここから)

「一緒に寝る?」

「俺はこの辺で寝る」

「…やっぱり一緒に寝よ?」

経験上、この展開は大体の独り暮らし男子が通る道です。

自分も何回か、通りました。

僕は幸世ほど臆病ではなかったし、相手もみゆき以上に大胆だったので、それ以上に進み(否、進んでしまい)ましたが、なんとリアリティのある展開でしょう。


「一番好きな人ができた。これが本当のモテキだ」

「期待しちゃダメだ」

今までにないくらい好みど真ん中のルックス、趣味の合致。

諸々を含めてこの相手しかない!と思ってしまう相手と運よく出会って、仲良くなれた。

この人しかいない、と思い、それでもその期待に自分がつぶれてしまいそうになるから、浮足立たないように落ち着こうとして、でもドキドキする。

そんな気持ちが痛いほど描かれるシーン。


「弱っている時に聞くアイドルソングは麻薬」

アイドルは存在自体が麻薬です。

だいたい、ルックスが人並み以上で、歌や踊りが出来る。

それが自分だけに応援歌を届けてくれたり、媚びてくれているような気になる。

心が色々なストレスで弱っている時にアイドルの歌を聞けば、一念発起するエネルギーが湧かないわけがない。

しかしそんな時の無謀なエネルギーほど、方向性を失って自滅する原因になるのです。

相手の気持ちを考慮していないのですから。


「俺は自己完結をやめるんだ」

自己完結自体もまた、人付き合いの中ではマイナス、ダウナー系の麻薬と同じと喩えられましょう。

人の気持ちを確かめるのが怖い、あるいは確かめなくてもある程度やってえいけてしまう。そのためにサブカル没頭で特別感を自分に醸し出し、仮初の自己肯定をする。

サブカルというある種カウンターカルチャーの中毒性もまた、ここに存在します。


「その女巨乳だろ?そういう女は自分に好意持っている相手には全部そうやって振舞うんだよ」

主人公の親友でモテ男の言。

何と的を得た、かつ差別的な発言でしょう。

「どこまで目を見て話せるか、勝負しよっか」

「俺、思いっきり人を愛したい」

相手を特別だと思わなければ、余裕を持って接することが出来る。

みゆきは常に幸世を翻弄します。

否、幸世が勝手にそう思っているだけで、みゆきは幸世を気の置けない友人だと感じている。

幸世はそんな微妙な距離感がもたらす重圧に耐えきれず、失格だと自虐。


「女の子にアピールされたらすぐ食いつくのと変わらないですよ」

「男の人は結婚してても恋愛したいんですよね…女が恋人から母親に変ったから。男と女の絶対的な違いは、子供を産めるリミット。待ってる時間に限界あるんです」

ガールズバーの女性店員、愛が放つ、現実の重さ。

勢いでキスしても、その先に進むだけの勇気と自信が持てなくて逃げ出した幸世を責める。

幸世は自分の行いの軽さを思い知ります。

さらに、女性が恋愛関係において本能的に何を考えているのかも、この女性に教えてもらうのです。

「彼氏がいるって、やっぱ無理だわ、俺なんかじゃ」

るみ子の前で自虐する幸世。

このセリフ、実は女性が恋に落ちる一つのパターンです。

ある程度仲の良い女性に、いつもは気の置けない男性の友人がふと見せる弱さ。

劣等感を逆手にとってわがままばかりの母性本能を隠し持った*1、あるいは人に必要とされたい女子は、こんな一言に敏感です。

自分がこの男性の特別になれるかもしれない、ということ。

しかし、現実は残酷。


「ごめん、なんとなくやっちゃったけど、俺やっぱみゆきちゃんが好き。俺のりかえられない、できない。」

「分かった…でも、グスン、じゃあ、このまま友達としても仲良くしてくれる?」

「つーか友達としても無理。何でも受け入れるのとか…つーか重い!」

「私重いかな?そんな重いかな?ちゃんといってよ、わからないから。ごめんなさい・・・ううう、ごめんなさい・・・ちゃんとするから、うっ、あたし…幸世君の好きなこととか勉強するから、だから重いとか言わないでっ…!うっ、うっ」

色々な人を好きになって関係を深めれば深めるほど、本当に好きな人は誰なのかを知ることになります。

好意の天秤がどちらかに傾けば傾くほど、上に浮いた側は不安になります。

女性の愛情が重い場合、男性は逃げ腰になります。

特別にされたいと思ってしまうほど、相手が引いてしまう。

追われれば、逃げる。

モテキ二巻の由真ちゃんと男子達のシーンで仄めかされている伏線の回収。



「俺のこと好きだった?」

「ごめん…私、幸世君じゃ成長できない」

女性の心は裏腹とは良く言ったもの。

この「ごめん」、好意を断ったり、否定してるんじゃないんですね。

本当は、

「君とだと安心しちゃう、自分が素になっちゃう。自信のない自分がそこで満足しちゃって、自分で自分を肯定できないよ。だから君のことは嫌いじゃないけど、一緒にいられない」

という、サインなのです。

それは、ドキドキする、追っかけなければいけない存在の今カレとは正反対。

でも、嫌いにはなれない。

本当は少し傾いているのです。


「何で追いかけてくるの?

来ないでよ、ほっといてよ!

幸世くんとじゃダメなんだって…

会いたくなかった、幸世君と」

このセリフ、本編の中で最も重要です。

みゆきの彼氏はずるいのです。

結局自分の安全を捨てず、みゆきにのみリスクを背負わせようとする。

みゆきは戸惑います。

彼氏に「さん」づけをして距離を測り、相手の気持ちを確かめる。

それでも向こうは、自分が絶対に嫌われないことをわかっているから、余裕の態度。

大根監督は、みゆきという存在を物語の中で「自信のない女子」と位置づけました。

例えば、長澤まさみさんのような誰からも美人と言われる女性がいたとします。

誰もがこの人は完璧だと思う。

しかし人が人である以上、周りの評価は周りの評価として受け流せたとしても、自分の中の自己評価は別です。

周りの評価は客観的で、自分の評価は主観的。

可愛いと男子から言われる殺人級の笑顔の女子が「そんなことないよ」というのは、ここが根拠です。

主観的な自己肯定には天井がないのです。上を見て、その高さに絶望する。

自分なんて他人と比べればまだまだだなぁ、と劣等感を抱く。

主観的なそれを自分自身の採点で及第点に持ちこむのには、よほどの補完がなければいけない。

みゆきにとっては、その全てを満たす相手がダイスケだった。

いかさまに、仮初の自己肯定を出来る相手が、彼氏だった。

ただ一つの最も重要な点を除いて―自分を本気で好きになってくれる、愛してくれる、という点を。

幸世はそんな自分を真っ向肯定する存在。

だから、だめだ。

自分を甘やかしてしまう。

ダメな自分のままで居続けてしまう。

でも、

…ほんとうは、好き。

ダメな素の私を認めて、愛して、追っかけてくれる、幸世くんが。

それがみゆきの、更には劇場で作品を見る女性達の答え、なのではないでしょうか。

幸世は「本当に」自分から人を愛するという能力を、

相手の存在の根本を肯定してあげるという暖かさをようやく、身につけたのですね。



(ここまで)



* * *


ざっと軽くネタバレしましたが、こうした微妙な心理の駆け引きを幹として、

大根監督は映像に様々なギミック*2を仕掛け、

サブカル好きな人間がひっかかる絶妙な音楽・ガジェット配置*3を行い、

とてつもない娯楽作品を作り上げたのでありました。

映画モテキの解釈は様々です。

友人Akinoriderはこの映画を「今までの展開を真っ向から裏切っていてちょっとどうかと思う」と言いました。

確かに。

だって幸世がダメ人間から脱皮してしまいますからね。

でも、

色々と経験してきた人間から見ると、この作品はやっぱり凄いなぁと思います。

久保先生の視点の鋭さと描写力はやっぱり抜群なのです。

ネタバレしないといいながら、長くなりました。

見終わった後の熱が冷めない情緒的な叙述のまま、本日はこれにて筆置き。

最後に、一つ。

いつか僕も幸世を超えられたら、良いなぁ…。

*1:言わずと知れたミスチルのあの曲の一節

*2:例えば、好きな映像作品へのオマージュ。これは撮影中に監督御自身がツイッターでそれとなくほのめかしていらっしゃいました

*3:舞台となるナタリーツイッターがその最たるものです

legolego 2011/11/02 12:19 初めまして、今まで読んだモテキ鑑賞記の中で一番おもしろかったです。それぞれの恋愛経験で感想が全然違ってきてるのが面白いですよね。単純に見るより語りたくなる映画と思います、俺も2回見にいきました。

StrongbowStrongbow 2011/11/02 14:07 >legoさん
初めまして!
いやー、ありがとうございます。
モテキは視聴後語りあわざるをえない作品だと監督・久保先生が水から仰ってますが、まさしく!ですよね。
どちらかというと自分は肯定的な立場からモテキを見ているのですが、中には若干否定的な意見も多いんですね。
友人のブログとそのお知り合いの批判的な感想も(私含めみんな北海道民らしいのですがw)、よろしければ合わせてごらんください!
あ、またそのうち書けることがあったら鑑賞記の続き書くかも知れませんw

http://d.hatena.ne.jp/Akinorider/20111013
http://d.hatena.ne.jp/magro/20111008#p1

mintoamintoa 2011/12/07 18:17 はじめまして、この名言集とても良いです!!モテキ見たときにズーンときたセリフばかりです!

StrongbowStrongbow 2011/12/17 04:21 >mintoaさん
初めまして!
お返事遅れました、ありがとうございます。
異論を含む最後のシーンはおくとして、こういうのは脚本の妙ですね。

モテキはある意味で人間の「ままならない存在感」を切り取っているいい作品で、脚本の、男女どちらも(あるいはその中間にいる人も)共感するかもしれない、欲望と理性の発露が見えるような気がします。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証