映画『ソーシャル・ネットワーク』の予告編の曲とエンディング曲について

私が『ソーシャル・ネットワーク』に興味を引かれたのは、デヴィッド・フィンチャーの映画が好きなこともあるのですが、予告編にRadiohead
"Creep"合唱版が使われていたからでもあります。

ソーシャル・ネットワーク』の公式トレイラー:

Vega Choir "Creep"- "The Social Network" Trailer Song - "Creep" Radiohead Cover

Vega Choir - Creep

予告編では、この「僕も特別な存在になりたい」と切々と歌いあげる曲を使っていますが、映画本編では一瞬たりともかかりませんでした。

いやー、私は十代のころ、この"Creep"という曲が大好きだったので最後まで映画で使われなかったのを知り、「なんだよフィンチャー、"Creep"好きなナイーブな元十代を騙すなんて、オレオレ詐欺かよ!」と思いましたね。


しかし、エンディングで使われていたThe Beatlesの"Baby You're a Rich Man"の歌詞を改めて見るにつれ、「もしかして"Creep"の歌詞世界と、映画の内容と、"Baby You're a Rich Man"の世界は繋がっているのではないか」と思いました。


まず、"Creep"の歌詞には、以下のような部分があります。


You float like a feather
In a beautiful world
And I wish I was special
Youre so fuckin special
(君は羽のように漂う
美しい世界のなかで
僕が特別な奴だったらいいのに
君はあまりにも特別だ)


この部分は、映画の冒頭でエリカという「特別な存在」の気を引くために、排他的な大学の学友クラブに入ろうと求めている際のマークの心情のように思えます。


Mark: I need to do something substantial in order to get the attention of the clubs.
Erica: Why?
Mark: Because they're exclusive and fun and they lead to a better life.
(マーク: クラブの注目を引くために、何か相当のことをやらなきゃ。
(エリカ: なぜ?
マーク: なぜって、クラブは特権階級的だし、楽しいし、もっといい生活に導いてくれるからさ。) *1


予告編で「マークは"Creep"に出てくるような若者」というイメージを植えつけたフィンチャーは、巧いと言わざるを得ません。"Creep"に出てくるのは、自分も特別な存在になりたいと願い、好きな人から存在を承認されることを求めながら、「自分はうじ虫、キモイ奴」(I'm a creep. I'm a weirdo.)と自虐してしまう、コンプレックスの塊のような青年、つまりどこにでもいるような若者です。この曲ひとつで、主人公マークの拠って立つ心情を説明したと言えると思います。


その代わりとでもいうように、映画のなかでは一切マークの感情は説明されません。しかも、マークは"Creep"に出てくるような"キモイ奴"のまま成功してしまいます。


エンディング、呆けたような表情でエリカにフレンド申請をするマークに「君はいまやお金持ち」というビートルズの曲がかかります。


Beatles - Baby You're a Rich Man

How does it feel to be
One of the beautiful people?
Now that you know who you are
What do you want to be?
(どんな気分だい?
美しい人々の一員になった感想は
自分が何者であるか知ったいま
君はどうなりたいんだい?)


ここでは、「美しい人々(=成功者)」の一員にはなったけれど、自分がほんとうには何をしたがっているのかもはや分からずに、茫然自失としている一人の若者の姿が映し出されているのだと思いました。

追記:「さあここで予告編に出てきた"Creep"かかるか?!」と思ったら、陽気なこの曲が勢いよくかかるんですよね。「この映画は君たちが期待していたような物語じゃないよ」と、フィンチャーがニヤリとしてるような気がします。


サントラ、買おうかと思いましたが、"Creep"と"Baby You're a Rich Man"は入っていないようです*2