安倍―オバマ会談と米議会演説に対する各国の非難

(1) 韓国と中国の政府が強烈な反発
(2) オバマに非難の矛先
(3) 各国メディアの非難報道
(4) アジアを危機に晒す日米軍事同盟には対処する

※敬称略。◆は報道、①〜はその要点


安倍−オバマ会談と米議会演説は中国を敵国とする新たな軍事同盟である。オバマは功利の誘惑に負け、国家道徳を放棄した。だが中国と韓国は、経済と政治、民間と政府を峻別し、軍事的対峙だけに絞って日米を非難している。

日本敗戦後の冷戦レジームに凝り固まった安倍晋三の狡知もたかがしれている。全ては予想通りだったからだ。これも予想されたが―オバマは基本的な道徳観念が希薄なのではないか、そうでなければいいが、しかし安倍に絡め獲られるほどに意識の次元が浅いのか、という失望が世界に広がっている。


…………(1) 韓国と中国の政府が強烈な反発…………

◆<安倍首相の米議会演説>韓国政府から声明 「非常に遺憾」「逆に進む矛盾犯した」(中央日報
http://japanese.joins.com/article/809/199809.html?servcode=A00§code=A10
①日本の安倍首相の米議会演説は正しい歴史認識を通じて周辺国との真の和解と協力を成し遂げられる転換点になりえたにもかかわらず、そういった認識も、真の謝罪もなかった。非常に遺憾だ。

②日本が米議会演説で明らかにした通り、世界平和に寄与するには過去の歴史を率直に認めて反省することを通じて国際社会との信頼および和合の関係を成し遂げていくことが重要だが、行動はその逆を進むという矛盾を犯している。

③日本は植民支配および侵略の歴史、旧日本軍の慰安婦被害者に対する残酷な人権蹂躪の事実を直視する中で、正しい歴史認識を持って周辺国との和解と協力の道を進まなければならない。

◆中国、日本に「歴代内閣の約束を守るよう」再度要求(CRI北京放送)
http://japanese.cri.cn/881/2015/04/30/181s235802.htm
安倍晋三首相は29日、アメリカ議会での演説で「先の大戦に対する痛切な反省」を表明したものの、「侵略」や「謝罪」という表現は使いませんでした。

②外交部の洪報道官「安倍内閣は侵略の歴史を正視・反省する『村山談話』を遵守しない。国際社会の不信は増長し、アジアの隣国と未来志向の友好関係の芽が摘み取られた」。(意訳)


…………(2) オバマに非難の矛先…………

道徳心を捨てたオバマ氏、国益優先で日本を放任(中国網)
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2015-04/30/content_35462270.htm
①笑顔で日米防衛協力の強化という「手土産」をもたらした安倍晋三首相に対して、オバマ大統領も酔っ払ってしまったようだ。オバマ大統領は歴史問題で無制限に安倍首相を放任し、最低限の道徳心までかなぐり捨てた。

②安倍首相は歴史観の「多重人格者」。裏表ある態度の裏側には、間違った歴史を直視しようとしない本質が隠されている。
・昨年のAPECおよび今年のアジア・アフリカ会議で中国と首脳会談した際に『村山談話を含む歴代政府の歴史問題に対する認識を継承する』と約束しながら、村山談話に明記されている「植民地支配、侵略」といった重要語を使用せず、再び謝罪を避けた。
ハーバード大学では、韓国の慰安婦被害者の李容洙さん(87)ら抗議者と向き合わず、こそこそと裏口から入退場し、講演では再び慰安婦を「人身売買の被害者」と称し、数十万人の女性の被害者を強制連行し迫害した日本軍の残酷な性質をかき消そうとした。

③日本軍の真珠湾奇襲を発端とする太平洋戦争で、米軍は痛手を被り、日本軍の非人道的行為の犠牲になった。米国の識者やNYT社説は安倍首相に対して、歴史書き換えは責任ある国のする行為ではないと警告した。

④28日の日米首脳会談後に開かれた共同記者会見で安倍首相は、侵略の歴史と慰安婦問題に関する謝罪を質問され「非常に胸が痛む」という陳腐な言葉を繰り返すだけで謝罪を拒否した。赤裸々な人権および人の良知を挑発する行為だ。しかしオバマ大統領は、正義をはっきりと示さなかった。

⑤戦争の悲劇を招いた歴史観の間違いを徹底的に正さずして集団的自衛権と先制攻撃の行使が容認された日本の軍事力は、米国の潜在的な脅威ではないのか? 強化された同盟関係は、どのような共通する価値観を基礎としているのか?

⑥反ファシズム戦争勝利70周年を迎えたが、歴史問題で原則を維持せず、道徳を放棄し、日本の軍事力の規制緩和にひたすら取り組むことが、アジア太平洋戦略を軸とするオバマ大統領の外交の遺産なのか? 安倍が称揚する先の大戦は人類全体の大きな悲劇であったことを忘れてはならない。

◆日米首脳共同会見:記者の質問、ボルティモア、中国に集中(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150430k0000m030059000c.html
日米関係そっちのけでボルティモア暴動問題の質問に滔々と持論を展開したオバマ。日米同盟にも安倍の歴史認識にも関心はなく、安倍に迎合する米国が中国の怒りを浴びる心配ばかり。


…………(3) 各国メディアの非難報道……………

◆「後悔したが謝罪せず」 中国や韓国のメディア反発(テレ朝)
http://5.tvasahi.jp/000049489?a=news&b=ni
「謝罪どころか自画自賛だけ」「慰安婦には全く言及していない」「韓国と中国の成長を手伝ったと強弁した」など。

◆安倍首相の米議会演説を一斉に批判=韓国与野党朝鮮日報
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/04/30/2015043002723.html
①与党セヌリ党「米国と日本が新たに同盟関係を強化する中、韓国の生存戦略は何かを考えさせる演説。政府の対米・対日外交の見直しの必要性を提起したい」。
・金乙東最高委員「安倍首相は恥知らずだ。旧日本軍の慰安婦問題や過去の侵略の歴史について、謝罪はおろか言及さえしなかったことで過去の歴史を清算する機会を完全に無駄にした」。
・元外交官の沈允肇国会議員はKBSラジオに出演し、「内容や水準は予想の範囲内で、かなり失望」。

②最大野党・新政治民主連合「安倍首相の演説はわれわれの怒りを買わざるを得ない。韓日関係を悪化させるだけでなく、日本に悪影響を及ぼす」。

◆外国メディア、米日同盟関係の強化に憂慮(CRI北京放送)
http://japanese.cri.cn/881/2015/04/30/142s235786.htm
①ロシアの通信社スプートニク「日米は絶えず反中国連盟を強化している。中国や韓国から見ると、新たな日米防衛協力ガイドラインは、日本の再軍国主義化の新たな証拠」。

②ロシアの週刊誌エクスペルト「新ガイドラインは日本が全面的にアメリカに傾いたことを示した。これはロシアの安全や露日関係を脅かす」。

③ロイター通信「安倍首相の米議会演説は、第二次世界大戦の宿敵が真の和解を放棄して、奇妙にも最も親密なパートナーとなった象徴的な意義を表している」。

④韓国の中央日報社説「米日間の『至極同盟』は東アジア秩序において中国対峙という新しい荒波が生じることを予告」。

⑤韓国の東亜日報社説「中国の台頭とアメリカのリバランス政策が、日本を『正常国家化』させた。独島(日本名「竹島」)紛争で、韓米同盟と米日同盟は衝突する」。

◆中国民間対日賠償請求連合会、日本・安倍晋三首相に歴史正視を促す(新華社
http://jp.xinhuanet.com/2015-04/30/c_134199598.htm
①日本軍の「慰安婦」を「人身売買の被害者」と称し、日本がこの問題の加害国であることを口をつぐんで触れようとはしなかった。

②「慰安婦」とは第二次世界大戦中に日本軍人に性的サービスを提供し、性奴隷となることを強いられた女性を指す。歴史学者は、アジアには日本に強制的に「慰安婦」にさせられた被害者およそ数十万人がいると推測しており、日本軍が彼女たちにもたらした傷は消えることはない。

③安倍首相は演説の際、日本が第二次世界大戦中にもたらした被害について「後悔」の意を表したが、「慰安婦」問題に対し明確に謝罪することを再度拒否している。

④時が過ぎ去って70年余りになるが、日本は被害者に謝罪とお詫びをしないばかりか、今のところ「河野談話」や「村山談話」を否定する面構えを見せ、当たり障りのない程度に「後悔」の意を示している。

⑤安倍さんにお聞きします。あなたは日本軍の中国侵略の罪を否定しているが、それではあなたの言う「後悔」とは一体どこから来ているのか?

⑥日本政府は戦後、第二次世界大戦中に日本軍が中国人民にもたらした災難についてお詫びや謝罪をするのを拒否し続けてきました。これは日本が侵略戦争を美化し、歴史の真相を隠し続けてきた原因でもあるのです。

【写真】日本の安倍晋三首相は29日米議会で演説した際に、侵略歴史と「慰安婦」問題について謝罪を拒んだ。それは米議員からの強い反発を招いた(新華社
http://jp.xinhuanet.com/2015-04/30/c_134198954.htm

【写真】米国・サンフランシスコの華人華僑及び韓国系の民衆がデモを行い、日本の安倍首相のお詫びを要求(新華社
http://jp.xinhuanet.com/2015-04/29/c_134195996.htm


………(4) アジアを危機に晒す日米軍事同盟には対処する………

やはり中国政府は安倍の米議会演説をほぼ無視している。こんな次元の低い、国家間信義に悖る輩のパフォーマンスなどにかまけているほど中国は暇ではない。「一帯一路」でアジアからヨーロッパまで全く新しい経済ベルトを建設することに邁進しているからだ・・・

従って、中国は安倍に対して最低限の対応だけをする。それは中国の安全保障を脅かす日米安保の脅威が増大したことに対する中国国民の不安感を拭うための軍事的対抗策である。

この中国の対応はFT(ファイナンシャルタイムス)が警告した筋書の通りに進むことを示唆している。

FT社説「米国は無条件に安倍支持すべきでない。米日が『中国対峙』しているように見えれば、中国は平和的手段がなくても正当な目標を実現できると結論付ける可能性がある。新たな軍事協力指針は、対中敵視協定になるべきではない。TPPも貿易協定であり偽装された地政学的協定であってはならない」。

◆日米新ガイドライン合意、その目的は何か―「週刊!深読み『ニッポン』」第78回(人民日報)
http://j.people.com.cn/n/2015/0430/c94474-8885822.html
①新ガイドラインは日米防衛協力の矛先をはっきりと中国に向けている。「中国の海洋進出の活発化で脅威が高まっている」とし、ガイドラインの中にも「島嶼防衛の日米共同作戦」が盛り込まれ、自衛隊が「島嶼奪回作戦」を実施し、米軍が「支援や補完作戦」を行うと具体的な分業まで決められた。

集団的自衛権の行使を閣議決定で容認して以来、安倍首相は、集団的自衛権を「大規模」「合法的」に行使することに知恵をしぼってきた。

オバマ政権は、「アジア太平洋へのリバランス」戦略をいかに充実させるかという問題に直面しており、アジア太平洋の覇権維持のために同盟国の日本が急先鋒となることを望んでいる。

④日米両国は軍事同盟国であり、米国という「盟主」が「有事」の際、または「必要」な時に、日本が「盟主」と連携して集団的自衛権を行使することはしごく当然だという論理である。

⑤安倍にとって、米国と連携してガイドラインを改定すること自体が「積極的平和主義」外交そのものなのだ。それを支える「日米のグローバルな切れ目のない軍事協力」は「積極」が本音で、「平和」は建前。「積極」になってこそ、安倍は「軍事大国」になる最終目的を達成できるからだ。

⑥安倍首相の「歴史修正主義」は第2次大戦の結果を覆す目論見なのか。日米同盟関係という枠組みを覆し、米国に報復を狙っているのか。米国でそのような疑いの声があるのは不思議ではない。安倍首相の様々な言葉は、第2次大戦で侵略戦争を行ったという事実に対する軽視と否定を表している。

⑦新ガイドラインは、安倍首相の「歴史修正主義」に対する米国の不安を打ち消すものとなったが、一種の「目くらまし」にすぎない。その裏では第2次大戦の侵略の歴史を否定している。

⑧付け加えておかねばならないのは、「中国を標的」とする意図が非常にはっきりしていることだ。

⑨米国の力を借り、「周辺事態」という概念を「重要影響事態」に改めたことによって、中国牽制の範囲は日本周辺から東中国海や南中国海、太平洋、印度洋、北極海まで(さらには宇宙やサイバー空間まで)拡大され、日本が集団的自衛権を行使する口実はたやすく見つかるようになる。

⑩新ガイドラインは、日本の軍備拡充を促し、日本を戦争に巻き込ませる「入場券」である。この「入り口」は一度開いてしまえば、日本を再び戦争の泥沼に引きずり込みかねず、そこからは抜け出せず、深みに落ち込んでいくことになるだろう。(人民日報)

◆中国国防省「軍事同盟は時代遅れ」(CRI北京放送)
http://japanese.cri.cn/881/2015/04/30/181s235825.htm
①米日の新軍事協力ガイドラインについて「軍事同盟は時代遅れ。平和、発展、協力、共栄という時代の流れに背いている。アメリカと日本が軍事同盟を強化し、防衛協力の範囲を全世界に拡大したことで、世界の平和と地域の安定にどんな影響が及ぼされるのか、各国は高く見守るべきだ」

アメリカ国家安全保障会議のメデイロス・アジア上級部長は中国が抗日戦争勝利70周年を記念する軍事パレードについて「大規模な軍事パレードは和解のメッセージを伝えない。未来の展望に役立たない」とコメントした。

③耿報道官は「歴史を忘れてはならない。アメリカの関係者の発言は間違っている。歴史を直視できなければ、歴史の悲劇を繰り返す可能性があるからだ」と警告した。