主任


  私の所属する課には課長がいて、その次に主任がいて、
後は7人の社員の、合計9人で構成されている。
主任は35歳の女性で、勤続7年のベテランで、結婚もしている。
私は主任と家が近く、週に1回は一緒に帰る。
主任の気さくで親しみやすいお人柄と、
あまり気を使わないという私の性格とが相まって
(本当はもっと気を使うべきなのだろう)、
いつも楽しく帰らせてもらう。
たまに、仕事の相談をする。
会社にどんな服を着て行ったらいいですか、なんて相談もする。
私は主任が大好きで、そしてとても信頼していて、
帰り道以外でも、困ったことがあるとまず主任に相談する。
この間もお客様を怒らせてしまって謝りに行こうという時、
どんなふうにしたらいいか相談した。


  私が1人で営業に出始めて1週間くらい経った時の帰り道で、
主任が
「できれば長くいてくださいね。」
と、私に言った。
その時の主任の表情があまりに優しく、温かく、
あぁこの人は本当に私のことを歓迎してくれているのかもしれないと思った。
そして、3年で辞めると割り切って働いている自分にうしろめたさを感じた。
私は常にこの人を裏切りながら働いているのではないか、そんな気がした。


  事情があって辞めることになるのは仕方のないことで、
それは裏切りでもなんでもない。
でも私のように、
いつか辞めるのだと心に決めながら、今は主任を頼り切り、お世話になることは、
卑怯なことなのかもしれない。


  どうせ辞めるんだからと適当に働くのではなくて、
いつか必ず辞めるけど今はこの仕事を全うしたいから、
そのために主任に色々なことを教わるのだと心の底から思えるのなら、
それは、卑怯なことでも、裏切りでも、何でも無いのかもしれない。


  私はどうなのだろう。  
ただ目先の不安を解消するため、自分の困ったことを解決するためだけに、
その助けを求めて主任を頼っているだけなのかもしれない。
仕事を全うするためではなくて、
とても自己中心的な目的でお世話になっているだけなのかもしれない。
そう思うと、
もっと仕事頑張ろうという気になるのだが、
でもそれも、本当は、自分のためでしかないのだ。
自分のうしろめたい気持ちを紛らわしたいから、
だから一生懸命働こうと思っているだけに、すぎない。