お盆のあいだ仏壇に供えていた梨をむいた。
写真に写った、梨の皮の黒い斑点のようなものに気付いて、
あぁ気持ち悪いな、と思った。
細かい小さな点が斑点状に広がっている様を見るのが、昔から苦手だ。
鳥肌が立つような、背筋に悪寒が走るような、そんな気持ち悪さを感じる。


  今日は朝イチで深川へ行き、2時間ほど商談。
その後は高円寺へ向かい、さっと切り上げるつもりがうっかり1時間。
慌てて東京駅へ向かいアマローネを提案した後、
少し歩いて地下鉄日比谷駅から代々木公園へ移動し、サンプルを渡した。
時間に余裕があるつもりでいたが、
意外と1回1回の移動に時間がかかり、
電車の中で座る以外は息をつく間もなかった。
こんな日もあるのだ。


  会社に戻ったのは7時近くだった。
7時には会社を出るつもりだったが、
机の上に先輩からの言付けとやるべき仕事が積まれていて、
それをしているうちに、上司からもコピーを頼まれる。
全てを終えてから今日の報告を書いて、
返すべきメールを返して、
諸々の入力を済ませ、8時くらいに会社を出た。


  物が売れたり、商談が上手くすすむ日は、楽しい。
小走りで赤羽橋の交差点を渡りながら、帰る。
それでも私は、30歳を超えても営業をしている自分は想像しない。


  先日 はからずも「私も本当は営業なんてしていないで」と
シェフに言ってしまったことが、ショックだった。
今日もまだ、尾を引いている。
会社の人と、仕事の関係の人の前では転職の意志をほのめかさないことが、
私の中の約束事だったからだ。
どれくらい先のことかはわからないけれど必ず転職すると心に決めていることは、
誰にも打ち明けない。


  本当に大切なことは誰にも相談せず自分一人で決めて、
実行に移して初めて人に知らせる、
というのは父親譲りの性分で、
それが決していいことだとは思わないけれど、
このやり方を、いつもつい選ぶ。
誰かの前でさめざめと心情を吐露するなんて、ごめんだ。


  誰かに相談したり、背中を押してほしかったのではない。
私はあの時、「営業の吉田さん」ではない自分でいたかったのかもしれない。