1953ColdSummer
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掌編集のしおり
20100127
時計葬 (初出 20081025 改訂 20100127)
掌編 |
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――最初に、「時間は逆に廻すことができる」って言ったのは誰だったっけ。
忘れ得ぬ昔日。カオルがみんなと秘密を共有した時間。
激しいクラクションの音が響いた。赤信号であったことに気付き、カオルはハッと後ずさる。虚ろな気持ちのまま車道に踏み出しかけていた自分に静かな自殺願望を見て取って、昏い海の底に溺れるような感覚が神経を這う。
下品なネオンサインが自己主張を始める時間帯。雨上がりのアスファルトはその光を鈍く反射し、輝きはカオルの虹彩を射る。
カオルは足を止めポケットに手を入れた。しばらくまさぐった後、取り出した手の平を広げる。
歯車。
――あの時計の部品を十二人で分けたのだったな。
ノリミチが秒針を、コウジが発条を持って帰ったことはよく憶えている。自分がなぜ歯車を持って帰ったのか――そこは思い出せない。
カオルは道端に立ち尽くしていた。目を閉じ、静かに呼吸し、あの時代に思いを馳せるために。
何か直感めいたものだけが閃いて、カオルは目を開いた。
――夢か?
でなければ今、このおんぼろ校舎の中にいるはずがない。あのギシギシと鳴る階段の踊り場に立っているはずがない。
カオルは、みんなを探しに階段を昇る。真っ暗な校舎の中では足元がおぼつかない。
声が聞こえた。
屋上から、この階段が終わる場所からみんなの声が聞こえてくる。
――困ったな。足元か、耳元か。
どちらに神経を尖らせようかと思い悩みながら、カオルはギシギシと階段を昇る。
一歩。
また一歩。
贖罪の階段。
屋上の扉の前に、握りつぶされたマイルドセブンの空箱が落ちていた。
――ヨシマサだ。
ヨシマサが親に隠れて吸っていた煙草。
――みんな、この扉の向こうにいるんだ。
静かにカオルは扉を開いた。
冷たいドアノブに妙なリアリティを感じつつ、屋上に十一人の影を見つけた。
真っ黒な人影がカオルに向かって一斉に手を振った。
カオル!
待ってたんだ!
早く!
早く!
こっちへ!
もう準備はできてるんだぜ!
カオルは見た。そこにひとつの机が置いてあり、その上に分解された時計の部品が散らばっているのを。
――あの日だ。
みんなで秘密を共有し、約束を交わしたあの日。
「時間は逆に廻すことができる」
呪文のように、みんなでそう呟いた。
どうして忘れていたのだろう。あれだけ固く誓ったのに。どうして自分だけが忘れていたのだろう。
カオルは十一人の影に歩み寄った。真夜中の真の闇の中にあって、みんなの姿はそれ以上に暗かった。
ためらわず、カオルは歯車を机の上に置いた。
――これで全部の部品はそろったね。
カオルは無意識に生唾を飲み込んでいた。バラバラになっている時計はどこかグロテスクであったが、同時に美しくもあった。
否、美しく感じるのは十二人がここにそろったという事実だ。いよいよ始まるという胸の高鳴りだ。
あの日に止まった時計。みんなで解体した時計。そして今復活しようとしている時計。
その文字盤を見た。
止まった世界が動き出す。切り取られた時間の中に十二人は再生する。
目が覚めた。
通学に利用していたバスの中。次の停留所のアナウンス。
カオルは学生カバンを膝の上に置いたまま居眠りしていた。
学校前でバスを降りる。校門でヨシマサとコウジがカオルを待っていた。
「来るの、遅かったな」
それだけ言うと、ヨシマサはぽんとカオルの肩を叩き校舎へと歩き出した。
――クルノ、オソカッタナ。
その言葉を反芻し、意味するところを考えた。
将来つまらない大人になったら、時間を逆に廻そうという約束。ヨシマサたちとそんな約束をしたのはいつだったっけ。
カオルは頭を振り、校舎へと向かう。
つまらない大人になって時間を逆に廻す夢を見た。でもそれが夢だという確証は何もない。どこまでが現実でどこまでが夢なのか証明する手段なんて、何もない。
時間を刻み続ける時計に尋ねでもしない限り。
一つの時計と十二人の仲間で奇跡を起こせるものなのかと自分に問う。始業のチャイムが過ぎ行く時間をカオルに伝える。










