2011-01-27
「カンディンスキーと青騎士展」〜カンディンスキーが抽象画家になるまで
美術 | |
東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「カンディンスキーと青騎士展」は、彼が中心となった美術運動「青騎士」が誕生するまでを追った展覧会。
いまひとつ垢抜けしないポスターに、あまり期待しないで見に行ったのだが、カンディンスキーがどのように抽象画に至ったのかがわかる面白い展覧会だった。
"On White II" 1923(今回はこの作品は展示されていない)
カンディンスキーというと、上の画像のような抽象画を連想する。しかし今回の展覧会には、こうした本当の抽象画は展示されておらず、そこにいたるまでの作品が時系列に展示されている。
故郷のロシアで経済学や法学を学び、モスクワ大学の助手を務めていたカンディンスキーは、画家を志して30歳のときに妻を伴い、ドイツのミュンヘンにきた。
ミュンヘン美術アカデミーで絵を学ぶものの、アカデミーの伝統技法に飽き足らなくなったカンディンスキーは、1901年に仲間たちと「ファーランクス」というグループを立ち上げた。そして、「ファーランクス」が設立した美術学校に入学してきたガブリエーレ・ミュンターと恋に落ちた。
『花嫁』 1903年 レンバッハハウス美術館
カンディンスキーにこんな作品があったとは知らなかった。この時期のカンディンスキーは、ペインティングナイフを使って「彩色ドローイング」という点描的表現を用いている。その手法がよくわかる作品で、なんだか異彩を放った幻想的な絵だった。
手前に大きく描かれた花嫁は、ウエディングドレスを着ているのに、なぜか嬉しそうではない。遠景のロシア風教会とそこに向かう人々も意味ありげに見えるのは、描いたカンディンスキーが、既婚の身で恋におち、しかもロシア正教会の信者として離婚できなかったというエピソードを、見ている私が投影してしまうからだろうか。
『ガブリエーレ・ミュンターの肖像』1905年
珍しいカンディンスキーの肖像画。しかも写実的!
それにしても、きれいな人だ。
さて、カンディンスキーは妻と愛人が同じ町に暮らすことの緊張感や、妻への罪の意識に耐えられなくなり、ミュンターとともに各地を流浪する旅の生活を送るようになった。そして2人は、1908年に旅を切り上げて、ミュンヘン近辺の町ムルナウの美しさに魅せられ、そこに仲間を呼んで創作活動に励んだ。
『室内〈私の食堂〉』 1909年
温かさに満ちた作品で、色にあふれている。
『ムルナウ近郊の鉄道』 1909年
今回、最も気に入った作品。このほかにも、ムルナウで描いた絵がたくさん展示されていたのだけれど、どれもほっこりした色が可愛らしく、集めて絵本を作りたくなる感じだった。
この時期の絵は、色使いや面的な表現が、後期の抽象画と違って、なんだか素朴でロシア的な印象を受けた。
さて、カンディンスキーの記念碑的作品の一つが、上のポスターにも使われている「印象III(コンサート)」(1911年)。無調音楽の祖シェーンベルクの演奏を聴き、その印象を絵画化したものだ。
この絵を見て、カンディンスキーは共感覚者*1だったのではないかと調べてみたが、そうだとする説とそうではないという説があって、よくわからない。
そもそもカンディンスキーは共感覚の検査を受けていないので、推測するしかないのだが、当時流行していたシュタイナーなどの神智学に影響を受けていたことは間違いないので、そうした感覚をもっていたわけではなく、理論的に特定の楽器の音と色とを対応させて制作したという説のほうが、個人的には説得力があるように思える。
(そういえば、若手バイオリニストの庄司紗矢香は、音楽を聴いていると景色が見えるそうで、絵画の個展も開いていた。)
さてこの年、カンディンスキーは、盟友のフランツ・マルクと共に第1回青騎士展を開催した。 「青騎士」のメンバーは、もはや眼に見える形や既存の価値観にとらわれず、精神的なものを、自由な色彩とフォルムで表現することを目指した。カンディンスキーの作品も、「印象III(コンサート)」以降、急速に作風が変わって、初期のものとは趣が異なって抽象画へ向かってゆく。
今回の展覧会では、カンディンスキー以外の青騎士のメンバーの作品も多数展示されていた。
フランツ・マルク『虎』1912年
「青騎士」の活動は、第一次世界大戦で幕を下ろしたが、その後のドイツ表現主義につながり、後の時代に大きな影響を与えることになった。












1890年〜1950年頃に活躍した画家は、様々な画法の変遷が見られ興味があります。
そのように感じたのは、ゴーギャンとマティスが好きで画集を買ったことからなのですが、カンディンスキーの1909年の作品も後のマティスの作品に通じるものを感じました。1912年のマルツの作品はキュビズムやフォービズムを思います。
このように画家の思いや背景を辿ることで作品に興味を持てるととてもいいものを観たと感じそうです。
こんにちは、逍花です。
19世紀後半から20世紀前半にかけての画家は、様々な試行錯誤をしているだけに、追っていくと面白いですよね。
カンディンスキーの1909年の作品の中には、マティスと似ているものがあると私も思いました。
マルツの虎も、直線だけで構成されているのに、ちゃんと虎になっていて、おっしゃるようにキュビズムやフォビズムを思い起こさせます。
個々の画家は、それぞれが自分なりの表現方法を模索していたのでしょうが、後世の我々から見ると、それらは小さな流れが、あつまって大河を形成していく過程に見えるように思えます。