ロスジェネ心理学 概要

「ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く」の感想です。
結構思い入れのあるところ無いところの差が激しい本ですが、まずはそのあたりの区別をできるだけなくして「だいたいこんな感じの本として読んだ」という概要をまとめてみます。


まず構成がしっかりしてますよね。

著者が一番読者の人に伝え、納得してもらいたいのは最終章の
「責任の自覚(いつまでもクレクレ言ってられる子供の時代は終わった)」
「人生の諸問題や責任に対して主体的に生きることの薦め」だと思います。
でもいきなりそういうことを言っても読者からしたら受け入れがたいだろうから、
そこまで考えがたどり着けるように、しっかり道筋を整えようという気遣いが見える。


読者から見るとこんな感じでした。

(1)問題意識の確認

まず、こういうところで困ってたり、苦しんでたりしますよね、と言う点の確認。
上の世代の人が書いたりすると、この時点から「最近の若いものは」という
批判が始まっていて、まず「こいつは何もわかっていない」と思わせてしまうことがあります。
ここがズレていると、読者にとって何の価値もない本になるので重要です



(2)ロスジェネ世代の問題に対して個々人に押し付けられている責任を一旦引き取って解釈し直す

いまのつらい状況や問題について、「なんでもあなた達が悪いんじゃなくて社会的な影響はすごく大きかったんだよ」とまず認めてもらえる。これは大きいと思います。自分たちの話を聞いてもらうことすらできないでは、ふてくされるしかなくなってしまいます。ここで部分的にでも「It's not your falut」って姿勢が感じられるかどうかはとても大事。

まぁこれ、ちょっと怖い手法でもあるとは思いますが・・・。意図的に悪用すると「脱社畜ブログ」みたいなのとかネトウヨ系大好きなメディアとかできちゃいますからね。つまりここで「じゃあ全部団塊世代が悪いよね」とか言っちゃうとただの世代間闘争の話になっちゃいます。




もちろんこの本ではそういう話にはナリません。

(3)理不尽な責任の重圧を取り除いた上で、ロスジェネ世代の問題点を具体的に指摘する

問題点を指摘するのはようやくここからです。そしてこうあるべきだと思います。
とりあえず上の世代からが勝手に押し付けてくる責任は一旦気にしないとした上で、じゃあ自分たちはどう生きるか、と。「確かに君たちは悪くない。そうはいっても、社会の中で生きていく上でこういう点は何とかしていくべきだと思わないか?」と問いかける。
重圧を取り除くとは、逆に言えばいつものように言い訳にも使えなくなるということなので、読者としてはまともにその問題に向き合うことを強いられます*1キツイといえばキツイですが、それがわかってて、それでも耐えてもらいたいから先に荷物を少し下ろす、引き受けるということをやってるわけですよね。



(4)問題点をいろいろ指摘した後、それを束ねて考えるべき点をシンプルにする

ここで「自己愛」というキーワードが登場し、問題がここに集約されます。
このあたりの手際は、まるで、ロスジェネ世代の心理的債務をいったん引き受けて債務整理を行うことで、自分のところだけでも確実な返済を迫るナニワ金融道的展開を彷彿とさせます。

「いろいろ問題あるけど、カギは自己愛だ。とりあえず自己愛の問題についてだけは理解して、向き合って、克服しろ」と。 実際これが正しいのかどうかは債務者たる読者にはわかりませんが、自己愛の問題だけ解決できればだいぶ事態は改善する、という気持にはなれそうです。セラピーもこんな感じなのか、興味があります。


(5)軸となる考え方を踏まえた上で、更なるステップアップを提示する

自己愛という、問題を総括する理論をしっかり踏まえた上でネットにおけるコミュニケーションという現代的・具体的な各論に入り、さらに「コミュニケーションの苦手意識を克服するための技術」の実践に移っていきます。

実際、実際に読者が求めているのは具体的な問題への解決です。
問題の指摘や総論の解説だけでとどまる本も多いですが、
この本は実用的な部分まで踏み込んで行こうという意志を感じて大変ありがたいです。

しかし、ここの話をするためにも、どうしても先に
債務整理」および「軸となる考え方の説明」が必要だと著者は考えたのでしょう。
こういう流れを作るためには、やはりブログより本の方が優れてる気がします。


(6)読者自身の問題を解決させた上で、次のレベルの課題を提示する

ここで終わっていれば、「自己心理学をベースとした自己啓発本」としてスッキリできる内容だったかもしれません。でも著者は読者に対してご利益を与えるだけではなく、高いレベルの要求を突きつけます。

むしろ、ここで提示する課題に取り組んでもらうためにこそ、まず自身の問題を克服する手助けをした、そんな気がします。「もういい年なんだから、自分の問題はさっさと解決して、次の課題に進むんだ!それが今本来お前がやるべき仕事だ」 と呼びかけます。

なんでしょう。不甲斐ない部下を見て、本気で鍛え直そうとしている上司、みたいな感じでしょうか。私は正直、初見の時は結構うざいなーと感じ増田。でも、少なくとも耳を傾ける価値のある話だと思います。


ただ、6で提示される問題について、どのように取り組んでいくべきかについては作者自身まだ具体的な答えに確信がないようです。「これからみんなで考えていこう」「俺達の戦いはこれから始まったばかりだ!」という感じでシロクマ先生の次回作に乞うご期待ですね。

読者としては、まず5までについてしっかり理解・実践した上で、6は頭の隅におく、という使い方が重要なのじゃないでしょうか。

構成がしっかりしているため非常に読みやすい本ですし、普段シロクマ先生がどういう考えをベースに置いて普段記事をかいているのか、ということがわかりやすい(普段は3、4、たまに6という感じ)ので、ブログ読んでいらっしゃる方にはオススメだと思います。

*1:しかも重圧が取り除かれたのはこのお話の中、読み手の心のなかだけであり、実際にはロスジェネ世代に対する他の世代からの攻撃がなくなるわけではないのがミソ。結構やらしいと思います