仕事と晩飯とその他

日記です。

出版物の著者から読者への流れは決してひとつではない

出版業界の用語として「直販」と「直取引」は意味合いが大きく違うと思うけど、混同されることも多いのでどこかのタイミングでしっかり定義されたほうがいいんだろうなあ。

「直販=出版社が書店・取次を介さず読者に直接販売する」
「直取引=出版社が取次を介さず書店と直接取引する」

もうひとつ、名前のついていないパターンがある。

「取次が書店を介さず読者に直接販売する」

まったく無いわけではないけどあんまり話題にならない。実は「アマゾンと出版社との直取引」ってこれに近い。

今の段階では出版社による「直販=読者への直接販売」に対する流通・小売からの警戒心は非常に強い。昔、ブックサービスが始まった時の新聞広告で揉めたという話がある。某ドットコムの立ち上げに際してもその点への警戒心は明確にあった。裏返しに考えるとそこにある可能性を皆うっすらとは認識しているということだ。


紙の場合

 いわゆる通常ルート
  著者→出版社→印刷製本→取次→小売→読者
 直取引
  著者→出版社→印刷製本→→→→小売→読者
 直販
  著者→出版社→印刷製本→→→→→→→読者
 取次による直販
  著者→出版社→印刷製本→取次→→→→読者


紙の場合(ア◯の考えるルート)

 いわゆる通常ルート
  著者→出版社→印刷製本→取次→ア◯→読者
 直取引
  著者→出版社→印刷製本→→→→ア◯→読者
   または
  著者→出版社→印刷製本→ア◯→→→→読者


電子の場合

 印刷会社に製作依頼・取次経由
  著者→出版社→印刷→取次→小売→読者
 内製
  著者→出版社→→→→取次→小売→読者
 内製して直接販売
  著者→出版社→→→→→→→→→→読者

 著者が内製してKDPなど
  著者→→→→→→→→→→→小売→読者
 電子書籍を著者が制作して読者に直接販売
  著者→→→→→→→→→→→→→→読者


アマゾンって「書店」でもあるけど、「アソシエイト・プログラムに参加するアフィリエイター(極小の小売)を束ねるディストリビューター(流通業者)」もしくは「アフィリエイターの物流部門を代行するホールセーラー(問屋)」って側面もあるよね。あと、出版社の宣伝を代行するメディアでもある。アメリカでは出版社にもなろうとしているようだ。PODでは印刷会社のポジションも伺っている。

なのでアマゾンが出版社との直取引を指向するのは必然。本気で対抗するなら「直販(小売も流通も飛ばす=レコード会社のレコチョクみたいなの)」か、「取次がアマゾンに対抗できるぐらいの書店のネット販売代行システム(アフィリエイト)を作る」か。

後者(取次が書店のネット販売をサポート)は、e-honとかHonya Clubで進めてるけど、とりあえず告知宣伝は足りない気がする。前者は電子書籍だと聞くけど紙はどうなんでしょうか。http://s-book.comですらやめちゃったし。そういえばcbook24っていうのもあったな。直販って案外多くの出版社にとっては手間だから。皆、思ったほどはやりたがらない。

ブックサービスは「出版社の直販の手間を大きく軽減するシステム(仕組み)」としては優秀だと思うけど、如何せん、直販をほとんどやってない多くの出版社からしてみると「(売上の割に)手間が増える」としか見えなかったんだろうなあ。たらればだけど、ネット対応が早くて楽天みたいな「(出版社)モール」を作っていたら違ったのかも。もっと進めて「出版社サン、ホームページ、うちで用意したサーバーに無料で作りませんか? 無料どころかそこから売れたらリベートをお支払いしますよ! もちろんツール(CMS)も使い放題ですよ!」ぐらいやってたらなあ。可能性はあったと思うんだ。

「直販」オンリーの出版社って話題になることが少ない。昔だと新聞広告で一世を風靡したア○○○ー出版とか(書店売もやってたけど)。最近だとFB広告でよく見かけるダ○○○○出版(情報商材アフィリエイトで)とか。定期購読のみの雑誌とか通信教育とか教科書専業とかもこっちに近い。ダイレクトマーケティングの世界。そっちで動きが悪くなったから書店売をって話もあるんだけど。

大手がオンデマンド印刷機を導入というのも始まってる。印刷・製本も紙だから不動ってわけでもない。POD、小売が導入じゃなくて「出版社が導入=製販分離から製販一体化へ」のほうがインパクトはある。印刷・製本までが一元化されて一冊あたりの製造原価がもっと減ったら……。原価の問題なんで案外ハードルは高い。

まったく別件。こういう話では出てこないけど、出版業界にはAdobe税というのがあってDTPソフトのためにアドビに上納を続けなければならない(税というのは冗談ですが実際に使用人数分の費用は発生)。これが無くなると影響はけっこう大きい。フリーでオープンなDTPソフト(と、XML組版のための規格のさらなる標準化と普及促進)が待たれる。