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2006/03/20/Mon

[][]映画「製作委員会システム」のメリットとデメリット

 90年代後半以降に元気になった映画製作について、僕はそれほど楽観視はしていない。この時期に映画が面白くなったのはいわゆる「製作委員会システム」に依るところが大きいのだが、逆にこれゆえのリスクもある。

 製作委員会システムとは「『○○』(作品名)製作委員会」というもののことで、アニメでは80年代からおこなわれていた方法論らしい(詳しくは知らない)。

 これは資金調達のためのスポンサーを多く募ることを目的としたものだ。資金集めのリスクは軽減されるが、多くのスポンサーの顔色をうかがわなければならなくなるというデメリットもある。

 たとえば、去年公開された『NANA』では、TBS・東宝・セディックインターナショナル・集英社・トゥループロジェクト・IMJエンタテインメント・MBS・アニプレックスの8社が、「NANA製作委員会」に名を連ねている。TBSとMBS(大阪毎日放送)はTV局、東宝は配給と宣伝、集英社は原作の版元、セディックインターナショナルとIMJエンタテインメント(デジタル・ハリウッドから分社化)は制作プロダクション、トゥループロジェクトは中島美嘉が所属する芸能プロダクション、アニプレックスはソニー・ミュージック(SME)の子会社の製作会社だが、たぶんこの作品では中島美嘉がSMEの所属なので出資しているのだろう。

 製作会社はセディックとIMJだが、「製作」というクレジットのエグゼクティブ・プロデューサーはTBSの近藤邦勝取締役で、「企画」にクレジットされるのが同じくTBSの濱名一哉(コンテンツ事業局映像事業担当担当部長)。「プロデューサー」には中沢敏明(セディック)・久保田修(IMJ)・川崎隆(東宝?)が名を連ねている。

 つまり、TBS主導で、製作会社と東宝を絡め、集英社に許可を取り、中島美嘉の芸能プロダクションを押さえ、そうすると漏れなくついてくるSMEにもアニプレックスから出資させて(?)創られているわけだ。

 もうひとつ例を出そう。

 大ヒットした『世界の中心で、愛をさけぶ』の場合は、製作委員会に東宝・TBS・博報堂・小学館・S・D・P・MBSの名前が並ぶ。S・D・Pはスターダストピクチャーズという製作会社だが、これは柴咲コウや竹内結子が所属する芸能プロダクション・スターダストプロモーションの系列会社だ。

「製作」の本間英行は東宝の人、プロデューサーには東宝の市川南と博報堂の春名慶がクレジットされている。企画を立ち上げたのは春名氏だそうで、スターダストが関係しているのは原作に帯文を書いた柴咲コウを押さえるためだろう。

 この作品が『NANA』と違うのは、広告代理店の博報堂が絡んでいるところだ。博報堂は近年『下妻物語』『いま、会いにゆきます』『青の炎』などの製作委員会に名を連ねている。これは(アニメを除くと)2000年以降に顕著となっている。

 博報堂だけではなく、電通も同様だ。『精霊流し』『あずみ』『天国の本屋〜恋火』などの製作委員会に名を連ねている(が、ヒット作は少ない)。これも2000年以降の傾向だ。

 以上のようにクレジットを紐解くだけで、この製作委員会システムが見えてくる。つまり、東宝・広告代理店(博報堂or電通など)・TV局(TBSorフジテレビなど)のどれかが中心となって製作を進める際に、「○○製作委員会」というものが組織されるわけだ。

 前述したようにこれらは出資のリスクを分散する目的があり、さらにTV局や広告代理店を絡めることで宣伝に力を注ぐことができることや芸能プロダクションの協力を得やすいというメリットがある。また、複数のスポンサーからの脚本やスタッフのチェックが入るために、その内容が洗練されることもあるだろう。

 ただし、問題もある。すべてのスポンサーが納得できる作品にしなければならないゆえに、斬新な作品が減る傾向にあるからだ。たとえば、TV局を絡めると放送法のこともあり政治的な強いメッセージは抑えられることとなる(例:『ローレライ』)。

 また、企画を通しやすくするために、認知度の高い原作を使うことになる。昨今、マンガ原作が多く映画化されるのは、この背景を持つのだ。

 出資元がひとつだけならばこんなことにはならない。オリジナル脚本で知名度の低い監督で勝負できる。しかし、宣伝は弱くなり、収益は期待できない。それは非常に負ける確率の高いギャンブルになってくるし、そもそも映画は興行だけではなかなか儲からない産業だ(グッズ、DVD販売、TV放映などで回収していく)。

「2000年以降、日本映画は復活した」とは、これまでもよく見た言説だし、実際興行的には復活傾向にある。質的にも良くなったとも思う。しかし、マンガや小説原作に頼る傾向が強まる一方なのは、ちょっと注意する必要がある。結局それは企画が通りやすいという理由や、出来のいいオリジナル脚本を書けるライターが少ないということでもあるからだ(この点で『メゾン・ド・ヒミコ』と『リンダ リンダ リンダ』は評価できる)。

 今後は、ファンド方式などが広く行われるようになることも期待できるし、実際に松竹は『忍 SHINOBI』などでおこなっている

 僕がここで期待したいのは、村上ファンドでお馴染みの村上世彰氏である。彼は通産省を退職する直前まで生活産業局サービス産業企画官という役職で仕事をしており、退職した99年に『日本映画産業最前線』(小川典文との共著)という本を上梓している。この5章で映画ファンドについて少し触れている。この本は、通産省で村上氏などが中心となってやっていた映像産業活性化研究会の報告書をベースにしたものだと思われる。

 いま、映画業界に明るい村上さんが、その知名度と人脈を活かしてファンドを立ち上げればかなり大きな波紋を巻き起こせるだろう。現状の製作委員会システムと違い、スポンサーの顔色をうかがう必要もなく、企画そのもので出資を募れる(失敗してもそれは出資者の責任だ)。

 映画そのものがハイリターンを期待できる商品ではないので、こういう動きは大きくなりにくいかもしれないが、東宝と村上氏が組むようなことになると状況はかなり変わる可能性がある。

 もちろんこれは映画製作の可能性を探る一例にしかすぎない。ただ、なんにせよ現状の製作委員会システムがマンガ原作に頼りっきりになっている状況は、やはり簡単には首肯できるものではない。そろそろ飽きられている現象も見えてきているし、ネタも尽きかけている。未来を見据えて、なにかしらの方向性を開拓する時期に来ているだろう。

日本映画産業最前線

日本映画産業最前線

●追記

 この直後、『月刊創』2006年6月号のマンガ特集において、マンガのメディアミックスについて取材する仕事が舞い込んだ。単なる偶然なのだが。

 小学館・集英社・講談社・スクウェアエニックス・フジテレビ・日本テレビ・東宝と取材をしてきた。このエントリに出てくる当事者に取材をしているのである。興味を持たれた方は、お暇と財布に余裕あったら、読んでいただければと思う。

創 (つくる) 2006年 06月号 [雑誌]

創 (つくる) 2006年 06月号 [雑誌]

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■特集・マンガはどこへ行く

●マンガは新しい時代に入りつつあるのか 篠田博之

●異色対談16ページ!

 「鋼の錬金術師荒川弘×「さよなら絶望先生久米田康治

●話題マンガ 「ドラゴン桜」作者・三田紀房インタビュー

●2006年夏を騒がす“二匹の龍” 

  「ゲド戦記」×「ブレイブ ストーリー」  廣田恵介

●マンガ発メディアミックスの拡大と変容  松谷創一郎

●激戦区「TVアニメ」の熱情と戦略  丸山昇

●ビジネス本格化!マンガの海外進出  久保隆志

ライトノベルはアニメ界の救世主か  廣田恵介

●注目集める携帯マンガの未来は  長岡義幸

●まんが喫茶で進む多角化複合化  長岡義幸

●こんな感じでマンガ描いてます  山本直樹

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