
2007/04/22/Sun
■[another view][Hit!]Who are ''You'' ?:ヴァージニア工科大学の犯人について
ゴールデン・ウィーク前なので週末なのにとても忙しい*1のだがちょっと。
32人が殺されたアメリカ南部にあるヴァージニア工科大学で起きた銃乱射事件から、一週間ほどが経とうとしている。自殺した犯人も割り出され、テレビ局には、大学での事件の前に撮影されたと思しき犯行声明のビデオが送りつけられた。各メディアでは、犯人の素性について具体的な報道がなされている。現段階でまだ彼について想像を働かせるのは時期尚早かもしれないが、たぶんこのタイミングだからこそ考えるうることもあるはずだ。
まず、グリーンカード(永住権)を持っていた韓国人の犯人についていまさらここで説明する必要もないだろうけど、最初に述べておきたいのは、これによってアメリカ国内のみならず日本も含めた世界各国で韓国人についての差別が拡がらないように願いたい。当たり前のことだが、韓国人にもいい人もいれば悪い人もいる。日本人もアメリカ人も同様だ。そこで国籍や人種の属性で差異化を図ること、つまり差別がひどい愚行であるのはあらためて書くまでもないことだろう。
さて、この事件で僕がとても気になったのは、犯人がテレビ局に送りつけてきたあのビデオだ。彼があのビデオで発言している内容はとても支離滅裂だが、非常に特徴的なのはカメラに向かって''You''を連呼していることだ。
ご存知のように、''You''は単複同型の人称代名詞だ。特定のだれかを指すこともあれば、特定の複数のひとびとを指すこともある。また、''You know~(ご存知のように/周知のとおり)''という慣用表現のように、一般総称、つまり具体性の乏しい他者一般を前提に使われることもある。
しかし、あのビデオで犯人はビデオカメラで''You''に強く憎しみをぶつけていた。
「''You''がおれを追いつめたからだ。おれにはこの選択しかなかった。''You''の手は血に染まり、その血は永遠に洗い流せない」
「自分のためでなく、子どもや兄弟たちのためにやった」
「つばをかけられたり、ゴミを口に詰め込まれる気持ちがわかるか。''You''は欲しいものすべてを持っていた。ベンツだけじゃ足りないのか! 金のネックレスでも足りないのか、気取りやがって」
等々。
この''You''とは、いったい誰のことなのか?
特定のだれかにしては、その具体性は明示されることはない。かといって、まるで特定のだれかを指すように厳しく非難の意志を表明する。
特定のだれかなのか、特定のグループなのか、それとも具体性のない他者一般なのか──。
一部には、富裕層に対する恨みではないか、という分析をする報道もある。たしかに彼の言葉の一部からは、それをうかがわせる。しかし、本当にそうなのだろうか。
ひとが強い憎しみを持つとき、たいていその対象は特定の個人や集団についてだ。だけれども、この一言から彼が富裕層を敵と見なしていたと考えてもいいのだろうか。富裕層を憎んでいるなら、銃を使う場所が違うはずだ。また、姉弟ともに大学に通えるだけの一家で彼は育っているのだ。
そう考えると、あれはやはり具体性のない抽象的な他者一般だと推察できる。問題は、この他者一般の質である。
たいていの場合、このような具体的ではない他者は「社会」のことを指す。シカゴ学派の社会心理学者、J・H・ミードは、個人に内面化される特定の他者によるものではない社会的期待(もしくは社会規範)を「一般的な他者」と呼んだ。つまり、「(ここではこういうことを望まれているはずだから、)こうしなければならない」といったような意識のことである。そこでは具体的な他者はいないが、そのひとを内面的に規制/抑圧する「社会」なり「世間」なり「共同体」が存在すると想定する。
しかし、この彼の場合、その''You''が「社会」とは感じられない。対アメリカ社会を憎んでいたなら、もう少し具体的な言説を彼は残していたはずだ。ではその''You''とはなにか?
たとえば社会学者の見田宗介は、1979年に「まなざしの地獄」という論文を書いた*2。これは青森の農村から集団就職のために上京し、その後4人を射殺して死刑となった故・永山則夫(文中では「N.N.」)の手記を分析したものである。彼のそのような凶行の背景には、都市的な「まなざし」があったと見田は分析する。
しかしながらその「まなざし」と、この犯人が意識していたそれは、同質ではないだろう。永山則夫は、明確に都市を憎んでいたわけではない。彼は自分でもその凶行の理由をわからないと述べる。対して、このヴァージニア工科大学の犯人は明確な憎しみを露わにする。しかし、その対象が不明なのだ。
そのような彼の感性ともっとも共通性を感じるのは、やはりセカイ系の作品群だろうか。「セカイ系」とは、アニメ『ほしのこえ』などのオタク向け作品の表現性を表した言葉だ。インターネット上で創出したものなので定義はさまざまだが、おおよそは社会を経由せず個人と世界=セカイがダイレクトに結び付くタイプの作品群のことを指す。
個人ととても遠い場所にあるはずのものが、ダイレクトに結びつくことなど本来的にはありえない。なのに結びつき、ときにはそれが愛する女性に変換されたりもする。一部報道では、この犯人はスーパーモデルの恋人を妄想していたという。
この「セカイ」がカタカナ表記なのは、その具体性が乏しいからだ。そこで想定されているのは、人種・宗教・文化等の多様性が遍在し、国家・地域・ひとびとの関係が複雑に絡みあっているような世界、ではない。そもそも全体像が想定されていないかのような、そこ以外の空間が存在しないかのような場所、それが「セカイ」だ。
そう考えると、彼が強い調子で糾弾する''You''とは、日本で「セカイ」と呼ばれるものに近しく思えるのだ。
誤解のないように先に述べておくが、僕はここでオタクがこの犯人と似ているからオタクも危険だと言っているのではない。そうではなく、オタクに限らず、このような意識を有している一部のひとたちが、なぜその意識の矛先を具体的なYouに向けないのか、ということだ。いや、これは考え方が逆かもしれない。具体的なYouがいない、もしくは想定できない状況だからこそ、抽象的な''You''が創出されると考えるのが自然だ。
セカイ系作品とは、そのようなひとびとの感性の反映であると言っていいだろうし、実際そのような作品群が広く共感的人気を博す状況も現実的にある。つまり、セカイ系作品群とは需要の結果なのである。
このようなセカイ系作品群の存在の善し悪しについては、ジャッジメントなどできるはずがない。いや、悪であるはずがない。フィクションの作品群の社会的存在を悪だとすることは、決してできるわけがない。これと同様に、どのような危険思想もそれが実行に移されないかぎりは悪だとすることはできない。オウム真理教はサリンさえ撒かなければ、人を傷つけ殺しさえしなければ、悪ではなかったのと同様に。また、この事件の犯人が事件を起こす前の計画と同様に。ひとの頭のなかのみで完結することはだれであっても罪はない。ひとの脳内とは治外法権なのである。犯罪とは、動機の明瞭さは問われるものの行動のことを指す。
逆に、このようなセカイ系作品群は''You''=「セカイ」を想像するひとに対し、You=社会の存在を具体的に意識させる効果があるとは言えないか。たとえば、セカイ系作品群をともに愛好する者同士で繋がりを持つこともあるだろう。実際に物理空間を共有するような関係を持たなくとも、ネット上で(物理的に)面識のないひとたちを交流し、そこで「絆」を意識したりするかもしれない。''You''的な感性が表象された作品群を介してYouを内面化する──という過程である。
また、それほどの社会化を期待しなくとも、彼が憎しみを持ってしまった''You''=「セカイ」が逆に彼を癒す存在であったならば、彼はそのような凶行に走らなかったかもしれない、などとも思う。もしかしたら、彼にとっての不幸とは、セカイ系作品群に親しむ環境になかったことなのかもしれない。なんにせよ、結果的に暴発してしまった彼の荒ぶる感性を平穏にさせるガス抜き装置として、なにか必要だったことはたしかだ。
犯人は、ビデオカメラに向かって激しく自己主張を爆発させていた。その発言内容は、妄想的で、支離滅裂で、自己顕示的な内容だ(しかし統合失調的には思えない)。彼が大学の課題で書いた戯曲も、驚くほどに幼稚だ(id:TomoMachi:20070418)。多くのひとが想定できぬ''You''に対してする彼の強い自己主張は、ビデオ映像だけではなく銃から音速以上のスピードで発射される弾丸で表現された。絶望的な自己主張である。これほど無惨かつ空回りするものはない。可哀想なのは、そんな表現によって命を落としてしまった32名のひとびとである。
最後に。
もうひとつ、あの映像を観て連想した曲があった。電気グルーヴの「誰だ!」だ。
石野卓球とピエール瀧によるこの曲の詞は、「誰だ! セクハラしてるのは」「誰だ! 芝生に入るのは」「誰だ! 笹舟流すのは」「誰だ! ねるとん方式を取り入れているヤツは誰だ!」「誰だ! 喧嘩が強いのは」「誰だ! 女にモテルのは」等々、ふざけた内容が続く。
しかし、この曲は「誰だ! 俺を操るのは」のあとに、以下の一言を残して終わる。
「いったい俺は誰なんだ?」
あの犯人はこんな感じだったのかもな、とも思う。
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