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2009/02/10/Tue

[][]2008年度日本映画産業統計を読む

 例年どおり、今年も1月末に2008年の日本映画産業統計が発表された。

http://www.eiren.org/toukei/index.html

 昨年一昨年に引き続き、今年もこの統計を読み解いていく。

●日本映画産業全体の推移

□2008年(平成20年)全国映画概況

○入場人員:1億6049万1000人(前年比98.3%)

○興行収入/全体:1948億3600万円(前年比98.2%)

・興行収入/邦画:1158億5900万円(前年比122.4%)

・興行収入/洋画: 789億7700万円(前年比76.1%)

・興行収入/シェア=邦画:洋画=59.5%:40.5%

○平均入場料金:1214円(前年比-2円)

○公開本数/全体:806本(前年比-4本)

・公開本数/邦画:418本(前年比+11本)

・公開本数/洋画:388本(前年比-15本)

○映画館数:3359スクリーン(前年比+138scr)

 全体の興行収入は前年比98.2%、入場者数も前年比98.3%となり、一昨年に続いて微減となった。

 興収では、2年ぶりに日本映画のシェアが外国映画を上回った。日本映画が前年比122.4%であったのに対し、前年比76.1%となった外国映画の不振が大きく響いた。この状況については、昨年秋に「外国映画が不振の理由」というエントリで、〈1〉観客の嗜好の変化、〈2〉外国映画ビジネスの変化、〈3〉シネコンの番組編成の短期化、という三つの変化で解説した。だが、この後、秋以降の世界同時不況と急激な円高により、外国映画の買い付け金額(MG)は急激に下落したと耳にした。どうも、2000年頃の水準に戻ったそうだ。これにより、今年はまた状況が変わってくるかもしれない。

 一方、日本映画は『崖の上のポニョ』の大ヒットもあり、大幅な集客増になった。総興収1158億5900万円とは、興行収入発表となった2000年以降では最高である。入場者数(私による試算・以下同)では約9544万人となり、約1億378万人を動員した1973年以来の数字となった。2000年が4305万人ほどであったことを考えると、飛躍的な伸びである(下図参照)。

 10億円以上のヒット作は、日本映画が28本、外国映画が24本で、計52本。07年が同29本、22本の計51本、06年が同28本、20本の計48本と、この数年と同じく日本映画の打率が高い。

 外国映画のヒット作は、近年では多いほうだが、昨年は100億を超える作品は生まれず、50億以上も『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(57.1億)と『レッドクリフ Part1』(50.5億)の2本にとどまった。50億以上の作品は、07年は4本、06年は5本で、『レッドクリフ』はハリウッド作品ではないことを考えると、極端にハリウッドメジャーがヒットしなかった年なのである。こうした外国映画の不振の結果、全体では微減となった。

 しかし、映画興行自体は、01年以降の頭打ちの状況は依然続いており、一定のパイを年によって日本映画と外国映画で分け合っている状況とも言える。それゆえ、手放しに「日本映画絶好調!」などと喜べる状況にはやはりない。昨年、『ハリー・ポッター』の公開が延期されたが、もしあのまま公開されたらその100億円分、他の作品がヒットしなかったかもしれない。

●増え続けるシネコン

 興行のパイは変わらない一方で、増え続けているのはスクリーン(scr)数だ。前年比138scr増の3359scrとなり、うちシネコンが2659scrと79.1%を占める。興行収入がほとんど変わらないのに、スクリーン数が増えるということは、ひとつのシネコンの売上が年々落ちていることを意味する。

 実際、一スクリーンあたりの興行収入であるパー・スクリーン・アベレージ(PSA)は、昨年5800.4万円にまで下がった。これは、過去20年で最低どころか、1976年の5349.5万円以来の低い水準である。劇場のガラガラ度は高まり、劇場の事業者の収入も減っているのである(図2参照)。

 段差のある綺麗なスタジアムシートや全席指定制、優れた音響設備など、一般化したシネコンの鑑賞環境は、もはやそれだけではアドヴァンテージを持たなくなった。現在、シネコンは会員サービスや時間割り引きなどで客を呼び込もうとしているが、なかなか状況は好転していない。

 私は、以前から窓口料金の値下げをするしかないと主張してきたが、そういった動きも見られる。ワーナーマイカルは、今年2月(今月)に週末1000円興行を実施している。しかし、いくらこういうことをやっても、ふだんの窓口料金は1800円のままだ。

 毎月1日の映画の日は、どこの映画館も盛況だが、この日しか映画を観に行かない人たちもかなりいる。あるいは、ヘビーユーザーであればあるほど、レイトショーや前売り券などを使って安く映画を観ている。その結果が、平均入場料金1214円という数字に現れ出ているが、一方でふだん劇場に行かないライトユーザーにとっての映画は、1800円ととても敷居の高い娯楽のままである。

 ならば、前売り券販売を止めて、一般窓口料金は一律1200円でいいじゃないか――と私などは思うが、業界的にはなかなかそうもいかない事情がある。なぜなら、前売り券を関連会社に購入させ売上(興収)を計上する映画業界の悪しき慣習は、バブル期ほどではないがいまだに必要とされているからだ。チケット屋で安く売られている前売り券は、それを購入した企業から流れてきているものだ。

 出資者や芸能プロダクションが大量の前売り券を購入することを前提に製作が行われることもある。今年1月に東映が配給する予定だったものの、制作プロダクションの夜逃げでお蔵入りとなった『ふうけもん』は、キリスト教福音派の伝道師を描いた作品だ。おそらくこの作品は、キリスト教団体や信者への前売り券の大量販売を前提に制作されたものであろう。過去にも幸福の科学の宗教映画が10億円以上のヒットになったことがあったが、それと同様の手法なのである。

 業界が、窓口料金の値下げがなかなかできないのは、こうした製作サイドの事情もあるが、劇場側にとっても簡単にできることではない。売上が減るリスクもあるからだ。また、前売り券の効果も弱まるので、配給会社にも嫌われ次に確実なヒットが見込めるフィルムを回されなくなるリスクもある。劇場がなかなか値下げに踏み切れないのは、こうした背景もある。

 従来の前売り券システムが大きな破綻を見せていない以上は、窓口料金を下げるといった試みは、業界にとっては大きなリスクと考えられているのだろう。しかし、それによって映画館に来るお客さんを増やせてないのも間違いない。

●日本映画ヒット作1位-5位

 さて、ここからは、日本映画の興行収入10億円以上の作品について見ていこう。

順位

公開月

作品名

興収

(億円)

配給会社

1

7月

崖の上のポニョ

155.0

東宝

2

6月

花より男子ファイナル

77.5

東宝

3

10月

容疑者Xの献身

49.2

東宝

4

7月

劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド・パール ギラティナと氷空<そら>の花束シェイミ

48.0

東宝

5

5月

相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195km東京ビッグシティマラソン

44.4

東映

6

8月

20世紀少年 第1章

39.5

東宝

7

6月

ザ・マジックアワー

39.2

東宝

8

3月

映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝

33.7

東宝

9

07/12月

マリと子犬の物語

31.8

東宝

10

2月

L change the WorLd

31.0

WB

11

9月

おくりびと

30.5

松竹

12

4月

名探偵コナン 戦慄の楽譜<フルスコア>

24.2

東宝

13

9月

パコと魔法の絵本

23.6

東宝

14

8月

デトロイト・メタル・シティ

23.4

東宝

15

1月

母べえ

21.2

松竹

16

1月

陰日向に咲く

19.5

東宝

17

3月

映画クロサギ

17.2

東宝

18

2月

チーム・バチスタの栄光

15.6

東宝

19

3月

犬と私の10の約束

15.2

松竹

20

4月

少林少女

15.1

東宝

21

7月

ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌

14.5

松竹

22

11月

ハッピーフライト

13.3

東宝

23

4月

映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者

12.3

東宝

24

7月

クライマーズ・ハイ

11.9

東映/GAGA

25

8月

劇場版NARUTO -ナルト- 疾風伝 絆

11.6

東宝

26

07/12月

椿三十郎

11.5

東宝

27

1月

銀色のシーズン

10.4

東宝

28

4月

砂時計

10.0

東宝

 とにかく昨年は、『崖の上のポニョ』→レビュー)のヒットに尽きる年だ。3年ぶりの宮崎駿監督作品は、やはり興収155億円のメガヒットとなった。これは、日本映画歴代5位の記録である。なお、1〜3位は、同じく宮崎監督の『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『もののけ姫』であり、4位が『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』である。

 鈴木敏夫プロデューサーは、今回も公開前の宣伝を極力抑える手法をとった。『ハウルの動く城』でも行われていたこの「観せない宣伝」は、“国民的アニメ”とも言えるほどの認知度があるスタジオジブリ&宮崎駿のブランド力だからこそ可能な手法だ。ギリギリまで客の枯渇感を煽り、公開日にドーンと集客するのである。

 さらに今回は、“中押し”とも言える宣伝も効果的だった。公開から3週ほど経った頃だったか、ポニョが魚のかたちをした波の上を走るシーンを使ったCMを流した。作品のいちばんの見せ場と言ってもいいこのシーンを公開後に使い、さらに動員を喚起したのである。また、主題歌を担当した藤岡藤巻と大橋のぞみが、夏以降に音楽番組に数多く出演したことも大きな宣伝となった。

 とは言え、『ポニョ』が宮崎監督の過去3作──『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』の興行成績を超えられなかったこともたしかだ。「内容が子供向けだったので、大人が行かなかった」などとも報道されたり、私は、公開直後にTBSラジオ『ストリーム』に電話出演して「リピーターしだい」とコメントしたりしたが、さほどリピーターを呼び込むことにはならなかったのかもしれない。もちろん大ヒットには違いないのだが、やはり200億を目標としていたはずだ。

 2、3、5位には、テレビドラマのスピンオフ映画が入った。2位で興収77.5億円の『花より男子ファイナル』はTBS、3位の49.2億円の『容疑者Xの献身』はフジテレビ『ガリレオ』、5位の『相棒 -劇場版-』→レビュー)はテレビ朝日のドラマだ。

 ドラマのスピンオフについて、一部の映画マニアには苦々しく思う向きもあるが、そうした方々は映画(劇場)のイベント性をあまり認識できていない。作品を大きな画面でじっくり鑑賞したいなら、べつに劇場に行かなくとも大画面テレビを買ってDVDで鑑賞すればいい。

 私は常々「映画鑑賞者の8割は、カップルかファミリー」と言っているが、映画興行とは、端的に言えば「家以外の場所で、だれかと一緒に映像作品を観る場」なのだ。家族でのショッピングやカップルのデートにおけるイベントであり、コミュニケーションツールなのである。だからこそ、「コピーメディアをみんなで観る」という、100年前から大して変化のない非常に古典的なメディアが存続しているのだ。それゆえ、映画マニアの安易なドラマスピンオフ批判はピントがズレている。それは、遊園地に「最近の遊園地は軽薄だ」とか言っているようなものだろう。

 私は、この3作のうち『相棒 -劇場版-』を6月1日(映画の日)に新宿バルト9に観に行った。もちろん、ドラマ『相棒』が好きな女友達といっしょに。作品の出来は、ハッキリ言って良くなかった。しかし、『相棒』が好きな女友達が身近なところにいたからこそ、観に行ったのである。映画は、常に既に、善くも悪くも、そういう性質のメディアなのである。

 『花より男子ファイナル』では、客の9割以上が若い女性で、単価も低かったそうだが、これも非常にわかりやすい話だ。『容疑者Xの献身』は、『ガリレオ』スピンオフであるはずが、映画の内容は『ガリレオ』主演の二人は脇役だったという創りをしていることなども、ドラマスピンオフがいか大切にされているかという状況をわかりやすく示している(詳しくは過去エントリ参照)。

●日本映画ヒット作6位-10位

 6位『20世紀少年 第1章』→レビュー)は39.5億円となった。これは、製作幹事である日本テレビにとっては、目標値を下回る結果だったかもしれない。3作で総製作費60億円ということは、1話あたり20億円。配給収入で20億円を確保するには、興行収入で40億円を稼ぐ必要があるので、合格点ではあるが、宣伝費や2作目以降が低下していくことなどを勘案すると、50億を目指していたはずだ。もちろんDVD売上などを考えれば十分に成功と言える数字だが、「大成功」とは言えない結果だったのではないか。とは言え、『第2章』の公開前日に『第1章』のダイジェストを放映し、結果『第2章』は『第1章』を超える滑り出しを見せた。公開時期を考えると、かなりの動員をしたと言っていい(冬場は動員が弱まる傾向があるからだ)。

 今回『DEATH NOTE』のときのように、公開前日に一作目をテレビ放映しなかったのは、劇場映画のテレビ放映が公開から1年後という暗黙の了解を意識したからだろう。『DEATH NOTE』では、テレビ放映によって後編が前編の倍近い集客をしたが、あのときは業界ではかなりの批判があった。そんなことをすると、劇場にお客さんが行かなくなる怖れがあるからだ。今回、ダイジェスト放映(とは言っても相当に長かったが)に留まったのも、あの一件を意識したからだろう。

 7位に入った『ザ・マジックアワー』(39.2億円/→レビュー)は、公開時に三谷幸喜監督の異常な量なパブリシティが注目された。だが、60.8億円だった前作『THE 有頂天ホテル』の三分の二という結果となった。その原因は、やはりキャスト力だろうか。香取慎吾と佐藤浩市という人気の差がまずひとつある。それともうひとつは、あの宣伝量にも問題があったかもしれない。宣伝しすぎたことで、客が観た気になり、また、宣伝しすぎて反感を買った面もあるのかもしれない。

 9位『マリと子犬の物語』(31.8億円)は、正月映画だ。19位に『犬と私の10の約束』(15.2億円)も入っているが、やはり動物モノは強かった。

 日本テレビ製作幹事の10位『L change the worLd』(31.0億円)は、公開前日に前作『DEATH NOTE』が放映されて集客に結び付いた。しかし、作品の出来は決して褒められる内容ではなく、前作のファンはかなり失望したのではないか。

●アニメヒット作

 さて、日本映画を支えるアニメだが、以下にここ9年間のアニメシリーズの結果をまとめた。

ポケットモンスター

ドラえもん

名探偵コナン

クレヨンしんちゃん

2000

48.5

30.5

25.0

11.0

2001

39.0

30.0

29.0

14.5

2002

26.7

23.1

34.0

13.0

2003

45.0

25.4

32.0

13.5

2004

43.8

30.5

28.0

12.8

2005

43.0

-

21.5

13.0

2006

34.0

32.8

30.3

13.8

2007

50.2

35.4

25.3

15.5

2008

48.0

33.7

24.2

12.3

NARUTO-ナルト-

BLEACH-ブリーチ-

ONE PIECE

ケロロ軍曹

2000

-

-

21.6

-

2001

-

-

30.0

-

2002

-

-

20.0

-

2003

-

-

20.0

-

2004

13.7

-

18.0

-

2005

11.8

-

12.0

-

2006

7.8

-

9.0

6.0

2007

12.1

6.6

9.0

4.8

2008

11.6

8.0

9.2

5.7

(『ONE PIECE』は東映配給、『ケロロ軍曹』は角川映画配給、他の6作品はすべて東宝配給)

 相変わらずアニメは好調を維持している。なかでも『ポケットモンスター』の結果はすごい。なぜなら、今年は公開日が『ポニョ』と同じだったからだ。それにもかかわらず全体でも4位に入る結果だ。数年前からおこなっている、前売り券と引き替えに劇場でモンスターをダウンロードできるサービスが功を奏しているようだ。

 『ドラえもん』は33.7億で8位、『名探偵コナン』は24.2億で12位、『クレヨンしんちゃん』は12.3億で23位と、この4作品だけで118.2億円を売り上げる。

 東宝の独り勝ちと言われて久しいが、その強みはこのアニメシリーズのラインナップにある。この4作品に加え、近年は『NARUTO』『BLEACH』と、『週刊少年ジャンプ』連載作品も劇場公開している。表にはないが、『たまごっち』も2年連続で劇場公開されている。他にも、今年のラインナップであれば『MAJOR』や『デュエルマスターズ』、『レイトン教授』など、単発の劇場アニメもあり、そしてスタジオジブリ作品が各年で公開されメガヒットとなるので、東宝の配給力は安定して強いのである。

 一方、東映配給の『ONE PIECE』は、現在でもマンガ単行本が200万部を超える人気であるにもかかわらず、ここ3年は10億に達していない。作品の出来もあるのかもしれないが、東映の配給力(宣伝力・営業力)もその要因であろう。

 また昨年は、一昨年の『ヱヴァンゲリオン新劇場版:序』や『河童のクゥと夏休み』、3年前の『時をかける少女』のような、話題となったアニメが(『ポニョ』以外では)不作だったという印象を受ける。

 スカイ・クロラ(6.9億)があったが、あえて『ポニョ』と同時期に公開して相乗効果を狙ったようだが、客層は異なっていたので、その効果はあまりなかったように思える。6.9億という結果は、まずまずといったところだろうか。

●『おくりびと』『デトロイト・メタル・シティ』:日本映画ヒット作11-20位

 昨年、意外なヒットとなったのは、やはり『おくりびと』(11位/30.5億)と『デトロイト・メタル・シティ』(14位/23.4億)だろう。

 『おくりびと』→レビュー)は、当初それほど目立つ存在ではなかったが、公開直前にモントリオール世界映画祭でグランプリを受賞したことで一躍注目を集め、その後、ジワジワと成績を伸ばした。今年に入ってからは、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたこともあって、まだ上映が続いている。2月14日以降にさらにムーブオーバーされるようで、もし2月22日のアカデミー賞で受賞すれば、さらに拡大される可能性がある。

 この作品は、遺体を浄めて棺に納める東北の納棺師を描いた作品だが、訴求ポイントは、単に死を悲しいことではなくところどころでユーモラスに描写したところにもある。もちろん、劇場ですすり泣く声が響くような作品だが、日常的に死に直面しなければならない過度な高齢化社会である日本では、悲しいだけではない死にも共感が及んだはずだ。大仰な感動大作ではなく、しっとりとした「死のある日常」を描いたからこそ、逆にヒットしたと思える。

 『デトロイト・メタル・シティ』→レビュー)は、事前の私の予想は12億円ほどだったが、それを大きく超える結果となった。私が12億と予想したのはそれなりに根拠があった。テレビ局が出資していないため宣伝展開に限界があることや、原作も大ヒット作ではなく1巻あたり60万部ほどの中ヒット作であったからだ。

 しかし、劇場公開を前後してマンガ単行本がかなり売れ、映画の出来が良かったこともあり、テレビ宣伝がないものの大ヒットとなった。このヒットは、一昨年の『恋空』と同様に業界でも驚かれている。

 後付けだが、ヒットの理由としてはいくつかのことが考えられる。まず、出資もしているTSUTAYAによる全面的な宣伝バックアップや、タワーレコード、BEAMS、パルコにおけるコラボレーションなど、この作品を“サブカル”として消費する、都市の若者をしっかりとターゲットにした

 もちろん、こうした「サブカル市場」だけでは10億を超えるヒットには繋がらない。それは、3年前に『ハチミツとクローバー』が5.5億ほどに留まったことを考えればわかる。

 マンガ単行本の売上が、映画公開時には『ハチクロ』とほぼ同じくらいだったのにもかかわらずヒットしたのは、“サブカル”を切り口にして、映画化を通じてメジャー化していったからだ。キャスト力やコメディという作品性なども関係しているが、映画化によって単行本がさらに売れ、各巻100万部に到達するほど伸びたと耳にした。“メジャーなサブカル”となったのだ。

 この作品を手がけたのは、東宝の川村元気プロデューサーだ。4年前、『電車男』を大ヒットさせた彼が、またしてもこういう作品をあてたのである。実は、公開3週間前に川村氏と飲んだのだが、こんなにヒットするならもっといろいろ訊いておけば良かったと後悔気味である。なお、『陰日向に咲く』も川村元気プロデュースで19.5億のヒットとなった。

●『少林少女』、『クライマーズ・ハイ』:日本映画ヒット作21-28位

 15.1億となった『少林少女』→レビュー)は、昨年ヒットした作品のなかではもっとも内容がひどかった。フジテレビ製作幹事、ROBOT制作、柴咲コウ主演のこの作品は、シナリオがとにかくひどい。それでも15億のヒットとなったのは、主演の柴咲コウの人気と、フジテレビの大がかりな宣伝にある。

 この作品は、昨年取材に行った映画人たちとも悪い意味で話題となった。多くの映画人が、この作品のヒットを危惧していた。こうした作品に客が入ってしまうと、映画そのものの信頼が失われかねないからだ。フジテレビは、ときどきこういう大駄作を放つのだが、こういうのはどうにかならないのか。

 この作品について言えば、『少林サッカー』という大ヒット作があり、それを元にチャウ・シンチーの許諾を取り、香港の俳優陣も出演させ、ギャガも製作に巻き込んだ。そういった、いろんな気遣いの結果としてあの中途半端な出来になったのならば、柴咲コウ主演でオリジナル作品を創れば良かったのにと思う。

 11.9億のヒットとなった『クライマーズ・ハイ』は、東映とギャガが配給しているが、両社は製作に関わっておらず、制作プロダクションのビーワイルドとソニー・ピクチャーズが製作の中心だ。この作品のヒット理由は、原田眞人監督による骨太の創りにある。男たちのパワーゲームを描くのが上手い原田監督は、今回も地方新聞社における滑稽にも見える争いをじっくりと描いた。また、日航ジャンボ機墜落という大惨事も企画として強かった。

●大手三社の興行成績

 ここまで各作品を見てきたが、その多くは東宝の配給作だ。昨年、10億を突破した28本中21本が東宝配給だ。2007年は20本、2006年は14本だったので、相変わらず好調をキープしている。

 それどころか、昨年の総興行収入は前年比112.4%の739.1億円で、同社過去最高を記録した。これは業界の総興行収入の37.9%を占めるほどだ。もちろん『崖の上のポニョ』のヒットに因るところが大きいのだが、配給作29本で21本が10億を超えたのは、かなりの高打率である。

 10億に届かなかった作品は、アニメ2本を除くと、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(9.3億)、イキガミ(8.0億/→レビュー)、『ホームレス中学生』(推定6.2億)、『ガチ☆ボーイ』(推定4億)、『スマイル 聖夜の奇跡』(推定3.7億)、『山のあなた〜徳市の恋〜』(推定2.7億)の6本である。

 『隠し砦の三悪人』は東宝製作幹事で黒澤明リメイク作、『イキガミ』はTBS製作幹事でマンガ原作、『ホームレス中学生』は東宝製作幹事で芸能人本原作、『ガチ☆ボーイ』はフジテレビ製作幹事のオリジナル、『スマイル』もフジテレビ製作幹事で原作は監督を務めた陣内孝則の小説、『山のあなた』もフジテレビ製作幹事のリメイクである。なんと、東宝配給作の下位三本をフジテレビ製作幹事作が占めた。

 次に松竹だが、前年比102.2%の160.2億となった(外国映画4本を含む)。10億を超えたのは、『おくりびと』(30.5億)、『母べえ』(21.2億)、『犬と私の10の約束』(15.2億)、『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(14.5億)の4本である。10億を若干下回った作品には、8.4億の『大決戦!超ウルトラ8兄弟』がある。

 10億円以上の作品は、前年より1本減った。また多額の買い付け金額を要し、ギャガとともに配給して35億円の興収をあげた『ライラの冒険』もこの結果に含まれている。ただし、一昨年よりも配給作品は10本減らしたので、効率が良くなっているのも確かだ。結果としては、なんとか一昨年と同じ水準を維持したというところだろうか。

 また、昨年の松竹は、新垣結衣主演『フレフレ少女』と福田沙紀主演櫻の園-さくらのその-』→レビュー)と、若手女優を起用した2本の映画を揃えていた。だが、『フレフレ少女』は推定0.8億、『櫻の園-さくらのその-』は推定0.5億の大コケとなった。イケメン俳優ブームで若い女性は劇場に足を運ぶが、若い男性は可愛い女優(アイドル)をイベントとして劇場に観に行く状況にはないのである。秋葉原に行けばAKB48を生で見られるわけだから、なんら不思議のないことである。

 松竹は、今年はかなり勝負の年である。ケータイ小説原作でドラマ連動の『赤い糸』がなんとか10億を突破したが、過去2年『母べえ』、『武士の一分』のヒットを飛ばした山田洋次監督作品が、来年の『おとうと』までない。それゆえ、3月の日活製作幹事『ヤッターマン』や5月の『GOEMON』(ワーナーとの共同配給)、9月の白戸三平原作・松山ケンイチ主演『カムイ外伝』、avex製作幹事のアニメ『マイマイ新子と千年の魔法』、秋の松本人志監督作品(タイトル未定)などをどれだけヒットさせられるかがカギとなる。ただ、配給作品数は15本とさらに絞り込み、ラインナップもバラエティにとんでいて悪くない。『マイマイ新子と千年の魔法』が大化けすればいいのだが。

 大手三社のひとつ、東映は前年比140.5%の119.8億となった。一昨年がひどい結果だったので、なんとか回復したという感じだ。もちろんこれは44.4億のヒットとなった『相棒』があったからこそである。その他は『クライマーズ・ハイ』(ギャガとの共同配給)の11.8億、吉永小百合主演『まぼろしの邪馬台国』の9.5億、『ONE PIECE』の9.2億、『仮面ライダーキバ』の9億などとなった。

 乙一原作『KIDS』(3.3億)、角川春樹製作『神様のパズル』(推定0.7億/→レビュー)、石原さとみ主演フライング☆ラビッツ(推定0.5億)、藤原竜也主演『カメレオン』(推定0.4億)、三本木農業高校、馬術部(推定0.8億)、北乃きい主演『ラブファイト』(不明)などは、非常に厳しい結果である。

 昨年も書いたが、東映は作品存在がまったく認知されないうちに公開が終わっていることが多い。この6本はその典型だ。これらにはテレビ局も出資しているのだが、この6本に限って言えばテレビ東京ばかりである。だが、『ラブファイト』や『神様のパズル』、『三本木農業高校、馬術部』は、出来は悪くないだけに、もっとどうにかならないのかと思う。

 東映の弱さは営業にもあると考えられる。シネコン時代のいまは、いくら劇場にかけても、1週目の稼働が悪いと2週目以降に上映回数を減らされる。これを回避するには、強い作品があることは当然として、営業力にかかっている。テレビでの宣伝が飽和状態にあるなか、配給会社が力を入れているのは営業である。もちろん、稼働が悪ければすぐに上映回数を減らすシネコンにも問題があるが、これだけの本数が製作されているのだから、売り場にとっての選択肢は豊富なのだ。松竹が配給本数を減らしたのも、営業と宣伝によりマンパワーを注ぐことが目的にしたからだ。

●他の製作・配給会社の成績

 外国映画が不振なこともあって、ハリウッドメジャーの日本支社はローカルプロダクションに乗り出している。なかでも積極的なのはワーナー・ブラザースで、これまでにも『DEATH NOTE』二作や『ブレイブ・ストーリー』などを配給してきた。

 07年は日本映画の配給作はなかったが、昨年は6本を配給した。07年5月には、フジテレビ映画制作部副部長だった小岩井宏悦氏をヘッドハンティングし、ローカルプロダクション本部長として迎えた。昨年の成果は、『DEATH NOTE』の続編で、興収31億を記録した『L change the worLd』に尽きる。他は、『スカイ・クロラ』が6.9億、伊坂幸太郎原作Sweet Rain 死神の精度が5億、綾瀬はるか主演『ICHI』→レビュー)が4.5億、ドラマスピンオフ『銀幕版スシ王子!』が3.7億という結果で、なかなか成功に結びつかなかった。

 しかし、外国映画の実績もあり、いま東宝に次いで配給委託作が持ち込まれるのは、間違いなくワーナーである。小岩井部長就任によって動き出した作品も、今年から徐々に公開されるので、かなりの台風の目になると予想される。今年のラインナップも、日本テレビ製作幹事『252 -生存者あり-』がすでに約16億円の結果を見せており、3月にはマンガ原作の『昴-スバル-』、4月の綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』(東映との共同配給)、5月の『GOEMON』(松竹との共同配給)、秋の小栗旬主演『TAJOMARU』と続く。未発表作も含めると今年も7本くらいの日本映画を配給するそうで、大作志向で松竹や東映に比べると若者向けでスタイリッシュな作風の傾向である。

 クオリティムービーを売り物にするアスミック・エースは、昨年は一昨年以上の結果にはなっている。日本映画の製作・配給作は、ハンサム★スーツ(8.6億)、『明日への遺言』(6.0億)、西の魔女が死んだ(4.5億)、グーグーだって猫である→レビュー)(3.6億)の4本だった。一昨年よりも興行成績は良いが、原作がベストセラーの『西の魔女が死んだ』は10億を狙っていたはずだ。個人的に意外な結果に思えたのは、『ハンサム★スーツ』で、『デトロイト・メタル・シティ』とこの作品といい、コメディがウケる傾向があるのかもしれない。

 今年は『ヘブンズ・ドア』、『重力ピエロ』と意欲作があり、2010年には村上春樹原作『ノルウェイの森』が待機している。大ヒットを狙うために、配給は東宝に委託するようで、クオリティが高く、同時にスマッシュヒットを狙えるタイプの作品にシフトしている傾向が見受けられる。

 06年に『フラガール』をヒットさせたシネカノンは、かなり厳しい状況であった。日本映画は『歩いても歩いても』など5本を製作・配給したが、興行的に3億を超える作品はなかったようだ。神戸と韓国・ソウルの劇場を閉館するなど、劇場経営がシネカノンの財政を圧迫しているようで、劇場部門を分社化するなどしている。製作作品の興行失敗は、ファンドによるものなので、同社にとって大きなダメージではないと思われる。だが、『フラガール』で滑り出しが上々だったJDCの映画ファンドは1勝2敗2分でいいとは言え、さすがにこのままではかなり厳しいと思われる。

 日活は、蒼井優主演の『百万円と苦虫女』→レビュー)が公開規模は小さかったものの3億円のヒットとなったのが、唯一目立ったところか。他は、勝負作だった夏帆主演うた魂♪』→レビュー)が2.3億と興行的にはイマイチで、他の『青い鳥』、『ブタがいた教室』、『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』(→レビュー)、『奈緒子』(→レビュー)、『落語娘』と、出来も悪くない意欲作ばかりだったが、なかなかヒットに結びつかなかった。

 また、同社は昨年から今年にかけて、置かれている状況がかなり変わった。東京テアトルと提携で安定した上映館を増やし、今年に入ってからは、親会社のインデックス・ホールディングスが日本テレビに34%の株式を売却し、二番目の大株主となった。日本テレビと日活は、過去に日活撮影所が『DEATH NOTE』シリーズを制作し、今年3月公開の勝負作『ヤッターマン』でも協力体制にあり、むかしから関係が深い。将来的には、日本テレビの傘下に入ると見られている。

 今年は、初頭に『チェ』2部作を公開し、そこそこのヒットを見せ、夏公開予定の『ヱヴァンゲリオン新劇場版:破』では、宣伝協力をした前作に続いてなんらかの協力関係を取ると思われる。深夜の通販番組では、なぜか日本テレビが独自のテレビ版DVDの販売をしており、前作とは違った公開体制になるのかもしれない。

 角川映画は、勝負作『ダイブ!』が推定0.9億ほど、次郎長三国志が2.7億と目立たない一年だった。今年は製作幹事作の大作『沈まぬ太陽』が東宝配給で控え、品川祐原作・監督作品『ドロップ』、そしてつい先日公開されて、上々の滑り出しとなった『旭山動物園物語』など、昨年よりはタマが揃っている印象だ。

 ギャガ・コミュニケーションズは、昨年春に製作・買い付けから撤退することを発表し、製作は今後、USEN・宇野社長出資の新会社・ユーズフィルムで行うこととなった。こうなったのは、買い付け金額30億、P&A費(プリント&宣伝費)を19億かけた『ライラの冒険』が37億止まりになったからだ。大勝負が完全に失敗したのである。

 昨年は、出資(製作)作のぼくたちと駐在さんの700日戦争(推定1.9億/→レビュー)、『僕の彼女はサイボーグ』(7.0億/→レビュー)、『蛇にピアス』(推定0.5億/→レビュー)は、それぞれ、そこそこのクオリティだったために、少々残念である。

 インディペンデント系が厳しい状況は、いまだに続いている。ギャガの撤退はそれを典型的に意味し、経済状況の悪化でインデックスが日活を手放しつつあるのも(相手が日本テレビなので日活的には問題ないのだろうが)、インディペンデント系の厳しさを物語っている。銀行の貸し渋りなどで、今後さらにインディペンデント系の会社は苦しくなると思われるが、外国映画の買い付け金額が下がっているので、もしかすると日本映画の製作は今後減るのかもしれない。

●テレビ局の動き

 テレビ局製作の映画は昨年も好調だった。以下、10億円以上のヒットを各局ごとにまとめた。

 

幹事作

出資作

フジテレビ

容疑者Xの献身/ザ・マジックアワー/少林少女/ハッピーフライト/銀色のシーズン

ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌

日本テレビ

20世紀少年 第1章/マリと子犬の物語/L change the

worLd

崖の上のポニョ/名探偵コナン/陰日向に咲く

TBS

花より男子ファイナル/おくりびと/映画クロサギ/チーム・バチスタの栄光/砂時計

-

テレビ朝日

相棒 -劇場版-

映画ドラえもん/母べえ/映画クレヨンしんちゃん/椿三十郎

テレビ東京

パコと魔法の絵本/劇場版NARUTO

劇場版ポケットモンスター/犬と私の10の約束

テレビ局非製作作品

デトロイト・メタル・シティ/クライマーズ・ハイ

 このように29本中27本がテレビ局出資作であり、うち16本がテレビ局の製作幹事作である。テレビ局が関係せずにヒットしたのは、2本だけに留まった。

 相変わらず、テレビ局製作作品は絶好調で、なかでも昨年はTBS作品の大ヒットが相次いだ。若者向けの『花より男子』に、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた『おくりびと』と、テレビ局の派手さだけでなく、しっかりとしたクオリティの作品も送り出した。これ以外にも、かなり評価の高かった『アフタースクール』(5.5億円)に出資するなど、そのバランスは非常に良かった一年だった。

 フジテレビは、前述したように東宝配給作の下位3作を占めるなど、かなり芳しくはなかったと言える。もちろん『容疑者Xの献身』、『ザ・マジックアワー』という大ヒットを送り出しているが、当たり外れが大きい。また、これも前述したが『少林少女』のような非常にリスキーな作品を送り出すなど、ちぐはぐさが感じられた一年だった。

 日本テレビは、『ポニョ』を軸に、『20世紀少年 第1章』と『L change the worLd』をがっちり当てた。『ALWAYS』以降、大作を仕掛けてくる印象がある。

 テレビ朝日テレビ東京も実写映画の製作に本腰を入れ始め、幹事作である『相棒』と『パコと魔法の絵本』がそれぞれヒットした。『相棒』はドラマスピンオフだが、『パコと魔法の絵本』はそれまでTBS製作で作品を創ってきた中島哲也の作家性にかけた作品だ。ネット局が多くないテレビ東京は、必ずしも電波宣伝の優位性が強いとは言えないので、このヒットは作品の力によるものだったと考えていい。またこの両社は、東映や松竹配給作に出資する傾向があり、前出三局ほどは実写映画には積極的ではない。

 テレビ局製作の映画がヒットする理由は、もちろんテレビを使った宣伝にある。しかし、各局がほぼ毎週のように宣伝するようになっために、テレビメディアの映画宣伝はかなり飽和状態にある。テレビの枠が有限である以上それも当然の話で、これ以上テレビ宣伝で動員を稼ぐことは限界にきている。そうなると作品内容で勝負するしかない。

 作品内容は、しばしば「テレビ的だ」とか「レベルが低い」などと批判される。しかし、そういう話を持ち出すひとは、大して日本映画を観てこなかったのだろう。駄作ばかりだった80〜90年代の日本映画を観ていれば、いまのテレビ局製作の映画がずっと優れているのは一目瞭然だからだ。

 テレビ局映画の今後の課題は、マンガ原作も尽き、ドラマスピンオフをどこの局もやるようになった現在において、強いオリジナル作品を構築することである。具体的には、『おくりびと』や『パコと魔法の絵本』のような作品をコンスタントにヒットさせることや、ブランド化した三谷幸喜、矢口史靖、中島哲也のような強さを作っていくことだ。

 そういったチャレンジに積極的なのも、やはりフジテレビだ。三谷幸喜や矢口史靖だけでなく、ヒットしなかったが昨年も28歳の小泉徳宏監督で『ガチ★ボーイ』を試みている。

 個人的には、TBSが出資した『アフタースクール』の内田けんじ監督を、いかに、業界が矢口史靖クラスの存在にしていくかが求められていると考えている。矢口史靖のように、クオリティを高いオリジナルのエンタテインメント作品をコンスタントに創れる監督が10〜15人いれば、映画界はとても活性化するはずなのだ。

●今年の動向

 今年は、間違いなく、日本映画はかなり厳しい一年になる。昨年が好調だった反動もあるが、各社のラインナップを見ても、昨年のようなタマが揃っていないのは歴然としている。

 スタジオジブリ作品はなく、三谷幸喜・矢口史靖作品もない。ドラマスピンオフも、来年は『SP』、『海猿』、『踊る大捜査線』、『のだめカンタービレ』が控えているものの、今年は『ROOKIES』、『相棒 米沢守の事件簿』、『ハゲタカ』、『エリートヤンキー三郎』、『特命係長 只野仁』と、数は多いものの昨年ほどの強さはない。

 マンガ原作は、『20世紀少年』の二本が終われば『カイジ』くらいしかヒットを見込めるものはない。もはやネタは枯渇したのだ。他は、『昴-スバル-』、『カムイ外伝』、『釣りキチ三平』、『MW』と、むかしの作品を掘り起こしている状況だ。

 今年は、こうしたヒットスキームが機能不全を起こすことが予想されるのである。現実問題として、日本映画の総興行収入が800億円を割り込む可能性もあると見ている。

 日本映画が不調でもその分外国映画が稼げばいいのだが、ここ数年のことを考えると、外国映画の動員が飛躍的に回復するとも考えられない。『ハリー・ポッター』や『レッドクリフ』の続編があるので、昨年ほどひどいことにはならないと思うが、ハリウッドメジャーは一昨年から昨年にまで続いたの脚本家ストライキの影響で、各社、例年よりも数本少ない編成になっていることも気がかりだ(その分をローカルプロダクションで埋めるわけだが)。また、昨年秋以降の急速の経済悪化は、確実に家計に影響をもたらし始めている。消費が冷え込むなかで、衣食住に関係しない娯楽は確実に影響を受ける。

 こういった複数の状況を踏まえると、最終的な総興収は、90年代中期並みの1700億円を下回る可能性すらあると私は見ている。実際そうならないことを祈るが、とにかく今年の映画界は厳しい。

 そして、映画は平均2年ほど時間がかかる商品なので、この難局はいまさら避けることはできない。必要なことは、フジテレビの『ホノカアボーイ』や日本テレビの『なくもんか』、東映の『少年メリケンサック』などのオリジナル作品を、しっかりヒットさせていくことだろう。

 実際、TBSの『感染列島』や、日本テレの『K-20 怪人二十面相・伝』『252 生存者あり』が、年末年始にそこそこの結果を出しているので、ひとまずは順調な滑り出しである。もちろん一方で、フジテレビの『誰も守ってくれない』が出来は悪くなく、あれほどの宣伝をしたにもかかわらず10億前後に終わりそうだ。オリジナル作品には、こういうことが起きりやすく、だから多くの映画人が人気原作やドラマスピンオフという安全パイを選択するのだ。

 また、今年は松本清張原作『ゼロの焦点』や太宰治原作『ヴィヨンの妻』、山崎豊子原作『沈まぬ太陽』と、渋い文芸大作も目立つ。これらを中高年層にしっかりと届け、そこからどう広げていくかが求められる。

 先日、『週刊エコノミスト』の産業レポートでも書いたのだが、映画業界のひとと接していると、マーケティングの弱さを感じることが多い。映画がヒットした理由を当事者に訊いても、どういう層がどういう動機でいつ観に行ったのか、といった非常に基本的なデータを把握されてないことが多い。当初はマーケティングデータを外部に漏らしたくないだけかと思いきや、どうも本当に把握していないようなのだ。これは、業界的にマーケティングに頼りたくないという気風があるからで、出版業界も同じである。

 一本一本のデータを積み重ねてニーズをしっかり把握することや、あるいは掘り起こしが可能な潜在的需要を見極めることは、他業種では当たり前のように行われている。また、私は国内外の企業のマーケティングリサーチをやってきたが、同じコンテンツ業界でも、過去にやった海外の大手ゲームメーカーのリサーチは、とても入念なものだった。コンテンツ業界でなくても、日本の各業界のメーカーはニーズ把握については(内容の善し悪しはあるが)当然のようにやっている。

 映画は、2年間で3〜5億円かけて、(興行は)数週間から数ヶ月間の短期間で販売する商品だ。こういう商品にはマーケティングは必須のはずなのだ。

 マーケティングに熱心でない理由には、製作期間が長期であることも関係している。いくらいまの時代を読んでも、劇場で公開されるのは2年後なのである。たしかに未来は読みにくいかもしれないが、しかし、現状把握くらいは最低限やる必要はある。

 シネコンの増加によるパワーバランスの変化、テレビ局やハリウッドメジャーのローカルプロダクションなどがあり、映画業界はここ10年ほどかなり良い方向に変化してきた。次にやるべきは、ビジネスのさらなる徹底である。従来の商慣習――たとえば前売り券方式など、古い部分を見直して、より誠実にビジネスに向き合うことが要求される時期にきているのではないか。


●関連

外国映画が不振の理由:『最新コンテンツビジネスのすべてがわかる本』より

2007年度日本映画産業統計を読む

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