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2010/05/19/Wed

[]『武士道シックスティーン』監督:古厩智之(2010年)

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 剣道に打ち込む女子高生ふたりを描いた青春物語。王道の物語ではあるが、ダブル主演の成海璃子と北乃きいの安定感もあり、しっかりとした青春映画に仕上がっている。

 剣道を教える父親に育てられ、熱心に剣道に打ち込んできた香織(成海璃子)は、中学時代のある大会で逃げ回る早苗(北乃きい)に負けてしまう。そのことを引きずっていた香織は、早苗を追って剣道の名門校に進学。剣道部で再会するが、早苗は特別な剣豪などではなく、明るいふつうの女の子だった。生真面目な香織は苛立ちながらも、香織の明るさに徐々に引っ張られ、距離を縮めていく。

 スポーツを題材に対照的なライバルが競技を通じて仲良くなっていくのは、よくある展開だ。『ピンポン』や今度公開される『ボックス!』などもそういう話。こうしたありがちな設定は、キャラクターをどれほど描き込めるかで勝負が決まるが、そこでこの映画は圧勝している。

 香織は、父親の指導もありやたらと剣道が強い。非常にストイックで、昼休みにも本を読みながらダンベルで腕を鍛えている。そして、凄まじい表情で奇声を発しながら竹刀を振りかざす。剣道にかける思いは人一倍強く、それゆえ剣道部では先輩と揉めたりもする。

 対して早苗は、明るく元気などこにでもいる子だ。天才でもなく、特別剣道が強いわけではない。純粋に楽しみとして剣道をやっており、香織のようなひたむきさはない。小さな身体でちょこちょこ動き回り、いつもニコニコしている。

 映画は、このふたりの関係に焦点をあて、視点を入れ替えながら描いていく。それは、伝統的な武道の剣道において、旧来的な香織と現代的な早苗という対比でもある。

 成海璃子と北乃きいは、この役割をほぼ完璧に成し遂げている。しかしそれは、決して簡単な仕事ではなかったはずだ。たとえば成海は、『神童』で非常にストイックなピアニストの少女を演じており、北乃が演じたキャラクターは、『ラブファイト』や『ハルフウェイ』で見せたような、どこにでもいそうなタイプだ。過去に演じたこれらのキャラクターとの差別化も必要であり、また、女優として彼女たちにつきまとうイメージと遠くないゆえに、ハードルは高かったはずだ(逆に楽だったのかもしれないが)。

 脚本も手がけた古厩監督は、こうしたふたりに焦点を絞り丁寧に描き込んでいった。古厩監督と言えば、『まぶだち』、『ロボコン』、『奈緒子』(→リンク)と、青春映画には定評がある監督だ。

 未読だがおそらく原作と大きく異なるのは、サブの登場人物の描写を大幅にカットしていることだ。他の剣道部のメンバーは、山下リオや荒井萌などが演じているものの、登場シーンもセリフも多くない。ちゃんと描かれているのは、ともに片親であるふたりの家族のみだと言っていい。

 演出・脚本にはちゃんとメリハリがあり、一言で表せばあっさりしている。特に後半はそうだ。しかし、この作品はだからこそいい。爽やかなのだ。そして、そのあっさり感もまたとても青春らしい。スポ根青春映画に行きそうで行き着かないところが、この映画の大きな魅力なのだ。

 さらにこの物語に見られないのは、恋愛対象となる男の影だ。たとえばひとりの異性をめぐる三角関係的なライバル関係では、過去にあだち充原作の『タッチ』や同『ラフ ROUGH』などがそうだ。しかし、それもない。それゆえ非常に直線的で、完全にふたりのだけに物語は絞られている。

 このふたりは、映像的にも綺麗にその対照性が描かれる。それが、作中の重要なシーンで幾度か挿入される住宅地用に造成されたと思しき郊外の丘のシーンだ。丘のすぐ下には住宅街が広がるが、早苗はそこを「巌流島」という。住宅街にぽっかり浮かんだ小島のように捉える感性はとても新鮮で、そしてそこに佇むふたりは武蔵と小次郎に対比となる。このロケーションは秀逸で、よくぞこんなにぴったりな場所を見つけてきたと思わされる。

 残念なところがあるとすれば、試合のシーンだ。その動きがもっと上手く撮ることはできたとは思う。ただ、この映画はアクションよりもふたりの関係性を見せる映画なので、それほどは気にならない。

 『ウォーターボーイズ』以降のこの10年間、部活モノ青春映画は数多く創られてきたが、そのなかでも非常に出来がいい部類であるのは間違いない。

監督:古厩智之/プロデューサー:井上衛、樋口慎祐/アソシエイトプロデューサー:口垣内徹/企画:中村理一郎/原作:誉田哲也『武士道シックスティーン』(文藝春秋刊)/脚本:大野敏哉、古厩智之/撮影:清久素延/美術:須坂文昭、禪洲幸久/編集:大重裕二/音楽:上田禎/主題歌:MiChi『Together again』/照明:川井稔/録音:渡辺真司/スーパーバイジングプロデューサー:青木竹彦、久保田修/出演:成海璃子、北乃きい、石黒英雄、荒井萌、山下リオ、高木古都、賀来賢人、波瑠、古村比呂堀部圭亮小木茂光、板尾創路/製作:「武士道シックスティーン」製作委員会/制作プロダクション:IMJエンタテインメント/配給:ゴー・シネマ/2009年4月24日公開/109分

武士道シックスティーン (文春文庫)

武士道シックスティーン (文春文庫)

武士道セブンティーン

武士道セブンティーン

武士道エイティーン

武士道エイティーン

武士道シックスティーン(1) (アフタヌーンKC) 武士道シックスティーン(2) (アフタヌーンKC)

武士道シックスティーン 1 (マーガレットコミックス) 武士道シックスティーン 2 (マーガレットコミックス)

[]『書道ガールズ!!-わたしたちの甲子園-』監督:猪股隆一(2010年)

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 日本テレビ『ズームイン朝!』で取り上げられた、書道パフォーマンスをする女子高生の実話を映画化。現在、注目を集める10代の女優5人を集めたものの、脚本が杜撰すぎてただのアイドル映画にしかなっていない。

 舞台は、四国中央市の四国中央高校。書道部の里子(成海璃子)は、父親が書道教室をやっている厳格な家庭で育っている。新しく赴任してきた書道部顧問・池澤(金子ノブアキ)は、まったく彼女たちを指導する気を見せないが、ある日、校庭で大きな筆を使って書道パフォーマンスをする。部員である清美(高畑充希)はその姿に一目惚れし、公園でひとりパフォーマンスを始めるが、里子はそれを邪道だと思う。しかし、商店街で文房具店を営む清美の親は、不景気で店を畳むことを決意し、彼女も広島に引っ越すことになる。閉店セールのために、里子は、部員の香奈(桜庭ななみ)とともに商店街でパフォーマンスをすることになる。その後、シャッター街化する商店街を盛り上げるために、里子は元書道部の美央(山下リオ)やいじめられっ子の(小島藤子)とともに「書道パフォーマンス甲子園」を開催することを決意する……。

 愛媛県立三島高校の書道部が実際に始めた書道パフォーマンス甲子園の実話をもとにしている。2000年代以降に増えた部活映画の文脈に連なる作品だが、登場人物の動機づけ、地方都市経済の描写、工場の火事(後述)など、脚本に杜撰な点がとにかく多い。

 この四国中央市が舞台となったのは、ここが「紙の町」だからだ。作中で具体的な名称こそ出てこないが、製紙工場の煙突が建ち並ぶ風景は頻繁に挿入される。それは大王製紙の工場だ。日本の製紙業界では三番手の会社で、「エリエール」ブランドで知られる。そしてこの四国中央市は、川之江市や伊予三島市などが合併して2004年に誕生した、人口9万6000人の小都市だ。

 彼女たちが書道パフォーマンスを始める動機は、最初からハッキリしない。あるのにはあるのだが、それが顧問の姿に憧れたからというもの。しかし、そこから商店街の活性化や町おこしにスライドしていく。まず、この動機づけが弱い。実話がたとえそうだとしても、もうちょっと整理が必要だった。また、「ハッキリしない動機」を描くのであれば、『リンダ リンダ リンダ』という2000年代最高の青春部活映画があったはずだ。

 そして、書道パフォーマンスを本格的に始めるにあたり、シャッター街化した商店街の理由が「不景気」として説明される。ここもおかしい。商店街がシャッター街化したのは、不景気という要因よりも、大きなショッピングセンターが郊外にできたことが最大要因だ。

 四国中央市であれば、ジャスコ川之江ショッピングセンターが1999年にできた。ここは、モデルとなった三島高校から幹線道路沿いに行けば3.2キロの距離で、車なら5分、自転車なら10数分ほどだ(→リンク)。もうひとつ、フジグラン・川之江というショッピングセンターもある。これがいつできたかはわからないが、ジャスコ川之江のすぐそばにある。商店街は、これらのショッピングセンターに客を奪われ、90年代後半以降急激にシャッター街化したはずだ。

 この作品のいちばんの問題はここにある。ショッピングセンターの是非の問題はともかく、地方の小都市における事実についてウソをついているか、あるいは理解していない。前者であれば欺瞞であり、後者であれば無知だ。この作品は、日本テレビの一社製作(全額出資)だが、そのためにシャッター街化の理由をショッピングセンターとして描かなかったのかもしれない。イオンなどは日本テレビにとっては欠かせないスポンサーだからだ。

 もちろんそれでも「商店街(町)を活性化したい!」と思った実在の高校生の思いに、嘘はなかったののだろう。しかし、ならば最初の動機づけをもっと明確にする必要があったはずだ。

 さらに物語の中盤、小さな製紙工場を経営するお爺さんが廃業を決意し、ドラム缶で自らが造った紙を悔し涙しながら燃やすシーンがある。驚くのはこの後の展開だ。工場が全焼し、お爺さんが「すまん」と謝っている。それはお爺さんが放火したのか、それとも火が燃え移ったのか? いくらなんでもトンデモ展開すぎる(それとも、僕はなにか観落としたのだろうか……)。

 映画の最大の見せ場は、もちろん後半の書道パフォーマンスのシーンだ。キャスト4人の書は、十分な出来である。よくぞ短期間にこれほどまでに上手くなったと思わせる出来だ。さすが、この世代で注目される女優たちだけある。そして、キャメラも、彼女たちの躍動的な動きを上手く捉えている。

 ただ、この書道パフォーマンスそのものがどうかと言うと、ちょっと留保が必要となる。そこで書かれる自己啓発な文面は、なんとも痛々しい。相田みつを、あるいは326的な気恥ずかしさを伴う応援歌だ。正直、こうした書道パフォーマンスは、文系の地味な少女が目立ちたいために始めたものにしか見えない。

 このシーンには、実際に書道パフォーマンス甲子園に参加した現役の女子高生たちが参加している。しかし、これがとてもまずい。たしかに彼女たちのパフォーマンスはふだんやっているだけに堂に入ったもの。しかし、ふだんはただの高校生である彼女たちは、成海璃子をはじめとした5人と比べると明らかにルックス的に劣る。それは当然なのだが、入場シーンで各校が順に出てくるので、明確にトーンが違うことがわかる。映画全体のルックスとして、バランスが取れていない。

 他にも、紙は大切にしても墨汁はさっぱり大切にしないところや携帯電話がろくに出てこない点、男子部員がなぜかサポートに徹している点、病院の前に紙を持ち込んでパフォーマンスを始める点、最後の展開は部活映画にありがちな展開だとか、とにかく大味で杜撰な創りだ。

 俳優たちの芝居も、大仰なテレビ的な芝居以上のものにはなっていない。これは『武士道シックスティーン』と比べるとわかるが、明らかに演出と脚本の問題だ。父親との葛藤などの描写にそれはもっとも見て取れるが、完全に脚本と演出の力量の違いが見て取れる。唯一の収穫は、桜庭ななみが十分な存在感を放っていたことくらいだろうか(ただし、山下リオにはまったく成長が見えない)。

 この映画は同時期の公開ということもあって『武士道シックスティーン』と比較されることも多いし、共通点も多い。キャスト(成海、山下)、部活モノ、主人公の父親像、日本伝統文化が題材、とよく似ている。

 だが、そこでは創り手の志の違いがハッキリと出てしまった。「青春映画」を創った『武士道シックスティーン』に対し、この『書道ガールズ!!』は「アイドル映画」の域を出ていない。商店街のシャッター街化の理由等、全編にわたって子供だまし、いや“アイドルオタクだまし”としか思えなかった。

監督:猪股隆一/製作:大山昌作/プロデューサー:藤村直人、坂下哲也/エグゼクティブプロデューサー:奥田誠治/COエグゼクティブプロデューサー:菅沼直樹、西山美樹子、千葉知紀、神蔵克/製作指揮:宮崎洋、城朋子/協力プロデューサー:笠原陽介/美術プロデューサー:北島和久/脚本:永田優子/撮影:市川正明/美術:高野雅裕/編集:松竹利郎/音楽:岩代太郎/VFX:西村了/記録:舘野弘子/照明:大内一斎/装飾:山田好男/録音:井家眞紀夫/出演:成海璃子、山下リオ、桜庭ななみ、高畑充希、小島藤子、金子ノブアキ、市川知宏、森崎ウィン、森岡龍、坂口涼太郎、宮崎美子、朝加真由美、おかやまはじめ、山田明郷、森本レオ、織本順吉/製作:日本テレビ/制作プロダクション:日テレ アックスオン/配給:ワーナー・ブラザーズ/2009年5月15日公開/121分