
2010/05/19/Wed
■[映画]『書道ガールズ!!-わたしたちの甲子園-』監督:猪股隆一(2010年)
日本テレビ『ズームイン朝!』で取り上げられた、書道パフォーマンスをする女子高生の実話を映画化。現在、注目を集める10代の女優5人を集めたものの、脚本が杜撰すぎてただのアイドル映画にしかなっていない。
舞台は、四国中央市の四国中央高校。書道部の里子(成海璃子)は、父親が書道教室をやっている厳格な家庭で育っている。新しく赴任してきた書道部顧問・池澤(金子ノブアキ)は、まったく彼女たちを指導する気を見せないが、ある日、校庭で大きな筆を使って書道パフォーマンスをする。部員である清美(高畑充希)はその姿に一目惚れし、公園でひとりパフォーマンスを始めるが、里子はそれを邪道だと思う。しかし、商店街で文房具店を営む清美の親は、不景気で店を畳むことを決意し、彼女も広島に引っ越すことになる。閉店セールのために、里子は、部員の香奈(桜庭ななみ)とともに商店街でパフォーマンスをすることになる。その後、シャッター街化する商店街を盛り上げるために、里子は元書道部の美央(山下リオ)やいじめられっ子の(小島藤子)とともに「書道パフォーマンス甲子園」を開催することを決意する……。
愛媛県立三島高校の書道部が実際に始めた書道パフォーマンス甲子園の実話をもとにしている。2000年代以降に増えた部活映画の文脈に連なる作品だが、登場人物の動機づけ、地方都市経済の描写、工場の火事(後述)など、脚本に杜撰な点がとにかく多い。
この四国中央市が舞台となったのは、ここが「紙の町」だからだ。作中で具体的な名称こそ出てこないが、製紙工場の煙突が建ち並ぶ風景は頻繁に挿入される。それは大王製紙の工場だ。日本の製紙業界では三番手の会社で、「エリエール」ブランドで知られる。そしてこの四国中央市は、川之江市や伊予三島市などが合併して2004年に誕生した、人口9万6000人の小都市だ。
彼女たちが書道パフォーマンスを始める動機は、最初からハッキリしない。あるのにはあるのだが、それが顧問の姿に憧れたからというもの。しかし、そこから商店街の活性化や町おこしにスライドしていく。まず、この動機づけが弱い。実話がたとえそうだとしても、もうちょっと整理が必要だった。また、「ハッキリしない動機」を描くのであれば、『リンダ リンダ リンダ』という2000年代最高の青春部活映画があったはずだ。
そして、書道パフォーマンスを本格的に始めるにあたり、シャッター街化した商店街の理由が「不景気」として説明される。ここもおかしい。商店街がシャッター街化したのは、不景気という要因よりも、大きなショッピングセンターが郊外にできたことが最大要因だ。
四国中央市であれば、ジャスコ川之江ショッピングセンターが1999年にできた。ここは、モデルとなった三島高校から幹線道路沿いに行けば3.2キロの距離で、車なら5分、自転車なら10数分ほどだ(→リンク)。もうひとつ、フジグラン・川之江というショッピングセンターもある。これがいつできたかはわからないが、ジャスコ川之江のすぐそばにある。商店街は、これらのショッピングセンターに客を奪われ、90年代後半以降急激にシャッター街化したはずだ。
この作品のいちばんの問題はここにある。ショッピングセンターの是非の問題はともかく、地方の小都市における事実についてウソをついているか、あるいは理解していない。前者であれば欺瞞であり、後者であれば無知だ。この作品は、日本テレビの一社製作(全額出資)だが、そのためにシャッター街化の理由をショッピングセンターとして描かなかったのかもしれない。イオンなどは日本テレビにとっては欠かせないスポンサーだからだ。
もちろんそれでも「商店街(町)を活性化したい!」と思った実在の高校生の思いに、嘘はなかったののだろう。しかし、ならば最初の動機づけをもっと明確にする必要があったはずだ。
さらに物語の中盤、小さな製紙工場を経営するお爺さんが廃業を決意し、ドラム缶で自らが造った紙を悔し涙しながら燃やすシーンがある。驚くのはこの後の展開だ。工場が全焼し、お爺さんが「すまん」と謝っている。それはお爺さんが放火したのか、それとも火が燃え移ったのか? いくらなんでもトンデモ展開すぎる(それとも、僕はなにか観落としたのだろうか……)。
映画の最大の見せ場は、もちろん後半の書道パフォーマンスのシーンだ。キャスト4人の書は、十分な出来である。よくぞ短期間にこれほどまでに上手くなったと思わせる出来だ。さすが、この世代で注目される女優たちだけある。そして、キャメラも、彼女たちの躍動的な動きを上手く捉えている。
ただ、この書道パフォーマンスそのものがどうかと言うと、ちょっと留保が必要となる。そこで書かれる自己啓発な文面は、なんとも痛々しい。相田みつを、あるいは326的な気恥ずかしさを伴う応援歌だ。正直、こうした書道パフォーマンスは、文系の地味な少女が目立ちたいために始めたものにしか見えない。
このシーンには、実際に書道パフォーマンス甲子園に参加した現役の女子高生たちが参加している。しかし、これがとてもまずい。たしかに彼女たちのパフォーマンスはふだんやっているだけに堂に入ったもの。しかし、ふだんはただの高校生である彼女たちは、成海璃子をはじめとした5人と比べると明らかにルックス的に劣る。それは当然なのだが、入場シーンで各校が順に出てくるので、明確にトーンが違うことがわかる。映画全体のルックスとして、バランスが取れていない。
他にも、紙は大切にしても墨汁はさっぱり大切にしないところや携帯電話がろくに出てこない点、男子部員がなぜかサポートに徹している点、病院の前に紙を持ち込んでパフォーマンスを始める点、最後の展開は部活映画にありがちな展開だとか、とにかく大味で杜撰な創りだ。
俳優たちの芝居も、大仰なテレビ的な芝居以上のものにはなっていない。これは『武士道シックスティーン』と比べるとわかるが、明らかに演出と脚本の問題だ。父親との葛藤などの描写にそれはもっとも見て取れるが、完全に脚本と演出の力量の違いが見て取れる。唯一の収穫は、桜庭ななみが十分な存在感を放っていたことくらいだろうか(ただし、山下リオにはまったく成長が見えない)。
この映画は同時期の公開ということもあって『武士道シックスティーン』と比較されることも多いし、共通点も多い。キャスト(成海、山下)、部活モノ、主人公の父親像、日本伝統文化が題材、とよく似ている。
だが、そこでは創り手の志の違いがハッキリと出てしまった。「青春映画」を創った『武士道シックスティーン』に対し、この『書道ガールズ!!』は「アイドル映画」の域を出ていない。商店街のシャッター街化の理由等、全編にわたって子供だまし、いや“アイドルオタクだまし”としか思えなかった。
監督:猪股隆一/製作:大山昌作/プロデューサー:藤村直人、坂下哲也/エグゼクティブプロデューサー:奥田誠治/COエグゼクティブプロデューサー:菅沼直樹、西山美樹子、千葉知紀、神蔵克/製作指揮:宮崎洋、城朋子/協力プロデューサー:笠原陽介/美術プロデューサー:北島和久/脚本:永田優子/撮影:市川正明/美術:高野雅裕/編集:松竹利郎/音楽:岩代太郎/VFX:西村了/記録:舘野弘子/照明:大内一斎/装飾:山田好男/録音:井家眞紀夫/出演:成海璃子、山下リオ、桜庭ななみ、高畑充希、小島藤子、金子ノブアキ、市川知宏、森崎ウィン、森岡龍、坂口涼太郎、宮崎美子、朝加真由美、おかやまはじめ、山田明郷、森本レオ、織本順吉/製作:日本テレビ/制作プロダクション:日テレ アックスオン/配給:ワーナー・ブラザーズ/2009年5月15日公開/121分
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