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2010/05/29/Sat

[]『ボックス!』監督:李闘士男(2010年)

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 ボクシングに情熱を燃やす男子高校生ふたりを描いた青春映画。原作は百田尚樹の小説。ボクシングシーンの説得力が高く、非常に出来が良い。

 舞台は大阪。大阪に戻ってきて恵美須高校に入学した木樽優紀(高良健吾)は、幼なじみのカブこと鏑矢義平(市原隼人)と再会し、彼に誘われてボクシング部に入る。天才的なボクシングセンスを発揮するカブに対し、ユウキは顧問の沢木(筧利夫)に言われるまま黙々と練習をこなす。そのふたりを、明るいマネージャーの丸野(谷村美月)や顧問の燿子(香椎由宇)などが見守る。実力をつけていく二人だったが、その前にライバル校の稲村(諏訪雅士)が立ちはだかる。

 天才型と秀才型のライバル関係を描いた部活スポーツもの、という点では『ピンポン』やあだち充のマンガなどで見られる、定番とも言える構造。先日公開された『武士道シックスティーン』(→レビュー)もそうだった。言ってみればとてもベタな設定だが、かなりの傑作になった。それは練習のプロセスをしっかりと描いたことと、試合におけるアクションシーンの説得力によるものだ。

 練習シーンは、具体的に言葉で説明したりせず(たいていのスポ根モノはこれで失敗する)、練習風景を手際よく繋いで見せていく。非常にコンパクトであるにもかかわらず、最大限の効果をあげている。試合までのプロセスを描くからこそ、説得力は増す。試合のシーンも、とても迫力がある。クライマックスの2R2分間の長回しなどは、それまでの展開もあって非常に緊迫感がある。

 こうした演出を可能としたのは、柱となるふたりの若手俳優によるところが大きい。市原隼人演じるカブは、DQN的な大阪の少年だ。直情的(単細胞)でセンスは超一流、しかし挫折を知らないがゆえに無鉄砲で自信過剰。この映画は、彼が挫折し、そこから回復していくプロセスを追った物語でもある。市原は、こうした存在を熱さを全開にして押し切っていく。それはふだんの彼のイメージとも被る、非常にストレートな人間像だ。

 一方、ユウキを演じた高良健吾も相変わらずいい。高良健吾の良さは、どんな設定にもすんなりと溶け込むことだ。おそらくそれは、彼が“受ける”ことを得意とする役者だからだ。彼は優秀なキャッチャーのように、どんな変化球でもしっかり受け止めピッチャーを盛り立てる。相手の演技の良さを存分に引き出す。それは『ソラニン』での宮崎あおい、今度公開される『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』での松田翔太においてもそうだった。そして、彼らの勢いに乗ることで、自らも存在感を魅せる。この作品でも、ひとりなら大暴走しかねない市原隼人にとって、見事な緩衝材となっている。

 この映画は、決して問題点がないわけではない。たとえば、クライマックス直前に登場する亀田興毅の友情出演などまったくもって不要だし(あれは市原コネクションらしい)、市原と高良、ライバル役を演じた現役プロボクサー・諏訪の体型が違いすぎること、谷村美月演じる丸野の描き込みなど、細かい部分で気になるところはなくはない。しかし、とてもアクティブな演出と柱ふたりの俳優によって大成功している。ライバルものの青春映画では、『ピンポン』並の水準だと言ってもいいほどだ。ベタな物語でも、演出と俳優でここまで映画は良くなるという好例である。

監督:李闘士男/プロデューサー:武田吉孝、久保田修/エグゼクティブプロデューサー:濱名一哉/ラインプロデューサー:原田文宏/共同プロデューサー:田中美幸/原作:百田尚樹『ボックス!』(太田出版刊)/脚本:鈴木謙一/撮影:佐光朗/美術:花谷秀文、禪洲幸久/衣装:高橋さやか/編集:宮島竜治/音楽:澤野弘之/音楽プロデューサー:安井輝/VFXスーパーバイザー:小坂一順スクリプター:生田透子/ヘアメイク:竹下フミ/照明:三善章誉/録音:横溝正俊/助監督:吉村達矢/出演:市原隼人、高良健吾、谷村美月、諏訪雅士、清水美沙、宝生舞、山崎真実、香椎由宇、筧利夫/製作:TBS、東宝、電通、MBS、IMJエンタテインメント、S・D・P、アプレ、CBC、WOWOW、ハピネット、RKB、Yahoo!JAPAN、太田出版/制作プロダクション:IMJエンタテインメント/配給:東宝/2010年5月22日公開/126分

ボックス! 上

ボックス! 上

ボックス! 下

ボックス! 下

ボックス! Visual Book (ぴあMOOK)

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[]『ハート・ロッカー』監督:キャスリン・ビグロー(2009年)

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 アカデミー賞作品賞受賞作品。イラクで爆弾処理をするアメリカ兵を描いた物語。アカデミー賞を獲るだけのことはあるすごい演出力で、最後までしっかりと観ることができる。

 爆弾処理チーム・ブラボー中隊に、ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が新しく赴任してきた。彼は、同僚のサンボーン(アンソニー・マッキー)とエルドリッジ(ブライアン・ジェラティ)の意見も聞かずに、危険な状況でも強引に爆弾処理を行う。映画は、彼らの任務が終わるまで38日間に渡る日々を描く。

 物語展開はとてもシンプルで、ひたすら演出で魅せていく。16ミリで撮影された映像はざらつき、同時に手持ちが多用されている。それは、バグダッドの乾いた空気や戦火の緊張感とマッチし、とても有効に機能している。見どころは、かなり緊迫感があるいくつかの爆弾処理のシーンと、中盤の狙撃対決シーンだ。この張り詰めた空気に引き込まれる映画だ。

 ブラボー中隊の3人は、上手くバランスが取れた構成だ。一見それは、変な奴(ジェームズ)、まともな奴(サンボーン)、若僧(エルドリッジ)といった描き分けだ。だが、果たしてジェームズは「変な奴」なのか。

 映画の冒頭に「War is Drug(戦争は麻薬だ)」と出る。これは、必ずしもジェームズの人物像についてのみ述べられたことではない。逆にジェームズは、戦争という極限状況下で非常に人間臭く見える。DVDを売ってる地元の少年と仲良くなり、銃撃戦のときはライフルを構えるサンボーンに優先してドリンクを飲ませる。そうした彼の人間性を見ると、危険を冒してまで爆弾処理をしようとすることも、んらかのポリシーがあるようにも感じられる。

 もちろん、それははたから見れば無鉄砲で、サンボーンとエルドリッジは、彼にほとほと参っている。回収した爆弾を砂漠で処理するとき、サンボーンは、手袋を忘れて爆弾まで取りに戻ったジェームズを遠目に見ながら、エルドリッジに「爆発させるか?」と持ちかける。

 そこには、職務に対する明確な温度差がある。熱意なのか狂気なのかわからないが、無茶をしてまで爆弾処理をするジェームズと、なるべくリスクを避けたい二人。それは死というリスクを眼前にしたときの気構えの異なりであり、同時に軍人としての職業意識の違いである。

 換言すればこの映画は、「(爆弾処理担当の)軍人」という職業を描いたものだ。もちろんそれは、常に死が隣り合わせの極端な仕事ではある。しかし、この作品が、直接的にはイラク戦争と派兵について強いメッセージを投げかけないのも、彼らの職務とそのリアリティを描くことに注力しているからだ。

 それゆえ、観る者によって受け止め方も異なるだろう。アメリカの自己憐憫に見えるひともいれば、反省に見えるひともいるだろう。解釈しだいで思想的に右のひとも左のひとも納得してしまうという点で、実は『男たちの大和/YAMATO』*1と似たタイプだと言えるだろうか。

 ちょっと気になったのは、『告発のとき』(→レビュー)や『リダクテッド 真実の価値』と同様に、この映画でもイラク人がほとんど“未知なる存在”として描かれていたことだ。もちろん、後半にジェームズが忍び込んだ家で出会う大学教員などは登場し、それは前半に“未知なる存在”だったイラク人の日常を示す描写だったが、やはりイラク人は外部の存在なのである。この映画にすべてを望むことはできないが、そろそろイラク人の視点からイラク戦争を描いた作品を観たいなと思わされた。

監督:キャスリン・ビグロー/製作:キャスリン・ビグロー、マーク・ボール、ニコラス・シャルティエ、グレッグ・シャピロ/製作総指揮:トニー・マーク/脚本:マーク・ボール/撮影:バリー・アクロイド/プロダクションデザイン:カール・ユーリウスソン/衣装デザイン:ジョージ・リトル/編集:ボブ・ムラウスキー、クリス・イニス/音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース/音楽監修:ジョン・ビゼル/出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズガイ・ピアース、デヴィッド・モース、エヴァンジェリン・リリー、クリスチャン・カマルゴ/日本配給:ブロードメディア・スタジオ/北米配給:サミット・エンターテインメント/原題:"THE HURT LOCKER"/2010年3月6日公開/131分

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*1:『男たちの大和/YAMATO』は、思想的には右ベースで創られているが、大和撃沈の描写があまりにも生々しく、結果的に戦争の恐ろしさを伝える反戦映画としても受け止められている。