TRiCK FiSH blog. このページをアンテナに追加 RSSフィード



2010/05/29/Sat

[]『ハート・ロッカー』監督:キャスリン・ビグロー(2009年)

D

 アカデミー賞作品賞受賞作品。イラクで爆弾処理をするアメリカ兵を描いた物語。アカデミー賞を獲るだけのことはあるすごい演出力で、最後までしっかりと観ることができる。

 爆弾処理チーム・ブラボー中隊に、ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が新しく赴任してきた。彼は、同僚のサンボーン(アンソニー・マッキー)とエルドリッジ(ブライアン・ジェラティ)の意見も聞かずに、危険な状況でも強引に爆弾処理を行う。映画は、彼らの任務が終わるまで38日間に渡る日々を描く。

 物語展開はとてもシンプルで、ひたすら演出で魅せていく。16ミリで撮影された映像はざらつき、同時に手持ちが多用されている。それは、バグダッドの乾いた空気や戦火の緊張感とマッチし、とても有効に機能している。見どころは、かなり緊迫感があるいくつかの爆弾処理のシーンと、中盤の狙撃対決シーンだ。この張り詰めた空気に引き込まれる映画だ。

 ブラボー中隊の3人は、上手くバランスが取れた構成だ。一見それは、変な奴(ジェームズ)、まともな奴(サンボーン)、若僧(エルドリッジ)といった描き分けだ。だが、果たしてジェームズは「変な奴」なのか。

 映画の冒頭に「War is Drug(戦争は麻薬だ)」と出る。これは、必ずしもジェームズの人物像についてのみ述べられたことではない。逆にジェームズは、戦争という極限状況下で非常に人間臭く見える。DVDを売ってる地元の少年と仲良くなり、銃撃戦のときはライフルを構えるサンボーンに優先してドリンクを飲ませる。そうした彼の人間性を見ると、危険を冒してまで爆弾処理をしようとすることも、んらかのポリシーがあるようにも感じられる。

 もちろん、それははたから見れば無鉄砲で、サンボーンとエルドリッジは、彼にほとほと参っている。回収した爆弾を砂漠で処理するとき、サンボーンは、手袋を忘れて爆弾まで取りに戻ったジェームズを遠目に見ながら、エルドリッジに「爆発させるか?」と持ちかける。

 そこには、職務に対する明確な温度差がある。熱意なのか狂気なのかわからないが、無茶をしてまで爆弾処理をするジェームズと、なるべくリスクを避けたい二人。それは死というリスクを眼前にしたときの気構えの異なりであり、同時に軍人としての職業意識の違いである。

 換言すればこの映画は、「(爆弾処理担当の)軍人」という職業を描いたものだ。もちろんそれは、常に死が隣り合わせの極端な仕事ではある。しかし、この作品が、直接的にはイラク戦争と派兵について強いメッセージを投げかけないのも、彼らの職務とそのリアリティを描くことに注力しているからだ。

 それゆえ、観る者によって受け止め方も異なるだろう。アメリカの自己憐憫に見えるひともいれば、反省に見えるひともいるだろう。解釈しだいで思想的に右のひとも左のひとも納得してしまうという点で、実は『男たちの大和/YAMATO』*1と似たタイプだと言えるだろうか。

 ちょっと気になったのは、『告発のとき』(→レビュー)や『リダクテッド 真実の価値』と同様に、この映画でもイラク人がほとんど“未知なる存在”として描かれていたことだ。もちろん、後半にジェームズが忍び込んだ家で出会う大学教員などは登場し、それは前半に“未知なる存在”だったイラク人の日常を示す描写だったが、やはりイラク人は外部の存在なのである。この映画にすべてを望むことはできないが、そろそろイラク人の視点からイラク戦争を描いた作品を観たいなと思わされた。

監督:キャスリン・ビグロー/製作:キャスリン・ビグロー、マーク・ボール、ニコラス・シャルティエ、グレッグ・シャピロ/製作総指揮:トニー・マーク/脚本:マーク・ボール/撮影:バリー・アクロイド/プロダクションデザイン:カール・ユーリウスソン/衣装デザイン:ジョージ・リトル/編集:ボブ・ムラウスキー、クリス・イニス/音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース/音楽監修:ジョン・ビゼル/出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズガイ・ピアース、デヴィッド・モース、エヴァンジェリン・リリー、クリスチャン・カマルゴ/日本配給:ブロードメディア・スタジオ/北米配給:サミット・エンターテインメント/原題:"THE HURT LOCKER"/2010年3月6日公開/131分

ハート・ロッカー [DVD]

ハート・ロッカー [DVD]

Hurt Locker

Hurt Locker

*1:『男たちの大和/YAMATO』は、思想的には右ベースで創られているが、大和撃沈の描写があまりにも生々しく、結果的に戦争の恐ろしさを伝える反戦映画としても受け止められている。