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2010/06/24/Thu

[]『アウトレイジ』監督:北野武(2010年)

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 北野武の監督15作目で、『BROTHER』以来10年ぶりのヤクザ映画。この10年間の北野映画では、もっとも完成度は高いが、とても実験的な作品であるのも間違いない。

 暴力団・山王会本家を仕切る会長の関内(北村総一朗)。その部下の若頭の加藤(三浦友和)は、傘下の池元組組長・池元(國村隼)に、弱小の村瀬組組長・村瀬(石橋蓮司)を締めろを指示する。村瀬と仲良くしてきた池元は、配下の大友組組長・大友(ビートたけし)にその役目を頼む。大友の部下は、サラリーマンを装って村瀬組のぼったくりバーにわざと引っかかり、村瀬組の飯塚(塚本高史)は支払いのために赴いた先で大友たちに囲まれて逃げ帰る。その後、飯塚の指を持って大友組に侘びを入れにいった木村(中野英雄)は、大友にカッターで顔を切られる。それに腹を立てた木村と飯塚は、仕返しに大友組の組員を拉致して殺害。山王会若頭の小沢(杉本哲太)は、大友に命じ村瀬組とカタをつけることを指示。一方で大友は、大学時代のボクシング部の後輩で刑事の片岡(小日向文世)などと情報交換しつつ、若頭の水野(椎名桔平)、石原(加瀬亮)などとともに、村瀬のシマで闇カジノの経営を始める……。

 報復が報復を呼ぶ物語は、複雑ながらもわかりやすく丁寧に進んでいく。そして、シーンが変わるたびにバイオレンスもエスカレートしていく。が、しかし、前半では痛く感じられた暴力性は、中盤から後半にかけて観賞者の慣れを導く。それは、この世界に暴力のコミュケーションしかないからだ。

 「全員悪人」という惹句のとおり、登場人物は全員悪人だ。この世界には「善」が存在しない。しかし、善悪は相対的な価値でしかないゆえに、「悪」しかない世界とはそれが「常識」そのものとなる。そこでの暴力とは、日常的なコミュニケーションでしかない。観賞者が暴力に痛みを感じなくなるのは、この世界の独特なコミュニケーションを後半に受け入れるからだ。この世界は、暴力でできている。

 そのため、観賞者はシーンが変わる度に「今度はだれがどのように痛めつけられるのか」といった期待をする。北野監督は、そこで最大限のサービス(殺し方)を発揮しつつも、過剰な意味付けをしない。登場人物は、当たり前のように報復に報復を重ねるだけ。その行動は機械か動物、あるいは人形(=dolls)のように単純化されており、深い逡巡や葛藤はいっさい描かれない。暴力の危うさを描こうとしないこの映画は、「暴力」を題材とした作品としてしばしば同列に置かれる『ヒーローショー』(→レビュー)とは、まったく異なるタイプの作品だと言える。

 もはやそれはコントなのである。ここにあるのは、非常に純化されたコミュニケーションそのものであり、その形態が暴力なだけ。観賞者は、そのプロセスのみを観る映画だ。

 それは、北野武が2002年に『Dolls〈ドールズ〉』(→レビュー)で一度完成させたフォルマリズム(形式主義)だ。題材が暴力なだけで、実は物語や登場人物、暴力そのものに深い意味はない。暴力のコミュニケーションのみの世界を極めて形式的に描いただけだ。その点で、とても実験的な映画だと言える。

 ただし、それもあってこの映画には抑揚がない。前半で驚かされる暴力劇は、中盤から後半にかけては淡々と進んでいく印象を受ける。そこには『ソナチネ』や『キッズ・リターン』での、スタティックな時間に突然ダイナミズムが生じる構成はない。すべては淡々と惨事が起こるべくして起こる。

 問題があるとするならば、クライマックスからラストにかけてだろう。あのスローモーションは、それまで淡々と流れていた時間を唯一操作していたシーンだ。同時に、それによって観賞者はこの映画が終わりに近づいていることを感じる。とてもわかりやすく、同時に形式主義を破綻させた技巧であった。スローモーションは、それまでの形式的な暴力コミュニケーションの連接とは異なる意味(悲壮的叙情)を付与してしまったからだ。この映画で唯一残念なのは、この点にある。

 そして、90年代の北野武ならば、この映画をどのように終わらせたか考えてしまう。あのクライマックスからラストは、『ソナチネ』、『キッズ・リターン』、『HANA-BI』と続いた93〜97年──それはあのバイク事故を挟むのだが──にかけての北野武全盛期にはほど遠い凡庸な演出だからだ。

 この作品が『HANA-BI』以降の北野作品のなかで、もっとも出来がいいことは間違いない。しかし、やはり北野武への期待値は簡単には下がらない。

監督・脚本:北野武/プロデューサー:森昌行、吉田多喜男/アソシエイトプロデューサー::梅澤勝路、葉梨忠男、武田佳典/ラインプロデューサー:小宮慎二、加倉井誠人/撮影:柳島克己/美術:磯田典宏/衣装:山本耀司(大友組組長衣装)/衣装デザイン:黒澤和子/編集:北野武、太田義則/キャスティング:吉川威史/音楽:鈴木慶一/音響効果:柴崎憲治/メイク:細川昌子/記録:吉田久美子/照明:高屋齋/装飾:尾関龍生/録音:堀内戦治/助監督:稲葉博文/出演:ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗/製作:バンダイビジュアル、テレビ東京、オムニバス・ジャパン/制作プロダクション:クレジット無し/配給:ワーナー・ブラザーズ、オフィス北野/2010年6月12日公開/109分

映画 アウトレイジ

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