
2010/06/28/Mon
■[映画]『ブルーノ』監督:ラリー・チャールズ(2009年)
『ボラット』のサシャ・バロン・コーエンが、ゲイのオーストリア人・ブルーノに扮して、世界各国でドタバタを巻き起こすフェイク・ドキュメンタリー。面白いけれど、良い子のボクちゃんたちにはオススメできない。
ブルーノのキャラは、ゲイのオーストリア人ファッションレポーター。チビTに短パンというその造型は、非常にステレオタイプなもの。彼がさまざまなひとに会い、無茶苦茶言動によって相手を大混乱させていく。物語の基本的な流れは『ボラット』と同じ。ただし、ボラットがアメリカを横断したのに対し、ブルーノは世界を移動する。その内容は、とても露悪的でありお下劣なものである。
今回ターゲットとなるのは、ポーラ・アブドゥル、共和党大統領候補のロン・ポール、アルカイダの幹部、モサド元長官とエルサレム市長など。『ボラット』よりも、さらに政治色は強まったと言える。
インパクトは『ボラット』が上、構成は『ブルーノ』が上という印象。前作よりも上手くまとまっているが、同じパターンであることは否めない。ただ、そうしたストーリーは実はけっこうどうでもいい。『ボラット』も『ブルーノ』も、ネタのひとつひとつを繋げて一本の映画にまとめあげているだけで、見どころは各ネタにある。
これらのネタにおけるブルーノは、非常に俗的な振る舞いで混乱を巻き起こすだけ。彼は無思想であり、そこに特定の政治意識はうかがえない。わかりやすく言うとクルクルパーである。
見どころは、ブルーノという激烈にスノビッシュな存在によって、ひとびとが翻弄させられる様子だ。各々の政治的な主義主張は、この存在を前にしてどうなるか――って、いやまぁたいていは怒るわけだが。
ただ、そうしてさまざまな主義主張を完膚無きまでに茶化すことにより、ブルーノは観賞者の主義主張までをも相対化し、結果的に「君たちが信じていることは、どれほど正しいの?」というメッセージを投げかける。この作品が非常にシンプルに伝えるのはこれだ。ブルーノは、そこでトリックスターとして機能する。
問題があるとするならば、前作とパターンがいっしょだということ。フェイク・ドキュメンタリーである以上、構成に大きな工夫はできないのだろうが、内容的には大物有名人相手へのドッキリでしかない。ならば、別にこうした劇映画としての構成がどれほど必要なのか、とも思う。
監督:ラリー・チャールズ/製作:サシャ・バロン・コーエン、ジェイ・ローチ、ダン・メイザー、モニカ・レヴィンソン/製作総指揮:アンソニー・ハインズ/キャラクター創造:サシャ・バロン・コーエン/原案:サシャ・バロン・コーエン、ピーター・ベイナム、アンソニー・ハインズ、ダン・メイザー/脚本:サシャ・バロン・コーエン、アンソニー・ハインズ、ダン・メイザー、ジェフ・シェイファー/撮影:アンソニー・ハードウィック、ウォルフガング・ヘルド/衣装デザイン:ジェイソン・アルパー/編集:ジェームズ・トーマス、スコット・M・デイヴィッズ/音楽:エラン・バロン・コーエン/音楽監修:リチャード・ヘンダーソン/出演:サシャ・バロン・コーエン、グスタフ・ハマーステン/制作プロダクション:Media Rights Capital/日本配給:クロックワークス/北米配給:ユニバーサル・ピクチャーズ/原題:"Brüno"/2010年3月20日公開/80分
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■[映画]『FLOWERS フラワーズ』監督:小泉徳宏(2010年)
資生堂のシャンプー&リンス「TSUBAKI」CMに出演する人気女優たちが、3世代6人の女性たちを演じたオリジナル映画。出来は悪くないが、思想的にはとても保守的で、そこで好き嫌いが大きく分かれる。フェミニストでなくても、驚くほど保守的な内容だ。
三つの時代が、それぞれ描かれながら物語が進む。昭和11年(1936年)、凛(蒼井優)は父親に決められた結婚に不満を持ち、結婚式の当日花嫁姿のまま家を飛び出す。2009年、92歳で亡くなった祖母・凛の葬式で、孫の奏(鈴木京香)と佳(広末涼子)の姉妹は久しぶりに会う。佳は結婚して子供や夫と仲むつまじく暮らしているが、独身の奏はピアニストとしても大成しておらず、密かに身ごもっている。1964年代、凛の娘で三姉妹の長女の薫(竹内結子)は、大学教員の夫(大沢たかお)と結婚旅行に出かける。1969年、凛の次女である翠(田中麗奈)は、官能小説の編集者として出版社で働いてるが、恋人の菊池(河本準一)からプロポーズされる。1977年、三女の慧(仲間由紀恵)は、夫(井ノ原快彦)とともに団地で暮らしており、二人目の子供を妊娠することが。
だれが観てもわかるが、この作品の元ネタは、スティーブン・ダルドリー監督の『めぐりあう時間たち』だ。1920年代、1950年代、現代(2000年代前半)と、三つの時代を生きる3人の女性たちの一日を描いた映画だった。三つの時代の女性たちをそれぞれ描く点では同じだが、そのメッセージ=思想は正反対だと言える。
『めぐりあう時間たち』が描いたのは、従来の社会規範のなかでもがいている女性たちの姿だった。その三つの時代は、それぞれフェミニズムにおける三つの波の直前だ。たとえば、ジュリアン・ムーア演ずる1950年代の専業主婦は、レズビアンである自分を押し殺して、良き妻、良き母であろうと苦悩している。
対して『FLOWERS』は、その構成を借りて女性たちの煩悶を描くものの、最終的には『めぐりあう時間たち』と逆の結論を導く。つまり、結婚して子供を持つことを女性の幸せとして描く。
結婚や出産において、女性たちは一応は逡巡する。蒼井優演じる凛は、自己決定でないことを理由を一時は遁走するものの、結局は結婚式で相手の顔を見て笑顔を浮かべる。田中麗奈演じる翠は、キャリアウーマンとして男性に混じって働いてるものの、ミニスカートで会社に行くと同僚の男性たちは色めきたち、そして不満げだったプロポーズにも承諾する。現代では、夫と子供と仲良く暮らしている妹の姿を見て、鈴木京香演じる奏はシングルマザーとなる決意をする。
これらの描写が、特段に不自然ということはない。当初は不満であっても結婚を受け入れる戦前の女性は存在しただろうし、仕事と結婚の間で揺れて結婚する女性もいただろう(翠が寿退社したかどうかは描かれていない)。そしてまた、それは当時においてはごく一般的な生き方だった。
しかし、問題は結婚や出産した後なのだ。『FLOWERS』で蒼井優と田中麗奈演じるふたりは、結婚した以降のことが描かれていない。ここで思い出すのは、『めぐりあう時間たち』で現代を舞台にメリル・ストリープが演じた女性だ。レズビアンの彼女は、娘に結婚した日のことをこう話す。
「翌朝、限りない可能性を感じた。『そう、これが幸せの始まりなのね。この先、もっと幸せが訪れるんだわ』って(笑)。でも違った。始まりではなかった。あの瞬間こそが幸せそのものだった」
それは、ロマンティック・ラブ・イデオロギー=生涯に唯一の異性を愛し続けることを善しとする社会規範に縛られていた彼女の気づきであり、そしてこう述懐する彼女はそんな過去から脱却している。
もちろん、『FLOWERS』の登場人物が間違っているわけではない。いまだって専業主婦に徹する女性はいるだろうし、女性が子供を産むからこそ人類は続く。それ自体が悪いわけじゃない。そうではなく、それ以外の価値を描いていないことが時代錯誤なのだ。つまり、キャリアウーマンとして働き続けることや、子供を産まない人生を生きる女性たちを描いていない。唯一的な価値しか提示できていないことが古くさいのだ。
多様な女性の生き方を描くチャンスはいくらでもあった。たとえば、田中麗奈演じるキャリアウーマンが、結婚せずに働き続ける物語だってあっただろう。鈴木京香演ずる中年女性が、ひとりで生きていくために中絶する物語だってあったはずだ。それらの結論に至ったとしてもまったくもって不自然ではないし、悪いことでもない。なぜならば、蒼井優演じる昭和初期の女性には不可能だった自己決定が、できる時代なのだから。
この映画が保守的に見えるのは、こうした映画内容だけでなく別の要因もある。それは、座組や企画、キャストなどの側面だ。
この6人の人気女優が資生堂のCM「TSUBAKI」に出演し、この作品もこれを出発点とした企画であることは、観る前にほとんどのひとが知っている。映画のキャッチコピーはCM同様「日本の女性は、美しい」だ。観賞者は、前提的にこのフレームで映画を読み解く。そのために、この作品は「女は子供を産むことこそが美しい」というメッセージとして捉えられる。そうなると、当然のごとく「子供を産ま(め)ない女性は、美しくないのか!」とツッコまれるわけだ。
もしこの映画が、資生堂のCMと無関係で、それほど有名じゃない女優たちを配して創られていれば、観賞者はそうした読み解きをしなかったはずだ。つまり、ADKと資生堂を中心とするこの座組こそが、読解フレームとしてネガティブに機能してしまう。
ただし、この映画は出来が悪いとは言えない。テーマは保守的だが、製作者が描きたいことはおそらく概ね成し遂げられている。物語的な粗も、演出的にひどく不出来な部分もそれほどない。小泉監督は、十分な演出をしている。各時代は、その時代に使われた映像(フィルム)の質感にされており、特にテクニカラーの映像のなかの田中麗奈は一見の価値がある。このあたりは、制作したROBOTの技術が活きており、すごくそれいは可能性も感じる。一方で、小津安二郎の安易なパクリもあるけども。
とは言え、やはり「恥ずかしい映画」と言わざるをえない。フェミニスティックな『めぐりあう時間たち』をパクり、非常に保守的な映画にしてしまったのはとても恥ずかしい。それは戦争反対映画の設定をパクって、戦争賛美映画を創ってしまったようなものだ。それが皮肉として明確なメッセージであればまだいいが、単に『めぐりあう時間たち』をよく理解できていないか、なにも考えてないとしか思えない。この保守的な主題を伝えたいならば、もっとも参考にしてはならない作品をチョイスしているわけだから。
また、メッセージの良し悪しについてはひとそれぞれであろうが、少子化や未婚化が進んでいる日本においては、女性をターゲットとしてきた資生堂のCIをかなり損なうのではないかと思えるほど保守的だ。それがだれの意図かはわからないが、資生堂がこれほどまでにオッサン慰撫を前面に押し出して、大丈夫なのだろうかと心配になるほどだ。
監督:小泉徳宏/プロデューサー:飯島雄介、天野孝之、八木欣也、黒木敬士/エグゼクティブプロデューサー:阿部秀司/製作総指揮:大貫卓也/アソシエイトプロデューサー:天野賢、小出真佐樹/企画:大貫卓也/脚本:藤本周、三浦有為子/撮影:広川泰士/視覚効果:石井教雄/美術:山口修/衣装デザイン:小川久美子/編集:張本征治/音楽:朝川朋之/主題歌:Dreams Come True『ねぇ』/ヘアメイク:田中マリ子/照明:津嘉山誠/整音:太斎唯夫/装飾:龍田哲児/録音:小林武史/出演:蒼井優、鈴木京香、竹内結子、田中麗奈、仲間由紀恵、広末涼子、大沢たかお、井ノ原快彦、河本準一、駿河太郎、三浦貴大、平田満、真野響子、塩見三省、長門裕之/製作:ADK、ROBOT、東宝、小学館、資生堂、日本テレビ、読売テレビ、読売新聞、KDDI/制作プロダクション:ROBOT/配給:東宝/2010年6月12日公開/110分
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