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2010/07/04/Sun

[]『しあわせの隠れ場所』監督:ジョン・リー・ハンコック(2009年)

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 金持ちの白人一家が貧しい黒人少年を援助するという、実話ベースの「深イイ話 in USA」。主演のサンドラ・ブロックが、アカデミー賞とラズベリー賞の主演女優賞をダブル受賞。ひねりのないベタな話だが、「実話」という担保がさまざまに機能してしまうタイプの映画。

 巨漢の黒人少年、マイケル・オアーは、運動神経は抜群で大人しい性格だが、家庭は貧しくホームレスになりかけていた。スーパーマーケットを経営する夫や子供たちと裕福な生活を送っているリー・アン・テューイ(サンドラ・ブロック)は、薄着で冬の夜道を歩くマイケルを見かけて思わず声をかけ、家まで招き入れる。当初は食事と暖を与えていただけだったが、彼女は優しいマイケルの性格を知り、アメフト部に入れ、家庭教師をつけ、そして養子として迎える。

 これが実話であることは、冒頭で説明される。マイケル・オアーは、ドラフト1巡目でNFLに入団するほどの選手だ。彼がそれにいたるまでの流れを描いたのが、この映画だ。それは、なんともひねりないの話。ただ、実話という担保がそこに批判を許さない仕組みになっている。

 たとえば、マイケルをはじめ、テューイ一家もみんな善人だ。マイケルと同い年で、アン家の一人娘・コリンズ(リリー・コリンズ)も素直にマイケルを受け入れる。一方で、この映画には、悪いひとがほとんど出てこない。スラムにあるマイケルの実家周辺にたむろする黒人たちも、悪者だとは描かれない。こうした描写は、偽善くさくも感じる。たしかにそのとおりなのかもしれないが、あまりにも上手く話が転がりすぎるからだ。

 もう一点気になったのは、リーがマイケルを養子として迎え入れる決め手とした人格調査だ。このテストによって、マイケルの保護意識がとても強いという数値が出る。逆に言えば、マイケルの人格が悪ければ、リーは受け入れない可能性もあったということだ。

 この映画には、政治的な揶揄をする描写もいくつか出てくる。サンドラ演じるリーが、スラムの役所に行って長く待たされるシーンがある。怒った彼女が「責任者を出しなさい!」と窓口の女性に怒ると、その窓口の女性は壁を指さす。そこにはブッシュ元大統領の写真がある。また、マイケルにつける家庭教師(キャシー・ベイツ)が、リーからオファーを受けた後に声を潜めて言う。「実は私、民主党員なの。それでもいい?」と。

 これらは、「白人の金持ち=保守派の共和党員」というイメージをちょこっと皮肉ってるわけだ。そこには、一応この映画をただのイイ話では終わらせないような意図が感じられる。日本映画じゃありえない描写ではある。

 ただ、結局このように格差や社会政策をいろいろ揶揄しても、その主張はアメリカ社会の推進力として再利用される印象を受ける。もちろんそれはいい方向に働くこともあるんだけど、なんだかマッチポンプ的にも見える。こういう実話があって、それを感動作として送り出しても、社会制度を変えないことにはこれからもマイケルのような存在は生まれてくる。そして、この映画はマイケルを一例を通して、アメリカ社会の問題を抜本的に解決する主張を盛りこんではいない。そこが偽善くさい。

 が、もう一方の見方としては、これを大ヒットするベタな物語にし、そこに共和党や資産家への皮肉も混じえ広く伝えることで、これで十分な役割も果たしたとも言える。ただ、この皮肉もちょっとだけだから、免罪符に見えなくもない。そこにはマイケル・ムーアオリバー・ストーンのような怒りもない。

 なんにせよ、こういう小さな“深イイ話”を相変わらずアメリカ人は好きなんだな、ということはよくわかる作品だ。

監督・脚本:ジョン・リー・ハンコック/製作:ギル・ネッター、アンドリュー・A・コソーヴ、ブロデリック・ジョンソン/製作総指揮:モリー・スミス、ティモシー・M・バーン、アーウィン・ストフ/原作:マイケル・ルイス『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟』(ランダムハウス講談社刊)/撮影:アラー・キヴィロ/音楽:カーター・バーウェル/出演:サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン、ティム・マッグロウ、キャシー・ベイツ、リリー・コリンズ、ジェイ・ヘッド、レイ・マッキノン、キム・ディケンズ、キャサリン・ダイアー、アンディ・スタール、トム・ノウィッキ/制作プロダクション:Alcon Entertainment/日本配給:ワーナー・ブラザーズ/北米配給:ワーナー・ブラザーズ/原題:"The Blind Side"/2010年2月27日公開/128分