第8話「運命の男」

 京都の情緒溢れるシーンから始まった第8話だが、穏やかで、伸びやかなストーリーは中盤において一変した。それは、前回までで十分に予想しうる内容であったわけだが、それでもあまりに悲劇的な展開には戸惑いを感じる。
 奈央子(篠原涼子)と沢木(加藤雅也)の関係は、電車の中でからまれた奈央子を沢木が助けるところから始まった。それが一回目の偶然。その沢木は、奈央子の元同僚である絵里子(ともさかりえ)の夫であった。それが二回目の偶然。
 三回偶然があれば、それは運命である。中野早希(小西美帆)は三回の偶然という運命によって、結婚へとたどり着いたわけだが、奈央子と沢木はどうなのだろうか。三回目と考えて良いような偶然はあった。それは、京都で引いたおみくじが二人そろって凶だったこと。あるいは、京都でそれぞれが購入したお土産が同じものであったこと。このことは、二人を急速に近づけた。
 一方、絵里子が奈央子と沢木の不倫旅行を知ったことで、物語は本格的に泥沼化の様相を呈してきた。しかし、この不倫は、絵里子によって仕組まれたものであると言えるだろう。絵里子は常に奈央子を沢木と近づけるような行動をとってきた。それでいながら、奈央子を裏切り者と決めつけ、復讐を始めた。これはもう、狂気の沙汰としか言いようがない。彼女の目的は何なのだろうか。奈央子と沢木を近づけたのは、意図的なものではなかったのだろうか。
 もし、意図的でなかったとすれば、彼女は自分を悲劇の女に仕立て上げることで、快感を得るような人間であって、無意識のうちに、夫に不倫された不憫な妻としての自分を作り上げてしまったのであろうか。そして、奈央子はアネゴ的な性格のために、その巨大な渦の中に引きずり込まれてしまった被害者なのだろうか。
 奈央子をアネゴと呼び、慕っていた黒沢(赤西仁)は、奈央子の正体が「魔性の女」であるという結論にたどり着いた。しかし、全体を見通している視聴者の視点から見れば、「魔性の女」たるのは絵里子である。黒沢はその絵里子からの情報を通して、奈央子を見てしまっている。だが彼は真相に気付かないまま、奈央子に失望を感じ、それを直接伝えてしまった。その直後の彼の涙は、信頼を寄せ、憧れてもいたアネゴという存在が幻想であったことを悟った(それは間違った認識なのだが)結果なのであろう。
 このドラマも佳境に入ったわけだが、暗転したまま終わるのだろうか。待っているのは悲劇的な結末なのであろうか。原作は未読だが、暗い結末だったそうである。同様にこのドラマも暗いまま終わりを迎えるのか。
 もし、このまま奈央子がどん底に突き落とされてしまうのならば、それはあまりに不条理であると思う。必ずしもハッピーエンドである必要はないが、ハッピーエンドでなくても、その先に希望が見えるような終わり方であって欲しい。少なくとも、絵里子の行動は何らかの形で断罪されるべきである。
 そもそも、このドラマにおける一番の魅力は奈央子と黒沢という、歳の差コンビの微妙なすれ違いの妙なのではないだろうか。ドラマ前半において描かれた、二人の間の愉快なやり取りこそ、このドラマの中心にすえるべき内容であると思う。沢木夫妻というのは、二人を盛り立てるための脇役的な存在であるべきなのに、この夫婦の問題があまりに大きく広がってしまった結果、ドラマ全体に影を落とし、喜劇的な面白さを損ねてしまっている。残念である。似たような男女関係を描いた「マザー&ラヴァー」のように明るいままで突き進んでほしかった。
 なお、今回の話においては、電源を切った奈央子の携帯に録音された黒沢の伝言の面白さが唯一の救いであった。特に、すべてが「黒沢でした」で終わるところ。
 さて、次回以降は深刻な内容を早期に解決して、最初の頃の軽快さを取り戻してほしい。コミカルなドラマに戻ってほしい。だが、それはあまり期待できないようだ。あの愉快だった時期が懐かしい……。